緋弾のアリア 嘘つきな武偵   作:羽吹

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第二話 手に入れたものは、小さくて。

 

 私とは誰でしょう? 分かるかな?

 

 答えは私だ。茜、和菜です。

 俺じゃないのかって? そう、俺だよ。

 

 うん、順を追って説明しよう。

 まず、俺はCVRに入った。無理矢理に。

 

 そこでの始めの講義で言われた。

 結城先生の個人授業で言われた。

 

 まず、自分の中の男性感を無くせと。

 男らしさを捨てろと言うことだ。

 

 なので、俺という一人称を捨てることになった。

 消してはいけない。

 切り替えられるようになる必要があるのだ。

 

 その訓練の一貫である。

 

 ◇◇☆◇◇

 

 少しの時間が経った。

 私はCVRを専攻しているが、CVR以外の講義も受けている。

 

 まずは諜報科。潜入は基本である。

 次に、尋問科。思考誘導も基本だ。

 最後に強襲科。戦闘も必須である。

 

 こうしてみるとCVRは相当に複雑な学科なのだ。

 

 なので、私には休みなんて無い。

 他にも理由はあるが、それよりも。

 

「疲れました。そう思いませんか、遠山くん」

「思わねーよ。何で朝からブルーなんだよ」

 

 隣の席から聞こえた。

 

「分かりませんか? 昨日は激しかったのです」

「いや、分からねえよ。何が激しかったんだよ」

 

 そんなことを聞くの?

 戦慄する。この人変態だ。

 

「女の子にそんなことを聞くなんて……!

 遠山くん、以外に積極的なんですね……」

 

 男だけど。

 

「お前から振ったんだろ!

 何で俺が悪いみたいになってんだ!?」

「貴方が悪いんです! 他の人に浮気なんてするから! 私は遊びだったのねっ!」

 

 何言ってんだお前!? と叫び出した遠山くん。

 本当にからかいがいがある人だった。

 

 まだ早い時間で、他に人が居なくて良かったね。

 居たらとんでもないことになってたよ。残念。

 

 ーーー

 

 CVRの教室。特殊な学科であることもあって、

 個人授業が多い学科でもあるのだ。

 

「銃が必要ね」

 

 先生が言った。当たり前のことだった。

 私は銃を持っていない。お金がないからだ。

 

「いくらCVRでも、銃は必須よ。

 暗殺任務は無いけど、相手を昏倒させる必要のある任務はたくさんあるわよ」

 

 とのことだ。まあそうだろう。

 

「でも、ちょうど良いんじゃない?

 CVRで使う銃は、デリンジャーよ。

 他の銃に比べたらまだ安価な方ね」

 

 こっち(武偵高校)からカタログは出しておくから。

 とっとと買いなさい。

 

 その言葉に従って、購入する。

 お金は一旦武偵高校に借金をした形だ。

 借金は嫌いだ。早く返したいな。

 

 そして、届いた。小さな銃。

 私の小さな手にすっぽり収まるような。

 小さな、武器。私の、武器だった。

 

 ◇◇◇☆◇◇◇

 

 講義を受けない。

 替わりにクエストを受ける。

 

 クエストとは何か。それは依頼で、任務だ。

 一般の人からの依頼、警察等からの依頼もある。

 

 そして、達成をすれば結果(謝礼金)が出る。

 当然、私の目的はそれだ。

 

 必要なんだ。お金が。借金を返すために。

 返さないと理子に払っている食費すら払えない。

 

 私は餓死したくない。だから稼ぐ。

 

 たいしたクエストは受けられない。

 何故なら、私のランクはEだからだ。

 

 なので、今日の依頼は簡単。

 

 まずは飼い猫の捜索。

 次は、子供の面倒見。

 最後にとあるパーティーの捜査。

 

 最後だけちょっと気になる。

 よし、それじゃあ、やろうか。

 

 飼い猫の捜索。大変だった。

 心当たりを探し回り、見つからない。

 キャットフードを囮に。味がなかった。

 最後に猫真似。猫の真似。

 物欲しそうに、にゃ~と鳴いてみた。

 何故か向こうからやって来た。見つかった。

 

 ……何で?

