第十五話 巨人事変2は原作と変わっていくと思います。
亀更新時ですがそろそろ再開します。活動報告では結局詐欺みたいな感じになってしまいましたね。
あれから、えっと二年くらいですか。随分時間が経過しました。
そして今年もコロナウィルスの影響で周りがてんやわんやです。
体のことを気にしながら皆さんも毎日頑張ってください。
「俺は平気でしょ」という油断はしてはいけない(戒め)
黒鉄珠雫が兄を見付けたのは、本当に偶然だった。家の中で誰もが珠雫に頭を下げ、ご機嫌を取ろうとする。それが彼女にとっての当たり前の日常だった。どんな人も自分の顔を伺う姿に、少女は心の中で見下していた。そんな幼い自分を背後から見ながら珠雫は、これは『夢』の光景なんだと察した。まだ、黒鉄一輝に会う前の自分だと。────『夢』は続く。
馬鹿みたいに頭を下げて顔色を伺う大人たちが珠雫は嫌いだった。なによりも、そんな彼等を見下している事に少なからず自覚していた自分が大嫌いだった。少女は全てに嫌気がさして考える事をやめていた。と、それはあるパーティーの出来事である。いつも通り顔色を伺う大人たちに囲まれながら、珠雫は一人の少年に視線が止まった。
普通の少年だ。年齢は自分と同じくらいだろうか。少年を見続けて、ふと少女は思い出した。そう言えば自分には兄たちが居たと。恐らくだが、あの少年は自分の兄の一人ではないか、と思いながら、はて? と頭を傾げる。その少年の周りには誰も居なかった。いや、居ないのではない。誰もが近付こうとはしていなかったのだ。まるで、
視線の先の少年が動いた。キョロキョロと周りを忙しなく見回し、隠れるようにどこかに行こうとしている。それに、少女は小さな好奇心が刺激された。鬱陶しい大人たちを躱して、ゆっくりと少年の後を追い掛ける。その際、面倒だから大人たちになにも話さず少年と同じように隠れる事にした。
少年の後を着けて数分。そこは見覚えのある場所だ。
(ここは………? 裏庭?)
黒鉄家の広い裏庭だ。とはいえ、もう夜のせいもあり辺りは暗闇に染まっている。家に付けられている電球の光によって、珠雫は辛うじて少し離れている少年の事をやっと認識出来ているといった感じである。一体ここでなにを? と疑問に思った瞬間、少年は自身の固有霊装を顕現させた。抜き身の刀身を見せる一つの刀。ソレを正眼に構えて───振り下ろした。シャリンと、音を鳴らし空を斬り裂く。次いで、腕を返して刀を一閃し、止まる事なく振り続ける。
まるで、目の前に本当に敵が居るかのように。止まらない。刀を振るう腕を少年は全く止めない。汗が流れる、全身から凄まじい量の汗が溢れ、足元に小さい池を作っていた。だが、されど少年は止まる事をしない。なにが彼をあそこまでさせるのか、少女は荒々しくも綺麗に刀を振るう少年に見惚れて、そう思った。
そして、漸く少年は動きを止めた。息も絶え絶えで、刀を地面に刺す事でやっと立っている彼の姿は誰がどう見ても疲労困憊である。
「………はぁ、はぁ───よし、準備運動は終わり」
(………………………は?)
