静謐な空気が支配している。
私はそこに立っているだけなのに。
圧迫されるような雰囲気がそこにある。
目の前にいる人が、私を視ている。観察されている。
『
「君は、男性、かな? 凄いね。僕でも自信が持てない。こんなことは久しぶりだよ。
良く来たね、茜、和菜君。待っていたよ」
私の肩がビクン、と震えて。
「まずは誤解を解こうか、和菜君。
僕達イ・ウーは昔から君を気にかけていたんだ。
決して、末端の構成員と同じ扱いをしていた訳ではないのだ。それは理解して欲しい」
そう、君には才能がある。
「嘘の、才能だ。君はこの分野において天才だ。
そう今も、僕を相手に、緊張しているように、
それが当然だと、自分を騙しているね?」
出会ってから、緊張までにラグがあったよ?
「さて、それじゃあ、本題に入ろうか」
◇◇☆◇◇
ピリリリ、と静寂を音が犯して。
バン、と叩きつけるような音で止まる。
懲りずにピリリリ、と音が鳴って。
憎むように、ダン、と叩きつけられた。
まるで終わりなんて無いように。
ピリリリ、と耳障りな音が止まない。
私は立ち上がって、音の元凶に対峙した。
目覚まし時計だった。スイッチを切って。
おはよう。今日は良い天気だ。
目覚まし時計に起こされて、顔を洗う。
携帯を見る。昨日の夜に鳴った携帯とは違う方。
メッセージが来ていた。理子からだ。
ちょっと用事が出来たので、今日の食事は外食して欲しいな。ごみーんね。と書いてあった。
都合が良いな。私も今日は用事ができたんだ。
出掛ける用意をしないと。イ・ウーが待ってる。
ーーー
私の服は女物の服だ。
私の場合絶対に男であることがバレると不味い。
CVRに所属しているからである。
男なのに、ハニートラップ学んでるの……?
そう言われた瞬間に心が折れる。たぶん。
と言うよりも卒業してからもCVRなのだろうか。
先生は現役で活躍している男性のCVRは居るって言ってたけどさ……。
今日は清楚に纏める。ワンピースとか。
ストールなんかでワンポイント。
特注のウィッグ(支給品)をナチュラルにセットして、髪の毛をちょっと巻いてみる。
うん、流石は私。変装スキルがぶっ飛んでる。
これなら知り合いが見ても私だと分からないだろう。
これから会うのはイ・ウーの人だからね。
念の入れすぎということにはならないだろう。
まだ早い時間だけど、寮を出て歩く。
今日は本当に良い天気だ。
日傘をさして、待ち合わせの公園に行く。
イ・ウーから召集が掛かったのは昨日だ。
詳細は会ってからだ、とのことだったので、
私は用件を知らないが、この呼び出しは不審だ。
いくらなんでも、この時世に口頭での伝達など普通はあり得ない。今までもこんなことはなかった。
なので、護身用にデリンジャーを装備している。
確か、日本での大きな作戦があるとは聞いていないが。
さて、どんな用事かな。
ガサッ、と周りの草むらから人が飛び出してくる
私は反応しない、デリンジャーも抜かない。
私は最初から気付いていた。周りに人がいることを。
多分、何処かに連れていかれるんだと思う。
3、4人のに取り囲まれて、耳許で囁かれる。
『本部にお連れします』と言われて、連行。
目隠しは? と聞くと、必要ありません、と帰ってきた。
良い返事でなければ、帰ってこれないということである。
これ、端から見たら、誘拐だよね。
◇◇◇☆◇◇◇
「それじゃあ、君には期待をしているよ」
若々しい声には、老成した落ち着きが混ざっていた。
私はここに連れてこられて、教授と話をしたのだ。
内容は主に二つ。
一つは、仕事の要請だった。
東京武偵高校に通っている君に適役なんだ、
と、私の現状を理解した上での仕事だった。
もう一つは、私の昇格だ。
教授曰く、私は昔から評価されていたらしい。
そして、イ・ウーの正式なメンバーとして認められたのだ。
別に嬉しくはない。
私はイ・ウーに対して崇拝も憧憬もしていない。
武偵としては失格なのかもしれないが、
潰れようとも存続しようとも、どちらでも良い。
最後に付け加えて、簡単な仕事もあった。
