目覚めは快適とは言えなかった。重い頭をふり考える。
何となく自分でも分かってた。
きっと彼女とはもう会うことはないんだろうって、昨日の夜、なにもしなかった。なにもできなかった。ただ、時間が過ぎていくのを待っていることしか出来なかった。
「…………」
臭いが、消えていた。いい臭いが、彼女の、臭いが消えていた。
ベッドから立ち上がりマリーの部屋に向かう。
扉を開ける。中には誰もいない。
「……………っ」
部屋に入りベッドに座る。マリーの温もりが残っている気がした。
マリールー、彼女の実態はポルターガイスト。現象だ。実体はない。俺は幽霊に心を奪われていた。
「……なんで」
なんで
なんでこんなに
「………いたいよ………」
きみのことをかんがえてしまう。
「……?」
ふと部屋にある机をみる。そういえば小瓶がどうとか言っていた。
引き出しの一番下から開けると手のひらサイズの手帳のようなものが入っていた。
「これって……」
たまに何かを書いているのを見かけて、声をかけても絶対に見せてくれなかった手帳、だよな。
ペラペラと中身をみる。
「…………これ……」
中身は日記だった。俺を拾ってから、俺と暮らし初めてから昨日までの日記だった。
「あぁ…………あぁあ……」
ページをめくるたびに、かかれた文字を読むたびに胸のどこか奥底が締め付けられる。涙が溢れてきた。
彼女の思いの変化、毎日がどれだけ楽しかったか、どれだけ自分が救われたか、そして、どれだけ自分が罪深いのか心情が余すことなく書き込まれたそれは間違いなくマリーの、俺と過ごしてきた彼女の魂がやどっていた。
気づけば俺は膝をつき涙を流しながらそれを読んでいた。俺はマリーを心のそこから好きだったのか?彼女に報えたのか?その答えがここにある気がした。
彼女はただただ、最後の時間まで消えるそのときまで俺対して感謝と謝罪を書き綴っていた。
「………ちがうよ……マリー……」
例えこの気持ちがマリー自身の手によって作られたものだったとしても、それでも俺はマリーを愛していた。それでよかったじゃないか。それで、それでよかったじゃないか……!!
「楽しかったのも、救われたのもお互い様だよ……」
この家に、マリーに拾われて俺は確かに救われた。歪な独占欲から来たものであったとして確かに俺は救われたんだ。
「俺はマリーをどうしたかったんだ……?」
俺の考えはなんだ?さっきまで何を考えてた?
俺の気持ちがわからない。俺の思考は繋がってるのか?どこからどこまでが俺なんだ?
「俺は……誰だ……?」
「おにーさんはおにーさんだよ?」
「…………キマ……?」
部屋の開きっぱなしの扉の前にキマがたっていた。
「あのね、おねーさんからきのうよるいわれたんだ!えっと、どこかとおくにいっちゃうんだって!だから、もどってくるまでおにーさんのことをまかされました!!」
「んぐっ!?」
キマが飛び込んできて俺の口に何かを突っ込む。
「おねーさんがのませてっていってた!!」
「ング!ゲホゲホ!………何を飲ませて……!?」
「おにーさん!?だいじょーぶ!?」
「いや、飲ませたのお………ま………」
頭が痛い。
「………………」
「…………そっか………」
気がつくとベッドに寝ていた。右腕が重い。
「………んにゃ………むにゃ………」
キマが隣で寝ている。俺の腕に抱きついている。
「……………」
よだれ、冷たいな。……やけに頭がスッキリしている。ここに来たときのことを思い出す。ここは、どこだ?
