2月30日 夜明け前
河内・高安郡 戦場
先に動いたのは、三好軍であり、その中でも前衛部隊であり三好政康の旗下にある大和衆1200人とその他だった。
この世界の教興寺の戦いでは、大和衆は良晴・久秀・高政の3人それぞれにあるので、分けるためにここからは相良大和衆=島衆とする。
その島衆の総大将である島清興は、飯盛山城で六角軍も監視している三好長慶の代わりに前線総大将をしている三好義興から指示を受け取り、すぐにそれに応じる。
「鍛練してて良かっただろ?」
「そうっすね」
「相良殿」
自慢げなのは、島衆とは別物で三好家の命令を受け付けない立場の足利義輝。
それに適当に答えたのは、その義輝についてきた、これも三好家の命令を受け付けない立場の相良良晴。
そして、良晴の適当さに青筋を浮かべたのが、清興とは同郷の国のものであり、堺市外の戦いまでは従っていた家の御曹子である筒井順慶だ。
その尖り過ぎている3人を任される事になった時、史実では筒井順慶や石田三成の下についてサポートする事を生業とした清興は決めた。
「よろしく頼みます」
「本当に良いのか?」
「私には無理です」
相良良晴に軍配を任せる事に。
島衆の面々からは『戦上手な猿顔の少年』と好評? を得ている良晴は、起きて早々に土下座してきた清興から受け取った軍配を少し眺めてから、小さく息をついた。
そして、西国にいる内に乗り方をほぼ忘れ、堺市外の時は大人しくその場にいただけだった良晴は、軍配を左手に持ちかえ、右手で地面に刺していた旗印を持つ。
そして、後ろに並ぶ者達に声を張り上げる。
「大和の皆。堺の皆。室町幕府の皆。そして北条家の皆。
この戦は、それぞれにとって命をかけるものじゃあないだろう。正直、俺もそうだ。
だけど、敵達が往復していった後の村達を覚えているか? こつこつと貯め、裕福ではないけど楽しい生活を送ってきた場所は盗られ、燃やされ、そして悲しみが
この戦いは、
俺達が負ければ、地獄の蓋が開くだろう。だから、勝つぞ」
『お゛お゛ーーー!!』
総勢2500人の
それに嬉々とした表情で従うのが、白のフリルという戦場には絶対似つかわしくない服を着ながら歩く千利休である。
我先にと入り乱れて走っていく足軽達や血気が多い武将達の後ろ、力仕事は苦手な者達が進む列の中に彼女はいた。
「見事な演説だった」
「やっぱり恥ずかしかったけどな」
「それでも、良晴の言葉にみんな突き動かされて、三好軍の一部みたいになってる」
「ならやったかいがあるって言うものだな」
わずか2ヶ月で6回の大きな戦いを経験し、この戦いの前夜にも模擬戦をした良晴は、未来人だとは思えないほど戦場でも落ち着いていた。
最後まで一族揃って遠慮していた島家の『三つ柏』の旗印を背中にさした彼に付き添うのは、足軽などに扮して戦場に溶け込む風魔達など関東から来た者達だ。
「うらあーー!!」
『うらあーー!!』
主から教えられた叫び声で他の者達と共に突撃するのは、吉川や小早川など亡国の男達。
その突撃を親の目で見ていた良晴は、血を血で洗う場に近付いたので、鞘から頼次特製の木刀を取り出す。
それに応じて、小刀や手裏剣ばっかりだった者達も、丸腰だった者達も、各々の武器を取り出す。
「援軍いるかねえ、これは」
畠山軍の前衛の遊軍である2000人に突撃して戦う様子を後ろから見ていた前衛の総大将である三好政康は、彼らの戦い具合を見てそう呟いたという。
だが、政康はすぐに援軍を出すことを決める事になる。畠山高政がさっそく譜代と安見宗房の軍勢を援軍として出す動きを見せ、数が一気に逆転しようとしてきたからだ。
「行くぞっ!」
『おうっ!』
主に野太い声が響いた後に動き出したのは、政康の副官である三好長逸率いる摂津衆5000人。他の2万人は、政康と共に待つ。
彼らの動きを見た安見宗房は、すぐに前衛遊軍の吸収後に撤退する事を決めた。こちらは全部合わせても1万人弱で、支えきれる自信は無い。
「ふんっ!」
そして、宗房や畠山軍前衛遊軍の者達にとって予想外だったのが、突撃してきた輩に
「挑むやつはおらんのかぁ!?」
「…………」
一時は毛利家の本城を落としかけた者達の集まりである両川衆。
「右!」
「はぁ!」
良晴に指揮権を預けた事から楽になった島清興と、彼の指示に従って刀を振るう大和衆。
「もう少し後ろに!」
「ええじゃないか、ええじゃないか!」
そして、細川藤孝が何とか抑えている足利義輝ら幕府衆。
宗房が知ってるのは大和衆ぐらいだったが、大軍ゆえに遅い摂津衆より早く戦場に着いた彼は、その強さに舌を巻いた。
だが、彼が戦場の最前線に近い所にやって来たのは不幸だった。
「あれは安見家の旗印ですっ!」
「重要なっ! 家かっ!?」
「元飯盛山城城主でっ、河内の守護代にっ、近い立場!」
「なら、行くぞ!」
『御意!』
彼に、雌虎が飼う小虎達が照準を定めたのである。
乱戦に入ってからは撤退の指揮は清興に任せた良晴は、遊軍の中で一番多かった
大軍の総大将を潰して敗走させるのを基本戦略とする良晴らにとって、宗房は格好の的だったのだ。
「北条軍が近付いてきてます!」
「何!?」
北条家が協力する三好家の敵である宗房も、彼らの事は噂話でよく聞いていたから、その注進を聞いた時、撤退を考えた。
しかし、相手軍の中で突出しようとする彼らを見て、考えを改める。
「
「はっ!」
北条軍は全軍でも200人。対して、こっちはまだ500人が俺の周りにいる。そう考えた末の決断だった。
そして、小雨が降るなか段々と明けてくる空は、北条軍が目に見えて突出しようとする姿を照らし出す。
それを馬上から見下ろしていた宗房が、包囲を始めるための指示を出そうとした。
しかし。
『おおー!!』
突如、まだ到達出来ていない摂津衆の海側の方から、騎馬隊が一直線に良晴達の方へ向かう。
「さあ、行きますよ!」
松永衆のうち100人の精鋭が躍り出てきたのだ。