深夜に書いているので、たまに間違っていることもあると思います。そのときは察してください。
暁美さんの遺体が見つかってから数時間後、校内から学校付近の道全てに包囲網が敷かれた生徒はすぐに放課となったが、私は事情聴取のために少し学校に残ることになった。
暁美さんに刺さっていたはずの大きな矢は最後まで見つからなかった。
暁美さんが死んだのはだいたいの人が知っている。ただ、殺した犯人は私しか知らない。まだ確定していないが、たぶん犯人は鹿目さんだ。
でも、どうして・・・。
鹿目さんの動機が見つからない。暁美さんを探していたのは知っているが、それが暁美さんを殺すことに繋がるのだろうか。
そんなことを考えていると前から美樹さんと知らない男子が歩いてくるのがわかった。
男子は見滝原の制服を着て、足が悪いのか松葉杖をついている。
「お、玲華。どこいってたの?心配したんだよ!」
「ごめん。」
「ホームルームになっても帰ってこないし。何かの事件としか私たちも聞いてないしさ。そういえば、あいつも帰ってこなかったけど。二人でどっか行ってたのか?」
真実を知らない美樹さんは無神経にその話を聞き出す。
泣くまではいかないが、暁美さんが死んだことは悲しいことだ。
時間が遡る前、私は暁美さんに殺されかけたのを覚えている。ただ、この世界の暁美さんは良い人だったのかもしれない。そんなことを考えると、じわじわと何かが心の底から込み上げてくるのがわかった。
「・・・暁美さんは・・・えっと・・・」
「何があったのか言いづらいなら話さなくてもいいよ」
美樹さんの横にいる彼は察したのか、私がこれ以上話すのをとめた。
「えっと・・・彼は?」
「あ、幼馴染みの」
「言ってなかったね。僕は上条 恭介。さやかから聞いてるよ。琴美さんだよね?」
「は、はい。」
美樹さんの感じからして、幼馴染みというよりは彼氏という方が近いのかな・・・。
「あ、ごめん。そろそろ病院いって見てもらわないと」
美樹さんは近くの店の壁掛け時計を見ると、彼を連れ、私に手を振って病院へ向かった。
次から次へと起こることに私は混乱していた。
美樹さんの復帰と佐倉さんの入院。そして暁美さんの死亡。
「君は混乱しているみたいだね」
どこからか声が聞こえる。
それは横にいた。詳しく言うと、横にあるベンチに座っていた。
「キュゥ・・・べぇ?」
「なぜ、疑問文なんだ。・・・まぁ混乱するのも仕方がない。でもそれが正解の道なんだ」
「正解の・・・道?」
「そうだよ」
キュゥべぇが何を言っているのか、私にはわからなかった。そして思わず、
「何を・・・言ってるの?」
と聞いてしまった。
「君が願ったことじゃないか。
正解の道へ進みたいと。どんなことをしても・・・ね。
願いを忘れるなんて、君の記憶力はなんでそんなにも低いんだ。人間は見たままの風景を絵にしたり、覚えたことを何年も、何十年も覚えていることだってできるんじゃないのか?まるで」
「そんなこといいの!・・・私は私は」
私はそれを聞き、思い出した。あのとき、暁美さんに殺される前に、キュゥべぇに言った願いを。その願いで私は魔法少女になり、時間軸を越えて、この世界を作ったと。
そして私が正解の道を進む、という願いの成功のために暁美さんを殺したのか。そんなことを思ってしまった。
「人間の雌個体。特に少女というものは弱いね。すぐに泣くんだ。気の強い性格の子も、か弱い子も・・・」
「うるさい・・・」
「今なんて」
次の瞬間、私は横に座る生き物を自らの魔法、ビットで殺していた。蜂の巣のような、穴だらけになるように。サンドバッグを殴るかのように・・・。
「・・・私はどうして・・・そんな願いで、魔法少女になったの・・・」
次第にポツポツと雨が降り始めた。私が無意識で来ていた魔法少女の正装は血の赤のような深紅に染まっていた。今目の前で白い生き物から出ているような血の色だった。
その日の夜。私は部屋で大きな熊の人形を抱きながら、窓の外、空高くで光る月をボーッと見ていた。
私はどうしていいかわからなくなった。
自分が何をすればいいのか・・・。
いつも私は誰かの後を追う人間に過ぎなかった。友達の後ろをずっと、ずっと。
