Galaxian 2279   作:TOKAS

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PHASE 2 <GALAXIP>

 UGSFが『エイリアン』による襲撃の生存者からの情報引き出しをしている間も、二度の襲撃地点から奴らが移動したと推測される宙域への艦隊派遣による偵察調査・情報収集も行われていたが、ロクな対抗策も無く、正体のわからない敵に対してでは派遣ごとの艦隊の被害は大きかった。

 多くの隊員や艦艇を犠牲にしたが、その数度の調査により幾つかの事が判明した。

 それらを統合した情報はこうである。

 

 まず、敵『エイリアン』は、当初見た目だけが虫、もしくは虫に酷似した機体に搭乗した異星人だと思われていたが、実際には生身で宇宙を飛来する宇宙の昆虫とも言うような存在である事が判明した。

 そして、奴らのその行動も虫に近いものと推測できる程度のデータが得られた。

 奴らは基本的には体色以外はほぼ同じような個体ではあるが、それぞれの色……緑、紫、赤の三色ごとに特徴が存在していると思われた。

 襲撃の生存者が見たという緑の個体は、群れの中で一番数が多い種類のようだった。軍で言えば一般兵といったところだろう。

 その中で特別な旗艦……ボス、リーダーと思しき存在が在り、その旗艦の何体かを中心となって編隊を組み、集団……群れとなって宇宙空間を超高速で移動をしているらしいということだ。速度や移動距離などを考えても、どうやらどこかの宇宙から我が銀河連邦領内へとやってきたようだった

 おそらくは数十体で一つの群れになっていて、その群れが移動の最中に何かしらの敵を発見すると、ある程度の距離まで編隊のまま近づき、距離が詰まると一機一機が独立して攻撃を仕掛けてくる、という生態……パターンのようだった。

 攻撃手段は、体内で精製されているであろう生体ミサイルとも言うべき弾丸を発射するのが主であり、自らの……個体ごとの死など関係ないと言わんばかりに体当たりによる特攻を仕掛けてくるのも特徴だ。

 襲撃時に聴こえたという怪音については、未だに詳細が判明しないが、多分奴らの飛行時に発生する一種の行動音と、呼吸音が何かしらの力で響き伝わっているものではないかとの見解が出された。一部ではその力はテレパシー的な力ではないかと考えられたが、あまりの荒唐無稽な考えであり、その意見は却下されていた。

 奇怪な音を発し、曲線を描くような不思議な動きをし、ミサイルを発射しつつも敵を惑わす。そして、自らの体すらも武器として襲撃してきた侵略者。

 それがUGSFの敵対する『エイリアン』である。

 

 以上が、現在のUGSFにあるデータの概要だ。

 これらのデータにはかなりの推測が入っており、全てが合っている保証は無い。

 しかし、今の人類……『ギャラクシアン』には、現実に『エイリアン』からの脅威が迫っており、今わかっている事を元に対策を立てるしか道はなかった。

 侵略してきた意思疎通の出来ない存在とは戦うしかない。

 それがUGSF上層部の決定だった。

 現に、UGSFはそうしてUIMSと接触し、戦い、生き残ってきた。

 ならば、また同じように戦い、勝てばいいだけだ。

 上がそう方針を決めたからには、事は着々と進められる事となった。

 

その外敵が発見された時点でどんな手段を使ってでも外敵に対抗できる航宙機を即時開発する為の、特殊航宙機開発計画。通称D計画。

 数十年前から続いているこの計画は、当の外敵が現れる事が無かった為に、事実上有名無実なだけの計画となってはいたが、ついに表舞台へと引っ張り出される事となった。

 だが、即時開発といってもあまりにも時間が足りなかった。無さすぎたのだ。

 コンピュータによる多くの作業の自動化・高速化により、古来の航空機や艦船の開発と比べて実際の開発期間は大幅に短縮された時代ではあるが、かつての『竜騎兵』ですら、様々なゴタゴタがあったとはいえ、一からの開発に三年という時間がかかっていた。

 UIMS戦の時には、接触から戦いまでの間に時間的余裕があったが為に、どうにか『竜騎兵』の開発が間に合ったわけだが、今回の場合はそうではない。敵『エイリアン』の脅威は目前に迫っており、今なおもどこかで銀河連邦の民やUGSF隊員が被害を受けているかもしれない状況だ。とにかく対抗策を出す事。それが今のD計画に求められていた。

