灰と幻想のグリムガル Extra   作:キリュウ

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遅くなりましたが、2章始まります。

お気に入り500件越え、ありがとうございます。


Level2 : 勝てる勝てないじゃない
第二十話 : 敵襲


正式に義勇兵になって数日。

俺たちはダムロー旧市街ではなく、グリムガルに来て最初の頃に狩場にしていた森でゴブリン狩りに明け暮れていた。自分たちの力も経験も詰んだこともあって、比較的簡単にゴブリンを狩れる。もうあの頃とは違うんだ。

そして今日も戦利品を片手に買取商に向かいそれを売り払った。ダムローの時ほど一匹一匹のゴブリンが持っている袋は価値が少ない、けどそれなりに倒せばある程度の額にはなる。それを7人で均等になるように山分け。均等にならない時はノゾムが預かりということになっている。分配も終わって、さぁこれからどうしようかと皆で話をしている最中だった。

 

━━カンカンカンカンカンッ!

 

オルタナの市場にけたたましい鐘の音が鳴り響いた。

 

「な、何だ何だ何だ!?」

 

ランタが慌ててあたりを見回しだす。

 

「ん~何やろなぁ?」

「非常事態...っぽい?」

「な、なんだろ、ね?」

 

ユメは微妙だけどシホル、モグゾーもランタ同様に不安の色が見えた。まぁ俺もだけど。

何が起きているのかわからないけど、今の状況で比較的落ち着いているメリイとノゾムに視線を移した。

 

「まさか...」

「これって確か...」

 

二人は何かを思い出したかのように両目を少しすぼめると、同じことを口にした。

 

「「敵襲?」」

「...え?」

 

俺は二人が口にした言葉に首をひねった。言葉の意味は解ってる、けど耳慣れない言葉だっため反応が遅れた。けど、それをすぐに理解させるようとするかのように、遠くから喚声が聞こえてくる。どこだろうか、距離は結構離れてるようだけど。ランタが鼻の穴を広げて何か色々叫んでいる。しかも結構テンションが高めだ。

 

「メリイ、敵って?」と俺が隣にいたメリイに訊くと、口早に「おそらく、オーク」とだけ答えた。

 

オーク(・・・)?初めて聞く敵だ。

 

「逃げろ!」と誰かはわからないが叫んだ。

 

「オークだ!」

「オークだぞ!」

「オークがきた!」

「侵入された...!」

 

何が起きたのか、それをノゾムやメリイは感づいたようだけど、それを説明してもらう時間は無くなった。先ほどまで市場を思い思いに行き交っていた人々が激流と化して押し寄せてきたからだ。それはあっという間だった。俺たちは人並みにのまれてしまった。もう押されるままに流れていくしか身動きがとれない。

 

「ちょっ━━━━」

 

ランタはそれに抗おうとするが無駄な抵抗だ。

 

「何だよこれ!?」

「ぼ、帽子、が...っ!」

 

シホルの帽子が脱げた。

俺は咄嗟に手を伸ばす、けどそれは空を切る形となった。ノゾムが俺より早く反応していたからだ。

 

「っと!気を付けろ。流れに逆らおうとせず、進んでいけ」

 

ノゾムは手にした帽子を片手に持ったまま、あいているもう片方の手でシホルの腕を掴んで進んでいった。

 

「あ、うちの剣鉈!」

 

今度はユメの腰に携えていた剣鉈が押されて落ちてしまったみたいだ。

俺がそれに手を伸ばそうとしたらまた空を切ることとなった。ランタが拾ったからだった。

 

「っへ!オレ様に感謝しやがれ!この人ごみの中でも華麗に拾「バカランタ!止まってる暇があったらちゃっちゃと進む!」う、っておいこら引っ張んじゃねぇ!」

 

ランタはユメに引っ張られるように流れて行く。

...ちょっとだけいいなぁ~とか思ったりしなくもなかった。

 

「っきゃ!」

 

メリイが誰に押されたのか体勢を崩した。誰だ今、メリイを押した奴!怪我でもさせてみろ。戦争だ!血祭りにあげてやる!

