水面の魔女   作:プロインパクト

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嵐の前の静けさ、という言葉がある

大きな問題事が起きる前には、不気味な程の静寂が訪れる、という意味だ。

 

「ワルプルギスの夜が来るより先に、厄介な事が起こるかもしれない」

天候は曇天、今にも雨が降りだしそうだ。暁美ほむらは、他人事のように話を聞いて空を見上げていた。

どんよりとした空は、まだ夕方というのに夜のように真っ暗になっている。

 

そんなほむらの様子を見てか、目の前のテーブルにちょこんと座っていた白い小動物、キュゥべえは、そのあまり変化しない表情のまま話を続ける。

「この魔女は、完全な異常(イレギュラー)だ」

「貴方がそう言いきるなんて珍しいわね、キュウベエ」

 

自前の艶のある前髪を弄りながら、ほむらはそう返した。

魔法少女への仲介役であるキュゥべえは当然、魔女の情報、対処方にもある程度詳しい。

インキュベータである彼、キュゥべえの事について人一倍知っているほむらにとっても、キュゥべえのその話は意外なことであった。

 

「今まで、こんな事態は無かったからね。出来れば早急に解決したい事でもあるのさ」

 

「……異常(イレギュラー)と言ったわね。具体的な被害予想は出ているの?」

勢力が強大な魔女であれば、それは何らかの形となって現れる。[ワルプルギスの夜]であれば、それは巨大台風(スーパーセル)という自然災害で現れていた。

分かりやすい相手であれば、それに対する準備も出来ると、ほむらは言外でそう言っていた。

 

「それは言えないよ」

「何ですって……?」

返されたその言葉に、ほむらは無意識に拳を握り締めていた。そんなことを知ってか知らずか、キュゥべえは続ける。

 

「言っただろう? 今回の魔女は異常(イレギュラー)だって」

 

「観測者である僕たちでも、それがどんな魔女なのか、何処から発生した魔女なのかも分からない」

 

「それほどに、厄介な魔女なのさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「イェーイ♪勝利のV!」

「今日もバッチリだったわね、美樹さん」

 

所変わって、こちらは都内某所。いつも通りに夜のパトロールに勤しんでいた美樹さやかと巴マミは、使い魔を発見して退治していた。

青を基調とした服に、白のマントを羽織った剣士を模した姿をしたさやかは、自らの武器であるサーベルをマントへと収納した。その隣にいる黄を基調とした

服を着たゴシックドレス風の姿を模したマミは、ソウルジェムを片手に探索をしていた。

 

「さっきので終わりですよね?」

「多分そうだと思うわ。待ってて、今探知を――あら?」

 

ソウルジェムで気配の探知を行ったマミが、探知した物へと視線を向けるのに釣られて、さやかも同じ方へと向いた。

視線の先には、自分と同じ美滝原中学の制服を身に纏った、鹿目まどかの姿があった。

 

「お疲れ様です。二人とも、怪我は無い?」

 

あどけない少女の様な笑みを浮かべるまどかに対して、さやかとマミの二人は数秒呆気に取られていた。

 

 

返事が中々返ってこないことに、まどかが内心焦り出すことと、二人のなかで何かがキレたのは、同じタイミングだった。

 

「え、えっと、二人とも――」

 

「鹿目さん、魔女の結界が展開されている間は、危ないから外出しないように言った筈よね?」

「それに、こんな人気の少ない場所で一人きりだなんて、なに考えてるの。変な奴に絡まれでもしたらどうするつもり?」

 

距離を詰めながら淡々と話してくる二人、そんな二人が怒っていることは、目を見ればすぐに分かった。

心の中であーだのこーだの、この場を安全に切り抜ける為の策を練るが、どれも通用しないことを感じ、まどかは潔く謝ることにした。

 

「ご、ごめんなさい。マミさん、さやかちゃん」

「許さないわよ♪」

「私も同じく♪」

 

許されなかった。御免で済むなら、警察は要らないのである。

越えてはいけないボーダーラインを踏み越えたまどかの両目に、徐々に涙が溜まりだしたのを見て、二人は軽いため息を吐いた。

 

「泣くくらいなら、最初からしなければ良いの!」

「そうだよ、まどかは後先考えなさすぎ」

 

自業自得だ、そう言いたげに自分を見つめるさやかとマミを見て、まどかは正直に言った。

 

 

「で、でも……。やっぱり不安だったから」

 

「……っ!」

「……。」

まどかのその言葉に、さやかは何かを言いたげにしたが、自分の前に立ちふさがるように出されたマミの腕を見て、マミに譲った。

大人しく引いたさやかを見て、安心したかのように微笑むマミ。ここは任せて、と顔が語っていた。

 

「鹿目さん、以前に魔女の結界内に取り込まれたこと、覚えてる?」

「は、はい」

 

