一話 どうも副担任です。よろしく。
───夢をみた。
嘗て生活を共にした友人達の夢。
街を真丸と切り取って登場したら攻撃されたり、有り金無くなったと思ったら子供にされてプールで遊ばれたり、修学旅行に遅れたから空走ってたら叩き落とされるし、洗脳された人達とリアル鬼ごっこやったり、……と。
色々あった人生の中で忘れることのない、大切な人達との何気ない日常のような非日常の夢。
突然、バッと場面が変わり浴衣姿の少女が一人の男の前に現れる。
「み──?何ジロジロと見てるの?」
彼女は頬を赤く染めて不機嫌そうにそっぽを向く。
「み─と〜ちょっと見てよ〜可愛いでしょー?」
宙に浮きながら男の前に現れるもう一人の少女。
彼女もまた、浴衣を着ている。しかし、先にいた少女と違い頬を赤く染めたり、不機嫌そうな顔でもなく太陽のように明るかった。
そんな性格が真逆な二人を何とかフォローしたり、落ち着かせる夢の中の俺。
夢を見ている俺は、そんな三人のやりとりをただただ眺めるだけ。
手を伸ばしたとしても届く前に三人の姿が遠くなる。
もう二度と、戻ることの出来ない大切な───
☆
ジリジリジリジリとセミの鳴き声の様な目覚ましに叩き起される。
「ふぁぁぁ朝……か」
懐かしい夢を見たせいか、体を起こしたまま暫く呆然と部屋の壁を見つめる。
目覚ましに書いてある今日の日付は4月10日。
四月と言えば、新しい生活のスタートとよく言うが、職のない彼にとっては何時もの休日……。
「ん……しがつ、とおか?」
今度は目覚ましではなく、後ろの壁に取り付けてあるカレンダーに目を向ける。
4月10日 駒王学園の教師!!
と、自分の字で書かれている。
それを見た俺はバッ!と跳ね起きる。
「忘れてたっ!今日から俺駒王で教師やるんだった!!」
ドタバタと部屋中を駆け巡り急いで準備をする。
しかし、身支度が終わっても思った以上に、時間に余裕があるのは昨日、寝る前に目覚ましの鳴る時間を早めていたのが原因だろう。
嬉しい誤算である。過去の自分に感謝しながら朝食を作る。
「ふぅ……時間に余裕があるってのはいいねぇ」
起きた時はあれほど焦っていたのに、戯言を言うほど暇になった。
今の彼の姿はスーツ姿、この姿を昔の仲間が見たら口を揃えて「誰だお前は!」と言うだろう。それだけスーツ姿に違和感がある。
おっと……そうだな、彼の説明をしておこう。
彼の名は
知ってる方もいると思うが彼はこの世界の住人ではない。
一年前、彼はこの世界に突然放り出された転生者だ。
転生……と言っても、彼は誰かに与えられた特別な力なんて持っていないし、お金もさ財布に入れていた数千円のみ。住む場所なんてもってのほかだ。
仕方なく職を探すものの、特別な資格なんてほとんど持っていない彼を雇う企業なんて一切なかった。
そんな彼が唯一持っていた資格。それが教員免許だった。
……とは言ったものの、教員免許を持っていたことを思い出したのはこの世界にきて半年後……、『やっべぇよ!俺のままじゃ野垂れ死ぬ!』と発狂しながらバイトをしていた時である。
あの時は銀行強盗でもしようかと本気で考えていた。
絶対にバレずに成功させる自信があったからな。
おっと、話が逸れたな。
教員免許がある事に気付いた彼は善は急げと雇ってくれる学校を探した。
当然、いきなり雇え!と言っても拒否させるのがオチである。
完璧に詰んだ状況で学校の周囲をさ迷っていると突然髪の赤い変な奴に「困ってるみたいだね」と声をかけられた。
人生オワタ状態の彼は怪しむこともせず、何故学校の周囲をさ迷っていたのかを話した。
しかし以外にも話のウマがあったのかなんやかんやで盛り上がって「私の妹が通っている学校で働いてみないか?」という話になって「えっ?マジっすか?よっしゃあ!!」という感じに……。
まあ、結論的に言ってしまえば彼は学校の教師という職に何とかあり付けた……という訳だ。
ちなみにだが、彼の住んでいる今の家、その赤髪が使わないから……と、譲り受けたものだ。
「さってと、今日からここが、俺の働く駒王学園…か」
色々と説明している間に到着していたみたいだ。
……と言ってもまだ熱心な部活生だけが数人いるような時間帯。何故こんなに速く来たのかって?……用心しすぎたようです。
☆
職員会議で、俺のことは簡単に説明するんだろうな……と考えていたんだが……そんな甘い考えだった過去の俺を殴り飛ばしたい!
