「━━━━って感じだったんだけどさ!」
先ほどからハルヒロが、興奮しっぱなしで話している。語っている内容は、午前中にオルタナを襲撃してきたオークに対するレンジって人の活躍っぷりについてだ。私たちがハルヒロとはぐれてから、ノゾムが探しに行っている間に随分と危険な目にあっていたようだ。
ハルヒロは興奮が少し冷めたのか、軽く咳ばらいをして息を整えた。
「.....とにかく、すごかったんだよ。レンジが強いって知ってたつもりだったけど、もう上方修正されまくりだよ。イシュ・ドラグンってオークもかなり強かったし、一瞬レンジが負けるって未来も想像しちゃったくらいなんだけど、それも実は作戦の内みたいな?敵をだますには味方からって言うか?左手が使えるだなんて誰も考えてなかったと思うよ」
男の子はこういったことに一度熱が入りだすと中々止まらない。ユメも私も話半分に、そうなんだ~、と相槌を打つだけだ。別に話に興味がないわけじゃない。レンジって人は本当に強いんだろう。けど、ノゾムという人を知っている私たちにとって実際にレンジという人の戦いを見てみないことには、そこまで驚きに値するという衝撃を受けない。
「うぉ~っ!」
ランタが天然パーマの頭をくしゃくしゃとかき回す。
「つまりは、自分がピンチに陥ってるのに、来るか来ないかわからないチャンスまで温存してたってことだろ?何だよ、その度胸は。ありえねぇ!クッソ、オレもやりてぇ!」
ランタの言葉にユメは冷めた目をしていた。
「勝手にやって、失敗したらいいのと違う?あ、メリイちゃんもノゾムも助けんでえぇと思うよ」
「そうね、私もバカを助ける気はないわ」
「許せ....ランタ。俺は無力だ....」
ユメの言葉にメリイさんもノゾムも乗ってくる。意外とメリイさんもノリはいいほうだ。
「ちょ、ちょっと待ちやがれ!仲間だろ、おい!メリイが治してくれないのはまぁわかるとしても、ノゾム!てめぇ、裏切りか!!!」
「メ、メリイさんに、治してもらえないのは、わ、わかるんだ」
「うっせぇ!わかりたくてわかってんじゃねぇぞ!」
まぁ流石にもう、メリイさんもランタの怪我を治さず放置する、なんてことは実戦ではしない。治さなくてはならない怪我はちゃんと治してくれる.....はず。
「あ、でも凄かったのってレンジだけじゃなくて、ノゾムもなんだよ!ね?」
ハルヒロがノゾムの方を見た。話してもいいか許可を求めてるような言い方だった。
「いや、俺なんてレンジと比べたら全然だ。誇れることじゃない」
ノゾムは謙遜した言い方だ。けど、ハルヒロはそんなことないよ、とノゾムが何をしたのか話してくれた。
話を聞き終えて、私たちは全員無言になってノゾムの方を見てしまう。別にタイミングを合わせたわけじゃないけど、偶然全員同じタイミングで顔を向けたのだ。
「凄いなノゾム~、オーク相手に一人で勝てたんや」
確かにユメの言う通り、オーク相手に一人で勝てたことは凄い。確かにそこも凄いんだけど、注目すべきところは、そこじゃないよ!
