剣技を極めた剣神(仮)   作:葛城 大河

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とりあえず、分割した。


第十二話 兄を追い続けた少女

少女────黒鉄珠雫は歩を進める。今日、待ち望んでいた日が訪れた。歩く。今、彼女が歩いているのは薄暗い通路。それは試合会場の入場ゲートまで延びめている通路だ。この先に自身の対戦相手が居る。破軍学園に置いて最強と位置付ける者が。挑むのは学園最強。紛れも無い強者。だからこそ、自分のチカラを試す価値がある。

 

 

負けるつもりはない。例え相手が頂点でも、関係ない。並び立ちたいのだ。共に歩みたいのだ。あの尊敬する兄と一緒に居たい。側に居たい。兄ならチカラがなくても、自分に対して側に居る事を笑って許してくれるだろう。しかし、だが、それを少女は自分自身が納得しない。兄の横には妹あり。黒鉄一輝には黒鉄珠雫ありと、知らしめる為には強くならなければいけない。歩みを早めると視線の先に、この通路の終わりが光を照らした。そうして────割れんばかりの歓声が珠雫を出迎えた。

 

 

『さぁそれでは、本日第十二試合の選手を紹介しましょう‼︎』

 

 

実況の少女が出てきた珠雫にそう言い、観客たちに向けて口を開いた。

 

 

『まず、青ゲートから姿を見せたのは、今我が校では最早、知らない者が居ない騎士・黒鉄一輝選手の妹にして、『紅蓮の皇女』に次ぐ今年度次席入学生‼︎ ここまでの戦績は十五戦十五勝無敗。やはり、怪物の妹も規格外‼︎ 今日も相手をどのようにして打倒するのかっ‼︎ 一年『深海の魔女(ローレライ)』黒鉄珠雫選手です‼︎』

 

 

ゲートから出てリング上に足を止めた。ドッと湧く歓声。しかし、その歓声は少女は気にしない。前方に視線を見据えて、集中力を高める。静かに息を吸い、吐く。それを繰り返して、戦意を漲らせた。少女がそこまでする相手が、すぐそこに居た。

 

 

『そして赤ゲートより姿を見せるのは、我が校の生徒会長にして校内序列最高位。前年度の七星剣武祭では二年生で準決勝まで駒を進めるという快進撃を見せるも、前年度の七星剣王となった諸星(もろほし)選手に敗北し、七星の頂には手が届きませんでした‼︎

 

 

しかし、彼女は帰ってきた‼︎ より強く、更に磨かれた未だ無敗の伝家の宝刀をひっさげて。その一閃の前では何者も無力と化す。今日も瞬く間に切って落とすのか‼︎ 破軍が誇る最強の雷使い、三年『雷切』東堂刀華選手です‼︎』

 

 

珠雫と同様にゲートから現れるのは、栗毛の髪をおさげにした少女。彼女こそが破軍学園最強の騎士。対峙して分かるチカラ。チリチリと肌を刺激するのは刀華の剣気だ。纏っている雰囲気、鋭い眼光。それを受けて尚、珠雫は口に弧を作った。

 

 

(確かに強い。それも、恐ろしく)

 

 

他の騎士たちに比べると分かる桁違い。流石は『雷切』。流石は前年度七星剣武祭ベスト四。しかし────

 

 

(─────だから、どうしたっていうの? 私が目指す場所は貴女を越えた遥か先。そこに行くために………たかが学園最強(・・・・・・・)なんて、蹴落とす)

 

 

己の固有霊装である『宵時雨』を逆手に持ち、珠雫は胸中でそう気炎を吐く。そして、

 

 

『それでは第十二戦目────開始っ‼︎』

 

 

戦いを始めるブザーが鳴らされ、少女たちの火蓋が切られた。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

試合開始のブザーが鳴り響いたにも関わらず、両者は動く事はせず、お互いが見合っていた。先程まで歓声を上げていた生徒たちも、全員が口を閉ざしリング上に漂う緊張感に唾を飲み込む。

 

 

「…………やっぱり出方を窺うか」

 

 

観客席に座る一輝は、動かない両者を視界に収めてそう口を開いた。珠雫は知っている。抜刀術の恐ろしさを。自分を見続けてきたからこそ、この中の誰よりも知っているだろう。

 

 

「そんなに凄いの? 『雷切』っていうの」

 

 

