そんな世界に一人の子供が産声を上げた。高ランク騎士を輩出する名家・黒鉄家に彼は産まれた。新たな子供の誕生に、喜ぶ黒鉄家の者達だったが、しかし、数年後に誰もが落胆の表情を浮かべた。何故なら、産まれたその子には才能というものがなかったのだから。この才能というのは、異能を用いる為に必要な精神エネルギー、つまり魔力で決まる。総魔力量は努力で伸びる事はなく、人間の生まれ持った運命の重さに比例するとも言われている。
故に、誰もが産まれた彼に対して、まるで存在しないかのように扱ったのだ。身に宿る余りにも少ない魔力を持った少年を。だが、彼等は知りもしない。この少年が普通ではない事を。常識の埒外に住む存在である事を。存在しないように扱った彼等では、知る筈もなかった。
少年に宿る異常なまでの剣才に気付く者は、まだ誰も居ない。
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彼が最初に目覚めた時、視界に映ったのは何処までも暗闇だった。だが、次の瞬間、網膜を光が覆い尽くす。次に聞こえたのは、複数人の声だ。勿論、行き成りの事に戸惑うしかない。ここは何処だ? ここに居る奴等は誰だ? はっきり言って、今の状況が理解出来ないでいた。何故なら、ここに来る前に彼は確かに自分が、車に轢かれて死んだ事を自覚していたのだから。
故に、疑問を浮かべるばかりだ。しかし、彼の耳に聞こえる声は日本語。だからこそ、周りに居る者達の声を聞いて、絶句した。
(……………は?)
周りの者達は、彼を見てから、出産おめでとうと横に居る女性に言ったのだ。出産? なんで自分を見てから言ったのか。そんな疑問はすぐに解消される事となった。彼は自身の姿に、漸く気付いたからだ。
(な、んだよ………これ)
小さい。手が余りにも小さい。というより、全体的に小さくなっていた。混乱する頭だが、脳裏にとある単語が過る。輪廻転生、と。そして周りに居る者達の言葉に、理解した。自分は赤ん坊として、この世界に誕生したのだと。
輪廻転生を経験した彼は、すぐに冷静になる事を務めた。そして前世?の事を思い出し、これは都合が良いと納得する事にした。今生こそ、楽しく生きようと。親とかにも孝行をしようと誓う。だが、彼はこの世界が前世と同じ世界だと勘違いしていた数年前までは。
今生を楽しく生きようと、誓ってから数年が経過して彼────黒鉄一輝はその誓いが崩れかけているのを自覚していた。何故なら、家の者達が自分の事を居ない者として扱っているのだから。理由は知っている。最初に知った時は、凄く驚いたものだ。この世界に魔力など異能というファンタジーがあったのだから。そして、自分にその才能がない事に家の者達が落胆したのを知っている。
自分も当初は、落ち込んだりもした。なにせ、ファンタジーがない世界から転生してきたのだ。少しは憧れるというものである。だが、結果は魔力量が平均の1/10というものだった。魔力が余りにも少なく、魂を具現化した装備である
だからこそ、黒鉄一輝はこの世界において誰もが認める劣等生であった。しかし、そんな事で彼は諦めなかった。才能がない? 上等だ、と笑みを浮かべる。ここはファンタジーのような世界。ならば、なんら不可能な事はない。意味が不明な彼の発言だが、こうして彼の目標が決まった。それは即ち、
────劣等生が世界最強の剣士になる事だ。
目標は決まった。なら、後は実行するのみだ。剣技ならば大丈夫だ。何故なら、自分の中に憧れともいえる剣士達が居るのだから。一対多数の戦いを得意とする実戦本位の殺人剣を使う剣士。燕を斬る為に、一心不乱に剣を振り続けた農民。誰よりも力を求め、空間を、次元を斬るまでに至った魔人。見本ならば、師匠ならば彼の記憶に大勢居る。
「まずは、空間を斬れるようになるまで鍛えるか」
見てろよ、黒鉄家。俺を無視した事を後悔させてやるよ。彼は口角を吊り上げて、宣言するように、そう呟いた。これから始まるのは、落第騎士の英雄譚。いずれ、遠くない未来に剣の頂きに到達した者。『常勝不敗の剣神』と謳われるであろう少年の物語。
彼が表舞台に現れる約十年前の出来事である。
原作の頃には、黒鉄一輝は剣技の怪物になっています。