息も絶え絶えな少年が告げた言葉に珠雫は固まった。文字通り、全身が。どう見ても疲れている。表情を見ても、余裕がない事は明白だ。足も覚束ない。なのに、まだ続けるのか。すると彼は、長袖を捲り両腕に付けているリストバンドを外し地面に落とした。ドンッと軽くない音と共に土が凹むのを珠雫は見る。続けて、両足に付けているリストバンドも外す。リストバンドが無くなった体をほぐしながら、少年は地面に刺した霊装を引き抜き、再度、構えた。
リストバンドを外した所から呆然としていた珠雫は、構えた少年が視界に入り、首を振ってから注視する。もう動かない体でなにをするのか気になったから。普通なら限界に達している子供の体が動く事はない。子供の肉体はそんなに頑丈ではない。まだ出来上がっていない体で無理をすれば、いつか壊れてしまう。
黒鉄家の人間として珠雫はそれを知っていた。本来なら止めるべきなのだろう。壊れる前に。だが、何故だが気になってしまったのだ。止めるなら少し見た後に止めようと、心に決めて少年を見据えた。
「…………ふぅ。すぅ、はぁ」
眼を閉じて息を吸い吐いて、全身を整える。ゆっくりと両の瞳を開けて、眼前を見据え───体を動かした。瞬間。煌めくのは銀の閃光だ。
「─────ッッッ!?」
眼を見開く。驚愕する。余りにも、余りにも疲れている者の動きでは断じてない。早い。速い。なにより、さっきより疾い。剣閃が煌めき、静寂の夜に刀の音が鳴る。強く、なによりも強く、と。少年は足を一歩踏み出す。まだ限界ではない。これは通過点に過ぎないという気迫が伝わってくる。見惚れる。その技の冴えに。刀の閃きに、力強さに。黒鉄珠雫は一人、ただそこで見惚れているだけだった。
───気づいたら珠雫は一人だけだった。もう、目の前に先程の少年は居ない。恐らく帰って行ったのだろう。そうして、珠雫の事を探しに大人たちが来て、心配そうにするのを気にせず、少女は彼の名が気になった。それが黒鉄珠雫が自身の兄である黒鉄一輝を最初に見た瞬間だった。一輝本人はこの時に見られていた事など知らない。こうして、珠雫はあの少年の事が気になり始め、近付こうと決意する。
そうして、黒鉄珠雫は意識が浮上し、ベットの上で眼を覚ました。
「………………」
まだ幼く恋を知らなかった自分の夢を見て、クスリと笑みを浮かべて上体を起こした。自分が今、どういう状況なのかは、すぐに理解した。
「…………私は、負けたのね」
全力だった。正真正銘、過去の自分を上回り、知る限りの最強の力でぶつかった。それでも───『雷切』に超えられた。体を満たすのは敗北感。勝ちたかった。あの人の前で、お兄様の前で学園最強に勝ちたかった‼︎
「────珠雫」
「……………」
声が聞こえた。部屋のドアが開けられ、そこから一人の男子生徒が入って来る。見に覚えがある。それは当然だ。何故なら彼は自分のルームメイトなのだから。しかし、珠雫は今、誰とも会いたくはなかった。ドア付近に居る彼に一言、口を開く。
「出て行って下さい」
「…………………」
しかし、彼は一歩もその場から動かない。
「私を一人にしてっ‼︎」
叫ぶ。出て行けと。一人にしてくれと。だが、彼は動かない。
「聞いているの‼︎」
「えぇ、聞いているわ」
「なら私を一人にしてよ‼︎ お願いだから出て行ってっ」
「………それは無理よ。こんなに泣いている子を置いてなんていけないわ」
「……………………あっ」
抱き締められた。一体、何時近付いたのだろうか。有栖院 凪はその胸に気付かずに涙を流す珠雫を優しく抱き締める。それにポロポロと涙が溢れ、有栖院の暖かさに遂には涙腺が決壊した。泣く。ただ室内に一人の少女の泣き声が響く。
部屋の外。ドアを背にする形で立つ少年は、その泣き声を聞き、ゆっくりとドアから離れていく。そして、
「─────強くなったな、珠雫」
そう、自慢の妹にポツリと溢した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ねぇイッキ。本当に良かったのかしら。シズクとアリスだけにして」
「大丈夫だよステラ。アリスが付いてるし、なによりこの程度で珠雫は挫けたりしないから」
廊下を歩きながら、ステラと黒鉄一輝は話していた。珠雫が負け、病室に担ぎ込まれていくのを見て、ステラは急いで向かおうとしたが一輝がそれを制した。今自分たちが行っても逆効果だと思ったからだ。あの戦いは外から見ても分かりやすく全身全霊で挑んでいたのだ。そして敗北した。
そんな彼女に言える言葉なんて自分たちにはない。だからこそ彼は、ルームメイトであり、珠雫が信頼している有栖院に任せる事にした。
(それにしても、あれが『雷切』か)
