2月30日 明け方
河内・教興寺 衝突場
土岐 頼次
「多分、俺らは突出すると思う」
昨晩の事です。
教興寺の北にあり『有力武将のための宿』として賑わいを見せる若江城の部屋の1つで、ご主人様はそうおっしゃいました。
その言葉に、部屋の中にいた者の内、私と利休ちゃんは頷き、宗矩ちゃんとけんにょちゃんは首を傾げます。
「明智さん」
おっと、ご主人様に会えたからかリミッターがゆるゆるになっています。
深呼吸をして心を落ち着かせた私は、ご主人様に償うために、代わりに話させてもらいます。
「なるほどにゃ。確かに、あの将軍を抑えれる人はいないにゃ」
あの人は、良くも悪くも猪突猛進な剣豪ですから、止めれるのは義昭ちゃんのお願いぐらいでしょう。
そして、ならばその将軍様の特徴を生かして始めよう、というのがご主人様の策です。
「俺らは一番大きな部隊の大将を狙う。それで、早めに決着をつけたいんだ」
季節は段々と春に近付いてきているので、そろそろ周期的な季節の移り変わりの時期になるでしょう。その中の低気圧が強くて、それが大嵐をもたらせば帰れない。
だったら、まだ低気圧が過ぎ去った後の寒さつきの晴れ=西高東低の時に出たいというのが、北条水軍の水夫さんの願いであり、明日に恐らく南岸低気圧が過ぎ去るのが実際です。
というわけで。
「明日の雨が上がる頃には、堺に帰っておきたい」
のです。
「だから、相手に休む暇を与えない」
という事は、ご主人様がいる前衛の部隊だけではなく、全軍がぶつかる争いに最初から持ってこないといけません。
というわけで、私は更に夜が深くなり、体が暖かくなってから、霜台様の下を訪れました。
「義興様。島衆を助けたいという者達が、私の所へ詰めかけて来ています。一部を出してもよろしいでしょうか?」
「うん、良いぞ」
そして、私達が動いたという訳です。
「多っ!?」
一部ではなく、本陣を守りきれるぐらい以外の松永軍が出るという、連絡の不手際がありまして、ですがね♪
「ありがとうございます」
「家臣の恋心を応援するのもまた面白いですから」
「……ばれてました?」
「堺から帰ってから、宗矩と共に貴女が更に明るくなりましたし。そうなったのも、相良殿のおかげでしょう?」
「ええ。ご主人様がいなければ、私は単なる少女でしたから」
ご主人様の願いは私の願い。
例え、それが押し付けがましくても、ご主人様に嫌われるようになっても、何時までも小鳥な私は、それにすがらなければいけないのです。
自分の思いを確認している間に、私達は中衛左翼の阿波衆と中央の讃岐衆の間を抜け、前衛本隊の摂津衆の横を駆け抜けます。
「ナイスタイミング!」
「はいっ!」
そして、木刀でご主人様を囲もうとした不
『おっほっほっ』
多才な結城殿と、鳥養で娘の成長に血涙を流した柳生 殿は、タイミングをあわしながら真剣で敵を切り刻んでいきます。
「熱湯団子!」
ゴツい脳筋に、茶色の熱湯をぶっかけたのは
「頼次殿!」
3人に若干引いている私に近付いてきたおっちゃんは、畠山高政の祖父の祖父の兄弟の孫の孫の子供で、大和でくすぶっていた畠山尚誠殿。
ご主人様の目になるためについていた畠山殿のお役目は、ここから実戦に移ります。
「目の前の敵は安見家の奴等です!」
「元飯盛山城城主、ですか」
負けこんでいるけど生き延びれているという事は、撤退が上手いのか臆病者のどちらかなのでしょう。
「ですが、今回は逃がしませんよ?」
この戦いに、貴方は必要ですから。
「攻勢おさえました!」
「摂津衆先鋒到着!」
「よし! 清興さんと政康さんに他は任して、俺らは安見宗房とその周りのみに集中するぞ」
『はっ!』
「突撃ー!!」
ご主人様の号令に従い、私達も一緒に動き出します。霜台様? 知らない子ですね。
一丸となって進む私達700人が、包囲作戦を失敗して士気が下がっていた安見衆が支えられるわけがありません。
「本陣が撤退していきます!」
ようやく、安見宗房が撤退を始めますが、わかっていますか? 貴方は、包囲をするために何時もより前にいたのを。そして、別に刀で決着をつけなくても良いのを。
「!」
「はっ!」
西国で名を馳せた弓の名人の棚沢さんが、馬上で弓を振り絞ります。
そして、土埃が舞うなかで、弓矢から右手を離します。
「くそっ!」
悪態をつきますが、小雨・土埃・馬上で動く的・
棚沢さんは、すぐさまご主人様に頭を下げます。
「申し訳ございません。苦しめる結果になりました」
「いや、命中させただけでも凄いよ」
あら、頭を撫でられたら体が一瞬震えたわね。