灰と幻想のグリムガル Extra   作:キリュウ

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大変ながらくお待たせいたしました!

皆さんの感想やメッセージはとても励みになっており、
それについて語ると長くなってしまいますので、
ここでは省略させていただきます。

楽しんで読んでもらえてば幸いです、それでは本編をどうぞ。


第十七話 : 人生そうは甘くない

ハルヒロに続いてユメと私がついて行き、ランタ、メリイさん、モグゾー、ノゾムがあとに続いてついていった。ハルヒロは腰を落とし、膝を柔らかくして、足音を立てない忍び歩き(スニーキング)を駆使する。盗賊じゃない私とユメには真似ができないけど、ハルヒロが踏んだ場所をできるだけなぞって進んでいく。それだけでも結構、足音など違うものになる。

私達は少しの衝撃で壊れそうな壁を崩壊させないように慎重に歩み進め、瓦礫の山の一角に身を寄せた。私の睡魔の幻影(スリーピーシャドー)の射程は約12メートル。ここからなら届く距離だ。鍛冶場には敵から身を隠せる壁が今隠れている場所を含んで2面しかない。あとは崩落していた。相手もまだ気がついていないので、今なら狙いたい放題だった。

ハルヒロの合図で、ユメと私が瓦礫から顔を出す。今のリーダーはハルヒロで、作戦の指揮もノゾムに代わってとっている。ユメは弓を構えて矢をつがい、目をつぶって深呼吸した。そして瞼を開けて、速目を発動し、私も杖でエレメント文字を描きながら、呪文を唱え始める。

 

「・・・オーム・レル・エクト・クロム・ダーシュ」

 

杖の先から、黒い靄のような影のエレメントが飛び出す。ゆっくりではあったが着実に敵に近づいていく。

 

影鳴り(シャドービート)ほど速くないけど、あたって!)

 

影のエレメントは弩ゴブの顔面に襲いかかり、鼻や耳、口から入り込んだ。弩ゴブが魔法にかかり、フラつき始め、壁にもたれて座っていた槍ゴブが、それに気がついて跳び起きた。それを持っていたユメが矢を放ち、槍ゴブの肩に矢が突き刺さる。立ち上がりかけていた槍ゴブは痛みから尻餅をついた。

 

「モグゾー、ランタ!」

 

ハルヒロが叫ぶ。

 

「ふぅぅぅうもおぉぉぉぉ・・・!」

「おぉぉぉらああぁぁぁぁ・・・!」

 

モグゾーとランタが大声を出しながら鍛冶場のゴブに突撃した。弩ゴブは私の魔法がまだ効いて地べたに倒れこんだままだ。けど、睡魔の幻影(スリーピーシャドー)はただの睡眠より深い眠りにつかせるだけで、思いっきりつねったり蹴飛ばしたりすれば目が覚めてしまうので早めに片をつけて欲しい。

私の横にいたユメも、ハルヒロと一緒にランタとモグゾーを追いかけていった。突撃していったモグゾーはいつもの「どぅもーっ!」と叫びながら相手をふっ飛ばす、どうも斬こと憤怒の一撃(レイジブロー)を斧ゴブに見舞って怯ませ、その隙にランタが剣ゴブに憤慨突(アンガー)を叩き込んだ・・・外したけど。

モグゾーは体勢を崩した斧ゴブには追撃せず、そばにいるバックラーゴブに斬りかかった。しかし、バックラーゴブもしっかりとバスターソードをバックラーで受け止める。モグゾーは防がれたのを確認すると、すかさず手斧ゴブに向き直り斬撃をくりだした。

 

(がんばってモグゾー!)

 

後衛組のハルヒロやユメたちは基本誰かと2人組で敵と戦い、単身で敵と対峙することはない。ノゾムがメインで前衛で戦っていない今、前衛はモグゾーとランタの2人。敵は弩ゴブが寝ているので実質、私たちはゴブリン4匹を相手にすることになる。ランタとモグゾーが1匹ずつだと残りの2匹をハルヒロ、ユメ、メリイそして私で相手にしなくちゃならない。4人で2匹なんだから2人で1匹ずつ当たれば大丈夫だ、なんて短絡的思考すぎる。もちろん、相性とかもあるだろうけど、魔法使いの私や、本来は遠距離からの攻撃がメインのユメ、敵の背後から忍び寄り攻撃するハルヒロ、皆の怪我を治すため誰よりも自分の安全を気にしなくてはならないメリイさん。

この4人で敵2匹が余裕?

