後1,2話使えばヨハネとかを出せるかな?
「斎藤先生、こちらでお待ち下さい」
「わかりました」
とある朝のこと。俺は広い体育館のステージ脇で手に汗を握りながら、自分の番が訪れるのをジッと待っていた。
『それでは、新任の先生をご紹介したいと思います。斎藤神綺先生です』
...きた。
進行を務める教頭のアナウンスを合図に、俺はガチガチになりながらステージの中央にある演台の前まで行くと、正面を向いて綺麗に整列をしてこちらを見る生徒たちに一礼した。
くっ やはり一度に大人数の視線が集まるのは辛い。...だが伊達に副生徒会長として壇上に上がっていたわけではない。
「...皆さん、おはようございます。そしてはじめまして。この度、年度途中ではありますが新しく数学科として赴任しました斎藤です。こちらにはまだ越してきたばかりでして不慣れな所、わからないことなどたくさんありますが、皆さんと過ごして慣れていきたいと思っております。よろしくお願いします」
当たり障りのない無難な挨拶。所々小声で黄色い声で聞こえるが、それよりも拍手の方が大きいから聞こえなかったことにした。
集会を終わらせ、教員室へと向かっている途中に後ろから声を掛けられた。
「お疲れ様、無難に済ませたね」
「変に長引かせても生徒が可哀想じゃないですか。それに私の為だけに臨時で開かれたとなれば尚更ですよ」
「あら、普通逆でしょ?自分の為に開いてくれたんなら目一杯使わなきゃ」
「胸張ってできるほど俺のメンタルは鋼じゃないですよ....」
砕けた口調で労いの言葉をかけてくれたのは同じ数学科の金田先生だ。実は彼女、玉木先生が定年した後から全学年の数学をたった一人で担当していたらしく、俺が赴任すると挨拶に行った時は比喩ではなく本当に泣いて喜ばれた。
因みに俺と5歳しか違わなく、若いからという理由で一人で地獄の毎日を送らされていたらしく、同情の念が湧いてきてしまうのもしょうがないと思う。
「いやはや、これで私の生活が安定するよ。感謝感謝♪」
「いくら生徒数が少ないからってお一人で全学年は辛すぎますよね。よく辞めませんでしたね?」
「あったりまえでしょ?それで辞めたら数学教える人がいなくなるもの。...でもよかったわぁ。数ヶ月苦労したおかげで君みたいな二枚目君が来るとはね!」
「褒めても何も出ませんよ?」
「あらあら、そんなこと言っていられるのも今のうちよ?ここは女子校なんだから、生徒に誘惑されて鼻の下伸ばしちゃうかもね」
「生憎、私は元女子校の共学化第1期生でして...そういう対処には慣れてますよ」
「あら、そうなの」
つまんない。と興味を無くした様に拗ねたような顔をすると、金田先生は早歩きで先に行ってしまった。
「人をおもちゃ扱いするなっての...」
彼女は生徒思いのいい教師なのは、何回か話をして薄々感じていた。だが、俺を新しいおもちゃと認識しているらしく、ワザと誘惑なんてしてくるもんだから質が悪い。そんなに俺の反応は面白いのだろうか....
「はぁ.....」
「君も大変だな?」
「っ 学長...」
ため息をついて完全に気を抜いている時にイキナリ言われたもんだから思わず変な声を出してしまった。
「はははっ すまんすまん。驚かす気はなかったんだ」
学長は笑いながら軽く肩を叩いてくる。
「勘弁して下さいよ...」
俺が世間を知らなすぎたというのもあるが、基本的にこっちの人はそこまで上下を気にしていない気がする。どちらかと言うと、上司と部下よりも自分を子供のように接している節が見受けられる。
学長もそれに漏れず、見た目はそれなりに威厳があるのだが、面談の時に向かい合って開口一番が『酒は飲めるかい?』だ。
普通面接っていうのは担当を任命されて、その人が面接官としてあたるはずがトップである学長が来たものだから俺は尚更ガチガチになって何言われるかと思えば、飲みの誘い。
俺は最初緊張を解す為の配慮かとも思ったが、それは違うというのが後日他の教員の方の証言で明らかになった。
....因みに俺は酒を飲まない。それと煙草も吸わん。
「悪いな。....にしても本当に良かったのか?こんな所に就職して」
「今更どうしたんですか?私からしてみれば藁にも縋る思いだったんですよ?こんな中途半端な時期にタイミング良く募集をしてくださっていたこと、感謝しているんですから」
「何を言うんだか。君ほどの学歴ならば他の子よりも有利に採って貰えるだろうに」
学長の仰っていることは本当だと思う。
俺は音ノ木坂学院を卒業後、都内の某難関W大学へと進み、免許を取った。
これだけでもそこそこレベルの大学卒業者よりは、選択の幅が確実に広がっている。
でも何が何でもここに入りたい理由があったんだ。
「私はここが良かったんですよ。ここが駄目なら、教師の道は捨てていました」
「...そんなにこの学校に思い入れがあるのかね?」
「申し訳ありませんが、私はまだこちらに越してきて1ヶ月も経っておりません。思い入れと言えるものはなにも....ですが、偶々知りあった生徒さんの話を聞いていて思いました。ここは、私がいた高校と似た雰囲気があると」
「高校?」