今、日本でイ・ウーのメンバーが動いているらしい。
そして、その応援に行きなさい、とのことだ。
ーーー
イ・ウーの作戦概要は、こうだ。
イ・ウーに勧誘したい人がいる。
けど、その人が鬼強い。めちゃくちゃ強い。
イ・ウーの正規メンバーでも勝てないぐらいに。
なので、半年以上かけて勧誘する。
その為に、データを収集する必要がある。
だから、その人の近くで事件を起こす。
解決する手際を観察するのである。
現場は大阪。たこ焼きが食べたい。
屋台に並ぶより前に、仕事をしないと。
集合場所に入る。カラオケの個室だった。
中には銀髪さんと黒髪さんがいた。
「貴女は……?」
「教授が話していた、新人か?」
突然入ってきた私の背後から剣を突きつけて、
横の人は左手の手袋を外していた。
私は服の中からお二人にデリンジャーを向けて。
「ええ、茜和菜です。争い事は得意ではありません」
「なら、服の中からデリンジャーで狙うのは止めてくれる?」
やっぱりバレてた。
「正当防衛ですよ、これくらい許してください」
デリンジャーのセーフティを入れて。
「お分かりでしょうが、私の得意分野は潜入や解析になります。……あとハニートラップ」
最後は小声で。
「成る程、私はジャンヌ・ダルクだ」
「私は夾竹桃。毒使いよ」
聖女さんと、植物さん。
おーけー、覚えた。
「もう一人いるの。今、ちょっと出てるんだけど」
あら、帰ってきたわね。と植物さんが言って。
「たっだいまー、理子りんが帰ってきたよー!
…………って、あれ? 新人さん?」
個室に入ってきた人を見て、驚く。
……え? 理子? なんで理子? イ・ウーに? え?
「り、こ……? 何で、ここに?」
普段の私の声。
今の私は変装しているから、姿だけでは私だとは気付けないだろう。教授は例外として。
声もちょっと変えていたのだけど、戻す。
その変化に聖女さんや植物さんも驚いていたけど
理子の目があらんかぎりに開かれて。
「かー、たん? え? かーたん? 何でここに?」
ーーー
「何でここにかーたんがいるの?
かーたんってイ・ウーのメンバーだったの?
あたしはそんなの聞いたことがなかったなー」
ねぇ、どういうこと? と理子が凄んだ。
理子の一人称があたしになってる。
理子が興奮したときの合図だね。
それよりも、私の経歴か。
私はまず、まともな家庭で育たなかった。
こすい犯罪者だった両親のツテで、私はイ・ウーの末端に加わったのだ。
それが、5歳の時。それから何年か経って。
私の作った兵器で人が死んだ。
私の目の前で建物が焼失した。
恨み言を吐かれて、力の入らない腕で首を絞められた。
か細い子供の首を泣きながら絞めていた人は、
私の、母親だっただろうか。
私の、父親だっただろうか。
もう、覚えていない。
それからも変わらない。
7、8歳の子供が生きていくためには。
どうしようもない現実があっただけだった。
とある薬の実験台になったり。
子供として、何処かに潜入したり。
そんなことをして、生きてきた。
けど、俺は。こんな現実が、本当は。
「かーたん! どうしたの? ぼーっとして」
それよりも質問に答えてよ、と理子がむくれて。
聖女さんや植物さんも聞いていた。
……ちょっと、考え込んでいたみたいだ。
「大したことではありません。
私には身寄りがないので、イ・ウーのお世話になっていた、というだけです」
つまらない、という顔になった植物さんを無視して。
「そして、家柄の関係でイ・ウーに入学は出来なかったのですが、何故か今日からは正式に編入することになりました」
宜しくお願いしますね、と言って。
自己紹介は終わり。
そんなことより、作戦について話し合おう。
そして早く終わらせて、たこ焼きを食べよう。
でも、ガッツリいくならお好み焼きという手も……
◇◇◇◇☆◇◇◇◇
結局、カラオケでたこ焼きを頼んだ。
屋台で食べたかったのにっ。むー。
ターゲットは、毛利小五郎。
ではなく、遠山金一。
データによると、女装趣味の変態野郎らしい。
どこかで聞いたことがあるような、無いような。
…………気のせいだよねっ!