そんなわけない。敵だって本気なんだ。だから私たちも全力で作戦を考えて、全力で倒す努力をする。敵が2匹じゃ心配ならどうするか?。答えは簡単だ。2匹が不安なら1匹にしてしまえばいい。

 

 

モグゾーは敵が自分から注意を外さないようにうまいこと攻撃していた。2匹をモグゾーが相手してくれているおかげで私たち4人は1匹を集中的に狙えるし、3人で攻撃して1人はモグゾーとランタのカバーに行ってもいい。実際、ハルヒロはモグゾーのカバーに向かって行った。

モグゾーが手斧ゴブとバックラーゴブを、ランタが剣ゴブを相手にしてくれているので、私たちが今倒すべき相手は槍ゴブだ。メリイさんとユメに目を向けてみた。二人とも真剣な目つきで槍ゴブを見ている。

槍ゴブは私たち3人が攻めてこないのをどう感じたのかいきなり突っ込んで来たりはせず、ゆっくりと一歩一歩近づいてくる。恐らく傍にいるノゾムを意識しているせいだろう。もし相手が剣ゴブとかならユメが前にいって私が後ろから魔法で攻撃してメリイさんが回復という最高の形ができるんだけど、ユメの剣鉈ではリーチが不利だ。恐らくユメなら避けてカウンターを決められるだろうけど、もしもということがある。全員で遠距離から攻撃してもいいけれど、そんなことをしていたら寝ている弩ゴブも起きてきてしまう。作戦では私たちは剣ゴブを相手にして、槍ゴブはランタが相手にしているはずだったのだが、今は逆になってしまっている。今更ランタに代われなどと言えるわけもないので、私たちでどうにかしないといけない。

 

(え、えっと、こういう場合はメリイさんの意見を聞くべきかな?でも自分で考えろとか言われるかも...多分、ノゾムだったら)

 

私がノゾムだったらどうするだろう?と思ったその時、

 

「メリイが少し遠くから槍ゴブからわかるように近づいて、その瞬間ユメが槍ゴブの後方に威嚇射撃、当てなくていい。それで恐らく後ろには逃げないだろう。そこでシホルが影鳴り(シャドウビート)で敵を拘束。近くにいるメリイがとどめをさせる。できるか?」

 

後ろで待機していたノゾムが声を掛けてくれた。その声を聞くだけで安心感が心を満たしてくれる。メリイさんとユメはノゾムの作戦に短く「わかった」「うん」と頷き行動に移った。私はノゾムの頼もしさに流石だなと思ったのと、やっぱりノゾムの手助けは借りてしまった、という思いが交錯して素直に喜べなかった。

そしてノゾムの作戦通りメリイさんが槍ゴブに近づくそぶりを見せると、槍ゴブは先ほどまで何の行動もしてこなかった敵が行動し始めたのに驚き、一歩後ずさったがユメの矢が背後に突き刺さったのを見て、それ以上後ろに下がろうとはしなかった。そしてユメの矢が飛んできた方向を睨んでいた槍ゴブに私が魔法を使う。

 

「━━━オーム・レル・エクト・ヴェル・ダーシュ!」

 

私の杖の先から影のエレメントが放たれて、槍ゴブの近くまで飛んでいき槍ゴブがそれに気づいたときには槍ゴブの胸にぶち当たっていた。超振動によって全身を拘束されてしまった槍ゴブは手に持っていた槍を落とし無防備な状態となった。そこで近くで待機していたメリイさんが神官スキルの強打(スマッシュ)を決めて槍ゴブはノックアウト。一応念のためにユメに剣鉈で首元を掻っ切っておいた。

私たちが槍ゴブを倒し終えた時、ちょうどハルヒロたちも他のゴブを倒し終えたところらしく、全員で最後に残っている未だ私の魔法で寝ている弩ゴブの所に集まった。

 

「随分良くなってる。まぁ及第点をあげよう」

 

ノゾムが皆の顔を見渡し、笑って言った。ランタが寝ている弩ゴブの前まで歩み寄って、ロングソードを振りかぶった。本人は似あっていると思っているのか、芝居がかった残忍な笑みを浮かべている。

 

「っけ!当たり前だっつの!━━━まぁ何だ、これからは少しはオレ様を頼れよな」

 

ランタの言葉にノゾム意外の全員が頷いた。ノゾムは一瞬、驚いた表情をしていたが、少しづつ柔らかい表情となり、短く「おう」と答えた。

 

「よし、一先ず前哨戦は俺たちの勝利だ!」

 

