SHOW BY ROCK!! 〜白猫と赤いギター〜 作:ノヴァ
「──でね〜? その遠くに住んでるギャル友がさ、『自分達の持ち歌3曲だっていうのに学園祭で2時間半のライブに挑戦した』とか言ってて、マジでウケてさ〜。あんたらどんだけトークしてんのって思わずツッコんじゃったよっ。んで、この間その子とShibu Valleyに行ったんだけどホントに楽しくって! 2人でプリ撮ったり服買ったりスイーツとか食べたりしたんだ〜。でも遊び過ぎて金欠なっちゃってさー、しばらくのバイトがホントきつかったよ、もー。あ、ナリーのバイト先なんだけど、『レボリューション楽器』っていう大手楽器チェーン店でね、ホントにいろんな楽器が売ってるんだよっ! 楽器の調整とか修理とかのサービスもやってるから、よかったら来て欲しいなー。え、宣伝乙? 別に良いじゃん宣伝したって〜。営業1課のバイイエロー先輩にも『宣伝はいつでもどこでも機会を逃さず』って言われてるしぃー。それに──」
ちょっ……マズいマズいマズいマズいマズいマズいマズいマズいっ!!
我々の業界ではご褒美ですし嬉しいですけどっ? それでも16歳童貞にこのご褒美は果てしなくレベルが高すぎる!!
おっぱいに埋もれるとか脳内で想像はしまくってたけど、長年積み重ねたそれらが無限の彼方へ飛んで行ってしまうくらいの衝撃……。想像以上なんてレベルじゃねぇ! まるで意味がわからんぞ!?
と、とととにかく落ちつけ俺っ!! ドキンドキンでダムダムなこの胸を押さえつけなければ、すぐに体内の酸素が枯渇し死に至るという事を理解しろ! そしてナリーに開放してくれるよう身体でアピールするんだ! そうすれば──
「ねぇねぇ、ミオンちゃんの身体ナデナデして良いかな〜? 良いよね!」
──やめてくださいしんでしまいます。
ただでさえおっぱいに抱きしめられてる今この瞬間が天国の皮を被った地獄だってのに、そこへ「美少女からのナデナデ」という地獄の釜茹で刑を持ち込むかこのギャルっ!! 童貞の女の子耐性の低さ舐めてんじゃねぇぞ! どこぞのスペラ○カー先生もビックリなんだからな!
だからその背中を撫で回す手を今すぐしまえぃ! 頼むから! お願いだから! 貴女が可愛いって言ってくれたこの顔に免じてやめたげてよぉ!
「んーっ!! んんっ、んんーっ!!」
「おー、ミオンちゃんは撫でられるのがそんなに好きでちゅか〜? ならもっとナデナデしてあげまちゅからね〜」
そ、う、じゃ、ねぇっ!!! 全力で嫌がってるのにもっと気付けこのデカパイ!! その胸のメロンむしり取るぞおい!!
「んん……! ん……」
中々身体を撫でるのを止めないナリーへのツッコミを続ける最中、唐突に視界が霞む。
クソっ……! 酸欠と脳内ツッコミのしすぎでで意識が……。
いい加減離してくれないと、冗談抜きであの世行きだ……。おっぱいに埋もれて死んだなんて知れたら、末代までネタにされちまう……。子孫残してないから俺が末代だけど。
でも死ぬのだけは何としてでも避けないと……。
ナリー、俺はあと何回お前にナデナデされ続ければいい? あと何回、この生殺しを耐えればいい!? チェリーは答えてくれない……。
「ん……」
ナリーに届かないであろうその問いを投げかけた直後、身体のあちこちから力が抜けていく。どうやら俺にも年貢の納め時が来たようだ。
出来る限り足掻いたけど、やはり死の運命からは逃れられなかったか……。
こんなところで人生を終えるのは名残惜しいが、もうどうにもならないのは分かっている。
ならばせめて、逝く時だけは安らかに逝こう。死に顔が苦悶の表情だなんて、見たやつの気分を害するだけだからな。笑顔で死ねば、まだ看取ってくれる人の心は安心できるだろう。
嗚呼、目の前に天国の門が見える……。
神様……今、命を貴方に返し、天国に──
「ちょ、ちょっとナリーっ!! ナリーのおっぱいでミオンちゃんが死にかけてるです! とっとと喋るのをやめてミオンちゃんを離すです!」
──行けなかった。
俺の命が神に返されようかというまさにその時。一瞬途切れたナリーのマシンガントークに介入するかのように、ロホネーの声がナリーの手を静止させた。それと同時に、昇天しかけていた意識が戻ってくる。
「む〜、もうちょっとミオンちゃん成分補給しようと思ったのに〜!」
「もう! そんなのはいいから早く離すです!」
「ほいほ〜い」
ロホネーに急かされ不満足そうにナリーが手を離すと、力尽きた俺はガクリとその場に膝を突いた。数分ぶりに吸う新鮮な空気が堪らなく心地いい。死の淵から生還して、改めて「生」を実感した瞬間だった。
「だ、大丈夫です!?」
「あぅぅ……
ようやくおっぱいから解放された俺は、駆け寄ったロホネーに抱えられ、ヘナヘナとその場に座り込んだ。ハァハァ、と呼吸を荒げて必死に酸素を取り入れると、意識がやっとはっきりしだす。
ヤバい。ガチでお花畑と川の向こうで手を振る死んだじいちゃんが見えた。あのまま離してくれなかったら、間違いなく二重の意味で昇天してたな……。
──死ぬ時はデカいおっぱいに埋もれて死にたいとか思っている世の男子諸君。もし実践出来る彼女さんが見つかっても、冗談抜きでやめといたほうが良い。窒息でマジで死ぬから。あと登ったまま降りてこられなくなって死ぬから。