「あなた、その装備で2mはあるオークを飛び越えたの?」
メリイさんが私たちも思っていたことを訊いてくれた。ノゾムの身長は約180cmくらい。そしてオークはだいたいどれも2m前後だ。その相手の上を跳び越えたということは、自分よりも大きな相手の上を跳び越えたということだ。身軽な人だったら、そういうことができる人もいるだろう。だけど、ノゾムの装備は軽装備だが決して軽く身動きが取りやすいものとは言い難い。盗賊クラスのハルヒロや狩人クラスのユメならまだしも、聖騎士クラスのノゾムが自分の身長を超える相手を跳び越えるのは至難の業だろう。
「あぁまぁな。だけど、こんなのできる奴なんていくらでもいるだろう」
いや、いませんよ。おそらく、ノゾム以外の全員が心の中で思っただろう。
「お前、最近ちょっとやばすぎだろ。何だ?人間辞めちまうのか?」
ランタが笑いながらノゾムの肩を抱く。ノゾムは「そんなわけないだろ」と言い返しながら、ビールを飲む。
だけど、最近のノゾムは確かにちょっと凄すぎる。元々凄いのは知っていたし、何度もその強さに助けられてきた。けど、この頃、その強さにさらに磨きがかかってきている気がしている。ランタの人間辞めちまうってのは言い過ぎだけど、そう思えるくらい強くなってきた気がする。
「━━━よし、じゃあちょっと今からは真面目な話だ。ランタもちゃんと席に着いてくれ。いいか?まず、俺たちの狩場についてだ。まぁある程度想定していたことなんだが、ダムローは最近、新市街の方からのゴブリンで溢れかえってるらしい。原因は、言わなくてもわかってるよな?」
一応わかってる。私たちが新市街から落ちてきていた(?)ゴブリンたちを仕留めたから、新市街から偵察もかねてゴブリンが押し寄せてきているのだ。
「ここで問題なのはゴブリンの質と数が上がったということだ。別に数人程度増えたところで、皆も力を付けたし勝てないってことはないだろう。けど、俺たちずっとゴブリンを狩ってくつもりか?それが悪いとは思わないが.....」
「思わないが...何だよ?」
ノゾムはそこで一端止め、メリイさんの方をちらっと見た。
「....いや、すまない。俺は悪いとは思わない。だが、次にレベルアップしていく必要もあると思う。
「生きる、為に....」
ノゾムの言った生きる為、というのは今のあたしたちには強く響いた。マナト君が亡くなって、ノゾムに負担をかけすぎて、ノゾムに頼らなくても勝てるくらい強くなる必要があると思って、そして目標を決めてホブゴブリン達を倒した。そして今の私たちは、少し気が抜けている...と思う。現状を維持すればいい。心の中のどこかでそう思っている自分がいる。
「流石、ノゾムだぜ!良い事言うぜ!オレはもちろん、その案に賛成だぜ!」
「ノゾムの考えには納得やけど、ランタが賛成すると反対したくなるわ」
「ノゾムは次の狩場の候補地は決めてるの?」
ハルヒロがノゾムに尋ねた。
それにノゾムは「あぁ」と首を縦に振る。
「俺が次に選んでる狩場は━━━━
他の義勇兵たちでうるさいシェリーの酒場のこのあたしたちの卓だけが、その店の空間から切り離されたかのように静まり返った。あたしたちが思ったことは、それをメリイさんがいるこの場で口に出していいのか。ということと、なぜ次の候補地をそこにしようかとノゾムが決めたのかということだ。
「.....えっと、ノゾムは何でそこを選んだの?」
「理由は二つだ。一つは俺たちのレベルで次に挑戦できる候補だったからだ」
「じゃあ、二つ目の理由はなんなん?」
「こっちは俺の個人的な理由だから気にしなくていい。どうする、誰か反対意見があるなら遠慮なくいってくれていいぞ」
あたしたちには反対する理由は特にはない。反対する理由がある人とすればメリイさんだけだろう。だけどメリイさんは何も言わず、手にジョッキを持ち黙ったままだった。
「じゃあ、明日からサイリン鉱山に行ってみよう」
「おっしゃ!そうと決まれば明日に備えてオレ様は宿に戻って寝るぜ!ごっそさ~ん!」
「あ、こら!ランタのアホ!自分の代金払ってないやんか!」
ランタはユメに「ケチケチしてんじゃねぇバ~カ!」とか言いながら走って帰っていったけど、これは人として最低だ。まぁランタだから知ってたけど。
「ランタの分は俺が払うから気にしなくていい」
ノゾムはそう言ってポケットから何枚かシルバーを取り出した。
「じゃあ帰るとしますか。忘れ物はするなよ?」
各自それぞれ飲み代を支払って店を出た。店を出たところでメリイさんとは別れる。メリイさんと別れて数分した時にハルヒロが「あの、ちょっと先に帰っててくれる?」と言い出した。
「うん?ハルくん、どうかしたん?」
「えっと~そのトイレ!そうトイレ行きたくて、我慢できそうにないから先に帰っといてくれる?」
そわそわしながら、ハルヒロは答えた。何となく、トイレというのは嘘だろうなとわかった。
「そうか、なら遅くならないようにしろよ?」
「う、うん。じゃあちょっと行ってくるね」
そう言ってハルヒロは来た道を戻って行った。
「ハルくん、そんな我慢してたんやろか?」
「そ、そうかな?ぼ、僕はそう見えは、しなかった、けど」
「まぁ触れてほしくない所は人それぞれあるからユメも放っておいてやれ」
「そやね。でもそれやったらさっきのノゾムもそうちゃうの?メリイちゃんにあの話は結構ぐさって来てたんとちゃうかな?」
「それは、あたしもちょっとだけ思った。だけど、メリイさんがそこまで驚きはしなかったのもちょっと変だなって思ったけど」
「う~ん、一度二人で飲んだ時にメリイにサイリン鉱山での事について話をしたことがあったからな。その時に俺たちがメリイの過去を一部、もしくは全容を知っているということは気づいてるはずだからな」
メリイさんと二人だけど飲みに!?!?!?!?