ランタは振りかぶった剣を弩ゴブに振り下ろし、私たちの前哨戦が幕を閉じた。

 

 

 

 

 

俺たちは今日も変わらずシェリーの酒場に来ていた。前哨戦もきちんと勝利し、着実に歩みを進めているというのにも関わらず、俺たちの卓は暗い雰囲気だった。

 

「・・・まぁ想定外の出来事ってのは常々起きるもんだ。」

 

俺はジョッキに入ったビールを一口飲んだ。

 

「それで?どうする?怖いならやめとくか?」

 

少し挑発するような言い方をし、ハルヒロたちの顔を見る。ハルヒロたちが暗い顔をしていた理由。それは目標としていたホブゴブに関することだった。

 

「2匹に増えてるってのは、ちょっと、驚いたかも・・・」

 

シホルがいつもより小さい声で声を出す。今日の帰り道、前々からホブゴブがいつも顔を出す場所に赴いた。そこではいつも数匹のゴブとホブゴブが待機していたのだが、なぜか今日はホブゴブが2匹もいたのだ。ホブゴブは主にリーダー格のゴブリンの奴隷として扱われていて、大抵リーダー格のゴブに1匹のホブゴブという組み合わせだったのに、今日はゴブリンが2匹とホブゴブが2匹という珍しい組合せだったのだ。メリイでさえ少し驚いた表情をしていたほどだからかなり珍しいのだろう。俺はどうするんだ?という視線をハルヒロに向けた。

 

「━━正直、驚いた。流石に2匹もホブゴブがいると敵からの圧力がより強くなるしね。まぁホブゴブが2匹も一緒に行動してるのは結構珍しいこと、なんだよね?」

 

そこでハルヒロは確認を取るようにメリイに目線を移すと、メリイは軽く頷いた。

 

「うん、だから本当は敵がホブゴブ1匹になるところを見計らって戦うのが一番だと思うんだ。・・・だけど」

 

そこでハルヒロは一旦止めた。続きを言ってもいいのか、不安なようだ。だから俺は続きを言ってくれと、促した。

 

「・・・だけど、俺は戦おうと思う。危険なことはわかってるけど、今の俺たちなら勝てる。そう思うんだ。」

 

ハルヒロの下した決断は戦う。つまり戦士クラスのモグゾーはもちろん、暗黒騎士のランタもホブゴブリンを一人で相手にして戦うことになるというわけだ。ランタの体格ではホブゴブとでは力比べでは負けてしまう。だからランタが一番、戦闘では苦労を強いられることになる。そのことはランタ自信もわかっているはずだ。

 

「あったりまえだろうが!何だ?ビビってんのかよ、おまえら。どうしようもねぇな。このランタ様の家来のくせによ!」

 

どうやらランタも戦うことに賛成なようだ。先ほどまで暗い顔をしていたのにも関わらず、今は打って変わって元気な顔を見せていた。

 

「いつおまえの・・・まぁいいや」

「よくねぇよ。途中でやめんなよ。ツッコめよ!張り合いがねぇだろ。」

「けどランタわかってのかよ。本当に戦うとなったらランタもホブゴブ相手にしなくちゃならないんだぞ」

 

ハルヒロが不安げに尋ねた。しかし、ランタは当たりまえだろ?と強気な姿勢を変わらず見せる。

 

「ねぇ、作戦の指揮は誰がするの?」

 

メリイがいつも通り淡白な声を響かせる。ハルヒロはえっと~、と顔をこちらに向けてきた。

 

「作戦は俺が考えるし指揮も俺が取る。それでいいか?」

「ちょっと待て!お前が作戦考えたりお前が指揮とったらお前抜きでホブゴブ倒しても意味ねぇだろうが!」

 

ランタの言葉にメリイ以外は、確かにそうかも、というような表情を見せ、メリイはどうするの?と皆の表情を窺っていた。

 

「それじゃあ作戦考えるのと、指揮は誰が取るんだ?」

 

俺が尋ねるとランタはなぜか胸を張った。

 

「はっはっは!ここは満を持してオレさm「「「「「却下」」」」」おいこらてめぇら!何かってに却下してんだ!ってかモグゾー最近言うようになってきたな!?」

 

ランタの提案は速攻で却下された。

 

「じゃ、じゃあ誰がやるんだよ!ハルヒロか?モグゾーか?ん?ん?」

 

ランタは自分に決まらなかったことが悔しかったのか、矢継ぎ早に皆に尋ねる。

 

