「だから違うよ果南ちゃん!」
元気よくダンスを教える千歌ちゃん。
「えーと、こう?」
一生懸命ダンスを習う果南ちゃん。
「だからなんでスノハレのダンスをしてんだよ」
私の知らない二人のもう一人の幼馴染の誠君。
私が知っているのは私たちの頼れる人であり、由一の男性であること。
私が知らないことは二人だけが知っている顔があり、知らない顔がないことである。
それがなんだか・・・・・・。
「どうした?」
「え、うわ!?」
座っている椅子からバランスを崩しおしりを床にぶつけてしまった。
「え、大丈夫曜ちゃん!」
「誠なにしたの」
「さっきから元気なくしているから心配して顔を近づけただけなのに」
「大事な曜ちゃんになにかあったらどうするの!」
「えー!俺の責任になるの」
「そうだよ曜は高飛び込みの選手の中でも大切な人材なんだよ!」
「おお、それは大変失礼しました。お体に異変など痛みはありませんか?」
「おお、まー君がいきなり弱腰になった」
「これはただ、女の子を怪我させることに大変恐れているんだよ」
本当に三人は仲がいいな。
ここに梨子ちゃんがいたら同じことを考えるのかな。
今ここにいるのは私と千歌ちゃんと果南ちゃんと誠君の四人だけ。
皆がそれぞれ用事があるようだから今日は練習がお休み。今日の休みのことを知らなかった誠君とたわいもない会話をしていた。
それなのに、今こんなことになってしまった。
「だ、大丈夫だよ――」
一瞬私の心に悪魔の囁きが聞こえた。
「やっぱり、少し足を挫いたかもしれない」
「「「えーー!!!」」」
大声をだす三人。
耳がキーンってするよ。
「どうするのまー君!」
「落ち着いて千歌。とりあえず誠を離してあげて!」
「お、俺が怪我を、将来の選手の人生を……」
「えーと、誠君?」
あれ、なんか大変なことになってしまった?
「お嬢様、お望みの飲み物です」
「う、うん」
「肩凝ってませんか?それともお菓子が欲しいですか?」
「だ、大丈夫だよ」
なんでこうなった。
あの後誠君は千歌ちゃんと果南ちゃんに連れられて、どこかに行ってしまった。
数分後、黒い執事服装を着込んだ誠君が戻ってきた。
なんでも言ううことを聞くと言うので取り合えず飲み物を買ってきてもらった。
『了解しました』っと言って教室を後にした、また数分後戻ってきた。
これでわかった。誠君は本当に私の命令を聞いてくれるのだと。
「他になにかありましたら言ってください」
「それじゃ、その他人行事をやめてくれる?」
「えーと」
「なんだか、これまでやっとわかってきた誠君がわからなくなってきちゃって」
「わかった。曜」
「うん。それこそ知っている誠君だよ」
「そっか。そう言ってもらえてうれしいよ」
「でもなんでいきなりそんな服装をしているの?」
「怪我させてしまったから、少しでもお詫びとして」
「いいのに、そんなにたいした怪我じゃないから」
「でも、怪我をさせたから」
悲しい顔をする誠君。
初めて見る顔。
「な、なんでそんな顔をするの」
「え・・・・・・」
あ、声にでていた。
恥ずかしい。
「あのね、少し場所を変えよう」
「わかりました」
「え、おわ!?」
「それで、どこに行く?」
「その、とりあえずこの格好を――」
「歩かせることはできないから」
でも、お姫様抱っこなんて恥ずかしいよ!
この体制だと、顔が近い。
こんなに人の顔を見たことはないな。手を伸ばせばすぐに届く距離にある。
「――う、よう、曜?」
「あ、え、なに!」
「それで、どこに行きたいんだ?」
「う、海に行きたい」
「海。わかった」
誠君は器用に足を使いドアを開ける。
え、この状態で外に行くの!学校は部活でまだ人がいる。
今私の状態を誰かに見られたら噂されるよね。それも他校の誠君にも迷惑をかけてしまうよね。
「あ、曜ちゃんだ!」
あ、ほら!考えているあいだにクラスメイトに見つかった!
どうするの、なんていい訳をするの!