と、ロホネーを見ると、何故か涙目でこちらをじっと見つめていた。
「助けるのが遅くなってごめんなさいです……。ナリーのマシンガントークは介入する隙が中々なくって、止めようにも止められなかったです。本当にごめんなさいです……」
「い、いいよいいよ、気にしないでっ。こうして無事に開放されたんだから結果オーライだよ! だから泣かないで、ね?」
謝罪と一緒に流れるロホネーの涙を拭うと、その頭を優しく撫でてあげた。
この子は何も悪くない。
ナリーの胸で死にかけている俺を助けるため、彼女のマシンガントークを掻い潜る為の隙を全力で窺って、やっとの事で俺を助けてくれた。俺にとっては文字通り、自由の女神だ。
そんな自由の女神が助けた俺の為に泣く必要なんて、これっぽっちも無い。助けようとしてくれた気持ち。それだけで十分だ。
だから撫でてあげるのは、その気持ちに対しての、せめてものお礼だ。
「うーん、いい話ですな〜。久々に泣かせてくれますぞ……」
「社長は端で傍観していただけじゃ無いですか」
ハンカチ片手に号泣する社長に、すっかり空気となっていたアンゼリカさんが突っ込む。確かに、何故社長は今の今まで傍観に徹していたのか。社長なのだから、一声かければそこでナリーの抱擁を中断させることも出来たはず。
それなのに、マジで死にかけるまで俺をほっぽり出していたのは何故なのか。
「いやいや、確かに僕が止めることも出来ました……。ですがその……ロホネーちゃんの言う通り、会話に割りこめなかったというか……」
なんと、まさか社長ですらナリーのマシンガントークに介入出来ないとは……。社長なんだからもうちょっと強気にいっても良いと思うのだが。そのくらい別に職権乱用にはならないだろう。
「というかナリーはちゃんと反省して欲しいです。せめてミオンちゃんにお詫びでもしてあげるです」
「んもー、ちゃんと反省してますぅ〜。じゃあミオンちゃん、今度Shibu Valleyのブレイ堂のケーキご馳走するから許して〜?」
俺の想像するギャルと寸分違わない軽すぎる謝罪。普通なら反省の色が見えないとかツッコミを入れるところだ。
しかしこれ以上事を引っ張ると後々面倒なことになりそうなので、態度は気に食わないが許してやろう。おっぱいに埋まる事出来たし。
それに無理に身の入った謝罪を強要させると、最悪喧嘩とかになってせっかく仲良くなりかけた俺たちの間に暗雲が立ち込めかねない。「バンドメンバーと仲良くなってバンドの悩みを解決する」が第一目標の俺にとっては死活問題だ。
だからここは一つ仲良くなって互いの絆を深めよう。
が、それよりも。
「(ヤバい、ケーキ食いたい……)」
──ナリーの「ケーキ」という発言に、俺のスイーツセンサーがビンビン反応していた。
今だから言うけど、実は俺、ものすごくスイーツとかそういうのが大好きだったりする。元の世界では週末にスイーツ食べ歩きに行ってたほど。毎月の小遣いが3桁切るまで食ってたな。そのせいでギターを買う金が遅々として溜まらなかったのは口が裂けても言えないが。
個人的には鹿児島名物のスイートポテトが一番のお気に入り。あの薩摩芋の甘みが堪らん。あと、オネェの店長がやっている移動ドーナツ店のプレーンシュガーもシンプルながら好きだ。
──っと、話がズレた。
「ケ、ケーキはともかく、悪気は無かったみたいだし、お──じゃなかった私も無事で済んだから、この事についてはもう気にしないよ」
「本当っ!? ありがとミオンちゃんっ!!」
その代わり、ケーキ屋に連れて行ってもらった時には財布が薄っぺらくなるくらいのお高いケーキたらふく食べてやるがな! それで今回の件は初めてチャラだ。
「ウォッホン! そろそろ本題に戻りますが──」
社長の咳払いで、皆の視線が再び社長に集中する。そう言えば社長が「俺が3人のバンドに入りたいと思ってる」なんて事言ったせいで、感極まったナリーが俺に抱き付いて色々めんどくさい事になったんだった。この全ての元凶め。
「さっきまでのやりとりを見ていて判断しましたが、3人はミオンちゃんの加入について異論は無い──という事でよろしいですな?」
「モチ! ミオンちゃんみたいな子でも大歓迎みたいな?」
「4人目として不足は無いです」
その言葉を聞いて、目に涙が溢れた。
やった……! 夢にまで見たバンド結成……それが現実になるなんて! こんなに嬉しい事はない……。
異世界に連れて来られてどうなることかと思ったけど、バンド出来るならもうそれだけで充分だ。
元の世界にどうやって戻るのかとか、この世界の事情とか、衣食住どうするかとか、女の子として過ごしていけるのかとか、3人と仲良くやっていけるかとか、問題は山積みだけど──
脳内で、バンド結成の喜びと行く先々の不安が天秤の左右で揺れ動く。
当初は有利だった喜びだが、ジョジョ……もとい徐々に増える先々の不安の重さに押し負け始めていく。
そしてあまりに増えた不安が脳内での勝利を確信したその瞬間──革命が起きた。
バンド結成の喜びが突如膨れ上がり、不安を全て彼方に吹き飛ばす。
《勝者 バンド結成の喜び》
──どうでもいいや♪ 先の事はその時その時考えよっ♪
待っててね、俺の青春色のバンドライフ!
