一話目を見ていない方は前の話を見てからお願いします。
私には父親がいた。今はもういない。
私が十歳の誕生日を迎えた日に父は死んだ。
あの日は私の誕生日どころの話ではなかった。あのとき、父親が死んだという話を聞く前までの誕生日を楽しみにしていた私がバカだと思ったときもあった。
父は警察をやっていた。大きな事件の解決を目指していた。とても仕事熱心だったため、事件のことを考えすぎていたのだろう。
事故死だった。車の同士の衝突による事故だった。相手は一家族。たぶん家族旅行か何かの帰り道だったのか、たくさんの荷物が発見された。そこに乗っていた少女は重症ながら助かったと聞いた。
昼間、外で遊んでいた私のところに母が走ってきて、この話を聞いた。
私の心には深い穴がぽっかりと空いてしまった。
「こと・・・琴美さ・・・、琴美さん!」
私は誰かの声に目が覚めた。横にはマミさんがいた。どうやら廊下で腰が抜け、倒れたあと、気絶してしまったようだ。
佐倉さんが保健室まで運んでくれたのか、私は保健室のベッドで寝ていた。
「よかった。大丈夫?ケガとかは」
「大丈夫です・・・」
少し頭が痛いが、これくらいは大丈夫だろう・・・。
「そういえば暁美さんは!」
「アイツならとっくに帰ったぜ。・・・というか追っ払ったって感じだな」
佐倉さんはどこから持ってきたか、リンゴをかじりながら言った。頬には絆創膏が一枚貼られていた。
「頬の絆創膏、何か」
「なんでもねぇよ。ガラスで切れただけだ」
どこか強がる佐倉さんは少し可愛かった。
絆創膏は赤くなり、制服に血が付いていることから時間はあまり経っていないことが見て取れた。
「ちょっと前に廊下で、ガラスが割れたような音がしたのだが、ひょっとして君たち?」
佐倉さんのケガを見て、保健室の担当をする先生は佐倉さんに問いかける。
「えーと・・・」
「正直に言いなさい。正直に言えば今回のことは他の先生に言わないようにするわ」
「じゃあ・・・」
佐倉さんはさすがに銃弾によって穴が開いたとかは言えないため、できるだけ本当のことのように振る舞いながらそのことを話した(話はむしろ嘘話に近い)。
「へー、ボールが投げ込まれて、その近くを通った佐倉さんや琴美さんはケガをしたってことね」
「ボールは外にいた持ち主に投げ返しました」
「じゃあどうして切り傷、刺し傷、アザのない琴美さんはその場に倒れてここに運んできたの?」
「私は貧血で、もう大丈夫みたいです」
私はまだクラクラする頭を押さえながら立ち上がった。
「わかったわ。先生にはあなたたちは無関係ってこと、伝えておくわ、気をつけて帰ってね。もう下校時間はとっくに過ぎてるわ」
先生は理解すると、私たちを笑顔で見送った。
☆
「暁美 ほむら。君はどうして僕らを殺すんだ?僕らは君のストレスを晴らすための道具じゃないんだ」
大量のキュゥべぇは私を囲み始める。
私は銃を出すと、語りかけたキュゥべぇに銃口を向けた。キュゥべぇは一ミリも恐怖していない。
「僕らを殺しても、無意味だ。むしろ、君のソウルジェムに汚れを与えるだけだ。君にとってはむしろ損なことだ」
「じゃあ、なぜ琴美さんを必要とするの?」
「それは彼女に君のような力を覚えたからだよ。どこか他とは違う強さを・・・。君も彼女の力に気づいているだろう?君こそ彼女に嫉妬しているんじゃないかな?」
その言葉に私は引き金を引いた。目の前にいた生き物はゴミとなり、集団の後ろに消えていった。
「嫉妬?私はただ彼女に私たちのような運命を」
「違うよね?本当は・・・」
『この世にはいない鹿目 まどか』の二の舞になって欲しくないからだよね?
