9月18日
丹波・多紀郡 小さな丘陵
主人公
八木城での急変。
その一報に私たちがいる本陣はズーンとなったけど、霜台様は少し考えてから、一番落ち込んでフラフラとしている長頼さんに話しかける。
「長頼」
「は、はいっ」
「行きますわよ?」
「……! ありがとうございます!!」
パアッと明るくなった長頼さんは、姉の霜台様に何回も頭を下げてから、いの一番に本陣を飛び出す。
それを見送った霜台様を筆頭とする残りの人々も動き出したので、私は1つの提案をする事にした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
9月19日 明け方
丹波・桑田郡
主人公
八上城から八木城。似た名前の2つの城は、共に丹波の南の方にあるから東に走れば良いだけだけど、もちろん敵さんもそれはわかってるから、見張りをつけるだろうし、途中の城を味方につけるだろう。
だけど、ここで質問。その途中の城達を味方につける事が出来たら、後はどんなに楽だろうか?
「道案内ご苦労様でした」
「有り難きお言葉でございます」
丹波の国人さん達にとって、最優先なのは三好家と細川家の対立の狭間を上手く立ち回り生き残る事。
だったら上に立つ者は、彼らの思いを汲み取って、彼らに接していけば良い。
「後で御館様より皆さんに正式に書状が来るでしょう」
「……霜台様、折り入ってお願いがあります」
「なんでしょうか?」
「我ら多紀郡と南桑田の国人衆は、三好様と不戦の
「……あなた方のお家を途絶えさせないようにね?」
『御意!!』
多紀郡と桑田郡の八木城より西側の地域に住んでる武士さんの代表達が心の底から喜んでいる様子で本陣を出ていくのを見送ってから、ようやく私も体への抑えを解放する。
周りを見渡すと長頼さんや忠正殿らも、私と同じくホッとした表情を浮かべていて、霜台様だけが落ち着き払っていた。
「これで後ろを気にしなく動けるようになりましたな」
忠正殿が確認するようにそう言って、陣中の人々は思い思いの反応をする。
生き延びる事で精一杯の人々にとっては、大きな勢力からの不戦の契りは重要な事で、裏切れば……の所も明記しているので、よほどの事が無ければ戦いあう事は無いだろう。
讃岐から山城まで7ヶ国を領する三好家というブランドがあるからこそ出来るこの作戦に喜んでいる皆さんを見て、私も武辺一辺倒だと思っていた武士の皆様への評価を改める。
「では、駆け抜けたばかりで疲れているでしょうが、後もう一息です。城を返してもらいましょう」
『はっ!!』
奇襲攻撃をかける大軍と、城を守る寡兵の軍。
その戦いの結果は、言わずもがなだろう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
9月29日
摂津・島上郡 芥川山城
主人公
戦国時代、故郷を離れて国違いの城に居を構える。
それは、ちっちゃな家とかなら何回かあるけど、有名なのはやっぱり織田信長の清洲→小牧山→岐阜→安土の移動だろう。北条も上杉も武田も毛利もそれぞれの故郷から離れようとはしなかった。
けれど、彼並みの大きな家の者で移動した人ならば、既に前例はいらっしゃる。
「久秀、此度の戦はご苦労であった」
「有り難きお言葉でございます」
それが、今この時に目の前で霜台様を労った、三好家の現当主である三好筑前守長慶様である。
鎌倉時代から家を構えていた阿波・三好郡から、畿内平定のためにこの芥川山城に移られるという英断をなされた御館様は、『力の無い将軍とその腰巾着の管領家という無能コンビに変わられて、戦乱に明け暮れる畿内を平和に導く』使命を背負うには充分な威厳を持っていられる御方であった。
御館様は、優しき心の御方なので最後まで迷っていたらしいが、その苦しむ姿を見てきた一族の後押しもあり挙兵して、本家を乗っ取ろうとした○○を自害させた。
「三好家は、将軍様に反逆した細川家から苦渋の末に反逆した身。御館様がそれに気を揉まれるのも致し方ない事でしょう」
そんな御館様の良き心につけこみ、自身の復権のためだけに時代遅れの家は自身の先祖を京から追放するという
それ故、御館様を小さき頃から知っていらっしゃる霜台様にとっては憎き相手。だから……。
「さて、美濃から来た者よ」
「は、はい!」
いつの間にか、御館様と霜台様の話は終わってたらしい。
優しい目に相対しながら、私の事を呼んだ御館様を見る。
「八木城奪還の献策を行い、それを果たした事は見事。何か欲しい物はあるか?」
「確かに策を上げたのは私でございますが、その奪還の戦で奮闘したのは多紀郡の者や霜台様の者であり、私は後ろにいただけでございます。大きな事は致しておりません」
「しかし、御主は客将の身でありながら死と隣り合わせである戦に身を投じてくれた。その奉公に対する御恩は行いたい。土地でも、
「…………私は剣術をおさめています。ですので、著名な刀を貰え、そして三好家の役に立てれば、それで満足でございます」
「そうかそうか。ならば…………」
少し考え込んだ御館様は「京」と一言呟いてから、ハッとした表情で顔を上げた。
「京に前の甲斐の国主がいらっしゃる。その方が、政長殿が作られた名刀を持っておろう。その『左文字』という刀ではどうじゃ?」
「……有り難きご配慮でございます」
左文字……。まさか、ね。