まさか女装趣味なんて、そんな、ねぇ。
…………はぁ。
彼が大阪に来るのは12時。
そして、今は11時である。そろそろ動かないと。
データを取る以上、一つの事件ではダメだ。
多様な事件でないといけない。
よし、ダイ・ハード3方式で行こう。
まずは女装趣味の変態野郎が乗っている電車だ。
到着する駅に爆弾を仕掛けましたー。
貴方達が着いたら爆発させますー。
嫌だったら代表者を一人選んでねー。
代表者の女装が好きそうな人は、
駅に着いたら爆弾を探してみてー。
続きはそこで指示するねー。
よし、これで行こう。
提案してみると、皆乗ってくれた。
ノリが良い子は大好きです。
ーーー
仕事の帰りだった。大仕事の帰りではない。
その後始末だった。
はぁ、と悩ましげな溜め息が漏れる。
足を組んで、スカートが少し揺れた。
最近、凶悪な犯罪が増えている。
イ・ウーの台頭が原因だろう。
今までは静観していたが、そろそろ動くべきかしらね。
なんて、そんなことを考えていると。
『あてんしょんぷりーず。あてんしょんぷりーず。
このでんしゃは、おおさかいき、で、ありやがります。
そこで、わたくしは、とうちゃくえきに、
ばくだんを、しかけてみた、で、ありやがります。』
「えっ、事件……!」
こんなときに! しかも到着駅!
駄目だ。今からじゃ避難すら間に合わない!
『とうちゃくとどうじに、ばくはつ、で、ありやがります。
きゅうていしゃをしても、どかん、で、ありやがります。
いやなら、ひとり、だいひょうを、えらべ、で、ありやがります。』
代表? 愉快犯……?
いや、私がいるのはきっと偶然じゃない。
じゃあ、私への私怨? 何てことを……!
『だいひょうしゃは、えきについたら、
ばくだんをかいたいしろ、で、ありやがります。
だいひょうしゃは、ひとり。
とちゅうへんこうも、みとめない、で、ありやがります。』
くっ、駅の人たちを。恐らく町の人たちも。
人質に取られた……!
従うしかない。誰がこんなことを!
いや、それは後! 情報が少なすぎる……!
「私は武偵です。代表者は私がなります!」
とりあえずは電車の機関部に行って、
放送でそう伝える。
停車をするべきか、と泣いている運転手には、
通常の運転を指示する。
今は犯人を刺激しない。従う振りをするの。
到着駅に連絡。この電車以外の急停車、避難の指示ね。
そして、新事実が判明した。
「代表者以外が爆弾の解体等をしたら遠隔爆破ですって?」
監視カメラか、最悪衛星を乗っ取られてる!
くっ、犯人の思うがままじゃない……!
電車が到着した時の避難経路等を放送している間に駅に到着する。
ーーー
大○駅には人がたくさん居た。
どうして、避難していないの!
……犯人からの要請ね。無差別な!