そんなリング上を見る一輝に、ステラが疑問を浮かばせて言った。彼女は『雷切』を見た事がない。だから、どれだけ強力なのかが分からないでいた。それに、一輝は頷きを持って肯定する。東堂刀華が持つ超電磁抜刀術『雷切』。アレを最初に見た時、一輝は眼を見開いた。自分のように彼らの剣技を再現したのではない。彼女自身が編み出したオリジナルの抜刀術。

 

 

一から作り上げたであろうその抜刀術を眼にして、凄いなと賞賛した。何度、思った事だろう。同じ抜刀術を扱う者として、彼女は全力(・・)で競い合いたいと。しかし、今はそんな感情を抑える。妹が戦っているのだ。ならば、そんな感情など抑え込み、妹を応援しよう。

 

 

(頑張れ珠雫。『雷切』に眼にものを見せてやれ)

 

 

胸中でそう呟いたと同時に、リング上で動きが見えた。

 

 

 

 

なんと動いたのは、刀華と珠雫の両者だった。地を蹴り、お互いが肉薄する。本来、刀華を相手にした場合、近付くのは愚の骨頂だ。ソレはクロスレンジに対して彼女は最強の刃を持っているからだ。故に、彼女と戦う際は如何に距離を保ちつつ攻撃するかを考える。しかし、『深海の魔女(黒鉄珠雫)』はそう考えなかったのだ。

 

 

確かに脅威のクロスレンジだ。だが、それが如何した‼︎ そのクロスレンジを踏み越えなければ、攻略しなければあの人()には追い付けない。二人は徐々に距離を縮める。刀華は黒漆の光沢を持つ鞘に収められた日本刀『鳴神』。その柄に手を添えた。そして鯉口を切り、刀を振り抜────く事は出来なかった。

 

 

視線を己の固有霊装(デバイス)に向ける。その視線の先、刀の鍔の部分と鞘の口である鯉口が、氷によって凍結されていた。これでは、抜刀出来るはずもない。そんな一瞬の隙、もうその時には珠雫が眼前に迫っていた。

 

 

「─────はぁぁぁぁぁぁぁッッッ‼︎」

 

 

動きを止めた刀華に振り抜くのは、珠雫の伐刀絶技(ノウブルアーツ)である『緋水刃(ひすいじん)』だ。高圧の水を武器に纏わせる事によって切れ味を上げる彼女の伐刀絶技。だが、簡単に刀華が喰らう筈もない。鯉口を凍結された事で抜く事は出来ず動きを止めた刀華であったが、それもすぐの事、回避行動に移る。延びた水の刃を横に回避した彼女は次の瞬間。

 

 

「逃がさない‼︎」

 

 

珠雫の言葉と共に、頭上から氷柱を降らせる。ここで逃す訳がない。鯉口を凍結させるのは、初見殺しだ。もう、これに引っかかる事はないだろう。相手は七星の頂を目指す騎士なのだから。故に、ここでなんの成果も上げる事なく逃すつもりはない。相手に暇を与えるな。常に自分のペースに引きずり込め。氷柱を降らし、肉薄して『緋水刃』を振るう。ソレを避け続ける彼女だ。ここまで避けられ続ける事に、珠雫はおかしいと感じた。

 

 

余りにも早く避けている。自分が攻撃をする前に、もう回避行動に移っているのだ。ソレに珠雫は気付いた。

 

 

(………くっ、貴女には一体なにが見えているんですか)

 

「………………」

 

 

内心で毒吐きながらも、攻撃をし続ける事は忘れない。だが、それも終わりを迎えた。何故なら、東堂刀華が呼吸のペースを戻していたからだ。鋭い眼光が珠雫を射抜く。

 

 

「──────ッ!?」

 

 

背筋にゾワリと悪寒が駆け巡る。感じた悪寒に従うように、少女は伐刀絶技『障波水蓮』を発動した。と、同時に刀華は『鳴神』を抜刀する。抜き放たれた『鳴神』の刃からは、三日月型の魔法斬撃が飛ぶ。だが、ソレは純水によって作られた水の壁に防がれた。幅が三十メートル程の水の壁は、そんな雷撃程度ではビクともしない。それに気付いた刀華は連続で、抜刀を繰り返した。それと共に放たれる雷の斬撃。ソレらを防ぎ続ける珠雫。

 

 

