相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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第106話 買い物と参陣の話

5月6日 朝

信濃・埴科(はにしな)郡 海津城城下町

 

 海津城がある埴科郡を始めとして川中島の周りにある4つの郡の者達が徴集されて作られた海津城は、武田軍2万人+北条軍2000の援軍がやって来た事で、一気に賑わう事になった。

 南に約2キロの所に布陣している越軍1万1000人も合わせれば3万以上が集う事になり、それらがにらみ合いを再開した事を、周りの商人達はしっかりと見ていた。

 援軍が海津城に来てわずか1時間後には最初の屋台が開き、半日後には城と山を結ぶ直線上にも布を敷いただけの屋台が並び始めた。

 

「今日はこれぐらいだね」

「ああ」

 

 その屋台の1つ、大きめの八百屋で、相良良晴は島津歳久と何時もの買い物を終えた所だった。

 足軽など下の人は武田軍の同じような人達と釜を共にしているが、武将レベルになると な時代なので中々出来ない。なので、向こうからの誘いが無い内は自分達だけで食べるのである。

 最近は『溶けた雪女とボス猿』の噂で武田軍では知られている2人は、今晩の食材だけではなく明日までのそれを買い込んだ後、ゆったりとした足取りで城門に向かう。

 

「お疲れ」

「はい!」

 

 海津城の門番は、飄々とした彼が北条軍の副将というのは知ってるので、しっかりと礼をとる。

 その傍らを通り、城内に入った彼らは、そのまま北条軍にあてられた屋敷の台所で荷物を置き、お盆を受け取ってからある少女の下へ向かう。

 

「ただいま」

「お帰りっ」

 

 良晴の声に応えたその少女は、右足の怪我を感じさせない鍛練を終わらし、膝まずいている近習が持つ手拭いで体を拭いてから、2人が待つ縁側へと向かう。

 既に縁側には3人分の昼飯があり、育ち盛りの3人は、唐揚げ定食のそれを食べ始める。

 相模の米、越後の塩、信濃の鳥肉はどれも美味しく、あっという間に食べ終わる。

 

「今朝の話し合いでも、啄木鳥(きつつき)は出なかったよ」

「そうか」

 

 武田信玄と北条氏照。

 後に相模で刃を交えあう事になる2人は、海津城に移動してからは毎日のように近況を話し合っていた。

 主に相良良晴の言葉がその切っ掛けだが、武勇派の2人は話が合い、2人が話し合い鍛練する光景は定番になりかけていた。

 良晴は、氏照が話し合っている間の北条軍援軍を彼女から任され、ほとんど何もなくそれをこなした。

 この日も、大きな事もなく、小競り合いだけで終わるだけかと2人のみならず、戦場にいる誰もが思っていたが、その不思議な安定は突然終わる事になる。

 

「ご主人様っ」

 

 良晴らにとっての始まりは、良晴の隣に突然現れた梅千代の言葉だった。

 

「ほう」

 

 信玄にとっての始まりは、興奮した様子の氏照が自分の私室に駆け込んできた事からだった。

 

「はじめましてでございます、お姉様」

 

 夕方、主だった武将達は急遽集められ、海津城の評定の間で1人の姫武将の挨拶を聞くことになる。

 

「ああ。小山田は、久し振りだろう?」

「はい。梅姫の輿入れの時には、大変お世話になりました」

「どうだ? 梅の様子は?」

「相変わらずですよ。北条家にとって大切な一族の1人です」

「そうか」

 

 信玄ははっきりとした笑みを浮かべ、対する紫色の短髪の少女は微笑みを浮かべる。

 その2人の対面に、そしてその会話に、一番驚いているのは銀髪の氏照だった。

 小田原の前と比べれば、弱々しい瞳は長姉に似て鋭くなり、雰囲気も父親や長姉に近くなり、頼られたい人ではなく頼りたい人になっている。

 氏照が息を呑んでいるのを横で感じながらも、良晴は氏康から送られてきた書状を思い出す。

 

「急ですがお願いがあります」

「んっ?」

「氏照から私、北条左京大夫氏良(うじよし)に北条軍の指揮権が移る事を認めてもらいたいです」

「……良いが、良いのか?」

「はい。何事にも経験は必要ですから」

 

 その氏良の笑みに、評定の間にいた殆どの者が見とれた。

 そうでなかったのは、氏良は愛でる範囲外である山本勘助ぐらいだが、彼も配下の忍から聞いていた彼女の想像との変貌に驚いていた。

 空気がおかしい事に、キョトンとした氏良だが、言いたい事は言えたので、義妹で結婚(仮)をした梅の実姉である信玄の前から移る。

 回復した信玄は、何時もより大きめの咳をしてから、典型的な口上を言い、そして解散させた。

 

「氏良。今夜、温泉はどうだ?」

 

 その信玄の提案に、信玄の人となりを知れる機会と判断した氏良は頷き、良晴に護衛を頼む。

 良晴が元々いた世界では『北条氏政』と名乗るはずだった少女が、偏緯を貰った鎌倉公方に大きな影響を与えた少年と共に海津城を静かに出たのは、夕暮れの頃だった。

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