さて、如何しようか? 黒鉄一輝は現在、窮地に立たされていた。それというのも、目の前に居る、未だに金魚のように口をパクパクと開閉を繰り返す少女が原因だ。何故、硬直しているのか? それは第三者視点から見れば一目瞭然だった。一輝が扉を開けた状態で、呆然と立ち止まり、その奥で下着姿となっている一人の少女。
炎のように真っ赤な髪と同じく、顔を染める少女は、肢体を隠すように身を丸める。だが、その仕草さえも、男にはクルものがあった。勿論、それは黒鉄一輝とて、例外ではない。恥じらい体を隠す姿に、気付かぬ内にゴクリと唾を飲み込む。と、同時になんと言葉をかければ良いか分からずに、混乱した。そもそも、この部屋は自分の部屋ではなかったのか? 彼は何時もの数十キロのランニングを終わらせて、学生寮にある自分の部屋を開けた筈である。
という事は、ここは自分の部屋では間違いない筈なのだ。じゃあ彼女は誰だと疑問に思うも、一輝には見覚えがあった。それも付い最近に。確か、テレビで見た覚えが…………と、そこまで考えて彼は即座に中断した。何故なら、彼女の全身がプルプルと震え始めたからである。これはいよいよ持って、限界が近いと悟った彼は、すぐに言い訳を考えようと思考した。
そして以前、テレビで女性は褒められると喜ぶという内容を思い出す。今思えば、なんでここで、そんな事を思い出したのかと自分を殴りたくなった。しかし今の彼は、思い出した事をすぐに実行に移した。彼女の肢体を凝視した後に、親指を立てて笑みを浮かべ、彼は言い放った。
「うん、綺麗だ‼︎」
「…………え?」
「そのまるで、ルビーを彷彿とさせる髪の色。スタイルも良く、お腹がキュッとしまっているのも、鍛錬の成果が伺えて綺麗だ」
「なッ⁉︎ な、なななななッッッ」
彼女の顔がより一層に赤みが増す。だが、そんな事に気付きもせず、畳み掛けるように言葉を紡いで行く。
「スラリと伸ばされた足も、眼が行ってしまう程に美しく、存在そのものが宝石のようだっ‼︎」
「……………ッッッ」
その馬鹿かという程のべた褒めに、ついに彼女は顔を俯き始めた。そして、これでトドメだと言わんばかりに
「そして何よりも‼︎ 胸が大きいっ‼︎」
「……………」
シーン。彼等の間に静寂が舞い降りる。もう、なにも言う事はないと、彼は満足気に笑顔を向ける。対して少女は、ゆらゆらと幽鬼の如く体を揺らして、ゆっくりと一輝に近付いてきた。背後には陽炎のような物を作りながら。彼女が一歩進めば、彼は一歩下がる。怖い。何故か果てし無く、目の前の少女が異常に恐ろしかった。後ずさる彼の眼には、少し涙が浮かんでいる。すると、ドンと背中が壁にぶつかった。これ以上、後ろに下がれないのに、それでも彼は下がろうと足を動かす。
「ふ、ふふふふふふふ」
そして逃げられなくなった一輝の前に立ち止まると、少女は突然、不気味に笑い出した。その笑い声が、まるで魔王のように聞こえるのは耳がおかしいからなのか。と、いきなり笑い声が止まった。それにもしや、助かったのかなどと安堵の表情を浮かべる彼だ。しかし、それが違うのだと思い知らされた。少女はキッと鋭い眼光を浮かべて、俯いていた顔を持ち上げた。
メラメラと全身から炎を噴き出しながら、腕を振り上げる。そこまで行くと、次になにが起こるのかは予想しなくても分かるだろう。その事に彼は、あぁ、と諦めにも似たため息を吐いて、次に行われる行為を甘んじて受けるのだった。即ち、
「し、死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ‼︎」
「ぐぶほぉっ⁉︎」
不可抗力とはいえ、見てしまった罰としてのビンタである。正史の世界と少し変わった瞬間であった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「く、くくくくくく。それで、お前は下着姿の女を褒めちぎった訳だ。バカだな黒鉄」
「……………」
とある部屋で、黒鉄一輝の対面に居る女性が、我慢出来ないという風に笑っていた。それに頬に紅葉を付けた彼が、ぶすぅっとした表情で立っている。彼の前に居る女性は、
