2月16日 昼前
和泉・大鳥郡 堺
千 利休
女狐……土岐殿が良晴を押し倒していた光景。
それが私の頭の中にずっとこびりつき、過去最低の自己評価の茶会が終わっても、1人で茶会をしていても、心が落ち着く事はなかった。
どうして、女狐と良晴は顔見知りだったの? どうして、良晴はあまり抵抗しなかったの? どうして、良晴は私を見てくれないの? どうして? どうして?
「あぁ、もうっ」
集中、出来ない。
そして、自己中心的な考えばっかりが頭を巡っていく。
茶道具を置いて、深呼吸で落ち着かせようとするけど、今度は良晴が私にくれた服についた彼の匂いが入ってきた。
落ち着くけど、中からの暖かさに満たされるという不思議な感覚に浸り、体の力が抜ける。
「んっ」
股の間の陰裂から液体が
そして、無意識に右手が伸びて、すかーとという下の服のその下に入り、陰裂に触れる。
「利休様」
その裂け目に沿って指を動かす前に、外から声がかかる。
「……なに、かしら?」
「土岐殿が茶会を開きたいと」
女狐が?
わかってるはずだけど、それでも会いに来た。
「わかったわ、通して」
「はい」
体勢を直して、途中で諦めたので道具は揃ってる茶道具を準備し直す。
それが終わった辺りで、足音が聞こえ、さっきの小間使いの声が続いて聞こえる。
「良いわよ」
そして、小間使いに開けられた襖から入ってきたのは、何時もと変わらない女狐。
私が用意した茶道具の前に座ると、脇に抱えていた風呂敷を畳の上に置く。
その風呂敷の中身は、茶人なら喉から手が出る物だった。
「
「ええ。長く話せますし」
「あら。それは何度かやらせて貰ってるから短くても良いわよ?」
「そうですか。1つの郡が貰えるほどの物だというのに残念です」
「…………」
それほど重要な話という事、か。目の前の物などどうでも良いほどに。
「では、貴方が用意した話をお聞きしましょうか。つまらない物じゃない事を願いますわ」
「ありがとうございます」
まずは、炭を継ぐ。
「まず、利休さんはご主人様の故郷はお知りですか?」
「いいえ。関東の方、とは聞きましたけど、詳しくは」
「関東で産まれたというのは正しいですが、1つこの世界の人々とは違う事があります」
「とは?」
「産まれたのは今から約300年後の事なのです」
「ほう、やっぱりそうですか」
「やっぱり?」
「あの大船しかり、私を博多まで送ってくれた事しかり、周防での行動しかり、何故かこの世界の常識とは違う理念で、良晴は動いてましたから」
「なるほど。やはり目利きはありますね、利休さんは。武家の方が良かったのでは?」
「堺出身の武家は成功しませんでしょうし、そもそも貴女とは違って血は嫌いですから」
「あら、厳しいお言葉。私も嫌いですから、木刀で相手を倒しているのですよ?」
「それでも、戦場では並外れた冷静さだとか。血を見る事は平気なのでしょ?」
「……まあ、そうですね。未来でご主人様の血を流しましたし、私の血もお腹と秘裂の両方から流しましたし」
次に湯を沸かす。
「…………良晴を傷付けて、それを悔いたけど、あの人に止められ、そして目に見える繋がりを求めた、という所?」
「完璧です。茶人には似つかわしくないぐらいに」
「これでもこの町で生き残れている商人なので。……それで? 良晴が未来から来たという程度の話では無いでしょ?」
「ええ。この茶会の本題は、ご主人様の体質についてですわ」
「体質?」
「ご主人様からはどんな匂いが嗅げますか?」
「……優しい匂いよ?」
「ご主人様の背中を見て感じる事は?」
「全てを受け入れてくれるようなそんな大きな背中ね」
「ご主人様の声は?」
「五臓六腑の全てに染み渡って、体の中が活性して、体が熱くなっていくわ」
「……やはりですか。やはりヤンデレですか?」
「やんでれ?」
「可愛らしいですね。……ではなくて、未来の言葉でヤンデレです。病むほど相手を話している人をそう呼んでいます」
「……病んでるかしら?」
「もしご主人様が他の女に子作りを無理矢理迫られたら?」
「錬金術はどれくらい…………病んでるわね。さっきの質問も診断?」
「ええ。結構深いですね」
「心の底から自分を預けられるのは彼しかいないから、かしらね」
「ふむふむ」
懐石料理は無いので、次は濃茶を差し上げる。
「貴女がヤンデレだとわかりましたし、それがご主人様の体質に繋がりますので話を続かせますね」
「どうぞ」
「ご主人様の体臭ですが、未来の科学による研究の結果、そのヤンデレの依存性を維持し量によっては高める事がわかりました」
「へえ。体臭で、ね。唾液、というより体液はどうかしら?」
「……精液も、ですか?」
「あれも体の中から出るらしいし含むわ。多分だけど、精液が一番濃いのでしょう?」
「……正解です。濃い順では精液、唾液、汗、体臭になります。血は例外ですけどね」
「なるほど。精液が一番濃いのね。それで、自分の欲求はおさまるの? 良晴と四六時中共にいたいっていう気持ちは?」
「心が強い人なら定期的に一定量吸収する事で良いのですが、弱かったり、思いが他より重かったら別ですね」
「と言うと?」
「新しい命を宿す。それが、欲求をおさえる最適な方法です」
「うふっ」
また炭を継ぐ。
「断言出来る、という事は誰かが体験しているのね」
「ええ。阿波の狸がやらかしました。この世界に来たのは、その子が産まれる前日だったんですよ?」
「あら、それは残念ね」
「まったくです。まあ、そんな事はどうでも良いのです。本題は子を宿すというのは、この時代に合っているという事です」
「そうね。私や毛利両川のような年頃の年代でも普通だし」
「ええ。私は、あまり表だって帰ろうと動いていないご主人様を見て、ある場合に向けて準備を始めています。
実現すれば、この日ノ本どころか世界初の天下取りの方法になるでしょう」
「……茶道の人脈を使って広めろ、という事かしら?」
「ええ。ただ、色々と勢力が
「中央に確固たる勢力が現れれば、か。今の三好家は足利家に成り代わろうっていう気運は無いし、4つ目の天下人がそれね」
「本当に聡明で話が進みやすいです」
「何故か頭が冴え渡っているし、早く彼の子種を自分の体にたんまりと入れたいのよ」
「……わかります、その気持ち」
「貴女は一昨年の秋ぐらいからよく動き始めたしね。毎日慰めているでしょ?」
「恥ずかしながら。ご主人様を思うだけで出来ますし」
「あら、それも良いわね」
最後に薄茶を差し上げる。
「では、ご教示願いましょうか? 貴女が考える事を」
「もちろんですわ」
「後、貴女の方が年上なのですし、敬語じゃなくてもいいですよ? 茶会も暮れですし」
そして、土岐殿……いえ頼次さんが話された御話は、未来の事を知っているからこそ考え付いた話で、私もそれに乗ることにした。
けれども、まずは燃料を補給しなければ、火は燃え続ける事が出来ない。