貧乏神が!の紅葉×綾目のSS。百合注意。

1 / 1
紅葉と綾目へのお題01

紅葉と綾目へのお題:愛情のあかし/「おめでとう。」/走馬灯の中で散りゆく http://bit.ly/kqXvnU 3番目ぇぇぇぇ!

 

*---------*---------*---------*---------*---------*---------*---------*---------*---------*---------*

 

愛情のあかし

 

久しぶりの休暇、ということで今日は神界の綾目の家へとお邪魔していた。ここ最近は神界にも帰っていなかったので綾目の家に来るのは本当に久しぶりだ。懐かしさすら感じる。

 

「はい、どうぞ。火傷しないようにね」

「分かってますよ。いただきます」

 

目の前に置かれた湯呑を早速手に取り淹れたてのお茶を啜る。これはいつも飲んでいた緑茶だろうかと思うくらいにそれは美味しかった。隣に座って同じように飲んでいる彼女はさも美味しそうに、いや、楽しそうにお茶を啜っていた。

楽しそうに、というのも何だかおかしいが、本当にそう見えるのだから仕方ない。

 

「何かいいことでもあったんですか?」

「いいこと?ええ、そうね、あったわ」

 

すっと私の前に差し出したのは、綺麗に切られ皿の上に並べられている羊羹。

 

「それ、この間人間界に行った時に買ったのよ。結構人気でね、私が行った時はたまたま空いていたらしくて」

 

自分の目の前にも同じものを持ってきていてそれを一切れ、頬張った。

 

「ん、おいし」

「……それで?」

「そうねぇ、後は任務が上手くいったことかしら。山吹さんも褒めてくれたことだし」

 

にこにこと上機嫌に彼女は続けた。

なんかこう、もっとあるだろう。貴方のとなりに座っているのは誰なんだ。

 

「……私が帰ってきたことは?」

「そんな当たり前なこと聞かないで頂戴?ねぇ、聞かないで?」

 

ほんのりと頬を染めた綾目は口元を覆った手のひらからクスクスと小さな笑い声を漏らしながら私を見た。それが何だか子供を相手にされているかのようで、せめてもの抵抗と、綾目から顔を逸らした。

確かに、当たり前のことだとは思っている。だけども言葉にしてほしいのだ。

ふっ、と視界が少しだけ暗くなった。何事かと思い顔をあげると綾目の手が視界いっぱいに広がっていた。

 

「あひゃめ、なぃしひぇひゅんでひゅ」

「もーみじ」

 

普段とは違った間延びした声で名前を呼ばれる。同時にぐにぐにと両手で頬を揉まれた。

 

そんな顔しないで。ねぇ、しないで頂戴?貴方が帰ってきて本当にうれしいわ」

 

おかえりなさい、と続けられ私は何も言えなくなってしまった。なんでこの神(ひと)は私の言いたいことが分かってしまうのだろう。

心の中を覗かれることを不思議に思うが、そこに不快感はない。むしろ全てを預けられるという安心感があった。

 

「……ただいま帰りました」

 

へにゃり、と顔が緩んでしまったのが嫌でも分かった。それに釣られて綾目もふんわりと笑い返してくれた。

それだけでさっきの負の感情が跡形もなく消え去った私はとんでもなく単純で、間抜けな顔をしていることだろう。

 

「ほら、こっちに」

 

綾目が両頬から手を離して小さくこちらへ手招きをした。

四つん這いで綾目のそばへ寄ると、びっ、という小さな音と脇腹に小さな違和感を感じた。

そちらを見やると、オーバーオールの端がちゃぶ台から飛び出ていた刺に引っかかって縮れた糸を伸ばしてしまっていた。

 

「うわー、いっけね」

 

すぐさま外して寄ってしまった布地を引っ張って整える。

が、やはりというか、伸びてしまった糸は完全には元に戻らず、ビロビロと不恰好な様を晒していた。

 

「ああもう、綾目ハサミありますか?」

「私がやってあげるわ。見せて」

 

綾目は糸の端を摘むと、根本に玉結びを作っていつの間にか持ってきていたハサミで余った糸を切り離した。

その余った糸を手に取りじぃっと見つめて、何かを思案するような顔になった。何かおかしいところでもあったのだろうか。

と、おもむろに自身の右の小指に糸を結びつけて、もう一方の端を私の左の小指に結びつけた。

 

「?一体何をしてるんですか?」

「ほら、赤い糸」

 

自身の小指と私の小指の間に渡された糸を指差して彼女はたおやかに笑った。

その笑顔が私だけに向けられているものだと自覚すると、たまらなく彼女が愛しく思えた。衝動的に、手を伸ばした。

 