黒鉄一輝は改めて、妹が戦った少女を思い浮かべる。眼をつむればすぐに脳裏に浮かぶ一閃。鮮烈にして過激な斬撃。己を鍛え上げ、磨き上げた事により生まれた彼女の抜刀術。確かに珠雫は追い詰めていた。あの場に居た者なら誰もが同意するだろう。黒鉄珠雫が力量で少し上回っていたと。だが、結果は彼女が勝利した。それは珠雫の油断の所為か? いや、それだけではない。
確かに珠雫の少しの油断も負けの原因だろう。しかし、一番の原因はそれではない。
(…………彼女は強くなった)
───成長。彼女は、東堂刀華はあの時、あの場所で更なる高みに成長したのだ。極限の一瞬という時間の中、体を加速させ、より最適に先に攻撃した筈の珠雫の速度を追い抜き『雷切』が炸裂した。東堂刀華は強くなった。少し離れていた差を一瞬で追い抜いたのだ。
震えた。口が笑みを作る。あれ以来から武者震いが止まらない。ご飯を食べる時も、鍛錬をしている時も、就寝の時も、あの剣技が頭にチラついて集中出来ずにいた。黒鉄一輝は『雷切』に心を奪われてしまった。前々から思っていた感情が増していくのを感じる。競い合いたい、と。一対一でぶつかり合いたいと。一人の剣士として。
(勝ち上がれば、それも叶う)
東堂刀華なら必ず決勝に上がる。なら、自分もまた勝ち進めばぶつかる可能性はある筈だ。戦えるかもしれない。そう思えば思う程に、より学内戦で負ける訳にはいかなくなった。と、そんな決意を改めて決めていると、前方から少女の声が響いた。
「………きゃっ‼︎」
ドサドサと書類をばら撒いて倒れ込む女子生徒。如何やら荷物を運んでいる最中に転んだようだ。「いたた」と口にする女子生徒を見ていた一輝は助けようと近付いて行って足を止めた。
「えっと、眼鏡眼鏡」
視力が悪いのか、自分の眼鏡を必死に少女は探していた。別にここまでならなにも問題はない。問題は、その探している姿だった。ペロンと捲れていた。本来ならお尻を隠す物が、全く機能しておらず、一輝たちの前でその一枚の布が曝け出されている。驚いて足が止まった一輝は、顎に手を持って行き「ふむ」と頷いてから言った。
「………白か」
なんの色かは敢えて明記しない。ただ彼の視線の先を想像すれば、おのずと答えは分かるだろう。すると、隣から異常な熱気を感知した。それに天井を仰いで、一輝は次に起きる展開を予測する。ここで言い訳を重ねても罪が重なるだけだ。なら仕方ない。ここは受け入れよう。
ただ、一つだけ言わせて欲しい。
「……俺は悪くない」
「────この変態っ‼︎」
何時だってこの立場になれば、男が悪い。実に理不尽な世の中である。廊下内に乾いた音が響いたのだった。
「あ、あの、黒鉄君大丈夫ですか?」
「平気平気、気にしないでくれ東堂さん」
「………ふんっ。あたしは悪くないわよ」
先程の女子生徒───東堂刀華と一輝とステラは廊下を歩いていた。ステラから痛い一撃を喰らって、眼鏡を探してい女子生徒が学園最強と呼ばれる東堂刀華だった事に驚いたのはつい先程の事。珠雫と戦っていた時は眼鏡をかけていなかった。といっても手加減をしていた訳ではなく、眼鏡をかけてない方が彼女に取って戦えるらしく、その事に一輝が考えたり、またお尻を守る機能を完全に放棄したスカートの事件が起きステラから再度叩かれたりと、そんな事が起きながらも一輝たちは生徒会室に向かっていた。
持っていく書類が多く、刀華が大変そうにしていたので運ぶのを手伝う事にしたのだ。そうして、接点が出来たので生徒会室に向かうまでの間、他愛ない会話をしていた。そうしていると、生徒会室の前に辿り着く。
「ここまで運んでくれてありがとう、黒鉄君、ヴァーミリオンさん」
「いや、そこまで苦じゃなかったからお礼はいいぞ」
「あたしもよトウカ」
改めて生徒会室の前でお礼を告げる彼女に、二人は気にしないでくれと返す。とはいえ、手伝って貰ったのは事実なので、生徒会室でなにかご馳走しますと刀華は言って、生徒会室の扉を開けた。
「……………え」
「「…………うわぁ」」
そして刀華は硬直する事になる。一輝たちも刀華の後ろから見た生徒会室内に声をあげる。散乱していた。本棚から幾つもの漫画本が散らばり、ゲーム機やソフト、服などトレーニング器具とかが、室内に散乱している。控え目に言って酷かった。この室内の原因は見ればすぐに分かる。テレビの前で楽しくゲームをやっている燻んだ銀髪の少年と、それを見ながらエキスパンダーを使用しているランニングシャツにパンツ一丁の少女だろう。
隣をチラリと見るとお下げの少女が「な、なななななッッ」と驚いている。それを見て、苦労してるんだなと、なんとなく察した一輝である。すると少女は、一輝たちの存在を思い出したのか、慌てて部屋の中に入るとドアを閉めた。
「も〜〜っ‼︎ うたくん。漫画を読んだらちゃんと本棚に直して‼︎ 兎丸さんもダンベルを出しっぱなしにしないっ」
