相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

115 / 256
第85話 下総での話

3月10日 夕暮れ前

下野

 

 今回は、というより今回も相良良晴とその付き人達に求められているのは、大きな戦いではなく、隠密に近い動きだった。

 そして、今回は最初から敵地とわかっているエリアを抜けるため、相良良晴とその護衛の風魔5人、そして剣術が凄い結城忠正と柳生宗矩の8人から旅はスタートした。

 しかし、一昨日からはその一行に3人が加わり、予定より速い速度で歩いていく。

 

「すー……すー……」

 

 その11人の中で唯一歩いていないのが、吉良家の大事なお嬢様である吉良頼康だった。

 氏康と綱成の間の年頃である彼女は、世田谷の近くを歩くことはあっても、遠くまで歩くことは無いので、途中でダウンして荷台の中で寝ていた。

 そう、荷台の中でで、ある。

 

「こいつは行商に一番最適なやつなんだぜ、か」

 

 一人心地に呟いたのは、その荷台を牽く動物を良晴が買う時に仲介した結城忠正。

 彼の懐には、教会という南蛮寺の修繕費用がいたルイズ・フロイスと彼女を運んだ商人の動物を買った良晴の間の仲介金があるが、そんな物より、楽々と約13貫(50㎏)の物が乗った荷台を引く動物に注目していた。

 (くび)は短く、(たてがみ)は粗い。大きさは馬より小さいが、純粋な南蛮ではなく在中2世商人である者曰く馬より体が丈夫で粗食にも耐える。

 

騾馬(らば)、のう」

 

 何匹かは博多や堺には来ていたらしいが、馬と同格の扱いを受け、そして不妊なため子孫は残せず、歴史にも記されなかった。

 それを、フロイスに会ったときに商船の中身を見て気付いた良晴が買い取り、現在進行中で使っている所である。

 ちなみに、良晴はロバの存在とその活用法を教えてくれた頼次と折半して、丹波で主に動いてたりする。

 

「そろそろ曲がり角です」

「ん」

 

 主に常陸を中心に動いていた中堅の風魔の道案内で、彼らは敵の1人である小山秀綱の居城の近くで、一向は奥州街道を外れる。

 少ししてからあるのが国境になっている川であり、そこを渡って下総国内に入る。

 徐々に活気が再び出てくる中の沿道を歩き、彼らは陽がどっぷりと暮れた頃に目的地に着いた。

 

「おお、そなたらが北条家からの使者達かっ」

 

 ほぼ夜なのに、その人物は城下町にある紬《つむぎ》屋の1つにいた。

 

「遅れてしまい、また少数で来てしまい申し訳ございません」

「いやいや、敵の勢力圏を突破するためには必要な事。相模からここまで無事に来れた事こそ大変よ」

「有り難きお言葉でございます。申し遅れましたが、私は相模の鎌倉郡司をしております相良良晴という者です」

「拙者は結城七郎晴(とも)という者。恐らくお主と同い年ぐらいだろう」

 

 最近板についてきた敬語の良晴と、結城城城主である晴朝の会話が聞こえたからか、荷台でぐっすり寝ていた頼康がおきて、寝ぼけ眼で地面に降り立つ。

 鼻をおさえる自分の守役にここがどこか教えられ、事務的な会話をしている2人を見つける。

 

「相良、そのお方は?」

「……結城家の当主である結城七郎殿でございます」

「……この中間の奴は?」

「吉良家の当主である吉良左衛門佐頼康殿でございます」

「…………えっ?」

 

 鎌倉公方の腰巾着あたりかと目算をつけていた晴朝は、世田谷城にいるはずのまさかの人物の登場に少し固まってから、慌てて地面に平伏する。

 まだ寝ぼけていた頼康は、それに驚いて目が覚め、反射的にへりくだる晴朝に答える。

 

「忘れられておるのう」

 

 結城城の中の居館に案内される頼康らの後ろをついていきながら、忠正はぽつりと呟く。

 彼が話題にのぼったのは、晩御飯の後の事で、宗矩は寝ていた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

3月11日 朝

下総・結城郡 結城城客間

 

 波多野家と同じく藤原秀郷の末裔を称する結城家は、足利尊氏の挙兵の時に一貫して彼に従い、また本家筋である小山家が反乱を起こして衰退したため下野守護になるなどして最盛期を迎える事になる。

 しかし、上杉禅秀を制した第4代鎌倉公方・足利持氏が、後に大寧寺で没する事になる上杉憲実に鎮圧された永享の乱の後、その持氏の遺児を擁して反乱した事から衰退する。

 その後、鎌倉公方は結城家が引き金を引いた享徳の乱で古河に移り、結城家も古河公方に付き従った。

 そして、晴朝の祖父にあたる政朝が周辺を屈伏させて分国法を作り、政朝の子で晴朝の伯父・政勝は、自分の弟である高朝を隣の子がいない小山家に送った。

 

「けど、その政勝さんの子供が早死にして、小山家から養子を迎える事にした、か」

「はい。御館様、そして鎌倉公方に反逆している小山高朝の三男が、晴朝殿になります」

 

 夜明け過ぎ、相良良晴は早くに目が覚めたため、梅千代から顔を洗いながら結城家の歴史を聞いていた。

 結城政朝が伯父・結城政勝の求めに応じて父・小山高朝と親子の縁を断つ契りを交わした事を聞き、そんな家もあるんだなあと実感した良晴は、頼次によって再編集された『羅地黄歌』に従って運動を始める。

 

「たいそーう、始めっ!」

 

 政朝の許可つきで、与一の大声をあのおっちゃん代わりとしたラジオ体操もどきを始める。

 良晴や風魔のみならず、結城城の城下ですっかり体操を身につけた結城忠正や柳生宗矩、それに一昨日の朝から参加し始めたばかりの吉良頼康とその守役もいつの間にか加わり「おいっちに!」は、城のほとんどと城下町に響き渡るほどになった。

 となれば、結城家の者達もそれに気付くものであり、良晴らを見た彼らは一様に驚いた。

 

「ふん! ふん!」

 

 そして、ラジオ体操の後の運動には、結城家の中の体育会系も参加する事になる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。