Oh, Jesus!
「お~い、シホル?大丈夫か?」
「え?あ、う、うん。大丈夫大丈夫ダイジョーブ博士。へへへ......」
「だ、大丈夫じゃ、ない、かな?」
大丈夫だよ。ただちょっと今度メリイさんとはO☆HA☆NA☆SHI!すればいいだけだから。
「メリイにとってはしんどいことかもしれないが、過去にとらわれ続けていたらこれからの戦いで負担になる。それは困るからな」
「じゃあさ、ノゾムがさっき言わなかった個人的な理由って、もしかしてメリイちゃんの為ってこと?」
「いや、そういうわけじゃない。ただ━━━━救ってやりたいだけだ」
......かっこいい━━━━じゃなくて!
ノゾムはメリイさんを助けてあげようというつもりじゃなくて、囚われの魂を救ってあげたいと、そう思っているんだ。なら私たちがそれに反対する理由などこれっぽちも無いんだ。彼らを救うということはメリイさんを救ってあげるのと同じことなんだから。
「うん、救ってあげたい」
「そうやね。私も賛成!」
「ぼ、僕も、頑張り、ます」
「あぁ、頼りにしてるぜ?」
宿屋に着いたあたしたちは、明日に備えて早めに就寝することにした。
俺はノゾムたちにトイレに行くって言って、シェリーの酒場に戻ってきた。別に本当にトイレを我慢してたわけじゃない。ただ、俺たちがメリイと別れたあと、メリイがもう一度シェリーの酒場に入って行く所が目に入り、気になって戻ってきたのだ。
「━━━あ、いた」
酒場に入ると、カウンター席の端の方に一人で座っているメリイを見つけたので、そばに近寄った。
「メリイ。ここ、座ってもいいかな?」
俺が声をかけ、メリイは少し驚いたけど、頷いてくれた。
「少し驚いた....皆と帰ったんじゃないの?」
「それはメリイもでしょ?」
俺はメリイの横に座って、少し笑ってみせる。
「メリイは....それ、何飲んでるの?」
俺はメリイの手元にあるジョッキに目を移した。メリイは恥ずかしかったのか、俯いてコップを手元に引き寄せた。
「...ミードを。あと一杯だけ飲みたかったの」
「ミードって....確か、蜂蜜の酒だっけ。おれもそれ、もらおうかな」
俺はウエイトレスにミードを頼み、代金を払った。後はミードが持ってこられるのを待つだけ━━━なのだが、特に話す内容も決めてなかった俺は何を話せばいいかわからなく、黙り込んでしまった。
「えっと、メリイってお酒....好きなの?」
何を訊いてるんだ俺は。訊かれたメリイも「ま、まぁ嫌いじゃないわね」と苦笑いだ。
しまった、何を話すかくらいはある程度決め手くるべきだった。
「はいどーぞ。ミードで~す」
割と早くウエイトレスがミードを持ってきた。ありがとう!、と心の中でウエイトレスに感謝を送っとく。
持ってこられたミードは、蜂蜜の色をしてはいなかった。何か加えてあるのか、赤みがかかっている。まずは一口だけ飲んでみる。━━━━甘い。うん、あとちょっとほんのりと酸味がある。
「ラズベリーのシロップが加えてあるんだって」とメリイが教えてくれる。
「そうなんだ。そんな感じがするもんね....うん、うまい」
「━━━━ハルは....知ってるの?」
メリイが訊いてることが何なのか、それはすぐにわかった。だから、俺は
「うん、知ってるよ」
包み隠さず、正直に答えた。
悲しむだろうか、怒るだろうか。俺は何を言われても仕方ない立場だ。メリイに嫌われるかも、とかちょっと考えた。けど、メリイは「━━━そっか」と一言、小さな声でつぶやくだけだった。
「黙っててごめん。ただ、俺たちメリイのこともっと知りたくて、その、色々聞いたりしたことがあったんだ」
メリイはコップを手に持ちながら黙って聞いていた。
「━━私って怒ってもいいわよね」
「う、うん。そ、そうだね」
「━━━いいわ。貴方たちのリーダーよりもマシな聞き方だったし」
「ノゾムが?」
「えぇ、いきなり核心ついて物事を話し出してきた。もう少し、オブラートに包めないのかしらね」