「!」
「その顔は図星のようだね。君を救い、神にまでなった存在、鹿目 まどか。彼女は君に希望を与えてくれたみたいだ。そして彼女は一度、世界から魔法少女という概念を消した・・・でもそれは『完全には』叶わなかった。
君たちのような続けるものがいたからだ」
私はその言葉に銃を構える手をおろした。
その言葉に私は希望を壊された音が心に鳴り響いた。
「全員を救ったように見えたけど、本当はまだたくさんいたんだよね。世界を作り変えてもまだ・・・」
「うるさい!」
私はキュゥべぇの言葉に耐えきれなくなったみたいだ。
まどかのしたことは意味のないことと言われたとき、頭のなかでは肯定してしまったところがあった。
「僕らは世界中にたくさん存在する。今も契約して魔法少女になる女の子がいる。今も魔女、魔獣になり、僕らのエネルギーになる。・・・残念だね、暁美 ほむら」
私はおもわずそこにいたキュゥべぇを片っ端から、持っていた銃で殺していった。
殺しても殺しても現れるキュゥべぇはどこか私の姿を見て笑っているようだった。
「人間は冷静さを失うと、何も考えられなくなる。今の君の姿はまさしくそれだよ。自分のことすら考えてない。彼女に、鹿目 まどかに助けられた命を無限に現れる僕に使うのかい?」
私は冷静さを取り戻した。
その血溜まりの中に、あの世界で雨のなか、涙と血を流し苦しんでいたまどかの顔を思い出したからだ。
「それもそうね。今日はこれくらいにしておくわ。それにここらへんで魔女が出たみたいだし」
「それがいいと思うよ。僕も無駄に数を減らしたくないしさ」
キュゥべぇは私の攻撃が終わったと思うと、部屋から消えてしまった。
「でも、あなたの思い通りにはさせないわ。絶対に琴美さんだけはこの残酷な世界には入れさせないわ」
私はキュゥべぇがいなくなったのを最後まで見ると、部屋をあとにした。
☆
「この感じ!魔女か!」
「そうみたいね。」
学校の帰り道、色々と寄り道したせいか、少し遅くなってしまった。辺りは暗くなり、街灯や周りの建物の光以外、見えないような暗闇が河川敷の横の道を覆っていた。
いきなり『魔女』と言った佐倉さんは鞄を肩にさげると、私に一言「じゃあな」と言って、その暗闇に消えていった。
「少し急用ができたみたい。琴美さんは先に帰って、また明日」
マミさんは佐倉さんを追いかけ、暗闇の中に消えていく。
怪しいと思い、私もあとを追うことにした。
通ったことのない道を走っている間、なぜか私はこの景色やこの道を知っている・・・そんな気分になった。
この光の配置や色は特に刻まれていた。
少し歩くと、いきなり明るい場所へ出た。
さっきまでの暗闇は消え、そこにはあらゆる色の絵の具が散らばったようなカラフルな空間が広がっていた。
「何・・・これ。」
横に壁があり、そこを触ると手にはその壁と同じ色の絵の具が付き、手の中でグチャっと音を起てる。
「この間の魔女みたいね」
前からマミさんの声が聞こえたため、前を見ると、そこには暗闇に消えていった二人の姿と、その前にはこの空間に似つかわしくない、気持ち悪い大きな人形がそのサイズに合わない小さなイスに座っていた。
マミさんはたぶんこの人形のことを『魔女』と言ったのだろう。
「早く倒して、この空間から出ないとな」
佐倉さんは指の関節を鳴らす。
私はバレないようどこか隠れないと、と思い近くの壁に姿を隠す。
「!」
私が姿を隠している間に、二人の制服姿は変わり、前に見た暁美さんのような可愛い服を着ていた。
そして佐倉さんは長い槍、マミさんは銀色の銃を持ち、敵に武器を向けていた。
「マミは援護射撃を、」
「えぇ!」
魔女は二人を見て、イスから立ち上がり、そのイスを投げる。二人は余裕で避けると、佐倉さんは前へ進み、マミさんはその場で銃を構えた。
魔女は佐倉さんに向けて、拳を繰り出す。だが、その拳はマミさんの銃から放たれた銃弾によって撃ち落とされた。
「ナイス!マミ!」
佐倉さんは槍を長く持つと、繰り出されたもう片方の拳を弾き返し、槍を魔女の頭に刺す。
そこからは赤い液体が勢いよく飛び出す。見た感じ、絵の具のようだ。絵の具は佐倉さんに向かって飛んでいき、佐倉さんは体に浴びてしまった。
「うぇ!気持ち悪!」
魔女は気持ち悪い笑いをしながら上昇すると、長い手を佐倉さんに向かって伸ばす。
佐倉さんは赤い絵の具をもろに浴びてしまったせいで、その手に対応できずに地面に叩きつけられる。