「ウォルフもそう思いますよn──ウォルフ?」
「あれ〜? ウォルフいないの?」
ロホネーが名前を呼んで事務所を見回すが、どこにもウォルフの姿はない。思えばナリーの一件辺りから一言も喋っていないような……。2人を置いてどっか行ったのか?
「まぁ、別に良いんじゃない? 多分ウォルフも大歓迎だと思うしぃ〜」
「確かにそうです。ウォルフはああ見えて人付き合いも良いです。一匹狼なんかじゃないから安心して欲しいです。寧ろ群れないと生きていけないやつです」
え、何そのギャップ? あんなにクールな一匹狼みたいな外見なのに、意外とフレンドリーな所があるなんて驚きだ。仲間がいないと生きていけないってどこの海賊王になる予定のゴム人間だよ。ボッチ恐怖症か。
「だよね〜。確か1人で留守番も出来ないんだよウォルフって! 超ウケるんですけど!」
「えっ、それ本当なの?」
「そうです。1回寮に1人で留守番させようとしたら『頼むから一緒に連れてって』って子供みたいに泣き付かれたです。あれは傑作です」
おいちょっと待て、何それ見てみたい。
「写真あるから、あとで見せてあげるです」
「多分噴くと思うよ〜? ものっそいキャラ崩壊してるし、腹筋の準備はしといた方が良いかもっ」
「生憎だけど、私の腹筋の戦闘力は53万だよ?」
「何それウケるーっ!」
「「「あははははははっ!」」」
──なんだ。何も心配することなかったじゃないか。
人って、話し合う事さえできればこんなにすぐに分かり合えたりするものなんだ。何を尻込みしていたんだ俺は。
単に自分が臆病だっただけじゃないか。
一歩踏み出すのと踏み出さないとでは、世界が全く変わる事を知らなかっただけじゃないか。
本当、踏み出す事を躊躇していた自分が馬鹿馬鹿しく思えてくる。
それさえ気付けば、もう何も怖くない。怖くはない。恐れずに前へ進んで行こう。
「生きてる」
それだけで、確かな夢を掴んでいるんだから。
「じゃあ……ロホネー、ナリー……これからよろしくお願いしますっ!!」
迷いは無かった。
このバンドで頂点を目指すと決意した俺は、2人に深く頭を下げた。
それはこの先どんな運命が待ち受けていても、3人と一緒に乗り越え、進んでいくという意思の表れだ。
「4人」で頂点を目指す、という夢の第一歩。
それが今、この瞬間なのだから。
「こちらこそよろしくです、ミオンちゃん!」
「まだまだ駆け出しの3人だけど、よろしくね〜?」
「うん! 私、頑張るっ!!」
「かわいい」が溢れる満面の笑顔。きっと自分で自分を見たら、今の俺はきっとそんな表情を見せているんだろう。
今からはいつでも何処でも、そんな笑顔になれるくらい、元気出していこう!
「これで商談成立ですなっ。ではミオンちゃん、こっちで契約の手続きを──」
「──夜分遅く失礼するでござるっ!!」
社長の言葉を切り裂いたその声は、一瞬にして俺達の穏やかな空気を掻っ攫った。
どうやら、俺のバンドライフは開始早々波乱の予感らしい。
メイプル
「今回から後書きで本家アニメの次回予告的なトークをしようと思いますぞ!」
ミオン
「えっ、本家アニメ? 次回予告? 一体何の話をしているのかさっぱり……っていうか最後に出てきたござるの人出落ち!?」
メイプル
「いえいえ、次回こそはきっと……」
ミオン
「きっと……?」
メイプル
「正体発覚……する────のかな?」
ミオン
「(っていうか女の子の演技疲れた……)」