 そこで、UGSFは『竜騎兵』の二の舞にならぬよう、今回はまず作戦を立案し、それに合わせて既に開発されている、もしくは開発中である機体をベースに新たな機体を完成させるという手順を取る事となった。

 そして集められた多くの幹部による何度かの議論を重ねられた結果、

「航宙機にて超高速移動する『エイリアン』編隊へ単独接近、『エイリアン』との相対速度を合わせ、反撃してくるであろう奴らの傍に留まり、迎撃する」

 ……という強襲作戦に決定した。

 その他に、ドラグーン――『竜騎兵』を改修または新たに小型のドラグーンを設計・建造して敵陣に突撃させるプランや、UIMSの技術を応用した無人機編隊の突撃プラン、少し外れるものの多脚機動戦車――ヴィークルの改造強襲プランや、新たな特殊スーツ及びに携帯兵器の開発による単独での兵士突撃プランなど、様々な作戦プランが挙がったが、その中で選ばれたのが一番開発期間が短く済みそうな今回の航宙機単独強襲作戦であった。

 かなり無謀な作戦ではあるが、『竜騎兵』の名前が挙がったように、単独で一騎当千の活躍を見せるという夢を信じる者がUGSFの上層部に多くいるらしい事が、今回の作戦が決定した理由かもしれなかった。

 どちらしても、作戦が決まった以上、ベースとなる機体の選抜が行われる事となった。

 そこで白羽の矢が立ったのが、『ギャラクシップ』と呼ばれていた試作戦闘航宙機であった。

 形式番号 GFX―001。通称『ギャラクシップ』。小型ながらも大出力のエンジンを搭載し、両翼部分に長いエネルギータンクを取り付けてある、独特の形状をした航宙機である。

 全ての性能において速度を優先とした試作機であり、戦闘機とされてはいたがクセが強く、速度以外の部分では難点が多い為に、試作されたものの持て余していたような機体であった。

 だが、今回の作戦において、その『速度』が必要となった。

 今までの敵とは違う超高速航行をする奴らに速さで追いつくこと。それが第一であった。

 

 作戦が決まり、命令が通達され、D計画に携わるスタッフは早速『ギャラクシップ』の改造に入った。

 まず機体には、どれだけの速度で放り出されても衝撃で壊れないという程の特殊なデータレコーダが積まれる事となった。たとえ迎撃されても敵のデータだけは残せるようにして、後々回収して役立てるためだと言う。通信によるデータ送信も行われるつもりだが、念の為に複数のデータ入手の方法を用意する事からの追加搭載であった。

 それ以外にも命令に従い、様々な改修が行われた。ベースの機体があるとはいえ、いわれ通りの命令に従い、仕様を合わせるのは困難を極めた。細かな要求が多かったからだ。

 それらの改修の最中、問題となったのは肝心の兵装であった。

 小型でありながらも速度を出す事を優先としたギャラクシップのエネルギー伝導は、正直に言えばかなり悪いものであった。

 あまりの燃費の悪さの為に小さな機体内部のエネルギータンクでは足りず、両翼にタンクが追加され、そのタンクの長さも少しずつ伸びていき、どうにかエネルギーのチャージ時間と伝導時間に釣り合いが取れるレベルとなってタンクの延長が止まった頃には、ギャラクシップ独特の形状が出来上がっていた。

 改修前の『ギャラクシップ』であれば、レーザーの一門ぐらいは搭載できたのだが、今回の作戦において開発時に想定してなかった機器が搭載される事になり、エネルギー伝達やスペースの関係で武装が詰めない事が判明した。

 常に巡航速度を維持して飛行するのであれば、スペック上はどうにかレーザーを撃つぐらいはできなくもないのだが、今回においては高速移動する……もしかしたら亜光速で移動をするかもしれない『エイリアン』に追いつく事が必要不可欠であり、可能な限り最高速度を維持して航行する事になる可能性が非常に高い。

 つまり、『今』の『ギャラクシップ』には、武装を使う余力も積むスペースも無いということだ。

 このままでは戦う事も出来ない欠陥兵器になるだけだった。

 後の時代になれば、技術の発展により、より小型で大威力なレーザー砲を積む事も容易になるかもしれないが、今は何十年何百年と待っている余裕は無かった。

 例え『今』は欠陥兵器であっても、それを作戦に投入すると決められた以上は何とかするしかない。それがスタッフに課せられた使命であった。

 そこで問題の解決をするべく、スタッフ同士による会議が行われる事となった。

 