警察と、近くに居た武偵と合流しようとして。
『あてんしょんぷりーず。あてんしょんぷりーず。
わたくしは、だいひょうしゃは、ひとり。
と、そう、おっしゃったの、で、ありやがります。』
『みんな、いっしょ、は、めいれいいはん、で、ありやがります。
いはん、したので、あと、十分、で、どかん。
これでも、みんなで、やる。なら、
すぐにばくはつさせる、で、ありやがります。』
こんなアナウンスが流れた。
もう、限界だ。
「私への私怨でしょう!
他の人を巻き込むのは止めなさい!」
無音だ。返事はなかった。
そうだ。後、8分しかない。爆弾を探さないと。
手伝おうとする警察と武偵を退けて。
走って探しながら爆弾の場所を推理する。
相手は愉快犯か私怨だ。
こんなゲームじみたことをするのなら、
ちゃんと私が勝つ道も用意してあるはず。
そうじゃなかったら、お手上げね。
始めに考え付くのは、線路。
駅に仕掛けて電車を爆破するのならそれが最適。
でもこれは違うわね。分かりやす過ぎる。
加えて、電車が止まれば探せない。
そもそも、電車とは直接の関係はないと見る。
もうここまで来ると候補だらけじゃない!
走って探す。それが一番確実だ。
そして、これはきっと偶然だ。
見つけた。
エスカレーターの裏側。目立たないところに。
飛び付く。鞄だ。チャックを開けると。
複雑なコードが飛び出る爆弾。そしてスピーカー
『おめでとう。おめでとう。
そんな、きみに、ぷれぜんと、だ、よ。
うでどけい、が、あるから、つけて、ね。
つけないと、どかん、で、ありやがります。』
っ、急いでるのに!
小型スピーカーと、恐らくは毒が仕込んであるだろう腕時計をつける。
くらっ、ときた。やっぱり毒だ。
それよりも、今は爆弾!
神業。
ヒステリアモードじゃないと出来なかった。
残り一分で止まった爆弾を確認して、一息を着いた。
◇◇◇◇◇☆◇◇◇◇◇
『つぎは、ひとりでの、にんむ、で、ありやがります。
その、どく、と、おなじもの、を。
な○ば、えき、で、かくさん、で、ありやがります。』
『ひなんとか、ゆるさない、で、ありやがります。
けいさつ、とか、には、ほうこくしていい、で、ありやがります。』
つまり、警察や武偵に言っても良いけど。
お前一人で解決して、一般の人には知らせるな。
と言うことね。従わないとパンデミック。
これは何てバイオハザード?
そう皮肉を言えるほどには、落ち着いた。
要請通りに、警察と武偵に話して、
私一人で行く旨を伝える。
当然、止められたけど、犯人に従うしかない。
それは皆分かっているので強くは止められない。
この騒ぎだ。電車は一時停車状態である。
どうやってな○ば駅まで行く?
考えていると、パトカーを貸し出してくれた。
本当は駄目だけど、言ってられないか。
サイレンを鳴らして、走る。目的地まで。
少し難産でした。教授の所が。
読みにくいのがその証拠ですね。
ダイ・ハードは筆がのったのに。
設定上、イ・ウーには名簿にすら乗らない現地スタッフが各国に何人かいます。
[簡単な説明]
主人公が軽く屑ですね。
倫理観が吹っ飛んでいるのが原因だったり。
実はあの爆弾、残り一秒で止まるように出来てます。
加えて、遠隔で停止もできます。
始めから爆発させる気はありませんでした。
・茜和菜。
わかなじゃいよ。わかめでもない。
キャラが安定しないのがキャラ付け。
敬語も、ため口も、全部偽物です。
因みに理子にはため口。
キー君にはお嬢様調。
初対面の人。
つまり聖女さんと植物さんには敬語。
二話の喫茶店の時はカットされてますが、
プワゾンの時の二人も居たのです。なので敬語。
変装が超人レベル。
ヒステリアモードでも騙せます。
また、戦闘技術は悪くないです。
理子には勝てないけど。
もうちょっと進めばこの子の目的は分かるよ!