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暁美さんに捕まって、気絶させられたところまでは覚えている。今、私はどこにいるのだろう。
私は今、椅子に座っていて、私の手と足は椅子に縛り付けられていて、身動きがとれなかった。背もたれは壁にくっついている。
誰かの家の一部屋だということは何となく理解した。
生活感あるその部屋はどうやら学生のものらしく、部屋の端に置かれた机の上には、デスクトップが置かれ、その横には教科書が積まれていた。
タンスの上に置かれた、窓の外からの光の反射でちょうど、顔が見えないが、服装的に女だということがわかった。
・・・そこまで論理付けなくても、暁美さんの部屋だというのはわかっていた。
「目が覚めたようね」
何事もなかったかのように、部屋に入ってきた暁美さんは私を見ると、クスッと笑った。
「あなたの家には連絡しておいたわ、安心しなさい。ただ」
暁美さんは一度言葉を飲み込むと、身動きとれない私の顎を親指でクイッと上に向ける。
「あなたには兄しかいないのに、若い女の子の声が聞こえたわ。あれはいったい誰だったのかしら」
鋭く、私の目をえぐるような眼差しは、恐怖感しか与えなかった。こんななか、安心できるはずがない。
口が動かない、というより声が出ない。
まるで、蛇ににらまれた蛙のような気分だった。
「朝から気になってたの。私たちに聞いた桜髪のことや私のみに言ったまどかのこと」
ようやく、確信がついた。
暁美さんは絶対に鹿目さんを知っている。そして、鹿目さんがあんな状態になったのは、暁美さんのせいだと。
「一から百まで、全て言ってくれたら、あなたを解放するわ。もしも言わないなら今からあなたの家に行ってまどかを・・・」
「言います!」
やっと声が出た、と思ったら私は鹿目さんを私自身が生きるために売ってしまった。
「そんなに私に恐怖心を抱かないで」
暁美さんは私の顎から手を離し、少し離れた場所の椅子に、私の目の前に置かれた椅子に座った。
「私は琴美さんの味方。安心して」
私は包み隠さず、全てを話した。昨夜あった鹿目さんのことを全て。今、記憶喪失のせいか、記憶が曖昧だということも伝えた。
「記憶喪失・・・か。会えると思ったら、こんな状態、負荷がかかりすぎたみたいね」
「どういうことですか?」
暁美さんは静かに目を閉じると語り始めた。
私は私自身の能力で、時を遡って、正解を導いてきた。次の満月の夜に起こるある魔女による二つ目の大災害を防ぐために・・・。一つ目はまどかの力によって消し去ることができた、歴史上、時間軸上から。その概念を消すことによって。
だが、それはただの余興にすぎなかった。それ以上の力を持つ魔女が今、世界に、日本に、見滝原に攻めてきてる。
まどかによって一度、救われた世界を今度は私が守らなければならない。
そして、これ以上、魔法少女が増えるのを私は阻止しなければならない。
魔法少女が増えることによって、その魔女はさらに力を増す。そしてその力はキュゥべぇ、またの名をインキュベーターの糧にされてしまう。
「あの・・・ごめんなさい。とても壮大すぎて、何というか、その・・・」
「そうね。魔法少女というものに、ほんの指先しか触れていないあなたには、いや、魔法少女という仕事を壮大に見ていない人にはわからない話かもね」
真夜中、電気のつかない部屋は月明かりによって照らされて、少しずつ明るくなっていく。
ベッド、テーブル、椅子と光は徐々に侵攻する。
「そしてあなたの今の立ち位置はこの銃で言うここね」
暁美さんは手につけた円盤から、何らかの技術で銃を取り出すと、"引き金"の部分をコンコンと指で叩いた。
「魔法少女は怪我をしてもすぐに回復する。それでも死ぬの。命は儚いから大切にしなければならない。これ以上の命を失わないために」
暁美さんは銃をしまうと、私の手と足に縛られた縄を近くにあったサバイバルナイフのようなもので切る。
やっと自由になった足は言うことを聞かず、その場に倒れてしまう。