「武器か……」

 スタッフの一人がつぶやく。

 いざ会議が開かれはしたが、どのスタッフも頭を抱え、悩んでいた。

 皆で知恵を集めればどうにかなるものと思われたが、その肝心の知恵が中々出てこなかった。

「どうしてもレーザーは積めないんですか?」

 若手の一人が尋ねる。彼なりの素直な疑問であった。

「ああ。ビーム、レーザー、とにかく兵装に回せるだけの余裕は無い」

 中年のスタッフがスクリーンボードに映されたギャラクシップを指して言った。

 一緒に表示されているスペックも、見る者が見れば極端で無理のある設計であった。

 先進的な航宙機として産まれはしたが、その形を含めて今の時代にはあまりにも先進的すぎて、存在自体が鋭く尖りすぎていた。

「やはり外付けになるか」

 スタッフが端末を操作して、試しにギャラクシップのデータを弄くる。それに合わせて、スクリーンボードの方も同期して表示されているデータが変わっていた。

「剣でも付けるんですか? スターソードとか言っちゃって」

 若手が端末を弄り、ギャラクシップの機首に長い剣を付け足す。

 ただでさえ独特の形状が、より変わった形状になる。

「馬鹿。宇宙じゃ少しでもぶつかっただけで終わりだぞ」

 中年スタッフの方も端末を操作して、若手が弄った結果を元に戻した。

「……いや、何か付けるならここしか無いんじゃないか」

 一人のスタッフが、さらにまたデータを戻す。そして、付け足された剣を機体下部に付け直す。

「まるで銃剣だな」

 見たままの印象をつぶやく中年スタッフ。

「とはいえ、剣は却下だ」

 そういってスタッフが若手の一人の頭を軽く叩く。

「何か外付けするにしても、そう何発も撃てないじゃないですか」

 頭を抑えながら、若手はまたギャラクシップのデータを弄くる。

 ミサイルランチャーを吊り下げられたその姿はとても奇妙なものであった。

「まあ確かにそうなんだが……」

 中年スタッフが頭を抱える。その姿は偶然にも頭を抑えていた若手と同じ姿であった。

「大多数に相手するってのでなければなあ……」

 ぼやきながら、スタッフはギャラクシップに長いミサイルを一基吊り下げたデータにする。

 見方によっては機首から生えているようにも見えるそれもまた独特の姿であった。

「そういや、敵はミサイル生成してるんですよね?」

「そうらしいな」

 若手の言葉を聞き、スクリーンの表示を切り替え、エイリアンのデータを映した。

 先に描かれた想像図を元に、得られたデータと合わせて考えられた奴らの姿だった。

 口から発射されていると思われるエイリアンの生体ミサイルは、体内に精製器官が存在しているが為に弾切れもなく、縦横無尽に打ち続ける事が可能だと推測されていた。

「こっちもミサイル作れればいいんですけどねえ」

 エイリアンの精製器官と思しき部分のデータをそのままギャラクシップに付け足す若手。

 冗談半分諦め半分の気分のようだった。

「大昔のロボットアニメじゃないんだぞ、そんな無限の弾なんて……」

 若手の言葉に苦言を言う中年スタッフ。その言葉を一人のスタッフの言葉が遮った。

「……もしかしたら可能かもしれないぞ、ミサイル精製」

 それこそ冗談のような一言だった。

「え?」

「突然何を言っているんだ」

 他のスタッフが驚き、そのスタッフに突っ込みが入った。

「まずは、これを見てくれ」

 そのスタッフがとあるデータを呼び出し、スクリーンに映した。

「……えっと、これって確か」

「UIMS、だな」

 映し出されたのは、色がそのまま載ったような表層をしたUGSFでは見ないデザインをした航宙艦……UIMSのデータだった。

「これがどうした?」

 いきなりそんなものを見せられ、何事かと中年は聞く。

「まず、UIMSはただ兵器というだけでなく、部品の一つ一つも奴らUIMSであるという事は知っているな」

「はい、それがUGSFの敵だと叩き込まれました」

 スタッフの一人の問いかけに若手が答える。

 接触当初から交戦時まで、UIMSはただの無機物兵器かと思われていたが、その後の分析により、奴らの兵装と思われていた物まで奴らUIMSそのものでる事が判明していた。