一輝はヒリヒリとする頬に手を触れて、納得いかなそうな表情をしていた。というのも、あそこは自分の部屋だ。何故、鍛錬から帰ってきたら殴られなければ行けないのか。つい先程の少女の姿を思い出して、ぶるりと体を震わせる彼だ。
「いや、すまないな。言うのが遅れた」
「えっと、それはどういう意味なんですか?」
悪い悪いと謝罪をする黒乃に、疑問を返した時、それと同時に理事長室の扉が開いた。そこから現れるのは、紅蓮の髪を持つ少女だ。先程の少女が入室してきた事に、何故か背筋を伸ばす一輝である。少しトラウマになっているかも知れない。彼女はジロリと彼を睨んだ後、黒乃に向き直った。その事に少し安堵する。
だが、下着姿を見たのは事実なので、彼は謝罪を口にした。
「ごめんっ‼︎ わざとではないとはいえ、見たのは事実だ。もしも、俺に出来る事があるなら、なんでもする」
「…………貴方、名前は?」
「え? 名前? 黒鉄一輝だけど」
謝った自分に対して、名前を尋ねてきた事に、呆気に取られたが急いで名乗りを上げた。すると、そう、と興味なさそうに言うと、言った。
「なんでもすると言ったわねイッキ」
「あ、あぁ、俺に出来る事なら」
「あたしは寛大だから、今から言う事をやってくれたら許すわ」
「本当かっ‼︎」
目の前の少女の発言に、たった一つの事で許されるのかと一輝は安心した。話せば分かるじゃないか。まどろっこしい言い訳などせずに、ちゃんと謝っていれば良かったではないかと笑みを浮かべた。
「────だから、ハラキリで許してあげる」
「は?」
笑みを浮かべたまま、硬直した。ハラキリ? 腹キリ? 腹切りぃ⁉︎ 少し言葉の意味を理解するのに時間を要して、やっと思考が回った。腹切りもしくは
「ちょっ⁉︎ 今、寛大って言ったよな⁉︎」
「そうよ」
聞き間違いかと告げると、さも当然だと言わんばかりに答えられた。聞き間違いではない。ならば、何故、この願いになる⁉︎
「寛大な処置で腹切りって冗談だろ⁉︎」
「なによ、文句でもあるの? 日本男児にとって、ハラキリって名誉なんでしょ?」
「何時の時代の話をしてるんだよ‼︎」
煩いわね、と視線を投げて言う彼女に、昔の話だと告げる彼だ。それに少し苛ついた少女は、叫んだ。
「なんでも言う事を聞くって言ったじゃない‼︎ 男の癖に自分で言った事も守れないの⁉︎」
「俺に出来る事ならっていうのも言ったよな‼︎ たかだか、下着姿を見ただけで死ねるか‼︎ …………あ」
こんな事で自殺などしてたまるかと、勢い任せに、言ってしまった。その後に彼は後悔した。恐る恐ると、前に視線を向けると、やはり彼女が全身から炎を噴き出していた。
「た、たがが、ですって………ッ⁉︎」
「あ、いや」
これはマズイと一輝は悟った。最早、聞く耳など持たないだろう。彼女────ステラ・ヴァーミリオンから噴き出す炎が姿を変える。一つの大剣に。それが彼女の
(に、逃げやがったなぁぁぁぁぁっ⁉︎)
内心で理事長に対して絶叫を上げる彼である。すると、彼女は火の粉を巻き上げながら、近付いてきた。瞬間。天井に付けられている火災報知器が鳴り響いた。ジリリリリリッとなる火災報知器に、止めないと本当に取り返しが付かなくなると理解した。だが、チラッと彼女を見ても、話を聞いてくれるとは思えない。
「ま、待ってくれ。そうだ、一旦、落ち着こう。そうしよう」
歩いてくる彼女に、後ずさる自分。なんか既視感を覚える光景だなと、頭の端で考える。
「………人の部屋に忍び込んで、この肌を穢しておいて」
「け、穢すって人聞きが悪すぎるだろ‼︎ ん? ってか今、人の部屋って」
言葉を紡ぎながら歩いてくる少女の言葉に、気になる単語を見付けた。しかし、今はそれ所ではない。
「あたしの裸をイヤラシイ眼で見た癖に‼︎ 舐めるように、嬲るようにジィッと見てた癖にっ‼︎」
「い、いやそれは…………」
はっきり言ってその言葉に彼は否定が出来なかった。一輝も一人の青少年だ。そんな彼が、果たして目の前に下着姿の美少女が現れたならば、眼を逸らすだろうか。いや、断じて逸らさない。逸らすのは数少ないヘタレ野郎だけだ。黒鉄一輝は男として、一人の男性として逸らす筈がなかった。故に、舐めるように、嬲るようには見ていないが、しっかりと網膜に刻みつけたので、否定出来ないのもまた事実だ。