とりあえずメリイを助けないと、この人ごみの中でこけてしまったら軽い怪我じゃすまない。けど、そう簡単にメリイに近づけない。だけど、諦めず少しずつメリイのいる方へ進んだ。

 

「だ、大丈夫メリイ!?」

 

俺がメリイの所にたどり着いたとき、目に入った光景はメリイが人ごみに呑まれないように大きな体で盾代わりになって守っているモグゾーと、モグゾーから差し出された手を掴んで立ち上がっていたメリイだった。

 

「あ、ハル。ごめんね心配かけて」

「...あ、うん。無事ならそれでいいんだ。...うん。よかった」

 

別に、何も思ってないから?俺だけ見せ場ないとか?全然思ってないし?

モグゾーのおかげで一時的に人の激流から逃れていたけど、すぐにまた呑まれてしまった。とりあえず、安全な場所、皆で落ち着いて話ができる場所まで移動しなくちゃいけない。だけど、そうは簡単にいかないのが現実だ。さっきまで近くにいたメリイやモグゾーとも少し離れてしまった。仕方ないので、何もせず流れに任せて落ち着くところまで行くのに身を任せることにした。もうどうでもいいや~とか思ったりしてないから。

 

敵襲、ってメリイとノゾムが言っていた。敵?オークって...?

とりあえず、オークってやつにオルタナが攻められてるってことなんだよな?それで、皆逃げている、と?けど、逃げるってどこにだよ。ここ、街だし。オルタナは高くて厚い壁に囲まれてて、要塞都市なんだからここが一番安全なんだろ?だよね?あれ?違うのかな?けどブリちゃんが最初説明してくれたとき安全だって言ってた気がする。まぁその安全なはずの場所が敵に襲われている。それって、結構ヤバイ?

 

「いる、敵が!」

「あっちはだめだ!」

「逃げろ、逆方向に!」

 

途端に人の波が逆流し始めた。でも、いきなりは無理だって。前のほうにいる人は方向転換しようとしてるけど、後方の人はそれに気づかず進もうとしてる。タイミング悪いことに今俺はちょうどその中間地点に位置していた。

 

「く、苦しいって!押すなよ!」

 

このままでは圧死する。冗談ではない。そんな死に方、嫌すぎる。

俺は人ごみを押しのけ、その先に壊れていない暗い色の幕が下ろされた店があったので、咄嗟に中に入りこんだ。

 

「な、何この店?」

 

入りこんだ店の陳列台や棚には生き物の死骸?剥製?みたいなものが並べられていた。...不気味だ。

 

「こっちへおいで」

 

突然聞こえてきた声に俺は「ひっ」と跳びあがってしまった。奥の方に黒っぽい服を着たしわくちゃの老婆が手招きをしている。どうしよう、怪しすぎる。進むか迷っていると、老婆に「早くおし!」と叱られたので、おずおずと歩み寄ってみた。

 

「...えぇと、ここは、お婆さんの店なんですか?」

「お婆さんなんて失礼なガキだね。レディーと呼びな」

「レ、レディー?」

 

俺が言いなおすと、老婆はにやりと笑った。

 

「ゴー」

「...や、意味が違う、よね」

「切れがないツッコミだね」

「そもそもボケが微妙だったせいだろ何なんだこのババア、って思ったけど口にするのはやめとこう」

「おい、口にしてんぞガキ」

 

いけないいけない。ちょっとイライラしていたせいか口に出してしまってたみたいだ。

老婆は、やれやれ、と肩をすくめた。

 

「あたしは、バーバ」

「知ってる」

「違うよ、名前がバーバなんだよ」

「知ってる」

「嘘つきな!あんたとは初対面だよ!」

「ばぁさんツッコミの切れいいね」

「年寄りに突っ込ませるんじゃないよ!ったく━━━あらためて、あたしはバーバ。まじない師さ。この店でまじさいグッズを売ってるよ。お前さんは義勇兵かい」

「そう、だけど」

 