「佐倉さん!」
私はおもわず声を出してしまった。
「何で・・・琴美さんがこんなところに。危ないわ、今すぐ逃げなさい!」
「琴美・・・逃げろ」
だが、もう遅かったみたいだ。魔女は完全にこちらを見ていた。そして両手から黒い絵の具の玉を投げる。
それはマミさんが撃ち抜くが、もう片方は撃ち抜くことができなかった。
「逃げなさい!琴美さん!」
私は足が動かなくなった。その恐怖と目の前の真っ赤な佐倉さんを見て、動けなくなったみたいだ。
「危ない!」
黒い絵の具玉に驚き、目を閉じたとき、目の前の破裂音を知った。
銃弾はマミさんのものではない。
「ここであなたが死んでもらうのは私にとってうれしいわ。でも、あなたが生きることに意味があるみたいね」
後ろにいた暁美さんのものだった。
「あとは私に任せなさい」
そう言ったときには、もう目の前に姿はなく、魔女の前に移動していた。
そして暁美さんの姿が見えたときにはもう行動は終わり、魔女は爆発しながら降下していった。
それと同時に空間は歪み、消え始めていた。
「えっと・・・色々あってわからないことがたくさんあるのですが・・・」
「・・・まぁ知りたいよね」
「その何と言えば・・・」
前に出た暁美さんは恐怖のあまり、腰が抜けてしまった私の頭を撫でる。
「言ってもまだ信じられないと思うけど、私たちは魔法少女っていうものをやっている」
「魔法・・・少女?」
「そう。そしてさっきのは私たちの敵、魔女よ」
「魔女・・・」
魔女の言葉に脳裏であの人形を思い出す。
「あれが魔女ですか?」
「ええ、そうよ」
「魔法少女・・・何かかっこいいですね」
心から三人の姿を見て私はかっこいいと思ってしまう。
その言葉に何を察したのか暁美さんは私を睨む。
「いえいえ、別にやりたいとかは・・・」
「暁美さん、そこまでして琴美さんに敵意を抱くのは」
「敵意なんて抱いてないわ。ただ、彼女がなることで私たちのような運命を辿る人を見たくないってこと」
「つまり心配性ってことか?」
「う・・・うるさい。・・・色々と理由があるのよ」
暁美さんは銃をしまうと、私たちが歩いてきた道を戻っていった。
「まぁどんな理由があってもよ、なりたいならなればいいじゃねぇか。自分がしたいことをするのが一番だぜ」
「でも暁美さんはどうして頑なに契約させないっていうのかしら・・・もしかして何か昔に」
「知らねぇよ、どうせ直感とか何とかだろ?・・・もう暗いし、帰ろうぜ」
佐倉さんは頭の後ろで腕を組むと、私たちがきた道とは逆方向の道を歩いていった。
「魔法少女か・・・少しかっこいいな」
私は静かに月を見上げた。
二人と分かれた帰り道、家の手前まで来ると、家の目の前に何かがいることに気づいた。
私たちの学校の制服を着て、体には何か事件に巻き込まれたのか、傷だらけで至るところから血が出ていた。
スカート・・・女だってことはわかったが、顔が見えないため、誰だかははっきりわからなかった。
「誰か・・・」
私は声を聞き、助けに走り寄った。体が勝手に動いたのだ。
「大丈夫ですか?何か事故に」
「何があったか・・・何も覚えてない」
軽い記憶喪失か、一通り自身のことを聞いてみた。
「名前、どこから来た・・・全く覚えてない。でも一つだけ、覚えてる・・・」
目は今にも死にそうで、私に寄りかかって立っているのが精一杯だった。
私はそのことを聞こうと何度も肩を叩くが彼女は完全に意識を失い、寝てしまった。
家の扉を開け、大声で「ただいま」と言う。
リビングの扉を開け、母が出てきた。母は彼女を見た瞬間、すぐに持っていた菜箸を捨て、彼女を抱えるとリビングのソファに寝かせた。
「誰?友達?」
「違う・・・けど、家の前で倒れそうだったから」
私は少し失礼だと思ったが、彼女の制服のポケットから物を取り出した。形からして何かわかっていたが、中からは生徒手帳が出てきた。
「私たちと同じクラスの・・・鹿目 まどか?そんな子いたかな・・・」
名前を呼んだ次の瞬間、彼女は生徒手帳を持つ、私の手をおもいっきり握った。
「知ってるの・・・私の学校を」
「はい!」
「名前は・・・私の名前は」
「鹿目 まどか・・・あなたの名前は鹿目 まどか」
「まどか・・・助けて。私の友達を・・・」
「友達?友達って」
「暁美・・・ほむら」
鹿目さんの口から出てきた言葉に私はおもわず、持っていた手帳を落とした。
「暁美さんを・・・助ける・・・?」