相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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2 関東甲信越での話
第83話 帰還と再出発の話


3月3日 昼

相模・足柄下郡 小田原城本丸

 

 姫巫女の覚えよく、大内家と毛利家と三好家の窮地を救い、薩摩まで至る広大な人脈を築き、東西双方で『今猿田彦』と讃えられる我らが相良良晴。

 上手く潮流に乗り、風も東風が続き、この日の朝には真鶴の港に着いた。

 そこで公家ら客人は長旅の疲れを癒し、そのまま御輿に乗って箱根山にゴーなのだが、良晴にはそんな暇は無い。

 

「まずは、数々の戦績を労うわ」

「ありがとうございます」

 

 堺の北条家事務所に山積みにされていた関東からの書状達を、西国から帰ってきても良晴はあえて見てなかった。

 しかし、宛名の6割を占める北条氏康に真っ先に会いに行かなければならない、というのはさすがにわかるので、こうして直行したのである。

 平伏する良晴への氏康の最初は褒め言葉だったが、それが終われば彼女の表情は厳しくなる。

 

「さて、相良。最初は何時ぐらいに帰ってくる予定だったかしら?」

「…………2月の下旬?」

「あら、だったら嵐で遅れただけね」

「そうっすね」

 

 自分を見ようとしない良晴に息を吐いた氏康は、傍らに置いていた畳まれている書状を持って、彼の方へ歩く。

 歩いている間に無造作に開かれた紙には、今となっては意味がほとんど無くなったスケジュール表だ。

 

「さて、ここにはなんて書いてあるかしら? 私は、相良にもわかりやすいように、崩し字では書いてないのだけど」

「………………1月中旬っす」

「その頃、どこにいた?」

「……博多?」

「2月は何をしている予定だったかしら? 伝えてたわよね?」

「里見攻めっす。確か俺は三浦半島を守る役割だったけ?」

「ええ。対岸にあるからね。軍神は越えれるでしょうけど、大軍は無理だしね」

「…………誠に申し訳ございませんでした」

 

 土下座する良晴。氏康の綺麗な爪が見えたが、匂いも含めて考えないようにした。

 

「公家達や三好家も助け、伊勢の北畠家とも繋がりが出来たからお(とが)め無しだけど、今度からは……」

「はい」

 

 元の所に戻った氏康は、スケジュール表とは反対の所に置いていた、これも崩し字ではない書状を良晴の前に投げて、上座に座る。

 飛んできた書状を見た良晴は、スケジュール表(改)の中身を見て、思わず言う。

 

「いけるのか?」

「ええ、大丈夫よ」

 

 氏康の表情は笑み。

 それを見た良晴は口を開きかけるが、それは諦め「わかった」と頷いた。

 

「今度こそ遅れないようにね」

「限りなく善処するよ」

 

 良晴の返答を聞いた氏康は、満足そうな笑みを浮かべて、おもむろに手を叩く。

 直後、良晴の後ろの襖が勢いよく開かれ、ドタドタと煩い音が鳴り響く。

 

「良晴ー!!」

 

 振り向いたら心臓直撃だとカンが訴えたので、そのままの体勢でいた良晴に、1人の少女が飛び付く。

 活発な彼女は、良晴が船に乗ったという情報を聞くと、 に全権を任せて小田原まですっ飛んできた。真鶴まで行くつもりだったが、そこは氏康に止められた。

 

「話、聞かせてね!」

 

 相模・玉縄城主であり、北条家の中での『脳筋』の代表格と言えよう北条綱成は、ここ2ヶ月で伸びた髪をはためかせながら、良晴の前にまわる。

 良晴も再会に喜び、返事をしようとしたが、その前に綱成の後ろの氏康の視線に気付く。

 少年が固まり、彼よりかは年下な少女が首を傾げている間に、少年と少女の中間ぐらいの氏康は音もなく2人に近付く。

 いやーー。

 

「ひゃあ!?」

 

 綱成に、である。

 2人きりではないので油断していた彼女に、遠慮なく氏康は抱きつき、何時ものように彼女の首筋を()()

 震えて涙目を浮かべる黒髪の少女を、妖艶な目付きで紫色の髪の少女が襲う光景に、良晴の喉がコクンと鳴った。

 

「綱成は私の妹よ。それはわかってるわよね?」

「わ、わかってるからあ」

「よろしい。相良も綱成をたぶらかさないでね?」

「あ、ああ」

 

 そして、良晴は氏康の視線に促され、部屋を出る。

 後で部屋から出てきた氏康の表情はどこかスッキリとして、どこか悩ましげな表情だったそうな。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

3月4日 夕方

相模・鎌倉 

 

 小田原で1泊した翌日、良晴は鎌倉の家に帰宅して、さっそく会議を開いていた。

 

「以上が氏康の作戦だ」

 

 主催者はもちろん相良良晴。

 

「なるほどなるほど」

 

 綱成は他の北条家一門と共に箱根にいるため、間宮康俊が代役で参加している。

 

『…………』

 

 北条家の軍議なので、あまりでしゃばらないように聞いているのが結城忠正と柳生宗矩で、彼らはある目的のために呼ばれた。

 良晴の代役として、しかし良晴の路線をほぼ踏襲して鎌倉統治に(いそ)しんだ康俊が若干の修正を加え、良晴は2人にも確認を取って、それを氏康に送る。

 箱根の温泉に綱成と共に入っていた氏康は、一部予想外の修正に眉を潜めながらもそれを認可した。

 

 相良良晴、玉縄城を出たのは、それから4日後の事だった。

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