俺は外の方に目をやった。どうなってるのか気になるけど、この店は幕で覆われてるせいで、どうなってるか見えない。でもまだ騒がしいから、オークって奴らは暴れまわってるんだろう。

 

「オークかい。まぁたま~にあることさ。ん?知らないってことはお前さん、新兵(ルーキー)かい?」

「まぁ、義勇兵歴はそんな長くはないっすけど」

「その感じだと、童○だね?」

「どっ...!?」

「バカだね。女とやったことがあるかどうかって話をしてるわけじゃないさ。義勇兵はオークを殺して初めて一人前。その経験が無い奴は童○扱いされるのさ。何だ、お前さん、ダブルかい?」

「...もうシングルでもダブルでもトリプルでも、何でもいいっす」

「覇気がない!」

 

バーバが俺に人差し指を突き付けた。

 

「めんどくさいんだって~て言えたら楽なのに」

「だから言ってるわ!このガキ!」

 

バーバは唾を飛ばそうとして何か言いつのろうとしてきたが、そうはならなかった。バッ━━━と幕がめくられたからだ。

誰か入ってきた。誰か━━━いや、何か?

人じゃない。肌が緑色な何か。身体は大きくて、背丈よりも肩幅が凄い。鼻は潰れていて、耳は小さく尖り、口が大きく、猪みたいな牙があった。髪の毛は真っ赤だ。鎧を着ていて、重そうな片刃の剣を右手に持っている。

 

「━━━オークだ」とバーバが呻くように言って、そばにあった棒みたいな物を手にとった。

 

「み、店の中に入ってくるとは!ぎ、義勇兵、やっつけな!童○卒業するチャンスだよ!」

「え、お、おれ!?」

 

俺はダガーを手にしようと腰に手を持っていこうとしたが、手につかない。

 

「む、無理だって、一人じゃ!お、俺、盗賊だし!」

 

というか、ノゾムはシホルを助けて、ランタはユメを、モグゾーはメリイをそれぞれ助けていて、俺はというと......。

目の前のオークを見ながら後ろに隠れているバーバを見る。......嫌だ。何か凄い嫌だ。

 

「あたしなんかババアだよ!ほれ、気張りな、盗賊!」

 

焦ってる俺を無視してバーバは俺の背中を、どんっ、と押した。ババアの癖に力が強い。俺は転びそうになりながらオークに近づく羽目になった。オークはよくわからない謎言語で怒鳴りながら剣で突いてくる。

 

「いや、ちょっと色々待って」

 

必死にオークの攻撃を避ける。けど大きくない店の中だから上手く避けることはできず、陳列台に倒れこんでしまった。バーバが「こら~、なんてことしてくれてるんだい!」と叱りつけてくるけど、正直勘弁してほしい。オークが変わらず俺を狙ってくるから陳列台の上を転がって逃げた。

だめだ。これは死ねる。マジで殺される。これ前衛クラスじゃないとどうにもできなくない!?

近づくのは恐怖もあって、手当たり次第に近くにある物をオークに投げまくった。けどオークはぶつけられてもお構いなしだ。あ、やばいわ。そう思った時にはすでに屋台の外に出ていた。

 

「....あれ?追って...こない?」

 

さっきまでの勢いはどうしたのか出てくる気配がない。と思ったら店の中からバーバの声が聞こえてきた。

 

「こ、こら義勇兵!あんた、この哀れなババアを見捨てる気かい!人でなしが!」

「そうは言うけどさ...」

 

遠くに一匹のオークが見えた。敵襲だっていうんだから敵は恐らく複数。.....いや、無理でしょ。これは俺には無理だって。誰かがドッカーンってオークを倒してくれるまで、どこかに隠れてるのが正解だろう。バーバなんて知ったことじゃないし?見知らぬ他人だし?助ける義理が無いって言うか、助けられる可能性の方が少ない気がするし。