「明日、まどかに会わせなさい。そしたら魔法少女にでも、魔女にでもなっていいわ。ただ、魔法少女になるなら、半端な気持ちは捨てなさい」
次の瞬間、私は自分の家の前に膝をついて座っていた。
最後の暁美さんの言葉は、今膝に触れている道路のように冷たかった。
「あれ!?今日一日、暁美さんの家で泊まるんじゃなかったの?ご飯残ってないよ」
帰ってきたのは夜十一時。玄関の日めくりカレンダーはまだ今日を越えていなかった。
「ご飯は大丈夫・・・。鹿目さんは?」
「あぁ、鹿目さんならもう寝たよ。風呂大変だったわ~。なんか幼稚園のころの玲華を入れてるみたいだったわ」
「そう・・・風呂入るね」
「いってら~」
私は服や下着を用意すると、洗面所に行った。
服を脱ぎながら、私は色々と考えていた。
正解を導いてきた・・・二つ目の大災害・・・見滝原を攻めてくる・・・守らなければならない・・・引き金。
そんな言葉が私の脳裏によぎった。
暁美さんの言うことはどこか深く、神経に絡み付くように耳の奥に、脳に入ってくる。
まるでその言葉を最初から知っていたかのように・・・
昔、聞いたことがあるような、正夢のような。
シャワーを浴びながら、私はいつもとは違う心情で目を閉じた。
私はこの先、どうすればいいのか。暁美さんの言葉を信じて行動しなければならないのかもしれない。
私はこのとき、魔法少女になることを決めた。
願いは・・・まだ決まっていない・・・
時は過ぎて、翌日の朝。
私はすぐに制服に着替えると、寝ている鹿目さんに「いってきます」と言い、部屋から出ていった。
急ぐ理由は、一秒でも早く、暁美さんに会うためだ。
昨日言っていたこと、そして、この先のことを知るために・・・
来る途中、同じクラスの子を何人も見たが、挨拶はしなかった。
後ろ姿、あれは暁美さんだ。
「お、おはよう!」
暁美さんは振り返ると後ろ髪をかきあげる。
「あら、おはよう。昨日はごめんなさい。それと・・・答えは決まったかしら?」
私は深く、深く、深呼吸をすると暁美さんの手を掴んだ。
「な、何?」
「私は・・・魔法少女になって暁美さんが鹿目さんを守るように、私が暁美さんを守ります!」
暁美さんは私の言葉を聞き、少しの間唖然とする。
「・・・えっと、そんな大役ができる?」
「できるじゃなくて、やるんです!」
暁美さんはその言葉を見て、微笑む。
「琴美さんって、そんなキャラだったかしら?」
今日から私は前みたいなキャラはやめ、私の新しい日常生活を始める一歩として、新たなキャラでいくことにした。
前向きで、明るく、これから起こることに対して元気に振る舞える。そんな自分になりたかった。
「キャラチェンですよ。行きましょう!学校へ」
私は暁美さんの手を掴んだまま、学校の方向へ走り出した。
そのとき、私は全く気づかなかったが、暁美さんはすぐに気づいたらしい・・・。
あのとき、周りにはたくさんのキュゥべぇがいたことを。その姿はあの体とは真逆にとても大きく見えたようだった。
六時間の長い授業が終わると、すぐに暁美さんのところへ行った。
そして、暁美さんの冷たい手を両手で握った。
「今日、どこか行かない?」
「どこかって?」
「暁美さんに色々と教えてもらいたくて、この町のことや昨日言っていたこととか」
暁美さんはため息をつくと、
「手を握ってたら、教科書もしまえないわ」
と言って、静かに私の手の中から暁美さんの手を抜いた。
「何を考えているのかわからないけど、、色々と知りたいことがあるみたいだし・・・話すわ」
私と暁美さんの家の方向がほぼ同じだったらしく、たくさん話してもらうにはちょうどいい距離だった。
暁美さんはどこか私のキャラに抵抗があるのか少し距離があるのがわかった。
「・・・で、琴美さんは魔法少女になるために、何か願い事はあるの?」
「願い事ですか?まだ全然決まってないかなぁ。何でも叶えることができる、と言ってもさすがに限度があると思うから」
「そう・・・」
暁美さんはどこか暗い顔をする。
何か"願い事"についてハプニングでも。
ほむら・・・ちゃん・・・?