「これらレーザー砲もミサイル自体もUIMSであり、奴らの体というわけだ」

「はぁ」

 さらにスタッフは言葉を続ける。

 UIMSは個々に存在しながらも、小さな個体はより大きな個体に寄生……共存して存在しているらしいのだ。

 だが、そんな事を今になって言うスタッフに、一人の若手は生返事を返すしかなかった。

「そして、そのUIMSの技術の幾つかは既に銀河連邦でも使われていて、今でもその分析は続いている」

「ああ、そうだな」

 中年スタッフの答えるように、それはスタッフの皆が理解していた。

 ギャラクシップにもそれらの技術は使われており、だからこそ小型で大出力のエンジンを開発され、アンバランスな機体が存在する理由になっていた。

「それでいて、奴らの生態自体にも我がUGSFでも使われている技術と共通する面も存在した。だからこそ我々も技術を取り込む事も出来ているわけだ」

「……それで、何が言いたいんです?」

 言葉を繰り返すスタッフに若手が聞き返す。

「まさか……」

 何かを察した中年スタッフが目を見開く。

 それに答えるかのように、一人のスタッフが答えた。

「……そうだ、ミサイルを精製するUIMSを俺たちの手で造るんだ」

 

 スタッフの考え出したギャラクシップの兵装解決方法。それは、外付けする為の武器として人工UIMSとも言えるミサイル砲を作り出す事だった。

 エネルギーをチャージして無限に近い攻撃が出来る武装が載せられないのであれば、発射してもミサイル自体を精製……チャージするミサイル砲を搭載すればいい。

 荒唐無稽で無茶に輪をかけたような考えであった。

 しかし、そういう無茶をどうにか貫き通すのが銀河連邦という政府であり、UGSFという組織であった、

 その後、他に大した案も挙がらず、何しろそのスタッフの熱意もあってか、ギャラクシップ搭載用の新型ミサイルの開発が開始される事となった。

 スタッフが熱弁をふるったように、UIMSの生態……いわゆるコアの部分には銀河連邦でも使われている技術と通じる部分があり、それならばUGSFでもUIMSと同じ特性を持った存在を作り出すのも可能ではないか、という算段であった。

 機械・物体でありながらも成長・進化をするというUIMSの特性を利用し、ミサイル発射砲の部分を本体とし、ミサイル部分を外皮とし、発射しても一種の成長・進化の形として再生させるという設計だったが、やはりそう簡単に生み出せるものではなかった。

 人工的にUIMS的な存在を生み出すという初の試みの為、うまく形は出来たもののミサイル部分が発射できなかったり、発射できてもミサイルとしての威力を発揮できなかったり、発射はされてもうまく再生……チャージができなかったり、再生の時間があまりにもかかったり……。とにかく試行錯誤の連続であった。

 多くの時間を割き、スタッフの労力もつぎ込まれ、あと二月ほどで年が終わるという頃になって、ようやく新型ミサイル……『コスミックミサイル』は完成を見せた。

 完成したその形はチャージの関係で細く長い形状をしており、全体の殆どはナノバイトと呼ばれる技術を利用して生成された。開発の契機の関係もあって詳しい事はUGSFの機密情報となっている。

 ミサイル自身の威力は、敵『エイリアン』の耐久性が不明な為に、現時点で可能な限りの破壊力を持たされ、それが超高速で発射されれば現時点では対抗できるであろう敵は居ないものと思われた。

 ちなみに、このミサイルの発射速度の関係で、見方によってはレーザーが発射されたかのようにしか見えなかったり、元々のGFX―001に搭載されていた兵装の関係もあり、ビーム砲だのレーザー砲だのと呼ばれたりする呼称の混乱が生まれたりもした。

 

 紆余曲折はあったが、GFX―001の改造機にコスミックミサイルが装備され、GFX―001a ギャラクシップが正式にロールアウトした。

 元々の両翼部分の伸びたタンクに、機体下部に細く長いミサイルを見せるその姿は実に独特の姿だった。

 コスミックミサイル共々、用意できたのは数機分……現時点では、予備機を含めて三機が完成しただけだったが、作戦の内容上一機だけでも機体が存在していれば問題はなかった。

 そうしてギャラクシップは完成して即座に作戦へと投入される事となった。

 

 