「綾目」

「なぁにもきゃっ」

「…もきゃって何です、もきゃって」

「い、今のは貴方がいきなりこんなことしてくるからでしょう?ねぇ、そうでしょう?!」

 

綾目は私の腕の中で若干恨みがましい顔で見上げてきた。それですらとても愛らしい。

何だそれは、狙ってやっているのか。

きっとそんなことはなくて、飾りたてていない素のままの姿なんだろう。そしてそれを見ることが許されているのは私だけだ。なんと幸せなことか。

 

「綾目」

「ん、」

 

細い彼女の身体を抱え直して楽な姿勢にし、腕の中に閉じ込めたまま、瞼の上に口付けを落とした。

抵抗は、されなかった。

 

「綾目、」

「…もみじ」

 

互いの名前を呼んでどちらからともなく指を絡める。綾目の仄かに熱が篭り始めた視線がジリジリと私を焼き切っていく。

鼻の頭に。耳朶に。唇に。首筋に。

次第に熱を持ち出した口付けを侵食させていく。

 

「っ、はぁ…」

 

綾目の吐息が耳にかかって、微かに残っていた何かが遂に崩れ去ってしまった。

ゆっくりと彼女を下にして、それと同時に帯に手を掛けてゆるゆると白い肌を露わにさせていく。

衣擦れの音と口づけの湿った音がそう広くはない部屋の中で跳ね返る。それに反応した綾目が漏れ出す声を抑えようと口を手で覆っているが、むしろ今の私には逆効果だった。

着崩れた着物の襟のそばに一際熱を込めた口付けを穿つ。歪な赤い花はきっと彼女に溶けていくだろう。いっそのこと、私も彼女に溶けてしまえばいいと思った。

 

(嗚々、貴方が愛おしい)

 

*---------*---------*---------*---------*---------*---------*---------*---------*---------*---------*

 

「おめでとう。」

 

※注意※

貧乏神長紅葉がおります。あと大分百合百合しいです。それでも大丈夫な方はどうぞ。

 

最近、紅葉にちゃんと会っていない。

 

紅葉が桜市子の件での功績を讃えられて百年余。

紅葉は山吹姐さんの後任として貧乏神長になってからというもの、業務が立て込んでいるのか会いに行こうと思っても仕事、仕事と以前では考えられないくらいに仕事漬けになっている。

ここ最近は特に顕著で1週間はゆうに会っていない。今日はやっと時間が取れたとのことで、外で待ち合わせをしている。多分もうすぐ来るはずだ。

 

「…あーやーめっ」

「きゃっ!?」

 

いきなり後ろから呼ばれてほぼ同時に大きく身体が前へと傾いだ。

肩に伸し掛かる重みに目を向ければ白い腕が首の周りをぐるりと回っていた。

 

「えっ、何、紅葉?」

 

首を後ろへ向ければ、久しぶりに見た大切なヒトの顔が。

 

「本当にお久しぶりです。会いたかったですよ綾目」

 

間髪入れずに私に軽いキスをする紅葉。

 

「え、あ、ちょっと紅葉ここ人が「それが何だって言うんです。こちらは綾目禁断症状が出てるんですよっ」

 

ぐるりと私の首を視点にして前に回って、肩口に顔を埋める紅葉。というか何なの禁断症状って。

 

「書類ってあんなに高く積めるんですね、私初めて知りましたよ。紙の雪崩にもあいました」

 

もう嫌だもう仕事したくねえ、と愚痴を零しては会話の合間に鳥が啄むようなキスを私の顔を中心に落としていく。

いつもはここまで過剰なスキンシップを紅葉はしない。それもこんないつ人が通るか分からないような所で。

業務の過酷さからか今日の紅葉は大分”ハイ”になっている。

 

「あー私の中に綾目成分が染みこんでいく…」

「変な言い方しないでよ?!」

 

なんというか、段々スキンシップが飼い主に会えなかった子犬のような状態になってきている。

キスをしては首筋や肩口に顔を埋めて擦りつけて。一時も腕の中から私を離そうとしない。それはいい。それはいいのだけれど。

 

「ごめん紅葉ちょっと離れてくれる?」

「なんなんですかちょっとセクハラしたくらいで!」

「そういうことじゃなくてね、というかさっきの狙って喋ってたのね」

「当たり前です。」

「威張るな。…あのね、ちょっと体勢がキツイからどこか「どこかの宿に行くんですね。分かりました」話を聞いて?!」

 