現在、俺は職員室で他の教師に注目されながら俺は校長の前に立っていた。
「この方が、ここで新しく働く新人の守人海斗さんです。教師をするのは初めてらしいので質問されたら極力答えてあげてください」
「……えーと今日からこの学校の教師として来た守人海斗です。
これから頑張って行こうと思うので何とぞよろしくお願いします」
パチパチと拍手が職員室に響く。
まさか、ここまでちゃんと紹介されるとは思ってたいなかったため、喋ることは全く考えていなかった。なので自己紹介だけをする。
「海斗先生は……そうですね。まずは一年の副担任をやってください」
「分かりました。それでは精一杯生徒のためになるように精進していきたいと思います」
「その心意気を続けて頑張ってください。海斗先生」
そして自分にもう一度拍手が送られる。
何とも気恥しいが、こういうのもいいもんだな〜と思う。
しかし、スーツとか生まれて初めて着たけど結構ムズムズするな。明日から脱いでこようかな?
職に付いていきなり、好き勝手な事を考える教師である。
「では、海斗先生これから入学式があるのでこちらに来てください」
そう促され、俺は連れられるがまま職員室を出た。
☆
入学式それは青春を謳歌せんとする学生達の第一歩である。
特にこの学校、駒王学園は元女子高。何年前かは知らないがつい最近共学になった高校で、在校生との約七割が女子という驚きの数値。男子にとっては夢の高校。
とは言ったものの、実際はイケメン以外は帰れよ状態。まあ、現実はそんなものだ。
「それでは、一応なんですが式の練習をしましょう。
貴方は新しく入った先生なので、親御さんにも知らせておかなければいけません───」
別のことを考えている俺に容赦なくズバズバと話を進める上司。一体俺に何をさせようと思っているのかさっぱりわからない。
数分後
「──という訳で、分かりましたか?」
「はい、なんとなく。完璧だと思います」
何言ってんだ……支離滅裂だぞ。と自分にツッコミを入れながら目の前にいる上司の話を簡単にまとめる。
入学式の時俺だけが新しく入ってくる教師だから本来は代表がやるのを俺がやる……ってことだな。
うん、数分後の説明をまとめ過ぎだな。
「では、もうすぐ式が始まるので生徒会の方に行きましょうか」
そう言われ体育館から本校舎へと再び移動する。
止まった場所は職員室の反対側にある扉の前。
……ここが生徒会室なら先にこっちに来た方が良かったんじゃないかなー?
そう思うが、この人にも考えがあるのだろうから口には出さない。
コンコンッとノックをすると、「どうぞ」という声が返ってきたのでドアを開く。
生徒会室の中にいたのは黙々と作業をしている清楚な女子生徒。
その女子生徒は俺を見ると、首を傾げた。
「先生、その方は?」
「この人は守人海斗先生。ほら、新しく入ってくる教師さんだよ。えっと海斗先生、彼女は支取蒼那さん、駒王学園の生徒会長です」
「生徒会長……。えっと守人海斗です。よろしく」
「よろしくお願いします。海斗先生」
何故だろう。この生徒会長、普通に人間の姿なんだけど、何かが違う。ちょっとした違和感だけどその正体が分からない。
「それでは、私はこれで。蒼那さん、彼に色々と教えて上げてね」
そう言い残すと、ドアを出て言った。
「「……」」
二人は無言になり、微妙な空気が暫し流れる。
「仕事、手伝いましょうか?」
「いえ、結構です」
…………どうしようこの空気。
〜入学式はカット〜
微妙な空気になったことはすべて忘れよう。
現在、教卓の横に立っていた俺は担任に促され、担任と入れ替わり前に出る。
「ごほんっ初めまして。入学式の時に紹介があったように、今日から君たちの副担任になる守人海斗です。
女子が比較的に多いんですけど、俺は気にしないんで質問とかあればどんどん聞いてくださいね」
と、軽く挨拶をして再び担任にバトンタッチ。
「では、生徒達も自己紹介していきましょうかね!」
うーむ、なんだろうこの時間。ものすごーす暇なんですけど……あれ?何であの席空席なんだ?