「はい。私の学校ではよく同級生達が口を揃えて言っていました。特段なにか魅力があるわけではないけれど、それが魅力だ...と。浦の星女学院を貶めるつもりは全くありませんが、ナニカに縛られること無く、伸び伸びと過ごせる。そんな学校が好きなんです」
「魅力がないのが魅力....か」
「勿論、学校の体制とかの話ではありません。打倒超難関校や、部活の好成績によって、こうでなくてはならない....という強迫観念が無いのが私は好きということです」
「それは経験からかい?」
「...そうですね。周りを蹴落としてでも我先に、と貪欲に結果を追い求める世界を見てきたので...そこから離れたかったという一種の逃げですね」
「...そうか」
「申し訳ありません。変な話をしてしまって」
「いや、いいんだ。いい話が聞けた...何分この学校に若い子が君と金田先生ぐらいしかいないからな...若い意見というのも必要だ」
「...そう言って頂けると助かります」
「君は私達にとって大事なキーマンだ。やはり若い先生がいるだけでも生徒達のやる気は変わる」
「そんな単純じゃありませんよ。...ですが、期待に応えられるよう全力で職務に当たらせて頂きます」
「よろしく頼むぞ。...本当に悪かったね。次からイキナリ授業だったと思うが、模擬授業を思い出してくれれば問題はないだろう」
「....ありがとうございます」
正直な所。急な学長の登場に焦って、途中から何を言っているのか自分でもわからなくなったがなんとかなった様だ。
そういえば俺の初仕事となるクラスはどこだったか。
学長が校長室へと入るのを見届けた後、デスクへと戻った俺は時間割が挟まっている自分の手帳をパラパラと捲って確認する。
「......」
そこにメモをしてあったのは、1年生数Ⅰの文字。....1年生と2年生は1クラスしかないから必然的に――――――。
「しょっぱなから千歌ちゃんか....」
先が思いやられるな。
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授業開始のチャイムが校舎中に鳴り響き、鳴り終わりと同時に1年生の教室の扉を開ける。
すると案の定と言うべきか、未だに席に座っていない生徒が多数いた。
「チャイムも鳴り終わっているんだから座れ!」
そう言うと殆どの生徒が俺の方を向き、驚いた表情を見せる。
集会でも数学とは言ったものの、代数、幾何の区分は説明していなかったからな。致し方無いだろう。
「ほら、呆けてないで座れ。いつまで経っても授業を始められないんだが?」
やはり生徒数が少ないだけあって、机と机の間隔が広いから生徒一人一人の顔がよく見える。...まぁ千歌は目をキラキラさせててなぜかイラつくがな。
「...よし、号令――――――」
号令をかけて着席させ、俺はもう一度生徒を端から見渡す。
俺に興味津々な者、ヒソヒソと隣の席の子と話している者、一人一人動きが違うから見ててそれはそれで面白い。
「朝礼でも自己紹介はしたが、一応もう一度しておこうと思う。...俺は斎藤神綺。数学全般を担当できるからわからない問題があれば、なんでも聞いてくれ。....何か質問は?」
「はいはいはいっ!はい!」
最初からわかっていたが、やはり質問タイムとなると皆こぞって手を上げ始める。
その中でも一際声が大きい千歌と目があったが、何か嫌な予感がした俺は素早く視線を逸らして一番手前にいた生徒を指した。
「....はい、君。名前も一緒に言ってくれると嬉しい。少しでも早く覚えたいからね」
「あ、はい。私は渡辺曜って言います!ええっと...さっき朝礼で引っ越してきたと言ってましたよね?」
「あぁ」
「どちらからいらしたんですか?」
「東京からだ。祖父の都合で少し前に内浦に来たばかりでね」
そう俺が言うと、おぉ!と生徒達は盛り上がり始める。やはりこっちにとって東京の様な都心にいた人間は物珍しいのだろう。
「えっと...じゃぁ大学はどこでしたか!」
「質問は一人一つのつもりだったんだが....まぁいいか。一応W大学だ」
「えぇ!?あの!?」
「...あまり自慢したいことでもないから切り上げるぞ。他には?」
「はい!はーい!」
「...それじゃそこの君」
最初は多かった手を上げる者も、殆どが渡辺と同じことを思っていたらしく、次を聞いた時には千歌しか上げていなかった。
...くそぅ。もう一人当てて時間切れで切り抜けようと思ったんだがなぁ。
「えっと!高海千歌です!って斎藤さん知ってるでしょ!」
あぁ。やってしまったよ...流石千歌だと褒めてやりたいぐらいだ。
こんな所で日頃から親しくしていますみたいな雰囲気丸出しで言われてしまったらもう終わりだ。
...大丈夫だろうと思って釘を差さなかったのが失敗だった。
「高海、公私は分けような。俺は教師でお前は生徒だ。それを忘れるな?」
「うっ...ごめんなさい」
「...それで?何が気になるんだ?」
「えっと、彼女いますか!」
「っ」
ギロッ そう効果音をつけても可笑しくないぐらいの気迫を持って生徒の大半が俺を睨んでくる。
な、なんだって言うんだ....