先程まで珠雫が攻勢に出て、刀華が回避に徹していた状況が気付けば、形勢が逆転していた。刀華が雷撃を放ち続け、ソレを珠雫は防ぐ。交代したかのように攻勢に出る刀華に、少女は舌打ちした。こうなる前に傷一つくらいは付けたかったと。だが、それをもう嘆いている場合ではない。次の作戦に移行させる。

 

 

(貴女を倒す為に練った策はこれだけではありませんよ)

 

 

飛来してくる雷撃を防ぎながら、珠雫はゆっくりと息を吸い、吐くのを繰り返した。試合開始したと共にに仕掛け続けたものがそろそろ完成する。それまで、時間を稼ぐ‼︎

 

 

雷撃を飛ばす刀華と同様に、珠雫もまた氷柱や水球を飛ばす伐刀絶技『水牢弾』を飛ばして迎撃する。お互いに二撃、三撃と魔法を飛ばし拮抗した遠距離での撃ち合い。それが続いていく中、珠雫が一つ行動に出た。

 

 

「…………『凍土平原(とうどへいげん)』‼︎」

 

 

瞬間─────リング上の地面が凍り付く。これで動きを制限した。しかし、刀華は氷の上でも変わらない動きで雷撃を放っている。だがそれに珠雫は驚く事はない。この程度では動きが完全に制限出来るとは思っていないのだから。それでもコレには意味がある。何故ならこれで、捕まえられる。

 

 

「─────」

 

「ふふ、初見殺しパート2です」

 

 

刀華が足をその場で縫い止められた。それは何故か、彼女が足を付けている氷上から氷の腕が伸び、ガッシリと掴んでいたからだ。これも強者には一回しか引っかからない初見殺し。駆ける。刀華の元に駆け抜ける。放つのは大きく大きく巨大に生成された氷塊の一撃。その次には幾つもの氷柱が設置する。そうして、それらを容赦する事なく解き放った。刀華が立っていた場所が爆砕する。砕け散った氷が舞い散る。

 

 

普通なら今ので勝負が付く一撃。しかし、珠雫は油断など見せずに構えた。東堂刀華かこれでは終わらない。珠雫はそう思っているのだから。そして爆砕した事により発生した煙が晴れ、そこには平然としていた刀華が立っていた。

 

 

再度、二人は向き直る形で距離を開けたのであった。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

『す…………素晴らしぃぃぃぃっ‼︎』

 

 

観客の思いを代弁したかのように実況の少女が叫んだ。

 

 

『息を呑む程の攻防の数々。余りにもハイレベルな戦いになに一つ言葉を挟めませんでした‼︎』

 

 

それだけ、眼を見張る程の攻防だった。そんな実況の言葉と共に生徒たちがザワザワと興奮と共に口を開いた。

 

 

『す、すげぇ………本当に俺たちと同じ学生かよ』

 

『いやいや、寧ろ本当に同じ人間か?』

 

『さすがは会長だぜ‼︎』

 

『いや、会長も凄いけど。会長と戦ってるあの子は何者よっ‼︎』

 

 

生徒たちから告げられていく言葉の数々。チカラも、技も、駆け引きも学生の一線を越えている。そして驚いているのは生徒たちだけではなかった。ステラ・ヴァーミリオンや有栖院 凪もまた驚いたように口を開いた。

 

 

「シズク、やるじゃない………‼︎」

 

「あそこまでやるなんて、あたしも驚いたわ」

 

 

二人は珠雫の実力を見た事がなかった。ただ、大体強い事は知っていた。それがまさか、ここまでやるなんてと感嘆の声を漏らす。相手は破軍学園最強にしてベスト四。そんな存在と相対して互角なのだから。

 

 

「もしかしたら、勝てるかもしれないわね」

 

 

ステラがリングに視線を向けて、そう告げる。そんなステラの横に座る一輝は、笑みを浮かべていた。同時にただ一人だけ、このリング上に起こっている事に一番最初に気付いた。

 

 

「…………ん? これは?」

 

 

それは超越的な五感を持つ彼だからこそ気付いた、黒鉄珠雫の仕掛け。その仕掛けに気付いた一輝はよりいっそうに笑みを深めた。

 

 

「へぇ………なるほどね。珠雫の奴、破る気だな────『雷切』を」

 

 

一輝が呟いた言葉は静かに木霊した。

 

 

 

 

 

 

地面が凍り付いたリングの上で、警戒を解かずに構える二人。────時は満ちた。珠雫は会場全体を横目で見てから、そう呟いた。仕掛けは終わらせた。後は全力で挑むのみ。すると、今まで喋る事のなかった東堂刀華が試合で初めて口を開いた。