 

 次は子供の面倒見。というかお守り。

 クソガキさん達だった。

 どうしてスカートを捲るんだ。私は男だ。

 女の子もそう。泥団子は食べられません。

 そして、私は貴女の旦那様をかっさらっていく悪女ではありません。

 最近の子はませてるなぁ……。

 

 最後にとあるパーティーの捜査。

 今とある会社で開かれているパーティーに闇金が絡んでるかも、と言うことだ。

 

 これEランクの仕事じゃないよね。

 報酬が良いのでやるけど。頑張るぞー。

 

 パーティーの給仕さんに扮する。

 当日のアルバイトの人に変装してみる。

 そのアルバイトさんは睡眠がお仕事です。

 

 給仕さんの姿で探ってみた。簡単に見つかった。

 やっぱりこれEランクの仕事なのかな。

 闇金の帳簿と偽装した帳簿。

 更に脱税までしていた。うわぁ、ブラックぅ。

 

 指紋をつけないようにして、持ち出す。

 堂々と外に出て、着替えて、コンビニでコピー。

 もう一回着替えて、戻って、資料を返却。

 時間までアルバイトをして、依頼人に報告。

 

 CVRと言うよりは諜報科だった。

 まあ、Eランクだしね。こんなものかな。

 

 ちょろいお仕事でした。

 

 ーーー

 

 女子寮に帰る男性。女装した人物。

 明らかに危険人物だ。……ってこれは前回にやったじゃないか。

 

 疲れて帰ってくると、暗くなる頃だった。

 理子がまだ来ないってことは、食事はまだ出来てないと言うことだ。よし、課題をしよう。

 

 支給された化粧道具を取り出す。

 鏡の前に座って、人に化ける。自分を化かす。

 

 ゴシックな自分に。パンクな自分に。清楚な自分に。真面目な自分に。ポップな自分に。カジュアルな自分に。トラッドな自分に。エスニックな自分。

 

 表情を変えて、声色を変えて、雰囲気を変える。

 私は貴方の物だよ。そういう顔を作る。

 

 それがCVRだ。それがハニートラップだ。

 その為の技術として、化粧は存在する。

 見かけだけではない、自分の根幹から変える。

 

 化けるのは自分自身なのだ。

 

 鏡の前でうふふ、と笑っていると、扉が開いた。

 理子だった。いや、だから鍵。鍵は?

 

「えっと、その。ご、ごゆっくり?」

 

 思いっきり引かれた。待つんだ、理子。

 説明を、説明をさせて欲しい!

 だから待って! 引かないでぇえええ!

 

 ◇◇◇◇☆◇◇◇◇

 

 そんな日々が続いたある日。

 カルテットが開催されることになった。

 

 カルテットとは学校行事だ。4対4のチーム戦。

 私のメンバーは理子と女の子二人。

 端から見れば女子4人で組んでいるように見える。

 

 競技は毒の一撃(プワゾン)

 ターゲットの旗を特定の旗で折る競技。

 

 相手も女性のパーティーだった。

 なので、CVRとして戦いましょう。

 はぁ、どんどんCVRに抵抗が無くなっていく……。

 

 相手のチームが事前に分かるってことは、

 事前に手を打っても良いってことだよね?

 

 あんまり気は進まないんだけどなぁ……。

 

 ーーー

 

「おはよう。来てくれたんだ。嬉しいな。

 でも、大丈夫? 明日は実習があるとか聞いたよ?」

「でも、今日で帰っちゃうんでしょ?」

 

 うん、と寂しそうに呟いた。

 この人は相手チームのリーダーだ。

 

 俺は短期で留学してきた一般の高校生。

 放課後に偶然貴女に出会って、一緒に過ごして。

 だけど、俺は帰らないといけないんだ。

 

 明日はプワゾンの本番である。

 だけど今日は休日だ。なのでデートに来たのだ。

 

 そのまま二人で歩いて、軽く食事。

 話のついでに明日のプワゾンの詳細を聞き出す。

 

 へぇー、そんな作戦で俺たちのチームを追い詰めるんだね。参考になるなー。

 

 昼間になって、名残惜しそうに別れる。

 連絡先は誤魔化しておきました。

 

 ーーー

 

「かーたんってエグいよね」

 

 理子がきゃー、とか言いながら私に言った。

 ここは理子の部屋。私たちのパーティーリーダーは理子で、作戦立案も理子だ。

 

「あの子、絶対本気だったよ。

 かーたんが行った後に泣いてたんだよ?」

「うん、ちょっとやり過ぎたかな、とは思ってる」

 

 私は気持ちを弄んだのだろうか。

 でも、それがCVRなんだと思うよ。

 ……ちょっと、やるせないな。

 

「でも、あたしとは気が合うのかな」

 

 私には聞こえないような声で、理子が言った。

 その声は寂しそうで。だけど否定に満ちていて。

 だから、私はその言葉を言及しなかった。

 

「よーし、じゃあじゃあ、秘密の作戦会議だー!」

 

 打って変わったように陽気な態度で、理子が両手を上げた。

 そのジェスチャーにはどんな意味があるんだ?