入学初日で誰か遅刻でもしたのだろうか?それともただの空席なのだろうか?そんな、どうでもいいことを考えながら、生徒の自己紹介を聞く。
「……はぁ何でこうなったんだろうな」
誰にも聞こえないように呟く。
今頃、問題児達と面白おかしく生活していただろう。それが今、こうして学校の教師をしているなんてあの時の俺は想像出来ただろうか?
「海斗先生?何ボーッとしてるんですか?もうホームルームが終わる前に職員室に帰ってやらないといけない仕事が貴方にはあるんですけよ?」
「えっ?あ、あぁすいません。少し考え事をしてました」
ぼうっとしていた俺を現実に引き戻した担任に謝り、急いで職員室へと戻る。
職員室に戻ると、一年生の生徒の教科書のクラス別に分けるのを頼まれた。それだけではなく、授業の資料の整理も頼まれた。
「……はぁ、めんどくさ」
思わず本音が洩れる。
しかし、まあこれが教師の仕事なのだ。やらないという選択肢は俺にはない。
それからは文句一つも洩らさず箱に入っている教科書をクラスの人数分に分け、頼まれた資料の整理もささっと終わらせる。
資料整理も分別も終わったので職員室に戻り報告をする。
「えっ?もう終わったんですか?」
目を見開き、驚きの声を上げる女性教師。
「はい、終わりましたけど。次は何をすればいいんですかね?」
そう答えると何かを考えるように頭に手を置く女性教師。
「いえ、もう貴方の仕事は終わりよ」
もう終わりなの?と思いつつ、「分かりました」と言い自分の机の椅子に座る。
「……あの量を一時間もかからずにどう終わらせたのかしら?」
と、山のようにあったはずの資料が綺麗に並べられている机を見つめながら女性教師は呟いた。
☆
本当に仕事はアレで終わったらしく、時間になると帰っていいと言われた。
もしかして俺初日から何かヤバイ事でもやらかしたのだろうか?そうじゃないと俺はこんなに早くに帰らせてくれるとは思わないんだが。
と不安になりながら上り道を歩く。
「……あっそうだった。食材切れたるんだった」
と、突然冷蔵庫の中身を思い出してスーパーに寄ろうと前を向いた。
「……ここ何処?」
しかし、視界に広がったのは何時もの商店街ではなく、見覚えのない、住宅街だった。
…………あっるぇ?
おかしい、確かに考え事をしながら歩いていた。だが自分の家の方角を果たして間違えるだろうか?
いや、違う。この場所を……この住宅街を俺は知っている。
「あぁ、そうかこの場所は────」
ふっと小さく笑い後ろを向く。
新しい目標が出来た。あの赤髪の男には悪いとは思うがどうしても欲しいものが出来てしまった。
「不安になっていても始まらないんだ。こうして新しい目標も出来たことだし、立ち止まってる暇なんてねぇな!」
そう叫ぶと近所迷惑になるので、小声で言うと振り返る。
俺は道に迷ってなどいなかった。知っていたんだ、この道を。体が覚えていた……だから無意識にここに来てしまった。
「さて、明日も頑張るか!」
気合いを入れ直し、空を見上げた。
では、コメントヨロです(´・ω・`)