このままじゃ埒があかない。そう思った私は力ずくで紅葉を引き剥がすことにした。

ぐい、と両腕に力を込めて押しのけていくと以外と簡単に紅葉が離れていく。あれ、と疑問符が頭の中を過ぎったが、それは後頭部に走った針を刺したような痛みによって中断された。

 

「痛っ!」

「あ、すみません引っかかっていますね」

 

ちょっと失礼、と引っかかった私の髪を丁寧に取り外していく。いったい何が引っかかっているのか。

 

「取れましたよ」

「あ、ありが、と…?」

 

離れていった紅葉の手に、見慣れない物を見つけた。

見つけて、しまった。

 

「ねえ、それ何?」

 

紅葉の左薬指に嵌っているのは銀色のシンプルな指輪。

彼女は進んでそんなものをつけるようなことはしない。ならば何故つけているのか。

会えなかった間、彼女は一体何処で何をしていたのか。

 

仕事なんて、本当は嘘だったのでは、ないのか。

 

「ああ、これは…」

「ねえ、紅葉それ何なの?私じゃダメだったの?ねえ、ダメだったの!?」

 

彼女を指す指先がとても震えた。自分で分かるくらいだから相当のものだろう。

 

「綾目」

「何よ言い訳なんて聞きたくない!」

「綾目、話を聞いてください」

 

ぎゅっと紅葉が強引に私の左手を掴んで引き寄せた。

一度手を離すとポケットから小さな箱を取り出してその中身を私の左薬指にさっと嵌めた。

金属の独特な冷たさが嵌められた何かから広がっていく。

 

「ほら見てください綾目。私とお揃いです」

「……はい?」

 

”私と、お揃い。”

紅葉は私に言い聞かすように2度同じ事を言った。

 

「あれ、綾目知ってると思ってたんですけどねコレ」

 

コレ、と彼女が指差すのは銀色に光輝く指輪。

 

「え、何、買ってるなんて知らなかったわよ」

「あーいえ、そういう訳ではなくてですね。エンゲージリングってやつですよ。いやマリッジリング?日本語では婚約指輪とか結婚指輪とも言いますね」

 

婚約、結婚。

え、じゃあ、これって、

 

「あー…」

 

こほん。

咳払いをして紅葉が柄にもなく真面目に私に向きあって。

 

「綾目」

 

いつも気だるそうな目が今だけは私を凛とした視線で射抜いていた。

 

「私と結婚してくれませんか」

 

心拍数が跳ね上がると同時に胸のあたりがブワッと暖かい感情で満たされていく。

どうしよう、どうしよう。

 

「……はい」

 

その瞬間ぎゅっと紅葉に抱きしめられた。今までで一番愛おしげに。

 

「綾目」

「はい」

「愛しています」

「私もよ、紅葉」

 

私、死んでしまいそうなほど、幸せだ。

 

 

 

「おっめでとー☆紅葉やるじゃん♪」

「祝うに福と書いて祝福!」

「いつ言うかいつ言うかと見とったけどやっとか!長かったなあ!」

 

幸せだ、と思ったのもつかの間、いつも聞き慣れている声が3つ急に飛び込んできた。

 

「楓に杏子に黒百合、いっ、いつの間に?!」

「あんたらいつから見てたんで、す…?」

 

いきり立った紅葉が3人に向かって歩き出そうとした瞬間、急に膝から崩れていった。

 

「紅葉?!どうしたの?!大丈夫?!」

 

地面にぶつかる直前に身体を支えると、顔を覗き込む。

視線は定まらず、小刻みに黒目が揺れていた。

 

「病に気と書いて病気っ?!」

「えっ何なに、具合悪かったの?」

 

「吐きそう、気持ち悪……」

 

そう言った彼女の顔はいつにもまして青白い。

 

「と、とにかくウチ医者呼んでくるわ!」

 

黒百合がバッと身を翻して駆けていく。

その後を追って楓と杏子が同様に駆けていった。

手を頬に当てると高いとは言えない温度が伝わってきた。風邪ではないようだがならば何故。

 

未だに焦点が定まらない紅葉をゆっくりと横にし、頭を私の膝の上に乗せた。膝枕というやつだ。

色素の薄い彼女の髪が私の上で散らばった。

 

「いいですねこれ、今度、ぅえっぷ」

「紅葉、しっかりして!ねえ!」

「やっべ何かグルグル回ってきた……」

「紅葉!」

 

そのまま、紅葉はほとんど気絶するような形で眠りについてしまった。

すぐ後に黒百合たちが医者を連れて来てくれてあっという間に病院へと担ぎ込まれた。

医者の診断では極度の睡眠不足と過労、それにストレスが重なってこのような状況になったのだと説明された。

 