 たーべちゃーうぞー。

 

 理子の作戦立案能力は高かった。

 私が奪ってきた情報を元に、間違っている可能性まで網羅した配置が完成した。

 

 それを元にして、プワゾンが始まった。

 開始15分もしないうちに終わった。圧勝である。

 

 ◇◇◇◇◇☆◇◇◇◇◇

 

 私のランクがCに上がった。

 

 私の行動が評価されたのだ。

 プワゾンの裏で行われたことを結城先生が掴んだのである。

 

 仮にも武偵高の生徒を、それもBランク(相手のリーダーさん。かなり優秀な人だった)を誑かしたのだ。

 

 その人に真実は絶対に言えないけど、

 先生からの評価は受けることができた。

 

 それも、Dランクをすっ飛ばして上がった。

 クエストの達成状況も加味されたのだ。

 あの闇金の依頼のLDスコアはやっぱり高かったらしい。

 

 

 LDスコア。

 それはクエストの達成難易度を表している。

 LD900もあれば一流中の一流が受ける任務だ。

 闇金クエストはLD600くらいあったらしい。

 一流武偵レベルである。なんでEランクに来たんだよ。

 

「CVRだからでしょうね」

 

 先生が心を読んだように答えた。

 

ここ(CVR)はね、そういった難しい任務を請け負う所でもあるのよ。諜報科が手に負えない任務とかね」

 

 でも、と私の方に向いて。

 

「貴女は、きっとそれが出来てしまう。

 誰かを騙して、自分を騙して。全部偽って。

 その上で結果を叩き出してしまう」

 

 私の目を真っ直ぐに捉えた。

 

「それは、間違いなくある種の天才よ。

 だから、私は貴女をここに推薦した。

 だけど、気を付けてね。その才能は、自分すらも完全に騙してしまっていると言うことだから」

 

 そう、何の違和感もなく、ね。

 

 その言葉は、私の中に染みていって。

 嘘のように、消えていった。

 

 ーーー

 

「祝勝会をしようよ!」

 

 理子のツインテールがピンと張った。

 

「もう予約もしちゃった!」

 

 提案じゃなかった。これじゃ強制じゃないか。

 いかなかったら罰金とか取られそうな勢いだ。

 

「理子、私は苦学生です。知っているでしょう?」

 

 私の分は少な目で、ね。いいでしょ?

 

「もー、かーたんは相変わらず貧乏性だねー。

 大丈夫だぞよ。安めのお店だから!」

 

 良かった。なら大丈夫かな。

 最近はクエストの質が上がって余裕があるのだ。

 

「いらっしゃいませ、お嬢様」

 

 スピーカーから鳴るような声だ。

 駄目だな。CVRに居ると、声の裏側を無意識に読み取っちゃう。職業病だよね、これ。

 

 部屋に案内されて、早速注文。

 ケーキ、タルト、マカロンっ!

 

「それじゃあ、乾杯!」

「「乾杯!」」

 

 うん、このタルト、美味しい。

 

「にしても、流石はCVRだね。

 一瞬で、それも躊躇いもなくメイド喫茶に馴染むなんてね。かーたん、そんなタイプじゃないのに」

 

 あははは、結構良い訓練になるよ。

 でも、メイド喫茶って、高いよね。

 理子の嘘つき。安いとか言ったのに。

 

 ◇◇◇◇◇◇☆◇◇◇◇◇◇

 

 理子たちと喫茶店に行った日の夜。

 

 私は理子と夕食を食べた。

 その後にボードゲームをして遊んだ。

 

 理子がトランプでイカサマを始めたので、

 私もイカサマで返したり。

 

 理子に無理矢理勧められたギャルゲーをやらされたり。

 どうしてキャラの台詞を私がアテレコしなきゃダメなんだ。

 ちゃんと声は付いてるじゃないか。

 

 そんなこんながあって、時間が過ぎた。

 暗くなって、私は部屋に帰る。

 

 私の部屋は理子の部屋の隣である。

 帰って、明日の簡単な予習をする。

 明日も早いし、そろそろ寝ようかな、と思っていると。

 

 ピリリリ、と携帯電話がなった。

 普段は使わない携帯電話だった。

 

 イ・ウーからの指令である。

 最近は無かったんだけどなぁ……

 

 ーーー

 

 イ・ウーからの指令だった。

 

 楽しい日々だったのに。

 満ちていた日々なのに。

 

 それは仮初めで、紛い物だと突きつけるように。

 

 嗤うような着信音が、部屋に響く。

 

「……はい」

 

 自分でも驚くくらい怖い声が出て。

 

 私は変わっていく。私が変わっていく。

 心がどんどん冷たくなっていって。

 替わりに表情には軽薄な笑みが浮かんだ。

 

 こんな所、かーたんが見たらどう思うんだろう?

 

 そんな思考を、一瞬で放棄する。

 今の私は、武偵の理子じゃない。

 そう、私はイ・ウーのメンバー。

 

 こんな所で止まれない。止まってやれない。

 自分の気持ちをボロボロの自尊心で覆って。

 本当の気持ちを悔しさで塗り替えていった。

 

 私は戦うんだ。絶対に逃げない、縋らない。

 私がかつて叫んで届かなかったあの悲鳴を。

 あの痛みを。私だけは、無視できないから。

 

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