友達がAと言えば、私もAという。友達同士が喧嘩したとき、どっちの意見にも賛成してしまう。何もかもそれに流されていた。
ただ、今回は違う。私が意見を出さなくてはならない。
いつも私の話を聞いてくれるママも。怖い顔でたまに怒るけど色々と助けてくれる兄も。大人のお姉さんのような雰囲気で話すマミさんも。元気で私を引っ張ってくれる美樹さんや佐倉さんも。誰も頼らず、私が決めなければならない。
そんなとき、月に被さるように何かが飛んできた。青いマントに青い服。片手に剣を持つ少女。顔にはピエロのような仮面をしている。
少女は私の家のベランダに立つと、仮面をはずした。
美樹さんだった。
「よっ!玲華!」
「美樹さん・・・」
私は窓の鍵を開けると、窓の外へ出た。
美樹さんは剣をしまうと真剣な目になる。
「キュゥべぇから聞いたよ。暁美さんが死んだんだって・・・」
美樹さんはそれを言うと、急に深く頭を下げた。
「その、ごめん!本当に何も知らなくて、あんなこと言っちゃって。もっと玲華のことをちゃんと見て、わかってあげることができれば」
「いいの、美樹さん。私もなんか・・・あの・・・」
今、美樹さんの行動を見て、あのとき、彼女を嫌なやつと思ってしまった自分を悔やんでしまった。
「で、そのちょっとデートしない?夜の、魔法少女だけのね」
「で、デート!?」
「ダメか?いやぁー、新しい魔法少女の誕生祝いにでもと思って誘ったんだけどさ。夜景の見える良い場所があるんだ。それに今の時期なら花畑になってるだろうし」
美樹さんは私の手を持つと、ベランダから引っ張りあげ、私を抱きかかえた。
それはまるで王子様に抱え上げられたお姫様のような、そんな気分だった。
「ちょ、ちょっと待って。私もやっぱり魔法少女の格好にならないと」
私はキュゥべぇを殺したときに着ていたどす黒い緋色のワンピースのことを忘れ、魔法少女に変身する。
だが、正装からはそのときの緋色が抜け、純白のウエディングドレスのような色の服を着ていた。
「綺麗な服・・・おっと見とれてた。それじゃあ行こう」
「うん!」
私は元気よく返事をすると美樹さんと一緒にその花畑に向かった。
月の光で白く光る花はそこに幻想的な空間を作り、そこから見える夜の街はとても綺麗だった。言葉が出ないくらいに・・・。
そのなかに小さな空間を見つけた。ちょうど二人が座れるくらいの場所。
「ここでいいかな。良い感じにスペースがあるし」
美樹さんはそこに仰向けになる。私もそれに続いて横に仰向けになった。
夜景はほぼ見えないが、その分綺麗な夜空を見ることはできた。
「玲華が見滝原に来てから、ぽっかりと空いた何かが埋まったような気がしたんだ。一年くらい前から空いてる穴が。クラスで、杏子がいなくなって、マミさんが入試の影響で遠くなって、暁美さんが何か怖くなって、とても嫌な感じだったんだ。それにどこか空いた穴が・・・」
美樹さんは思うこと全て話していたようだ。ただ私は最初に言った、『ぽっかりと空いた穴』という単語に違和感を感じた。
それはいったい何なのか。美樹さんは鹿目さんのことをあまり知らないみたいだし・・・。他に誰かいるのか?ここに入ってくる魔法少女か、何かが。
「あたしが魔法少女になったのは恭介の手を、細かく言えば指を治すためだったんだ」
「指?」
「恭介は昔からバイオリンが上手くて、将来有望の資質があると認められるくらいだった。でも事故で指が動かなくなって・・・。それで恭介が悩んでいるとき、私の前にキュゥべぇが現れたんだ。一つ願いを叶えることができる、あたしは恭介にその願いを使った。もう一度、恭介の幸せそうな顔が見たかったんだ」
「美樹さん・・・。すごいです、他人のために使えるなんて。私は自分のために、しかもそれで他人の人生を大きく変えてしまったから」
「その願いって?」
「あまり図々しいと思わないでください。私は知らないうちにキュゥべぇに、私が正解の道へ進むようにって言ったみたいなんです」
「言ったみたいって・・・自覚はないの?」
「はい・・・でもそれが本当だってのはわかりました。暁美さんが殺されたことで、私の前にあった障害物は消えたといっても過言ではありませんから」
「・・・そういうことだったのか。でも、あいつが死ぬのは当然だと思うな」