今は、充てがわれた病室で静かに寝息を立てて眠っている。

 

病室で横たわる紅葉を見ると、眼の下に酷い隈が鎮座していた。

私が会った時に気づかなかっったのは、お化粧で隠していたからだ。私も医者から言われてやっとだった。

紅葉の顔をよく見れば、顔色がとても悪いのが分かる。いつもあまり良くもないが、今はいつにもまして酷く青白かった。

元々痩せ気味だったのに更に痩せたような気がする。

 

「その、綾目ごめんね……あたしたちが余計なことしたから…」

「ごめんなさい…」

 

振り返るといつの間にか後ろに楓が黒百合と杏子を連れて立っていた。

楓と黒百合はバツが悪そうに、杏子にいたっては今にも泣き出しそうな顔をしている。

 

「ううん、今回はしょうがないというか、誰も責めようがないわ」

「ホンマすまん、折角、なぁ」

 

 

「紅葉も、怒ってないはずよ。きっと何事もなかったみたいにするんじゃないかしら」

 

そう言って紅葉を見やる。

顔にかかっていた髪をわきへと避けてやっても、それでも彼女は起きない。

 

「…なぁ、綾目は今日どうするんや?」

「今日はこのまま泊まろうと思うわ。もしかしたら起きるかもしれないし」

「そっか。ほなウチらはまた明日出直してくるわ。何かいるもんあったら言ってな。すぐ持ってくるわ」

 

ほら行くで!と、黒百合は楓と杏子を連れて病室から出ていった。

多分、黒百合なりに気を使ってくれたのだろう。

あのままだと杏子は泣きだしてしまっただろうし、楓も釣られて泣いてしまうはずだ。

 

ふう、とため息をついて視線を紅葉へ戻すと。

 

「あー…おはようございます?」

「っ、紅葉っ!」

 

彼女が、目を覚ましていた。

声は寝起きなのか、まだ力は入ってはいなかったけれども、視線の先にはっきりと私を捉えている。

 

「大丈夫?!貴方いきなり倒れたのよ?」

「あ、あー…もしかしてここ病院ですか?」

 

ゆっくりと首を回してあたりを見渡すと、バツが悪そうに私を見上げてきた。

 

「もしかしなくても病院よ。お医者様から寝不足と過労とストレスだろうって聞いたのだけれど…紅葉あなたちゃんと寝てなかったの?」

「……確か今日で3徹、いや4徹だったような…よく覚えてませんが」

「てっ徹夜するほどだったの?!何で呼ばないのよ!」

「だって、最近、会う時間少なかったから、ここいらでがっつり作ろうと思いまして」

 

貴方の手を借りたら、意味が無いでしょう。

なんて、彼女はのたまった。嗚呼、もう。何でこんなに彼女は嬉しいことを言ってくれるのか。

でもこんなになるまでやらなくてもよかったのに。こちらはとても心配したというのに。

 

「ホント、バカねえ。うんバカだわ」

「バカですみませんねえ」

 

紅葉が少し拗ねた顔をして視線を私から逸らした。それが何だか可愛くて思わず吹き出してしまった。

それが気に喰わないのか、頬を膨らませるというオプションまでつけてきた。ああ可愛い。

 

「あ、しまった、連絡しないと…」

「ダメよ、あなたしばらく安静にするように言われているのよ」

「ですけど、まだ残ってるのが…」

「いいから。ねえ、それは私の務めでしょう?」

 

トントン。と薬指に嵌った指輪を指先で叩いて紅葉に見せてみた。

紅葉は一瞬面食らったような顔をしたが、すぐに表情を崩して柔和に笑って。

 

「申し訳ないですが…では、お願いいたします」

「ふふっ、任されたわ」

 

私も笑って返した。

ああそうだ。

 

「ちょっと待っててね。お医者様に目が覚めたことを伝えないと」

「うへぇ、問診とかされるんですよねえ?」

「すぐに終わるわよ、多分。行ってきます」

「…行ってらっしゃい」

 

病室の扉を開けてお医者様がいるところへと向かう。その足取りはここに来る時と違ってとても軽い。

明日からきっと目が回るくらいに忙しくなるかもしれない。でも相談すれば黒百合や楓や杏子も手伝いに来てくれるだろう。

4人で仕事を片付けたら、紅葉に会いに来よう。本人はきっとめんどくさそうな顔をするだろうけれど、どこか嬉しそうな顔をして迎えてくれるだろう。

そして、私に向けて、私だけが知っている顔で、声で私の名前を呼んでくれるだろう。

 