「あ、あれは、その」
だからこそ、なんと言っていいか分からずにしどろもどろになる。それにより一層に怒りの炎を高める少女だ。そして、彼はまたもや言ってしまった。
「いや、しょうがないだろっ。あんたのような綺麗な美少女なんて、目の前に現れたら見惚れるに決まってる‼︎」
「ふえっ………⁉︎」
正直に告げた、その発言に、高まっていた炎が霧散した。同時に大剣も消失する。すると、先程までとうって変わってモジモジとしだした彼女に、あの褒めちぎった時の事を思い出して、そういうのが弱いのかと理解した。そしてこれは好機だと一輝は思った。未だにモジモジする少女に、彼は言った。
「あの、ステラ・ヴァーミリオンさん?」
「な、なによっ」
「あそこは、俺の部屋の筈なんだけど」
やっと、あの部屋が自分のだと言う事が出来た。だが、彼女の表情は信じられないとばかりに眼を見開く。
「こ、この後に及んでまだ…………」
そんな事をッと言おうとした時、別室にへと逃げていた黒乃が、本当にタイミングよく言い放ちやがった。
「あぁ、言い忘れていたが。君達はルームメイトだ。────今日からな」
「「…………え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ⁉︎」」
理事長が告げた衝撃的な告白に、二人は同時に叫んだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
所変わって、一輝の部屋の前。そこで黒乃が、ステラ・ヴァーミリオンと付けられている名札を持って、二人の前に立っていた。
「という訳で…………」
黒乃が言葉を続けようとすると、そこで遮る者が居た。黒鉄一輝である。
「ちょっと待ってください。ルームメイトになるのは、同レベル者ですよね。なんで、Aランクのステラさんが、
それは最もな疑問。彼はこの『破軍学園』に置ける誰もが認める落第生なのだ。その事に黒乃より先に反応を示したのはステラだった。
「えっ⁉︎ あんた、落第生なの⁉︎」
「まぁな、俺のランクFだし。使える異能なんて、身体能力の強化だけだし。魔力の量なんて、平均の1/10だしな‼︎」
何故か自信満々に、誇りだという風に胸を張る彼である。続けて補足するように黒乃が紡いだ。
「他の能力値も軒並み最低レベルで、付いたあだ名が『
ポツリと最後の言葉を聞こえないように呟く黒乃である。案の定、二人には聞こえていなかったみたいで、一輝の経歴を聞いたステラは、視線を向ける。
「………『
「そしてそれこそが、質問の答えでな。黒鉄程、劣った者は他に居ない。ヴァーミリオン程、優れた者もまたしかり。と、言う訳でだ」
簡潔に述べる『破軍学園』理事長に、一輝は呆れるしかない。すると、隣に居るステラが声を荒げた。
「ま、間違いが起こったら如何するんですか⁉︎」
「ほぉ〜、どんな間違いが起こるのかなぁ」
失敬なと胸中で反論する彼など知らず、少し含みのある言い方を黒乃が言った。その事に顔を赤らめて、言葉を詰まらせる少女である。それを見てから、安心するように告げた。
「君達以外でも、男女でペアになるものも居る。いやなら、退学してくれても結構」
退学。その一言がキッカケになった。ピクリと反応示して、ステラは顔を上げる。と、一輝に顔を向けると指を三本立てて言葉を言い放つ。
「分かりました。ただし、同じ部屋で生活するなら三つ条件があるわ」
「その三つってのは」
嫌な予感がしながらも、聞く事にする。彼女は指を一本ずつ折っていき口を開く。
「話し掛けない事。眼を開けない事。息しない事」
聞いて行く内に、面白いように一輝の表情が引きつった。横暴にも程がある。というよりも、息しない事とはなんだ。息しない事ととは。了承した日には、自分は死んでいる。だが、それすらも生温かった。
「その条件さえ了承してくれるなら、部屋の前で暮らして良いわ」
「しかも、中じゃねぇのかよっ‼︎」
