2月30日
河内・教興寺
安見宗房、落馬し重傷を負う。
生死はともかくとしてその光景は、衝突場にいた者達に大きなインパクトを与え、安見衆を中心に畠山軍は浮き足立つ。
「撤退だ!」
そして、それぞれの大将が同様の決断となると、彼らは一目散に後ろへ走り始める。
畠山軍の敗走と三好軍の追撃を、珍しく怒りのこもった瞳で見ていた中衛右翼の総大将の
「このままでは、久米田で煮え湯を呑まされた我らの面目が立ちませぬ。加勢の許可を」
「認める。母殿だけではなく三好家の怒りをぶつけようぞ」
「はっ!」
雨が弱まってきた中の明け方、松山新介と彼が率いる主に阿波・讃岐出身者が占める譜代・旗本衆5000が加勢に動く。
それを見た三好政康も動かす事を決め、池田長正と伊丹親興の2人を出す。
「孫市さま。土橋殿から出撃命令です」
「ここでか。まだ雨は降っとるやろ?」
「それでもらしいです。三好軍の勢いが強すぎます」
「……いや、三好軍じゃなく北条軍と大和衆の者達やな。そいつらの勢いを減らせば良い」
そして、高政も無策なわけはない。
総勢1万5000人の新たな攻勢に、前衛にいた安見宗房と同格に近かった湯川衆6000と
元々いた2万人弱に2万5000人が加わり、休みなく教興寺の戦いは第2ラウンドに突入した。
「やはり使いづらいのう!」
そう叫ぶのは、種子島と呼ばれている火縄銃を紀伊に持ち込み、根来と雑賀の僧兵をワンランク上げた津田
既に60代の高齢であり、算長自身もこの戦を最後にして引退しようかと考えていたが、待っていたのはまだ湿っぽい中での出陣だった。
「命中!」
湿っぽいとは言え、火が点いて消えなければこっちの物であり、撃てるのは少数だと読んで、主に馬上の者達を無差別に狙う。
今回は肩を並べている雑賀衆の若き頭領である雑賀孫市も、その策で三好軍を翻弄しようとしていた。
しかし、1度根来衆と戦った事のある頼次に抜かりはなかった。
「っ!?」
その時、算長は突出していた部下が、火縄銃をぶっぱなした瞬間にまるごと燃えたのを見て、引き金を引く手を止めた。
しかし、彼の火だるまを暴発と勝手に決めつけた雑賀と根来の何人かは引き金を引いてーー。
「ぎゃあ゛っ゛!!」
同様の結果になった。
「止めろ! 撃つのを止めろ!」
何が起きてる? 風はこっちに吹いてるが、そよそよとした物だ。整備不良にしても同時多発なのはおかしい。
考えを巡らしていた算長は、孫市と同時に目の前を漂う白い粉に気付く。
「貴方達は一応坊さんなんでしょ? だったら、禅僧の箸休めに食べる物は知ってるわよね? 点心と言われてる物を」
静かになった戦場に響く凛とした声。
戦場にも似合う声を響かせているのは、部下達がおののいていた旗印を掲げる少女。
「その原材料をね、こういう風に上手い具合に流すと、火種があれば爆発するの」
名は土岐頼次だったか。
「良かったわぁ。雨が止んだ後で。丁度良い風が吹いていて。そしてーー」
そして、土岐の娘の後ろにいるのはーー。
「この子達が狙われなくて」
本猫寺の者達では無かろうか。
「さて」
土岐の娘の頭を撫でながら、言葉を引き継いだのは東国の実力者の家の旗印を背にする少年。
「牙を抜いた虎はどれくらい強いんだろうな?」
怖い。
そう思ってから、算自宅に帰るまでの算長の記憶は朧気だ。
「……これは、早く出してやらないと戦功が無くなるやつだな」
雑賀・根来両軍の潰乱を見た三好義興は、冬康や康長一門衆の本隊も出させ、畠山軍は大和・宇陀衆で対処する。
しかし、実休を討った根来衆の情けない姿を見た三好軍の勢いは強く、義興が讃岐・阿波・丹波の各衆で平押しを始めると、畠山軍は総力戦になる。
最後に三好軍も残りの戦力を突入すると、安見衆に加えて湯川衆も壊滅したことを皮切りにして畠山軍は崩壊。
「えい! えい! おー」
『えい! えい! あー』
三好軍の勝
本来の七夕は旧暦の7月7日を指すらしいですね。
この世界での七夕はしばらくは訪れない見通しです。