「何で?」
「それは彼女だって成功のために、何度も何度も私たちの住む時間をいじってるみたいだし」
暁美さんが時を操ることのできるのは、行動や話を聞いていたため、なんとなく理解していた。だが、そんなことをしていたとは予測できなかった。でも、どこかで聞いたような話だ。まるで前にも美樹さんからそんな話を聞いたような・・・
「しかもあたしたちの記憶はほぼゼロに等しいらしいよ。だから平然とあいつの時間のループのなかで私たちは生きていられるらしい」
「ちょっと変なこと言ってもいい?」
「え?どういうこと?」
私は美樹さんが話していることを否定するような言葉を発した。
「全てではないけど、たぶん覚えている。これまでにあったこと、前の時間で暁美さんに会ったこと。佐倉さんと話したこと。 他にも色んなことを」
「え?じゃあ私とも」
「美樹さんは・・・何か会えなかったな」
私は嘘をついた。本人の前で、前の時間軸では意識不明の重体で今の佐倉さんと同じような状態だったよ。なんて私には言えなかった。私だったら本当のことでも言われたくないから。
「そうか・・・。私も変なこと言っていい?」
「いいよ。」
「ここに来てから、前にもここで玲華と話したっていう記憶があるんだ。今日みたいな時に」
「・・・え?」
「もしかして、玲華みたいに詳しくは覚えてないけど、断片的には覚えているのかも」
私はそんな記憶はない。前の時間では美樹さんと話す機会すらなかった。
・・・ということは、この前の前にも違う時間のものがあるということになる。
「何か変な感じだね。私達はその時間を過ごしたことがあるのに、記憶には、現実的にはそんなことは起こってないっていう・・・言葉にするのは難しい」
「そうだね・・・魔法少女ってどうしたら・・・何か聞こえない?」
美樹さんはそう言うと、急に起き上がって周りを見る。
「どうしたの?」
「いや、今聞き覚えのある足音が聞こえたような」
「え?」
私達は立ち上がると、その場所から離れる。
「何か変だよ。別に魔女がくるわけでもないし、何かがおかしい・・・何かが」
美樹さんに聞こえたという足音は私にも聞こえ始め、どんどん近くへと歩いてくるのがわかった。金属で作られた何かを引きずるような音を響かせながら。
そしてその金属音はコンクリートの地面を叩く音に変わった。そして音の鳴った次の瞬間、周りに結界のような赤い鎖が現れた。
「この鎖って」
「さやか・・・その女は誰なんだ?」
その声と共に暗闇から現れたのは、目に光のなく、首についたソウルジェムから黒いもやを出す、佐倉さんだった。
髪はさらにボサボサになり、目からは赤い涙が流れていた。
「杏子!どうしたの?そんなボロボロで」
「そんなことどうでもいいじゃないか。それよりもその横のやつは誰なんだ?」
「彼女は琴美 玲華、この前見滝原に来たの」
「彼・・・女?そんな仲なんだ・・・」
佐倉さんは槍を振り回すと、それに合わせて、周りの鎖も揺れ始める。そして私たちの隙をつき、私たちの片方の腕にその鎖を縛った。
「二人ともまとめて、倒すんだ・・・。魔女になる前に!」
「佐倉さん!」
「何だよ・・・どうしたんだよ!杏子!アンタ、そんなやつだったなんて」
佐倉さんは無言で近づくと、槍をその縛られた手の平を目掛けて刺す。
美樹さんはもう片方の手で剣を握ると、その槍を弾き、その流れで腕に縛られた鎖を切った。
「美樹さん、私のもお願いします!」
「いや、ちょっと見てて。本当はこんなことしたくないけど、私は・・・杏子を倒さなければならない!杏子を魔女にしないために!」
美樹さんは剣をかまえると、深呼吸をした。そして
「ごめん、杏子」
と言い、一歩足を踏み出した。
「うぉぉぉぉぉぉぉっ!」
美樹さんの大声と共に振られた剣は、佐倉さんの近くに浮いている鎖を壊し、佐倉さんの槍を真っ二つにした。
「もう迷いはない!杏子、アンタがそんなことをするならあたしだって我慢できないから」
佐倉さんは切れた槍を元通りに治すと、槍の先を美樹さんのへその部分についたソウルジェムに向けた。
「絶対に、魔女にさせない!」
私はこの戦いをただ見ていることしかできなかった。
二人の戦いを・・・