 

「....ってのはわかってるんだけどな。━━━っくそ!」

 

俺は勢いよくバーバの店の幕をまくり上げた。

なんでだよ。逃げるんじゃなかったのか。あぁ逃げたい。けどノゾムだったら間違いなくかっこよく倒しに行くだろうなぁ、とか思ったりもしちゃってるわけで。まぁそんなこと俺が助ける理由にはならないのはわかってるんだけど。けど、けどさ。ここで見捨てたらもう人として最低じゃん。怖いけど、やるしかない。だって俺、義勇兵になったんだから!

店に入るとオークの剣をバーバが杖で受け止めていた。顔真っ赤だ。━━━ぎりぎりだけど、婆さんやるじゃん。って関心してる場合じゃなかった。すぐにダガーを抜いて、オークの背中に突撃する。

 

背面打突(バックスタブ)!」

 

ガッッと刃先が滑った。当たったところに鎧を着こんでいたようだ。オークがこっちに振り向く。

 

「ガシュハッ!」

 

何かよくわからない言語を叫んでくる。意味があるんだろうか?けどそんなこと考えてる余裕はない。

 

「義勇兵!」

 

バーバが目を輝かせていた。

 

「恋に落ちそうだよ!」

 

恋に落ちそうだ?何言ってんだよ、婆さん。マジで辞めてくれ。っつか、んなことはさ、

 

「知ってるっつ~の!」

 

近くにあった小瓶を掴んでオークの頭にぶつけた。

 

「こ、こっちこい!いや、その来なくてもいいんだけど...えっと、来ます?」

 

来た。普通にお怒りモードで追ってきた。オークは「ハッシュハッシュハッシュ!」とか言いながら追ってくる。何なの?ハッシュ?お前、♂だよな?....え?もしかしてそっち系なの?━━━いや違うか。違うな。

軽装備の自分と重装備とまではいかないけど、それなりに重たそうな装備を身にしているオークとだったら逃げ勝てると思ったのに。速い。全力疾走してるのに、全然引き離せない。内心、弱音を吐きながらも、小道に入ったり屋台と屋台の間を通り抜けたりして、オークを撒こうとした。けど、オークはどこまでも諦めず追ってくる。

もう自分の方が諦めそうになってきた。最初はノゾムたちと合流で来たらどうにかできるかもとか、オリオンの人たちを見つけられたらとか思って走ってたけど、まったく出会わない。

もう...いいよね?おれ、頑張ったよね?もう...ゴールしてもいいよね?━━━誰か、あかんって言って。

けどもう本当に体力も限界に近づいてるんだよね。バカなことやって誤魔化してるけど、ホント限界。正直、そこの曲がり角を曲がった後、走り続けれるは自信ない。

そしてその曲がり角で半ば倒れそうになりながらも曲がり切った時「しゃがめ....!」と低い、ハスキーな声が怒鳴った。

 

咄嗟に言われた通りにすると、頭上を何かが超えていった。

何が?と思ったそれは剣だった。

角の向こうに誰かがいて、そいつが剣を横薙ぎに振るったのだ。

剣はさっきまで俺を追っていたオークに命中していた。

 

「オゴッ!」

「.....え?」

 

誰が助けてくれたのか。一瞬、ノゾムかと思ったけど声が違う。俺はゆっくりと後ろを振り向いた。

そこにいたのは、オリオンのシノハラさんたちでも、ノゾムたちでもなかった。

悠然とした態度で俺に背中を向けていて、ノゾムと同じくらい強いんじゃないかと俺の中で思っている奴。

 

━━━━レンジ

 

俺は、一先ず安堵を覚えた。

 

 

 

 

 

 





読んでくださりありがとうございました。

よろしかったら感想などを頂けると幸いです。
ハッシュネタがわからなかったら調べてください笑
自分はたまたま知りました笑
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