「わ、私はノゾムが作戦と指揮でも、いいと思う」

「おいおい!だからそれじゃノゾムの手を借りずに倒したことにならねぇだろ?」

「でもな~ノゾムの作戦があってこそのユメたちやろ?」

「ぼ、僕もノゾム君の作戦と指揮がいいと思う」

 

ユメやモグゾーの言葉にランタはどうも納得できないようだった。

 

「確かにランタの言うこともわからなくもない。目標は俺抜きでのホブゴブ討伐だ。だからそこに俺が関わるべきでないってのはよくわかる。けど俺も仲間なんだ。今回は戦闘には直接携われないんだ、これくらいの干渉は許してくれよ。それとも俺は仲間外れか?」

「━━ったく、仕方ねぇな。それだけからな!戦闘は俺たちだけできっちりこなしてやるからな!よく見とけ!」

「あぁしっかり目に焼き付けとくよ。」

 

ランタはジョッキを笑顔で飲みほしていた。酒場に入ってきた時は暗い雰囲気だった皆も少しづつ明るい雰囲気を取り戻していった。そして俺たちは一通りの作戦を練り上げ、確認しあったあと酒場で解散となった。

 

 

 

 

 

「貴方はまだ帰らないのね」

「あぁといってもそんなに長居はしないが」

 

シホルたちが宿に戻っていった中、俺とメリイだけは酒場にまだ残っていた。ジョッキの中身が一度空になったのにも関わらず、俺たちはお互いもう一杯注文していた。

 

「━━━それで、何か訊きたいことでもあるんじゃないの?」

 

メリイが俺の目を見て尋ねる。俺もしっかりと目を見かえした。

 

「いや、正直大した話じゃないんだ。ただ、ちょっとな、メリイに確認しときたかっただけなんだ」

「確認?」

 

メリイは首を傾げた。

 

「━━メリイは前に進む勇気、ちゃんとあるか?」

「勇気?」

「━━サイリン鉱山」

「ッつ!」

 

俺の言葉にメリイは体を一瞬震わせた。恐らくその震えには、どうして知っているのかという驚きもあっただろう。思い出したくない記憶、聴きたくない言葉を耳にしたのだから当然の反応だ。メリイはジョッキを両手で持つと自分の太もも上にうつし、そのまま俯いた。

 

「俺たちは恐らく次にダムローに行くのが最後になるんじゃないかと思う」

「ど、どうしてそう思うの?」

 

メリイの声は少し震えていた。

 

「今日見ただろ?ホブゴブが2匹。俺も少し驚いたよ、2匹が一緒にいることがじゃない。2匹を連れて歩けるだけの権力持ったゴブがいるってことに。そんな権力持った奴が新市街から蹴落とされて旧市街に来たのか、それとも旧市街の安定のためにわざわざ来たのか、それはわからないけど、少なくとも新市街でそれなりに権力持った奴も旧市街に脚を運ぶことがあるってことだ」

 

メリイは黙って俺の話に耳を傾けていた。先ほどまでは動揺した表情だったが今は少し真剣な表情に戻っている。

 

「ということは、俺たちがあのホブゴブ2匹を倒したなれば、新市街の奴らが何事だと攻めてくる可能性が高い。そうなった時、俺たちの取れる選択肢は新市街の奴ら戦うか、もしくは狩場を変えるのどちらかになる。そして狩場を変えるとなった時、次の狩場は・・・」

「━━サイリン鉱山」

 

メリイは一口、ジョッキを飲みほし、震える手でゆっくりと卓の上にジョッキを置いた。普段はクールな態度をとるメリイも、この話題には感情をコントロールできないでいる。仲間が亡くなったことを思い出すのだから無理もない。

 

「そう。だから訊いた。前に進む勇気はあるのかって」

「━━━ごめんなさい、今はまだ」

 

そう言ってメリイは腰を上げ、足早に酒場を出て行った。俺はそれを黙って見送った。メリイのジョッキを見るとまだ少しビールが残っていたので、俺は残しても何だと思ったので俺のジョッキにうつし、中身を全部を飲みほした。

 

「━━━はぁ~。ちょっと大変だな、俺たち」

 

メリイと俺の分の酒代を支払い、俺は宿へと戻って行った。

 

 





よろしければ、温かい感想を頂けると嬉しく思います!w

あぁ、次話で恐らくラノベ1巻分が終わります!
章の区切りはしない方向だと思いますのでご容赦ください!
(実は章の区切り方とかがよくわかってないもので(汗))
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