 

 

「……………流石ですね」

 

 

彼女の言葉に答える事はせず、聞きに徹する。

 

 

「貴女は私が出会った中で、間違いなく最強の水使いです」

 

 

突然の賞賛に眉を顰める。そして続けて、刀華は言った。

 

 

「ですが、私も負ける訳にはいかない。黒鉄君と戦う為にも」

 

 

その最後の一言に珠雫はピクリと体を震わせる。

 

 

「………お兄様の事、知ってるんですか」

 

 

今では一輝の名前が有名になったので、この質問は意味のないものだ。しかし、そんな事を気にせずに刀華は言った。

 

 

「はい。私は彼が気になります」

 

「………………そうですか。気になりますか」

 

 

珠雫は幽鬼のように体をフラフラさせると、ふふふふと不気味に笑う。それに刀華は視線を鋭くさせて戦闘態勢を取る。感じ取ったからだ。戦いがもう始まると。頭の中に刀華の発言した『気になります』という言葉だけが流れていく珠雫は、戦意をより強く迸らせた。

 

 

「分かりました。貴女は─────私の敵ですッ‼︎」

 

 

最初から敵だったのだが、珠雫の場合はもう一つの意味も含んでいた。いっそうに増した気迫に、刀華は雷撃を飛ばす。それに体を低くした珠雫は、潜り込むように躱して刀華に肉薄する。再度、近付く珠雫。もうあの時の初見殺しは通用しないと分かっている筈の特攻だ。観客席に居たステラたちや、生徒たちの誰もが珠雫のこの行動が失態だと感じていた。少女の兄以外は。近付く。もっと近くに。そうして、珠雫は踏み込んだ。

 

 

東堂刀華の必殺の間合い。つまり、クロスレンジの領域に珠雫は遂に足を踏み入れたのだ。刹那────抜き放たれる。誰も攻略が出来ずにいる不敗の斬撃。

 

 

「─────『雷切』」

 

 

呟く。刀華は己の絶対的な自信を持つ伐刀絶技を解き放ったのだ。超電磁抜刀術────『雷切』を。疾く鋭い刃。一刀の元に切って落とすソレは、珠雫を刈り取ろうとした。しかし、

 

 

「──────ッ!?」

 

 

そこで、初めて刀華の表情が歪んだ。今まで表情を変化させる事がなかった彼女の明確な変化。何故なら────

 

 

「…………どうですか? 自慢の一撃を避けられた感想は」

 

 

刀華の抜き放たれた『雷切』が、珠雫を捉える事なく空を斬っていたのだから。振るわれた動作に、刀華はすぐに対処する事が出来ない。そんな今まで見せてきたものよりも明確な隙に、珠雫は短刀『宵時雨』を振るった。そうして彼女から鮮血が舞った。

 

 

「なっ!? ど、どうやって避けたのシズクはっ!?」

 

 

刀華に傷を負わせた珠雫に、ステラはそう叫んだ。観客席は騒然とした。何故なら破られた事のなかった。不敗の刃を避けて見せたのだから。ステラもここから見た『雷切』には、戦慄を隠せない。あの斬撃にはソレだけの威力が秘めている。だからこそ、アレをどうやって避けたのか気になったのだ。それは隣に座るアリスも同様である。

 

 

そんな二人に対して、笑う者が居た。そちらに視線を向けると、笑っていた者はリングで戦ってる珠雫の兄である黒鉄一輝だった。おかしそうに笑う一輝に、ステラは珠雫がどうやって避けたのかを知ってると当たりを付けた。

 

 

「まさか、イッキは分かるの?」

 

「あぁ、まぁな」

 

 

訪ねてみれば、返ってきた答えは肯定だった。それに聞こうとした一輝は、まぁ待てと待ったをかけて、ステラの背後に声をかけた。

 

 

「貴女も聞きますか? …………寧々さん」

 

「……………え?」

 

「ちぇ、驚かそうと思ったのにさぁ。すぐに気付くんだから黒坊は詰まらないよねぇ」

 

 

そう言ってステラの背後から現れたのは小柄な女性だ。彼女はステラの豊満な胸を揉みながら、現れた。突然、揉まれた事に顔を赤くするステラは、女性を振りほどいた。

 

 

「まったく、なにをやっているんだお前は」

 

 

そうして次に呆れたように一人の女性が現れる。

 