ああ、明日が楽しみだ。

 

***

 

(うわーもー私ホントカッコつかない…)

(いいんじゃないか?おめでとう、紅葉)

(…ありがとうございます。熊谷)

 

*---------*---------*---------*---------*---------*---------*---------*---------*---------*---------*

 

走馬灯の中で散りゆく

 

※SQ5月号ネタです。単行本派の方や未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

「誰か…!!誰か来て下さいっ!!山吹さんと蓮華さんが…!!」

 

福の神の長の部屋から飛び出して、叫ぶ。が、誰も一向に私の方を見てくれない。

誰も私がいないかのように、普段通りに振舞っている。これも夜刀神が言っていた碇という人物の仕業なのか。

じわりと視界が滲んできて、これではいけないとかぶりをふって前を見据える。

次の瞬間、横から急に腹部へと衝撃が走った。

 

「浜菊!!?」

 

私の使い魔、浜菊が私を横方向に突き飛ばしていた。

何故、どうして、と思う暇もなく。

 

 

 

その小さな体を煌々とした刃が縦に引き裂いた。

 

「浜…」

「おや…」

 

すぐ後ろまで、夜刀神が追いかけてきていた。

その足元に中の綿を散らせて横たわる浜菊。

 

「…………!!!!」

 

浜菊、と名を呼んで戻ろうかと思った。

けれども。

 

『私のことはいいから行きなさいっ!!!!』

 

行かないと、私が行かなければ……!!

山吹さんももう動けない。浜菊の犠牲だって無駄にはできない。

 

 

「く!!」

 

 

歯を食いしばり、目尻から溢れていく涙を振り切るようにして回廊を突き進んでいく。

早く皆の元「全ては手遅れなのであります…」

 

パチン。

決して大きくはない鍔鳴りの音が回廊に響いた。気がした。

 

その瞬間。

 

「あ…」

 

目の前で飛び散るのは自身の赤。

斬られた、と思った時には勢い良く吹き出して、それに反比例するかのように身体が落下していくのが分かった。

べちゃり。とやけに粘っこい音と共に着物と髪に血が染みこんでいく。

流れ出た血が体温を急激に奪っていって、傷口がまるで燃え盛るように酷く私を苛んだ。

 

夜刀神が何かを喋っているが、私にはもう、うまく聞き取ることはできなかった。

ひゅーひゅーと喉から音が鳴っていて酷く耳鳴りがする。

 

「楓、」

 

見た目とは違ってとても泣き虫な子。

 

「杏子、」

 

私を姉のように慕ってくれる子。

 

「黒百合、」

 

紅葉をライバル視して何かと頑張ってる子。

 

皆の顔がぼやけだした視界に浮かんでは消えていく。

その中でも、ずっと消えないで残っていたのは。

いつも不真面目で、でもやるときはちゃんとやって。

本当はとても優しいのに他人との距離を開けたがる寂しがりやなあの子。

私の、大切なヒト。

 

「も、」

 

紅葉、貴方に、会いたい。

 

(想いは潰えた)

 

 

*---------*---------*---------*---------*---------*---------*---------*---------*---------*---------*

 

 





あとがき

いかがでしたでしょうか。
貧乏神組は初めて書きました。少ししか出さなかったのでよかったですが、楓と杏子の口調がよく分からない…
違和感をあまり出さないようにするので精一杯でした。

愛情のあかし:
綾目さん見た目清楚で大人な感じだけど、メルヘンチックな愛情表現しそう。まじかわいい。
紅葉はいつも飄々としてるからストレートに表現しそう。エロい意味でもそうでなくても色々触りたいとか思ってそう。
いやでも紅葉の自己紹介で好きな言葉に「束縛」ってあるんだよなーベタベタしててもおかしくないよね。

「おめでとう。」:
最初は仄暗いというか綾目さんが病み気味の鬱SS書こうかと思ったんですけど、いや3番目がすでに鬱じゃないかということで幸せそうなのをひとつ。
ここまで百合百合してるのは初めて書きました。貧乏神百合イチャイチャもっと増えればいいのに。

走馬灯の中で散りゆく:
SQ5月号を読んだ直後だったので見た瞬間、「うおおおおお!おおおぉぉぉ……」と変なテンションになりました。
あれは復活欲しいよなあ…復活すると信じて!
あとすいません、とんでもなく短いです…余裕があったら書きなおすかもしれません。
いや全体的に短いかも…



最後まで読んで頂きましてありがとうございました。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。