前で暁美さんを呼ぶ声が聞こえた。その声に私よりも早く気づき、前を見たのは暁美さんだった。
前にいたのは、私の服を着た鹿目さんだった。
「まどか・・・」
「鹿目さん、どうしたの?こんなところにいて」
次の瞬間、暁美さんは呆然とその場に立つ鹿目さんを強く抱き締めた。
「おかえり・・・まどか」
暁美さんの目からは大粒の涙が大量に出ていた。
私は今、何が起きているのか理解できなかった。
鹿目さんに抱きつく暁美さん。暁美さんを見て、驚いてなのか動かない鹿目さん。
私はドラマやアニメで見る、感動の再会を観ているような感覚でその場を見ていた。
「やっと、やっと、帰ってきたのね・・・」
そのとき、私は初めて暁美さんの表情が、大きく変化したのを見た。
暁美さんはそのときの鹿目さんの反応で、すぐに鹿目さんの異変に察した。記憶が消え、今の鹿目さんは小学校低学年くらいの能力だということが。
「どうして・・・どうして・・・」
私はさすがに声をかけることはできなかった。今の状況に私は不必要な存在と考えたからだ。
「ほむらちゃん・・・だよね」
「そう、暁美 ほむら、あなたと同じ、魔法少女・・・」
「魔法少女・・・うっ!」
鹿目さんは激しい頭痛により、頭をおさえながらその場に崩れ落ちる。
「どうしたの?まどか!まどか!」
「魔法少女、まどか、円環の・・・理。ワルプルギスの夜・・・」
何かを思い出したのか、鹿目さんは気を失ってしまう。
「・・・記憶が蘇ろうとしているの?」
私は暁美さんに声をかける。今はそれどころじゃない。
そのとき、私の脳に何かが侵入してくるのがわかった。それはとても小さな声で「助けて」と言っているのがわかった。
それが暁美さんの声なのか、鹿目さんの声なのか全くわからないが、とても小さな声だった。
私はその声を鹿目さんの声だと認識し、暁美さんに
「今は鹿目さんを家につれていきましょう」
と提案した。
暁美さんは涙を拭うと、鹿目さんをなぜか、お姫様抱っこという、大胆な抱え方をして、ここからどちらかというと近い方の暁美さんの家まで運んだ。
「記憶の混濁が理由かしらね」
「暁美さんを見たことで、何かが記憶の中で・・・」
「・・・わかってるわね」
「アニメとかで聞く話じゃないですか。」
「へぇー。案外、琴美さんってオタクなのね」
「いや、そういうわけでは・・・」
断じて私はオタクではない。ただ、アニメが平均より好きってだけで、オタクという部類ではないと願う。
「まぁまどかも落ち着いたみたいね。とりあえずは一件落着かしら」
「あの・・・最初に聞きたいんだが、これって?」
私は天井から吊り下げられた左右に揺れる大きな時計の針のような物を指差す。
「まぁ色々とあるのよ。あまり人の趣味は探らない方が身のためね」
「はぁ・・・」
それよりも昨日入っていった建物が暁美さんの家だったことに驚きだった。昨日は暗くて見えなかったが、こんなところに住んでいることが、私はとてもすごく感じた。
「そういえば、鹿目さんの言ってたワル・・・何とかって」
「ワルプルギスの夜ね」
その話を出した瞬間、暁美さんの顔は元の表情に戻った。
「それっていったい」
「・・・こんな状態でもまどかに会わせてもらっただけで幸せだし、話すわ」
私がこれまでに送ってきた"時間"とまどかの言った"ワルプルギスの夜"の話を・・・ね。
☆
あれから何十分経ったのかわからないが、私は聞き終わってからとてもおびえている。
魔法少女とは何か、魔女とは何か。
暁美さんは何者か。なぜ、ここまで私に教えてくれるのか。
そしてこれから私はどこに、どんな運命を辿っていくのか