 GFX―001aのロールアウトと前後して、作戦に参加する……ギャラクシップに搭乗するパイロットの選抜もされていた。

 新たなる敵と戦う作戦に先陣を切れるということでUGSF隊員自身による志願者の数は多かったが、今回は単機強襲による作戦ということもあり、その倍率は厳しいものであった。

 超高速において航宙機を安定して操縦出来るだけの操縦技術、ミサイルのチャージ時間の関係で一発必中を求められる射撃技術、どれだけの敵が存在するか不明な為に長時間を戦い抜けるだけの体力とメンタル、不意の事態にその時に出来る事を即時判断し行動できるだけの応用力……。

 少人数での作戦……おそらくは一対多数になると思われる作戦において、パイロット一人一人へ重い責任が課せられる為、それに比例して要求される技術のハードルはとても高いものとなっていた。

 数多くの隊員が選抜からふるい落とされ、数十名に絞られた中に、ユウキ・サワムラの名前があった。彼なりの『エイリアン』への執念……いや、表現しきれない感情のぶつけ所としての結果だったのかもしれない。とにかく、彼の名前はそこに存在していた。

 

 数日後にさらに人員を絞る為の選抜試験が行われると通達され、ユウキが自室に戻る途中で妙な物が彼の目に入った。

「……なんだこれ」

『エイリアン』の例の想像図が描かれ、下の方に『たて! 銀河戦士』などと適当なコピーが書かれた、どこか現実離れした内容のポスター。

 壁に貼られただけのポスターではあったが、それを見て思わずユウキはぼやいた。

 おそらくは、UGSFが今こんな敵と戦っていると一般層に宣伝する為の物だろう。

 別に基地内部に貼られていてもおかしくはない物ではあるが、ユウキには微妙な気分させた代物でしかなかった。

 ユウキは痒くなった首筋を少しかくと、再び歩き出し、自室の方へと向かった。

 道を暫く歩き、エレベーターに乗った所でライアンと一緒になった。

「よお、選抜はどうだった?」

「まだ何とかしがみ付いている」

 ライアンの問いかけに。ユウキは自分なりに答える。

「どうだか」

 ユウキのパイロットとしての腕は中々の物だと思っているライアンは軽口で返した。

 ちなみにライアンの方は身の程をわきまえて、作戦には志願せずにいた。

「……だが、なんとしてもやってやるつもりだ」

 ユウキは先ほどのポスターに描かれた『エイリアン』の姿を思い浮かべ、今にも殴りたくなる気持ちを拳を握り締めて抑えた。

「……ああ、そうだ。おいコレ」

 エレベーターを降り、二人で歩いている途中、ふとライアンが何かを差し出した。

「なんだコレ」

 ユウキに手渡されたのは、白い封筒……いわゆる手紙らしかった。

 メール……いわゆる郵便物と言えば電子メールが当たり前になった時代ではあるが、ポスターみたいな物が未だにあるように、手紙自体もまだ無くなってはいない時代ではあるが、実際に手紙を出したり書いたりするのはとても珍しい事だった。