「キマ、ほら起きろ……キマ?」
「んぬ……かぁ……ふぁああ……おにーさん?……おはよー?」
よだれを垂らしたまま寝ぼけ眼で俺をみる。
「まぁ、おはようかなぁ?ほら、よだれ垂れてるぞ?」
「んぁ…?あ!ち、ちがうよ!これは……な、ないてるだけだもん!!」
「そっちの方が心配するけどな……」
「おにーさん?」
「ん?なんだ?」
「……だいじょーぶ?」
「………」
「わぁ!!頭が~!くしゃくしゃしないでぇ~!」
「変な気を使うなよ。だいじょーぶだって」
確かに大丈夫だよ。今の俺は大丈夫だ。やけに頭がスッキリしている。
俺はこの世界に来て、村に行き、この館で、キマと……。
「おねーさんがおにーさんがいたそうなかおしてたらのませてっていってたから……」
「ありがとう。キマのお陰で少し楽になったよ」
「えへへ、およめさんっぽい?」
「あぁ、およめさんっぽかったよ」
「うへへへ~」
「くねくねするな」
「あいてっ!」
………おねーさん?
「おにーさん?どうかしたの?」
キマの呼び掛けにも答えずベッドから飛び降りる。
「おにーさん?どこいくの!?」
彼女の部屋に駆け込む。
「…………」
臭いがした。彼女が確かに、ここにいた。俺のなかに、存在していた。
「おにーさん!あんまりはしったら 危ないんだよ !!」
部屋には彼女の手帳が落ちていた。そうだ。彼女は最後に自分の存在を俺の中から消したがっていた。俺を縛り付けてしまった自分を消したがっていた。
「……そんなこと、させない」
俺と暮らしていたマリーの事を思い出せない。暮らしていた記憶はあるけど、彼女の姿を思い出せない。
けれど俺には昔の記憶がある。この世界に来る前のマリーの姿の記憶がある。
「絶対に忘れない」
俺は手帳を手にとった。俺の中で、別れを告げる。区切りを、告げる。
「さよなら、マリールー……」
俺の事を心のそこから愛してくれた人。
手帳を手にとってキマとリビングに降りる。この先どんな風に過ごすか考えないといけない。食料も無限にある訳じゃないし、調達手段も必要だ。
「おにーさん!おにーさん!」
「どうしたんだ?」
「みて!そと!ゆき!たくさん!」
キマは俺の手を取ってピョンピョン跳び跳ねる。
「うーん、しばらくはここで暮らすしかない、かなぁ。冬を越すまではあまり遠くには行けそうにないな……」
「あーー!!マカラがうまってるぅう!!」
「あ!キマ!飛び出すなよ!」
マカラを助けに言ったキマを見送る。
「とりあえず、ご飯の準備でもするか」
グツグツと煮える鍋をみて思う。俺は、料理がかなりうまいんじゃないだろうか?
「うん、ウマイ」
マリーに及ばないまでも結構いけるポトフもどきが出来たんじゃないだろうか?
「それにしても、キマ遅いな」
いつもは昼にはお腹を透かせて帰ってくるんだけど、マカラの救出に手間取ってるのかな?
「ただいま~!」
考えている途中でキマが帰ってきた。
「おう、おかえりー………?」
玄関で体に付いた雪を体を震わせて落とすキマ。それはいい。それはいいんだけど。
「えっと……キマ?後ろの二人は?」
「えっとね!マカラと一緒に埋まってたんだ!だからひろってきた!!」
「いや、そんな犬猫みたいな感覚で言われても……」
キマの後ろにはマカラにのせられた小さな人影が二人乗せられていた。
「えへへへ!えらい?キマえらい?」
「いや、まぁ、うん。放置よりはましかな?」
俺の言葉にキマニコニコしたまま胸を張った。
読んでいただきありがとうございます。更新が遅くなってしまい申し訳ございません。色々と予定が重なり、手をつけられない事が続きました。今後はこんなに開くことはないと思います。
今回は新しい登場人物ということですこしみじかめになっております。誰が新しく加わるのかは次回で判明します。
つたない文章ですが次もよろしくお願いします。
※ラグナとニド、アルビダはほんとにどうにかしてほしいです。というかほしいです。