そう言われて、まどかはその時の危機的状況を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ど、何処なの? ここぉ……」

 

どうしてこうなった。

その一言に尽きる状況に、鹿目まどかはパニックになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして、僕の名前はキュゥべえ」

 

「僕と契約して、魔法少女になってよ!」

 

 

それ-キュゥべえ―との出会いは、衝撃的だった。

偶々行った放課後のショッピングモール、頭の中に響いた声に従って進んでいくと、小さな可愛らしい小動物が居た。

 

叶えたい願いをたった一つ、どんな願いでも叶えるというキャッチコピーを引っ提げてやって来たそれは、まどかからすれば好奇心の的だったのだ。

 

 

「キュゥべえ、私と契約して」

 

あんな願いにしようか、こんな願いにしようかと、まどかがウンウン唸っている内に、結局はさやかが先に契約してしまった。

契約の証であるさやかのソウルジェムを見て、宝石のようで綺麗だ、と思ったのは今でも記憶に新しい。

「せっかく契約したんだからさ、魔女退治行ってみよー‼」

「ぉ、おー!」

 

契約をしたのだから、後は実践。

ソウルジェムを片手に意気揚々と進むさやかに、まどかは胸を期待で膨らませながら、ついていく。

 

 

 

 

それで現在。

「さやかちゃーん‼ 何処にいるのー‼」

 

二人で歩いていた路地裏の景色が少し歪んだかと思えば、見たこともない場所にいつの間にか立っていた。

目の前に居た筈のさやかも、何処かに行ってしまっている。

 

これはマズイ、とにかくマズイ。

普段鈍くさいと、家族や友人から言われているまどかでも、自分が置かれたこの状況には、全身から嫌な汗が止まらなかった。

今までの人生でも見たことのない奇妙な風景の中を、自分の直感を信じて進んでいく。

 

 

 

 

「――■■■■■■■■■■■‼」

「何言ってんのか分かんないのよー‼」

 

まどかとは別の場所では、さやかが一体の魔女と戦っていた。見た目は大雑把に言えば、弓道着の様な服をを着た女性だ。身の丈は3メートル程、その丈と同じ程の大きさの弓を構えている。

ギチギチと嫌な音を聞いて、さやかは魔女の持つ弓に注目する。弓が大きくしなり、弦が風を裂く音を出した瞬間、さやかはその場から右側に全力で飛び退いた。

 

「っぉ……?!」

「■■■■■■‼」

 

数瞬遅れて、自分が立っていた少し後ろの地面が抉り吹き飛ぶのを見て、さやかの背筋が凍った。あんなものをまともに受ければ只では済まないと思いつつ。

またもギチギチと音をたて出した弓を見て、さやかは魔法で生み出したサーベルを片手に前へと進んだ。

「(コースは直線、放った瞬間に避ければイケる!)」

 

戦って得た情報から、勝利への筋道を建てていく。

地面を踏みしめ、魔女へと接近するさやかへと、死の照準が向く。

 

「(来た……‼)」

 

成功するとは限らない、失敗した時のビジョンを浮かべる頭をブンブンと振り、魔女へと集中した。

魔女の持つ弓が、ギチギチと音をたてる。

 

「(もっと)」

 

彼我の距離はおよそ10メートル

 

「(もっと)」

 

ギチギチという音が止み

 

魔女がニタリと笑った

 

「ここだァ‼」

弓が発射でぶれた瞬間、さやかは魔力を使った高速移動で魔女のすぐ隣へと飛び込んだ。矢をかわされた魔女が視線を向けると、そこにはサーベルを構えたさやかが居た。

 

一瞬の静寂の後、胴体を上下に分けられた魔女が地面に倒れる。苦しそうに肩で呼吸をするさやかは、サーベルを放り出して地面に座り込んだ。

 

「倒した……倒したんだぁ……っ‼」

 

勝利した事を自覚するように、手を閉じたり開いたりする。次第にフルフルと体を奮わすと、歓喜の声を上げた。

 

「やったぁー‼魔女退治したぞー‼」

「お喜びの所申し訳ないんだけど、ちょっと良いかしら?」

 

ふと掛けられた声に振り向くのと、振り向いた顔のすぐ側を何かが通り過ぎるのは同時の事だった。

倒れた魔女の持っていた弓が破壊され、魔女の体が塵の様に崩れていく。その後には、黒いゴルフボール状のアクセサリーが残されていた。

 

「魔女の中には、武器そのものが本体である場合があるわ。倒した気で居ても、また復活するわよ」

黄色を基調とした、ゴシックドレス風の服装をしたその女性は、硝煙を上げているマスケット銃の銃口を上に向けて言った。

 

「初めまして、私は巴マミ。貴女と同じ魔法少女よ」

服に合う、透き通る様な金髪をした魔法少女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 




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