輝け!イチ・ニ・サンシャイン‼   作:N応P

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第19話 雨が降るのは梅雨だからさ

 

 

 雨は嫌いだ。ヤル気も元気も失う。

 服は濡れるし、靴はさらに濡れる。だから雨は嫌いだ。

 外に出るだけで道には水たまり。俺の道を歯向かう。

 だからこのような雨が降る日は家から出ない。

 

「雨、降ってきましたね」

「そうだねー」

「すごく元気ないですね」

「朝は晴れていたのにここに来たら雨が降ってくるなんて」

「ははっ」

 ふてくされる俺とから笑いする梨子。

 放課後いつものようにAqoursの練習を手伝いにきたのだが、部室には梨子しかいなかった。

「それで他の皆は」

「えーと、曜ちゃんは水泳部のほうに顔を出しにいっていて」

「曜は大変だな、水泳とスクールアイドルの両方を掛け持ちして」

「一年生の皆は花丸ちゃんの図書室の本の整理を手伝っているわ」

「仲いいな一年生は微笑ましいな」

「三年生はダイヤさんの生徒会のお手伝いを」

「三年生も仲いいな。それで俺を呼んだ張本人は」

「千歌ちゃんは先生に呼ばれて補修を」

「千歌らしいと言えば千歌らしいけど」

「千歌ちゃんはただいま先生と二人きりで指導を」

 

「二人きりか、それなら俺たちも二人きりだな」

 

「え……」

 

 外で雨が勢いを増す音がする。

 内ではそれがわかるほど静かになった。

 二人の間に漂う気まずい空気。

 よく考えたら俺は梨子の事をよく知らない。

 知っていることは東京からの転校生でピアノができ、Aqoursの作曲を担当。好物はゆで卵とサンドイッチ。苦手なものはピーマンと犬。家は千歌の隣。

 うん。この情報しかないな。

「私たち二人きりってあまりないですよね」

「そうだな。なにを話していいかわからないや」

「ふふっ、私も何を話そうか考えていました」

「そうだなー、ここはやっぱりお互いの好きなものを紹介していくとか」

「好きなものって言いますけどこの前話しましたから」

「うん。そうだね。どうするか」

「そうですね、こういうときは千歌ちゃんと曜ちゃんが話しを広げてくれるので」

「あの二人がいると話しのネタに困らないですむんだよね。そうだ最近なんか面白かった話しはない?」

「急にそんなこと言われても、そうですねー、千歌ちゃんが授業中寝ていて私は起こそうとしたのにぜんぜん起きてくれなくって、曜ちゃんに助けを求めたら曜ちゃんも寝ていて」

「ははっ、千歌は寝ている姿は想像がつくけど曜が寝ているのは想像がつかないな」

「千歌ちゃんは寝ていることが多いけど、曜ちゃんも寝ていることが多いですよ」

「そうなんだ。ああ、曜は水泳部と掛け持ちだから?」

「そうですかね。曜ちゃんはスクールアイドルと水泳部を掛け持ちしてさらに衣装を制作して、曜ちゃんは本当に大変だと思うな」

「そうだね、けどまさか曜が制服好きだったと知ったときは驚いたな」

「うん。制服の話しになると曜ちゃんは目が変わるんです」

「だけど制服はスクールアイドルにとっては大切なものだからな」

「誠さんも制服好きなんですか?」

「制服好きって聞かれると、千歌にこの前みせてもらった梨子の音ノ木制服はよかったな」

 

「な……!?」

 

「そう考えると俺は制服好きなのか?ってなんでそんなに顔を赤くしているのですか梨子さん」

「忘れて……」

「え、いやそんなに気にすることでは」

「忘れなさい!」

「待て待て、椅子持たないで危ない危ない!」

「忘れますか」

「忘れる忘れる!」

「わかりました。千歌ちゃんにあとで写真消してもらわなきゃ」

 おおー、梨子さん怖い。そう言えば千歌が、『梨子ちゃんって怒らせると怖いんだよ。ホラー映画に出れんじゃないかって思うほどだったよ』なんて言っていたな。

「そうだ千歌ちゃんに早く歌詞をはやくもらわなきゃ」

「そっか、千歌が歌詞を考えているんだよね」

「歌詞はいいものなのにはやく出してほしいんです」

「それを聞いたら千歌もやる気になるのでは?」

「いやですよ。そんな事言ったら舞い上がって逆にやりませんよ。それに恥ずかしいです」

「そうだな。千歌にはこの事は二人の秘密だ」

「いいですね。二人の秘密」

 梨子は笑顔に言ってきた。

「そうだ、皆まだ来ないので少し付き合ってくれますか?」

「いいですよ。どこまでも」

 

 

 

 

 梨子に連れられやって来たのは音楽室だった。

 暗い音楽室は少し怖いが、明かりが灯れば優しい部屋だ。

「音楽を聴いて感想を聞かせてください」

 梨子はなれた手つきで準備する。

 ポーン

 と音を鳴らして調整。

 俺は近くの席に座り演奏を聞いた。

 優しく鍵盤を弾く。

 二人だけの空間に流れる曲。

 暗い心を暖かくしてくれる。

 曲が終わり、俺は目を開ける。

「今途中まで曲ができていて」

「名前は何ていうの」

「まだ決めてなくって、だけど千歌ちゃんと曜ちゃんと海に潜ったときに聞こえて」

「そっか、それなら海に還るものは」

「え、海に還るもの……ですか」

「うん。海で聞こえた、そのお礼にこの曲を送る」

「海に贈る感謝の気持ち」

「いやならいいんだ」

「いいえ、その題名気に入りました。海に還るもの」

「よかった。この曲に歌詞もほしいな」

「それは千歌ちゃんに言わないと」

「そっか。あ、晴れた」

「そうですね。きれい」

 雨はいつのまにかやんでいた。

 雲の間から差し込む光はステージで当たるスポットライトのようにキラキラと梨子を輝かせていた。

 

 




お待たせしました。やっと書き上げることができたましたが3月ももう後半です。
春になったと言ってもまだ寒いですね。体に気をつけてくださいって言いながら体調を崩してしまい、治ったところです。
今回は梨子ちゃんとの二人きりの物語。
梨子ちゃんが作曲した海に還るものはこの後違う形になってまた現れます。
物語では夏になろうとしているのに、現実では春になり新しい物語が始まろうとしてます。皆さんも新しい春を楽しんでください
ではまた、あいましょう

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