2月30日 夕方
河内・讃良郡 飯盛山城城下
戦後、相良良晴は自分の軍を2つにわけて、少ない方と一緒に河内を北へ走り、長慶にとって3つ目の引っ越し先である飯盛山城にやって来た。
畠山軍に攻められた後が残る山城を登って良晴は彼に挨拶しようとしたのだが、既に焼け果てた城下町の中で辛うじて生き残った家に長慶が移っていた。
2人にとっては、義輝などを交えての晩餐会以来である対面は、今度は千利休主催の茶会という形で開かれた。
「此度の堺市街の戦いと久米田の戦いにおける援軍、まことにありがとうございます」
まずは、三好長慶の礼。大大名家の当主だから、大大名家の家臣の良晴に敬語でなくても良いのだが、個人的な感情からだった。
十河一存急死、三好実休討死と連続した三好家の危機をわずか500人の者達と共に救った事から、畿内でも『今猿田彦』と呼ばれている良晴は、長慶の礼に良氏や公家から教えられた返答をする。
その後は、殆ど長慶が良晴と北条軍を誉めちぎり、良晴は久米田で負けても挫けなかった三好軍を誉めて過ごした。
また、この後の事も話され、そして決められる。六角軍が尻尾を巻いて逃げた事、足利義輝が正式に畠山義
「それでは、筑前守殿と三好家の武運長久を願います」
「こちらも相模守殿と北条家の武運長久を願います」
茶会を終えたのは
次いで起きたのは、頬を微かに膨らませている梅千代に起こされた時で、目の前には煌々と幾つもの灯りがある建物があった。
「北条氏康の家臣の相良良晴だ! 開門を願いたい!」
少しーーもせずに、建物の門が開く。その門から出てきたのは、小柄で朗らかな笑顔の少女。
「わたくしは下間
そうそう布教と言えばーー」
「掛布ちゃん」
「は、ひゃい!?」
「通っても良いか?」
「は、はいぃぃぃ」
「ありがとな」
本当に頼次が言った通りになったぜ、と思う良晴だった。
本猫寺に初めて入った良晴は、そこで目的の人物に再会する。
「久しぶりにゃ!」
「ああ」
結局は後方支援に終始した本猫寺の門徒達の援軍、そして利休と協力しての小麦粉のばらまきに対して礼を言う良晴。
はりせんで更に笑いが面白くなった事、義妹の実父である三条公頼からの『お願い』を伝えるけんにょ。
縁側で蝋燭に照らされながら喋る2人はまるで兄妹のようでした、と後に春は語った。
「落ち着いたらまた来てにゃ!」
「ああ、必ず来るよ」
ちなみに。
4月を迎える頃には、本猫寺の門徒達が多くいる地域では『猿を見つけても害さずに追い払う事』という命が広まっていたらしい。
「間に合うかな?」
「恐らくは……」
そして、本猫寺を出た良晴は、熊野街道を疾走し、三好軍の旗印は迂回する。
結局、良晴が目的の旗印を見つけれたのは、村と村の間の小さな川の近くであった。
「誰だ!」
闇夜の中から鋭い声が響き、風魔達は更に警戒を強くする。
彼らに絶対の信頼を置いている良晴は、梅千代に馬を止めさせ、彼女の頭の上で叫ぶ。
「北条家家臣の相良良晴だ!」
「相良良晴ぅ? 三好軍の先鋒をしていた奴が何の用や!」
「話をしに来た」
「いらん! 敵の降伏勧告なんか誰が聞くか。さっさと立ち去れ!」
「そうじゃない! 商談だ!」
「……はっ?」
馬上から降りた良晴は、自分のカンを頼りにしながら、銃口がある方へと歩く。
一方、銃を構える良晴より年上の女性は、この暗闇の中をまっすぐこっちに向かってきている事に驚く一方で、頭の中はフル回転をしていた。
そして良晴は、おもむろにぬかるんでいる地面に腰を下ろす、木刀や甲冑を外す。
「…………東国の奴等は奇々怪々な者達ばかりなんか?」
「いや、俺たち限定だよ」
そして、考えた末に雑賀衆の頭目である雑賀孫市も、良晴の方へと歩いてからあぐらをかく。
相良良晴と雑賀孫市。思い立ったら動く行動派の良晴と、鉄砲の女神である孫市の会談は1時間にわたり、その頃には雲の隙間に三日月の更に細い月が上がり始めていた。
「もう日も変わる。そっちの船は雑賀の沖合いを通るんやろ? せやったら、相良も雑賀の里で泊まっていけば良い!」
「いいのか? 俺らは孫市姉さんを負かした一味だぞ?」
「そんなん一晩経てば関係ない! 気にしとったら負けや!」
「……豪快な人だなあ」
結局、良晴達が雑賀の里に着いたのと、堺に良晴からの書状が届いたのは、日と月が変わってからの事で、堺の人々は残念がったと言う。
そして3月1日の
多くの人達を追加した『小田原号かっこ仮』は、多くの人々に見守られながら出港する。
やっと小田原に帰ります。