相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

100 / 256
第70話 武将達の判断の話

2月14日 申七つ(午後4時)

摂津・ 郡 芥川山城城下

千 利休

 

「郡司様!」

 

 すっかり親しくなった風魔さんの1人が、本陣に現れたのは、日暮れが始まった中だった。

 3日前の京での戦いの顛末から、六角軍が反撃に来たときのために備えていた良晴は、血相を変えてやって来た風魔に表情を引き締める。

 

「和泉、久米田にて三好軍と畠山軍が衝突! そこで根来(ねごろ)衆の奇襲に遭われ、実休殿が討死なされました!」

 

 三好四兄弟の2人目の死。

 その悲報に天を仰いだ良晴は、すぐにまた風魔の若者の方を見る。

 

「総大将の討死により三好軍は崩壊。実休殿の嫡子である長治殿が纏められながら、堺の方へ逃げています!」

 

 堺とその辺りの港には、商人の舟の多くを追い払った三好水軍の舟がある。だから、堺に逃げるのは自然な事だろう。

 けれども、やっぱり武家は町民の事など考えていない。

 

「畠山軍は!」

「その三好軍を追っています!」

「……全軍南下だ! ()()護るぞ!」

『はっ!!』

 

 良晴を除いて、ね。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

2月14日 夕方

摂津・西成郡 石山本猫寺前

 

 戦国時代まで、より詳しく言えば豊臣秀吉が埋め立てるまで、今の大阪市街地は島がバラバラにあり、突っ切るのは難しかった。

 それが一向一揆が武力を保てた理由の主因になり、島々の東側にある台地にその一向一揆のこの世界の総本山である本(びょう)寺があった。

 猫を神様として崇めるという仏教より前の自然信仰(ジャーマニズム)への立ち返りともとれるその宗派のこの時の宗主=トップは、にゃんこう宗を中興した天才少女・けんにょである。

 

「ありがとな」

「どういたしましてにゃ!」

 

 宗教勢力としても武力勢力としても侮りがたい力を自由に操れる彼女の父親・証如は、長慶ら四兄弟などの父親である三好元長を討つ一揆を起こさせた張本人である。

 にゃんこう宗を嫌ってた彼を討てたのは良いものの、その一揆の勢力を恐れた臆病者(細川晴元)によって本拠地だった山科本猫寺を焼き討ちされ、ここに逃げ、そして長慶に臆病者との和議を仲介してもらったという過去を経験した彼は、愛娘にそれを言い聞かせた。

 ために彼女は大坂にいたからなのか『漫才の笑いで平和を』というのを思いつき、それを実行に移した。

 

針千(はりせん)ありがとにゃ!」

「……本当に針を仕込むなよ?」

「そんなのしにゃいにゃ!」

 

 その新提案とカリスマ性で独立性があった伊勢・三河・北陸のにゃんこう宗の門徒達も手中におさめたけんにょと、にゃんこう宗の少ない東国に降り立った相良良晴。

 2人は良晴が堺にやって来た頃からちょくちょく連絡をとっていたが、その彼が芥川山城で堺への移動チャンスを(うかが)っている頃から、最短経路の途中にあることから頻繁に取り始めた。

 女の子が宗主、という珍しい事態に叡山や高野山、それに山科本猫寺を焼いた奴等の中にいった法華宗から馬鹿にされていたが、良晴はそれを全く意に介さず立ち会った。

 けんにょも、年上だろうけど友達感覚で話せ色々な人が慕われている彼に、親善の証として『はりせん』を送られた頃から心を開き、今回の北条軍の淀川渡りを手伝った。

 

「今度は私達の漫才を見に来てにゃ!」

「おう!」

 

 初対面でシンパシーを感じあった2人は別れ、少女は感謝の証として堺での最新トレンドであるフリルの服を大事そうに抱えながら家に帰る。

 一方、河内・飯盛山城で南北双方の戦況を見る長慶も驚いた『にゃんこう宗全面協力での渡河』を終えた良晴は、スピードアップして南に向かい、冬至直前なので早い日没寸前に混乱中の堺に辿り着く。

 

「堺を守りに来た! 納屋衆の人達は三好軍だけを頼む!」

『へい!』

 

 突然の三好軍の敗走に戸惑い、畠山軍来るという報に混乱していた堺の者達は落ち着きを取り戻し、走って逃げてくる足軽などの収容に集中する。

 一方、既に日が暮れるので明日の総攻撃か金銭譲渡を企んでいた畠山高政は、北条軍出現の報に全軍の足を止めさせた。

 西国の反乱軍を混乱に導き、最終的には撃破した北条軍。そいつらと久米田で戦った後すぐに走ってきた自分達があたるのは危険。

 そう考えた高政の考えは正しく、播磨や美濃の軍師などは「このままぶつかってたら十中八九良晴が勝っていた」と断言したほどだ。

 

「岸和田から人がいなくなった頃であろう。戻るぞ」

 

 翌朝、高政は堺&北条軍との衝突をあきらめ、それ以外の和泉と河内の制圧に取りかかる。

 それを兵の数に劣る北条軍は、ただ見守る事しか出来なかった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

2月14日 夜

京 戦場

 

 三好実休、討死。

 三好軍、堺に逃げる。

 

 相次ぐニュースが京にもたらされ、三好vs六角の推移を見守っていた京の町民にも広まる。

 しかし、古くは平家の都落ちなど栄枯盛衰を目の当たりにしてきた彼らの反応は薄く、ただ三好軍がどう動くかを注視していた。

 

「やはり突撃は駄目か?」

 

 明朝の再度の突撃を語るのは、vs六角の三好軍総大将である三好義興だ。

 復讐にはやる彼に対し、聞かれた松永久秀は静かに首を縦に振る。

 

「短時間でこんなに広まったのは恐らく甲賀が広めたのでしょうから、六角軍は前とは違いしっかりと構えているでしょう。

 そして、そういう場合は恐らく上京の方で衝突します」

「上京でぶつかれば、姫巫女様が危ういか……。ならば、どうすれば良い? 後退か?」

「……はい。恐らく、畠山軍は和泉や河内を侵食しようとするでしょう。それをどこかで食い止めれば……」

「なるほど、な。父上に上申してみよう。許されれば、鬱憤を畠山に対してやろう」

『はっ!』

 

 京の三好軍、撤退開始。

 その中には、好色漢が待っていた足利兄妹の姿もあった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。