三つ条件を守ったとしても、部屋の中ではないとは、一体どれだけ鬼畜なのだ。彼が不満の声を上げると、ステラが眉を寄せた。
「なによ? 出来ないの?」
「いや、出来る訳ないだろ。せめて、息だけはさせてくれ。お願いします‼︎」
「嫌よっ‼︎ あたしの匂いを嗅ぐつもりでしょ変態っ⁉︎」
「じゃあ、口呼吸で言いだろっ」
「駄目よっ‼︎ あたしの吐いた息を、舌で味わうつもりでしょ変態⁉︎」
「…………その発想はなかった。ってか、如何しろっていうんだよ‼︎」
寧ろ、その発想をするステラが変態なのでは? と、一瞬考えてしまったが口に出す事はしなかった。口に出してしまえば、次の未来が意図も簡単に予想が出来るのだから。
「じゃあ、退学しなさいよ⁉︎」
「めちゃくちゃにも程があるだろっ⁉︎」
二人の言い合いを止めたのは、傍観に徹していた黒乃だった。
「まぁ、落ち着け二人共。己の運命は、剣で切り開くのが騎士道………だろう?」
そう言って顔を二人に向ける。黒乃がなにを言いたいのかは、それで理解した。
「つまり、実力で話を付けろって事ですか?」
「あぁ、模擬戦をやって、勝った方が部屋のルールを決めるんだ」
「それなら、公平だな。そうしよう、ステラさん」
とんとん拍子に話が進んで行くが、ステラに取っては信じられなかった。何故なら、目の前の彼は学園最弱と呼ばれる男なのだから。故に、彼女は言う。
「はぁ〜? あんたFランクの落第騎士なんでしょ。いっちゃ、なんだけど、Aランクのあたしに勝てる訳がないわよ」
それは誰もが知っている常識。
「やってみないと分からないだろ? それに、俺も強くなる為に
「………分かったわ。やってやるわよ、その試合。でも、それなら賭けるのは、もう部屋のルールなんてもんじゃないわよ」
一輝の発言に、何処か苛立ちを見せた彼女はそう言うと、続けて答えた。
「負けた者は、勝った者に一生服従。どんな、屈辱的な命令でも、犬のように従う下僕になるのよ‼︎」
「いや、なに言ってるんですか? 貴女は」
ますます、目の前の皇女様の事が分からなくなってきた一輝である。
「い・い・わ・ねぇっ‼︎」
「………は、はい」
しかし、物凄い形相で、有無を言わさないように言われて彼は頷いてしまった。それを見届けた黒乃は、二人に向けて告げた。
「決まったな。これより一時間後、第四訓練場にて、模擬戦を行う」
黒乃の宣言に、二人は対照的な反応をした。ステラは、一輝を睨み付け、彼は苦笑いを浮かべるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
第四訓練場。更衣室で、ステラ・ヴァーミリオンは、模擬戦の準備をしていた。
「全く、なんであたしがこんな事を」
ぶつぶつと呟くのは、模擬戦に対する事だ。すると、彼女は黒鉄一輝が告げた努力という言葉を思い出して、顔を俯かせた。
「…………なにが、努力してるよ」
そこには悲痛な思いが込められていた。昔の事を思い出して、ポツリと呟いた。
「……………その為なら、どんな努力だって」
と、そこで切り、彼女は顔を上げて力強い言葉を発した。
「叩き潰して上げるわ」
思い浮かべるのは、模擬戦相手である少年────黒鉄一輝の姿である。
更衣室を出て廊下を歩く。廊下には大勢の生徒達が居て、堂々と歩くステラに誰もが視線を向けていた。
「見て。『紅蓮の皇女』よ」
「お姫様で、しかも天才かぁ」
「良いよねぇ。人生イージーモードで」
生徒達の自分勝手な言葉が、投げ付けられる。だが、それも今となっては慣れたものだ。すると、彼等の会話はステラから、なんでここに居るのかに変わった。
「でも、そんな人がなんでここに?」
「あぁ、模擬戦だろ」
「よりによって、『
模擬戦の事は、生徒達にも伝わっているらしい。その中で『
歩いて数分後。廊下の終わりが見えてきた。ここを出れば、恐らく黒鉄一輝が待っているだろう。出口に向けて歩いて行くと、その途中で、声を掛けられた。
「待っていたぞ、ヴァーミリオン」
「………? 理事長」
声がした方向に視線を向ければ、そこに居たのは神宮寺 黒乃だ。彼女はステラの方に近付く。模擬戦前に、話し掛けてきた彼女にステラはピシリと言う。