「いやー、急にる○剣やドラゴン○ールとかスラ○ダンクを一気読みしたくなっちゃって」
悪びれもせずに答えるのは副会長の御祓泡沫である。それに兎丸恋々の格好を言及すると「えー、だって、かいちょーがクーラーを壊したから」という言葉に刀華は呻く。事実だからだ。とはいえ、それでも下着姿で居て良いわけではない。風紀が乱れますっ‼︎ と兎丸恋々を叱り、未だにゲームをしている泡沫のゲームの電源を強制停止する暴挙に出て横で「あああっ、ボクのはぐりんがぁぁぁぁぁっっ‼︎」とか言っていたが刀華は無視する事にした。
ゲームは一日一時間までと言っていたし、なにより自分だけゲームをして生徒会の雑務を書記・
そんな騒動を廊下から聞きながら、
「………苦労してるんだな」
「そうね」
二人は何故か刀華の今までの苦労が容易に想像出来てしまった。そして待つ事数分。ようやく、生徒会室のドアが開けられた。
「はぁ……はぁ……お、お待たせしました」
げっそりとした刀華が部屋に促す。
「お、お邪魔します」
少し遠慮気味に部屋の中に入ると、散乱して荒れていた部屋が綺麗になっており驚いた。よく数分で片付けたなと感心していると、視界の端に気になるものが映る。異様に膨らんでいるクローゼットの前に砕城が踏ん張るように屹立していた。
(…………………あれって、もしかしなくてもそうだよな? よし、気にしないでおこう)
触らぬ神に祟りなしである。触れなくていい話だ。進められる形で一輝たちは生徒会役員たちと同じテーブルに着席する。すると、恋々が一輝に話し掛けた。
「クロガネ君久しぶりだね。アタシに勝ってからも勝ち続けてるみたいだね。話を聞いてるよ。規格外だってさ」
「はは、まぁ、頑張ってますよ」
一輝は苦笑しながらそう返していると、カナタがステラに話し掛け、そこに刀華からお茶のお願いをされてお茶の準備をしにいくこうとしたカナタに、泡沫と恋々が自分たちのおやつも頼んだ。だが、
「悪い子には今日おやつ抜きです」
という、刀華の無慈悲な一言によりバッサリ切られた。
「ええええっ!? なんでーーー‼︎」
「ひどいよ刀華っ‼︎ おやつが食べられないんだったらボクたちはなんの為に
「生徒会役員だからに決まってるでしょっ‼︎」
生徒会の役員としてはあるまじき発言をする泡沫に、憤慨する刀華である。やはり凄く苦労しているんだなと同情してしまう。と、そんな言い合いをしていると砕城が感心したように刀華に言った。
「しかし、流石は会長だ。仕事が早い。例の件の助っ人を見つけてくるとは、それもこの二人ならば戦力として申し分ないだろう」
(ん? なんだ?)
砕城の言葉に疑問を浮かべる一輝は、どういう事か刀華に視線を向けると、彼女もまた分からないといった風に砕城に視線を向けていた。違っていたのかと少し困惑気味に砕城は言う。
「む? 違うのか? 珍しい客だからてっきりそうかと思っていた」
「なんだい刀華。もしかして忘れたのかい? ほら、理事長に頼まれたじゃん」
泡沫が思い出させるようにそう言うと、ようやく刀華は理解の色を示して思い出したかのように「あ、あああああっ‼︎」と叫んだ。と、そこで気になったのか隣に座るステラが一輝より早く尋ねる。
「ねぇ、例の件ってなんの事?」
その質問に刀華ではなく、貴徳原カナタが答えた。
「先日新宮寺理事長から生徒会に頼み事があったのです。七星剣武祭の前にいつも代表選手の強化合宿を行っている合宿施設が奥多摩にあるのですけど、最近そこに不審者が出たそうで」
(不審者? それは)
「穏やかじゃないわね」
「えぇ、そこで一応生徒会のほうで安全確認してほしいと頼まれたのです。ですが、生徒会だけでは人手が足りませんの」
先生たちも選抜戦の運営とかで手が回らないそうだ。そこで白羽の矢が立ったのは生徒会だったが、やはりそれでも人手が足りなく、助っ人を探していたとの事。ふむ、と考えてから一輝は口を開いた。
「ちなみに、不審者って情報はあるんですか?」
不審者といっても完全に分からない訳ではない。なにかしらその不審者に対する情報がある筈だ。それに貴徳原は少し言い淀んだ後、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「はい、それなんですが───体長四メートル程の巨人らしいのです」
「「はぁっ!? 巨人っ!?」」
二人がそう叫ぶのは仕方の無い事であった。
追記:一輝が気づかなかったのは修行に夢中になっていたからです。
ちなみに今の東堂刀華の強さはこの時点の原作よりも少し強くなっています。
珠雫との戦いで飛躍していきました。これからの成長に期待ですね。
あと、追々前話の十話とかを修正する予定です。