 

「どうしてここに?」

 

「なに、用がある訳じゃない。お前たちの姿が見えたから声をかけただけだ」

 

 

彼女たち二人は珠雫と刀華の決闘を見物しに来て、一輝たちが視界に入ったからここに来たのだ。まぁ、その際に小柄の女性────西京 寧々が黒坊を驚かしてみようぜ、とか言っていたが。

 

 

「それで? 面白い話をしてたじゃん。『雷切』を避けた方法だってぇ? 私にも教えろよぉ」

 

「なに言ってんですか。寧々さんだって、気付いてるんでしょ」

 

 

寧々が避けた秘密を聞くが、一輝は苦笑してからそう言うと「まぁなぁ」と悪びれもせずに答えた。そんな会話に我慢が出来なかったステラは、一輝に声を出した。

 

 

「勿体ぶらず、早く教えて」

 

「あぁ、そうだな」

 

 

ステラの言葉に一輝は、言った。恐らくステラならすぐに分かるだろうと。

 

 

「ステラ………この会場を眼で見て、または肌で感じてなにか思わないか?」

 

「…………え?」

 

 

そう言われて、改めて会場全体を見渡した。しかし、なにもおかしくない。と、思ったステラはある事に気付いた。

 

 

「…………水分?」

 

 

集中しなければ分からない程に、会場全体に霧よりも薄い水分で覆われていた。これが『雷切』を避けれた理由なのかと首を傾げるステラに、一輝は説明した。

 

 

「そう、これは水分だ。霧よりも薄くより薄く、珠雫が会場全体に散らばらせたものだ。そして、この水分が珠雫の肌であり、眼であり、五感そのものでもある」

 

「え? それってまさか…………」

 

 

そこまで言われればステラも気付く。自身の魔力で作られた水分を薄く薄くして、会場を包み込む事によって完成する伐刀絶技────『水色結界』。その水分が珠雫に全てを教える。

 

 

 

刀華が鯉口を切り、『鳴神』を抜刀する。その次の瞬間。珠雫が張った『水色結界』が振り抜かれた瞬間に動いた事を珠雫に知らせる。そうして、刃は珠雫が居た場所に空を切り、少女は近付いていた。刀華が攻撃する前に、もう珠雫は動いているのだ。それが『雷切』を避けれた理由。幾ら、どれだけ速くとも、何処から来れば良いのかさえ分かれば、そして来る前に避けてしまえば当たらないのは自然の道理だ。

 

 

血を滴らせながら、『鳴神』を振るうも、まるで何処から攻撃するか分かるかのように先に避けられてしまう。そしてソレを攻撃に活用すれば、恐ろしいものに変わる。何処に移動しても、予知したかのように先回りされる。これが『水色結界』の能力。擬似的な超感覚を珠雫に与える伐刀絶技。結界を張るのに時間が掛かるのがデメリットであり、驚異的な魔力制御がなければ使うことが出来ない。そしてダメ押しとばかりに、もう一つ伐刀絶技を発動。

 

 

氷を一瞬にして気体に変化させて濃霧を生み出す。『白夜結界』。たった一瞬の視界封じ。その間に、更に魔力を込める。そして放電によって霧を吹き飛ばした刀華の視界に広がったのは────

 

 

氷柱、氷柱、氷柱、氷柱、氷柱。視界を覆い尽くす程までの氷柱群。ソレら全てが刀華に向いていた。

 

 

「氷柱一つ、二つでは簡単に避けられる。ならば、これならどうですか‼︎」

 

 

一つや二つ、五つや十つ程度なら東堂刀華は避けてしまうだろう。ならば、それを超えた数ならば。万を超えた氷柱群ならばどうだ。万の氷柱群を引き連れて珠雫は、まるで指揮者のように刀華に向けて指示した。

 

 

「さぁ、行きなさいっ‼︎」

 

 

瞬間────覆い尽くしていた氷柱群は、命令に従うように刀華に殺到して轟音を響かせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




珠雫のあたらしい伐刀絶技が登場。

・水色結界
使用人物:黒鉄珠雫
登場作品:剣技を極めた剣神(仮)
概要:霧より薄く、人が気付かないほどの水分を張り、包み込む。水色結界内にあるモノの全てを把握し、擬似的に超感覚を与える伐刀絶技。相手の次の行動を、自身よりも先に水色結界が使用者に教える。一時的にだが予知に匹敵する程の超感覚。
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