「なんですか? もしかして、手加減しろと頼みに来たんですか」
そう思っても仕方がない。それだけ、FとAでは格が違い過ぎる。しかし、黒乃が言った言葉は全くの逆だった。
「いや、違う。私はその逆を言いに来たんだ」
「…………逆?」
「そうだ、ヴァーミリオン。良いか。決して手を抜くな」
「…………え?」
ステラは呆然とした。何故なら学園の理事長がFランクの落第生に対して、最初から全力で行けと告げたのだから。その言葉の意味が分からず、口を開こうとしたが、先に黒乃が紡いだ。
「良いなヴァーミリオン。お前が過去に、どんな奴等と戦って来たかは知らない。だが、黒鉄をそいつらと一緒にするな。油断をすれば、一瞬で決着が付くぞ」
それだけだ、と言い黒乃はステラの横を通り過ぎた。いきなりの言葉に、ステラは黙る事しか出来なかったが、歩みを再開させた。すると、忘れていたと前を歩いて行った黒乃が付け加えた。
「それとだヴァーミリオン。もしも、もしも黒鉄が腰に差している鞘に刀を納刀したら、神経を研ぎ澄まして注意しろ。ま、注意していた所で、無意味なんだがな」
何処か意味深な発言を残して、黒乃は今度こそ去って行った。彼女の言葉が、残りつつステラは廊下を抜け切り石で出来たリングの上に上がった。
黒鉄一輝とステラ・ヴァーミリオン。二人はリングの中央で相対した。
「ステラさん。準備は出来たか?」
「ここに来る途中で、噂を聞いたわ。あんた、能力値が足りなくて、実戦の授業を受ける事すら出来なかったそうね」
呆れた風に言ってから続ける。
「魔導騎士を目指すのなんて、諦めた方が身の為なんじゃないの」
その通りだ。実戦授業を受ける事すら出来ない彼が、卒業するのはあり得ない。それに一輝は、理事長と約束をしている。学園を卒業するには、七星剣舞祭に優勝しなければ、卒業させてくれないのだ。その約束など知る筈もないステラだが、知っていたとしても、同じく不可能だと断じて辞めた方が良いと言ったかもしれない。
「それは無理な相談だな。俺は魔導騎士の立場が欲しいんだ。あと、この試合は辞めるつもりはない」
「…………努力すれば、才能にも勝てるって言いたがる口かしら貴方も」
「そうだな。俺は幼少期から、努力は全てに勝ると思ってる」
彼の言葉を聞いて、ステラはつまらなそうに視線を細めた。思い出されるのは、自分に挑んできた者達が、負けた時に言った言葉。
『ここまで努力しても、才能に負けるのか』
ギリッと、血が出る程に手を握り締める。まるで、まるでこっちが努力していないみたいに。そこまで思い出して、ステラは横に顔を向けた。そこに居る黒乃にへと。
「さぁ、そろそろ始めましょう理事長先生」
「………それでは、これより模擬戦を始める。分かって居るだろうが、模擬戦は肉体的ダメージを与えず、体力のみを削り合う戦いだ。
模擬戦の説明をしおえると、訓練場のライトがリングの上だけを残して消灯した。それと同時に、二人は
「………来い『陰鉄』」
「
次の瞬間。一輝の右手には抜き身の刀が現れ、ステラは膨大な炎を放出させて、まるで王者の如く一つの大剣が姿を現した。すると、頭上にあるモニターに『Let’s Go Ahead』の文字が流れる。こうして、少年と少女の模擬戦が開幕した。
観客である生徒は、少ない。恐らく、見に来なかった生徒達は、勝負にもならないと結論付けたのだろう。故に、見る事は叶わない。数少ない観客である生徒達と、対戦相手たるステラ、そして審判役の神宮寺 黒乃。この第四訓練場に居る全ての者達は、目撃する事になる。
────剣術の極致とも呼べる
────あれこそが、誰もが求めた到達点の一つだと。
戦闘は次回に持ち越しです。そして、黒乃理事長が言っていた鞘は、書かれていませんが、ステラと出会ってからずっと、腰になにも納刀していない空の状態で差しています。ステラが気付かなかったのは、下着姿を見られた事や、綺麗など言われ、ルームメイトなどと告げられた事により、混乱して気付かなかった事にして下さい。
さて、次回、どの剣技で行こうかな?