それはメリイさんもでないでしょうか。などと言ってしまったら、もう明日から一切口をきいてもらえなくなるだろうことは明白だ。
「ま、まぁノゾムも色々考えてはくれてると思うよ?」
「そうね━━━そうなのかも.....彼、凄いわよね」
「....うん。ノゾムがいなかったら、多分、俺たちメリイに会うだけの実力もまだ無かったと思う」
「私が見てきた人達の中でも、彼は指折りの実力者。おそらくここオルタナでも両手の指に入るくらいの力を持ってると思う。正直、その、ハルたちとは実力がかけ離れすぎてる」
それはもう痛いほどわかっていることだ。俺たちが苦戦するような相手でもノゾムなら一人で倒せてしまうなどということはよくあることで、どんな時でも不動の強さを見せるのがノゾムだ。
「最近、私が治療を施していない人が私たちのパーティに二人いるの。その内の一人がシホルで、もう一人が彼」
シホルは後衛から魔法を使って戦うので、怪我をする可能性自体が元々誰よりも低く、また怪我をした時も大抵ノゾムが治してあげている。別にこれはシホルとメリイの仲が悪いからとかそういうわけじゃない。
そしてメリイが言いたい本命はこっち、ノゾムだ。ノゾムのクラス聖騎士は他者を自身の魔法によって治療をすることは可能だが、自身の怪我を治療することはできない。だからノゾムが怪我をしたとき、治してあげられるのは内のパーティではメリイしかいないのだ。
そしてそのメリイがノゾムの怪我を最近治療していない、ということは、つまりノゾムが最近一度も怪我を負っていないということだ。
これがどれほどのことなのかわからない義勇兵はいないだろう。後衛が怪我を全くしないというのは、まぁないことも無いかもしれない。だが、前衛が全く怪我をしないというのは、よほど格下の相手をしない限り、起こらないし、もしそうでないなら罰金ものの行為をしている可能性の方が高い。
オークどもにでさえ、無傷で勝ってしまうノゾム。
そういえばランタがさっき人間辞めてるんじゃないかとか言ってたけど、それには俺も納得していた。
「...メリイはさ、その、俺たちがどうすべきだと、その、思う?」
「━━━冷たいようだけど、それは自分で考えるしかないと思う」
「そう.....だよね」
まぁそりゃそうだ。戦闘ではノゾムに頼って、精神面ではメリイに頼ってちゃ何にも成長しない。
「あの、一つ気になってることがあるんだけど、シホルとノゾムって付き合ってるの?」
まさかの恋バナ!?とか一瞬思ったけど、どうやらそういう雰囲気ではない。
「えっと、どうなんだろ。多分、そういう関係じゃないんじゃないかな?あ、でも多分ノゾムもシホルに少なからず好意は持ってると思うけど」
「それは普段から見ててわかる。彼、意識してなのか無意識かしらないけど、必ずシホルのいる方へと敵を寄せ付けないし、必ず守れる位置を維持してるわ」
「そこまでは気づかなかったかも。でもメリイが言うからそうなんだろうね」
「彼、シホルを守らなくちゃいけない、そんな義務感を持ってるようにも思えた。だからちょっと気になって」
義務感?
今まで一緒に生活してきたけどそんな風には見えなかったけど。むしろ姫様を守る騎士?のようなイメージを持ってたし。
「まぁそこまで気になったわけじゃないの。ただ、強い光であればあるほど、失ったときの喪失感は....とても、大きいから」
メリイの言葉に俺は無言を返した。
メリイも俺も同じ大切な
また、新たな
「じゃあ、本当に、また明日ね」
メリイはコップの中身を飲み終え先に出て行った。
お互い一緒に出ることはしなかった。今晩、メリイも一人で考えたいこともあったのだろう。少し悪いことしたかなと思った。けど、無意味なな時間ではなかった、そう思えるから良しとする。
とりあえずは明日。メリイの過去が眠ってる場所、サイリン鉱山に俺たちは一歩踏み出していく。
「生きる為に、か.......」
俺は色々今日話したことを考えながら、宿屋に戻った。
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