「い、いないと言えばいない」
...これに関しては本当のことを言っていいのかという問題が出るし、何より俺の場合は少し特殊だ。
恋人未満、友達以上とでも言えばいいのだろうか。そんな微妙な距離感だから一概には言えない。
すると黄色い声と共に、ちらほらと千歌と知り合ったキッカケを聞きたいと言う声が出始めた。
だが今は授業中。今日は俺が初めての授業だから少し時間を割いただけにすぎない。
それに休み時間に何かいう分には構わないが、授業中に自分語りをする程馬鹿ではない。
「はいはい、質問はそこまでだ。後は諦めな」
『えー!』
「これでも授業中なんだぞ?お遊びはここまでだ。...さぁ教科書を開けー まさか忘れたなんて抜かす奴はいないよな?」
試しに教師らしく、牽制を始めてみる。
なんせ教師はナメられたらそれで終わりだ。軽く威圧して怒らせるなという雰囲気を作っておく。
「....よし、流石にいないな。それじゃ遅くなったが授業開始だ。37ページを開いてくれ―――――」
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「今回はここまでだ。これから代数は俺が担当になるから、宿題とか忘れたらそれなりのペナルティがあることを頭に入れておけよ?...号令!」
なんとか自分の考えていたノルマは終わり、授業を気持ちよくできた俺は上機嫌で階段を降りて教員室へと向かっていた。
すると、またも後ろから自分を呼び止める声が上がった。
今日はよく止められるな、と心の中で呟きながら振り向くと...小走りをしながら長いポニーテールを揺らしている果南がいた。
「廊下は走るもんじゃないだろー」
「あっ ごめんなさい...つい」
「...で?どうした?」
「特にこれといった用事はないんだけど...背中を見かけたから」
...田舎の子はある程度親しくなると敬語が抜けるのだろうか?それとも都心がキリキリし過ぎなのだろうか。
「なるほどな。取り敢えず敬語な、敬語。公私はシッカリ分けろよ?」
「...了解です。それでどうでしたか?初授業は」
「まずますと言った所かね。取り敢えず目標としていたノルマは終わったから後は次の授業で宿題の出来具合を見てどれだけ定着しているかだな」
「お、本当に先生みたいですね」
「みたいじゃなくて先生だから」
「くすくすっ 頑張ってください。その内私のクラスにも来るんですよね?」
「そうだな。主に代数の方を担当していくはずだから...シッカリ授業受けろよ?」
「わかってますよ。チカじゃないんですから...」
「流石に今日は寝てなかったな」
「まだ2時間目終わっただけですから....寝るのはお昼食べた後ですよ」
「ほぅ...いいことを聞いた」
「...あまりチカをイジメないであげてくださいね?」
「前に高海には甘いとか言ったのは何処の誰やら...さ、もう次の準備しないといけないから俺は行くぞ?」
「あ、わかりました。お仕事頑張ってください!」
「あいよ」
やはり果南は接しやすい。千歌程元気が有り余っているわけでもなく、かといって無愛想というわけではない。
果南みたいのが姉だったら毎日が楽しいんだろうな。
...素潜りの件、結構本気で考えるのも悪くないかもしれん。
閲覧有り難うございます。
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