「どうした?えーと、だれだっけ?」
「自分は沢田誠。時々この学校にお邪魔させてもらっている者です」
「う、うん。自分は曜ちゃんの友達で」
「それじゃこれから何度か顔を合わせることがあるかも」
「うん。そうだね。それで曜ちゃんはどうしたの?」
「少し足を挫いてね。それではこのあと用事があるから」
「うん。またね」
「また」
なんでもなかったように話しが終わった。
けれど、二人の会話を聞いていてなんだか・・・・・・。
「それで外に来たけど、このあとどうするの?」
「え、海に行くんじゃないの」
「うん。そうだけどまさかこのままの状態で!」
「違うよ。俺の自転車を使うんだよ」
そう言って、誠君は自分の自転車の荷台に下ろしてくれた。
まさか、これって。
「しかっりつかまっていろよ」
「つかまるってどこに」
「脇はやめてくれ。肩にしてくれ」
「うん。じゃないよまさかこれって!」
「それじゃ、海までひとぱっしりしますか!」
誠君がペダルに力を入れる。私は肩に手を乗せ、つかまる。
自転車はゆっくり進み、徐々にスピードが出てきた。
この学校の名物の坂に突入する。
「しっかりつかまっていろよ!」
「安全運転でお願い!」
自転車は急な坂をスピードを出して下りていく。
私はぎゅっと肩に力を入れて、背中に顔を隠す。
「見てみろよ!」
誠君に言われ顔を上げる。
「きれい・・・・・・」
そこには坂の上からとの景色とは違い、太陽の光を浴びてキラキラと輝く海が見えた。
一瞬だけだったけど、あの輝きは忘れられない。
彼の大きな背中は安らぎをくれた。
「海に来たけけど、どうする?」
学校近くの海の防波堤に腰を下ろす。
「本当はね足怪我してないの」
「え」
「歩けるんだよ、ほら」
私はその場で歩いてみせた。
「なんだー、よかった」
安心して横になる誠君。
「怒ってないの?」
「怒る?誰が?」
「誠君だよ。嘘ついていたんだよ」
「まあ、嘘はいけないな」
「ごめんなさい」
「でも、なんともなかったほうがうれしかった」
「うれしかったの」
「だって、曜の飛び込みを見ることができるから」
「そ、そっか。よかった」
誠君は優しい。だから、あの二人は誠君と一緒にいることが好きなんだ。
「でも、なんで嘘をついたかは説明してくれるか?」
「それは、三人が仲よさそうにしていたから」
「三人?千歌と果南姉と曜のこと?」
「違うよ。私じゃなく、誠君だよ」
「お、俺!」
「自覚はないんだ」
「ないよ!そんなに仲良く見える?」
「うん」
「即答するほど」
「まわりの人が嫉妬するほど」
「そんなにか・・・・・・」
言い過ぎたかな。
自分も嫉妬している一人なんてとっても言えない。
「たぶんだけど」
誠君は海を見ながら離し始めた。
「そんなに仲良く見えるのは、俺が忘れているから」
忘れている?
「俺、小さい頃の記憶をほとんど覚えてないんだ」
「え・・・・・・」
記憶がない。
どういうこと。
でも、あんなに。
「記憶がないって言っても、全部ではなくところどころなんだよ」
それって。
「ああ、二人には教えてないんだ」
つまり。
「だから、覚えてないことを聞かれても困るから、二人と今を楽しんでいるんだ」
そうだったんだ。
「卑怯なんだよ。昔がわからないから今を楽しもうなんて」
そんなこと。
「けど、今日はいい思い出を作ることができたよ」
そんなこと言わないでよ。
「ありがとう」
言わないで。
私は立ち上がり言う。
「昔を覚えてないんだって言わないでよ!」
そんなこと。
「認めない!そんなこと!」
言わせない。
「昔より今を楽しもうなんて!」
私は。
「私は今日は楽しかった!だから昔のことを覚えてなくってもいいじゃん!今を楽しもうよ!」
「曜・・・・・・」
「だから、そんな悲しい顔をしないで」
「ごめん。そうだよな」
誠君は立ち上がり、さっきとは違う笑顔を見せてくれた。
「これから、楽しい思い出をつくろう」
「うん!」
私は今日のことをどれだけ覚えているのだろうか。
それでも、今日あったこと。
初めて知った彼の事実。
最後に見た笑顔。
忘れるかもしれない。
それでも、彼の背中の後ろから見る景色は忘れないだろう。
今日は月曜日なのに小説は金曜日って紛らわしいな!
海の日を満喫しようにもする人がいないので家に引きこもりフジテレビの音楽番組を楽しみながら書き上げました。
いやー、三連休なのになにをやってんだよ。せいぜい浜松に旅行しに行っただけだよ。
まぁ、誰かいい人が見つかることを願ってる絶賛一人者です。
そうでした。お気に入りが40になりました。ありがとうございます(*´ω`*)
これからも増えることを期待してます。感想のほうもお待ちしてます。
そして、重大発表があります。
8月から一ヶ月間諸事情により小説を書くことができません。
ですが、9月になりましたら新展開がありますので期待していてください。
大変ご迷惑をおかけしますが、どうか誠たちAqoursを忘れないでください