「ラブレター」

 アクセントをつけて答えるライアン。

 ニヤついた感じのライアンの顔と手に持った封筒を見比べ、ユウキは尋ねた。

「お前からか?」

「……んなわけあるか。冗談だ冗談」

 冗談を信じたユウキに対し、ライアンは呆れて封筒を指差す。

 封の閉じた面ばかりしか見てなかったので、ユウキは手首を返し、封筒のもう片面を見た。

 そこには可憐で丁寧な文字で、UGSF基地のユウキとライアンに向けた宛名と、差出人である女性の名前が書かれていた。

「ノシカ・M・オーリアット……」

 その名前をユウキは確認するように呟いた。どこかで聞いたような気のする名前だった。

「そ。あの時の大佐のお孫さん……だったよな彼女」

 名前の呼び上げに続けて、ライアンは手紙の本当の差出人を言う。と言っても、ライアンの方もうろ覚えな部分もあってか、頼り気の無い言葉尻だった。

「……ああ、あの時の」

 大佐と聞いて、ユウキはようやく誰かを思い出した。オーリアットの名前の時点で気づくべきだったとも思った。

 二人で暫く前にオーリアット大佐の家に遺品を届けた時に会った少女。ノシカ。

 一度会ったきりの彼女からの手紙、それも今ごろになってなんて何故だろうと思った。

「メールじゃなくて実物の手紙。流石はオーリアット大佐の家族だけあるよな」

「……手紙」

 ライアンの言葉を聞き、改めてユウキは封筒をまじまじと見つめた。

 よく見ると、既に封は開けられており、封の開けられ方からしてどうやらライアンは既に読んだ後のようだ。だからこそユウキに渡したのだろう。

「読んだのか」

 念のためにとユウキは尋ねた。

「ああ、お前も読めばわかるさ」

 そう言うと、ライアンは歩みを進めた。

「じゃ、頑張れよな選抜」

 小さく何かのジェスチャーをすると、ライアンは別の道に入り、ユウキの前から姿を消した。

「読めば……」

 またユウキは封筒を見た。確かにライアンの言うように、読まない限りは彼女から手紙が来たということしかわからないだろう。

 それから自室に戻り、一度開かれている封を開け、中に入っている便箋を広げた。

「ん……」

 紙から香る微かな匂いが彼女の匂いのように思えた。あくまでユウキの気のせいではありかもしれないが。

「む……」

 鼻を少しこすってから、ユウキは均等丁寧に書かれた文字を一文字一文字読み始めた。

『突然のお手紙、失礼します。

 先日は祖父の遺品を届けていただきありがとうございました。

 ですが、あの時の私には祖父が亡くなった事からの悲しみしか頭に無く、不躾な応対しかできず、誠に申し訳ありませんでした。

 祖父との仲は悪いものではなかったのですが、祖父の仕事が仕事である為にあまり思い出と言えるものはあまり無く、あの遺品が手元にある数少ない思い出となります。

 互いに幼い頃の思い出ばかりでしたが、祖父が亡くなり、改めて私の中で大事な存在だったと気づかされました。

 時間がかかったものの、ようやく筆を取る決意が出来、こうして今の私の思いを伝える事ができるようになりました。

 あの時は本当にすみませんでした。

 そして、よろしければ少しでも祖父の、オーリアット大佐というUGSFの隊員がいたことを覚えておいてください。

 たとえ肉体は宇宙の星になったとしても、誰かが覚えている限り、真の意味で祖父が死ぬ事は無いと私は思っています。

 身勝手なお願いではありますが、祖父の事を覚えておいてください。お願いします。

 

 最期に、こんな手紙を読んでいただきありがとうございました。

 いつまでも生きてUGSFとしての誇りを忘れず、頑張ってください。

 

    ノシカ・M・オーリアット』

「……重いな」

 手紙を読み終え、ユウキは小さく言った。

 この手紙は彼女……ノシカなりの思いのぶつけ方なのだろう。だが、それは重いものと思えば、どこまでも重くなるものだった。

「だけど、やってみせるさ……今だけは」

 ユウキは決意を固めた。

 別に彼女のためというわけじゃない、だが奴らに……『エイリアン』に対抗するべき手段がようやく考えられ、自分がその手段を使って戦えるかもしれないという機会を掴みかけている今、ユウキ自身やれる事をやるだけだった。

 たとえユウキが選抜から落ちたとしても、誰かが必ず仲間の仇をとってくれるだろう。

 だが、ユウキは出来る事なら自らの手で奴らに制裁を下してやりたかった。

 UGSFとしての正義を。銀河人としての正義を。

 ただのエゴと言ってしまえばそれまでだろう。

 それでも、今の銀河連邦には、UGSFには、言葉も通じないであろう奴らとは戦う選択肢しかありえなかった。

 

 

 あと少しでギャラクシップがロールアウトするという頃、作戦参加パイロットの最終選抜が終わり、予備員を含めて四名の隊員が選ばれた。

 ギャラクシップが完成した時点で作戦開始とし、隊員四名はギャラクシップ共々航宙母艦に搭乗、その時点で『エイリアン』が航行していると思われる作戦宙域まで接近、出撃して『エイリアン』を撃退する、と四名に通達された。

 その四人の中には、彼なりの執念なのかユウキ・サワムラも残っていた。

 かつてのUIMS戦と同じように、無茶に無茶を重ねたような作戦案ではあったが、それがUGSFだと言う事をユウキを含めた隊員の皆が知っていた。

 それでも、『エイリアン』と戦う機会を得た以上は、とにかく戦うだけだった。

 UGSFの誇りを胸に。

 そして、ギャラクシアンとしての誇りをかけて。


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