相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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第116話 一騎打ちと終わりの話

川中島・一騎打ちの場

 

 史実において語り継がれる2人の衝突は、馬で駆ける上杉政虎が3回にわたり刀で斬りかかり、対する武田信玄はそれを軍配で防ぎ、4回目の前に武田軍の旗本達がようやく介入してきたという一方的な展開になっている。

 対して、この世界での一騎打ちは、互いに同じ条件から始まった。つまり、互いに馬に乗り、互いに刀を持ち、互いに距離とタイミングをはかっているという具合に。

 

 ガサッ

『っ!!』

 

 燕が川中島の緑に降り立った音を皮切りに、状況は動く。

 

 ギンッ!!

 

 まずは、互いの武器である来国長と小豆長光が火花を散らす。付き従う者達が自分の主君の初撃を相手が耐えた事に驚いている間に、2人は戦場を舞う。

 アニメみたいに互いの姿が見えなくなるまで早いことは無いが、その一太刀、その1つ1つの挙動は天才と秀才がそれぞれ磨きあげた技術の骨頂を持っていて、猛将も知将も老将も若武者もその戦いに見いった。

 白髪と赤髪が舞い、時折それが花吹雪のように散っていく。馬の足音も次第に合わさっていくようになり、合わさった音が静かな戦場に響く。

 

「くっ!」

「っ!」

 

 芸術のような一騎打ちに終わりが見え始めたのは、互いの右足から一筋の血が舞った事からだった。

 それによって舞いが一時的に止まり、その間に白い幕で朧気に覆われていた景色が元の姿になり始める。太陽が苦手な政虎はそれに目を細め、それに気付いた信玄も顔を歪める。

 そのタイミングで、信玄の横に黒装束の少女が降り立つ。

 

「なんだ」

「南北双方の上杉軍のほとんどが、こちらに迫ってきてます。恐らくはお館様を目指しているものかと」

「だったら挟撃すれば……」

「もう1つ、真田から急報です」

「真田から?」

「佐久峠を『笹』と『二つ両引』が大量に越えてきた、と」

 

 上杉憲政と足利藤氏。

 すぐにその名前が思い浮かべた信玄は、少し考えてから叫ぶ。

 

「上杉政虎! 太陽が出てきた! お前にとっては、これからの戦いは劣勢の場となるだろう! 私も義に反した一騎打ちは行いたくない! お前達がまず義に反してきたがな!」

「……どういう事?」

「佐久峠を、足利家の弾かれ野郎が越えてきたらしいぞ?」

 

 遠目から見ても怒気を発したのがわかる政虎の横に、今度は黒装束の男達がやって来て、何かを告げる。

 それを聞いた政虎は一瞬だけ目を閉じてから、なんとなしに行人包をはずした。

 

「私が気を付けてなかったばかりに醜態を晒してしまった」

 

 そう言いながら、彼女は頭を下げる。

 

「それは横槍を気にしてなかった私の責任でもあるさ。蹴散らしても良いか?」

「ご自由に。越後の皆も疲れている」

「ん。……皆! 川中島の戦はこれで終わりだ!」

 

 振り返りながら、赤髪の少女は叫ぶ。

 

「こんな形で終わるのは私も不本意だが、その鬱憤(うっぷん)は佐久で晴らしてやろう!!」

『おおー!!』

 

 赤髪が遠くに去っていくのを、赤い瞳でしばらく見送っていた白髪の少女は、少し目を伏せてから振り返る。

 

「武田信玄が宣言した通り、川中島の今回の戦はこれで終わり。休憩したら、また関東に向かうわ。皆、帰りましょ」

『おおー!!』

 

 そして、ここに川中島の戦いを象徴する4回目の戦いは終わりを告げ、現地の人達が唖然とするほど颯爽に甲越両軍は因縁の地から去っていく。

 例えば、横山城を奇襲した武田・北条連合部隊は、停戦命令に次いでの経路つき帰還命令に内心恐々としながら、川中島の平原を歩く。

 

「また戦おうぜ!」

「いや、今度は善光寺を詣るときに会おうぜ!」

「だったらお前が奢れよ!」

「なんでい!?」

 

 途中で、上杉軍本隊とさっきまで追いかけていた直江隊とすれ違うが衝突は無く、武士(もののふ)達は笑いあっていた。

 一方で、武田軍からは真田幸隆と馬場信房、北条軍からは郵便の役も担った相良良晴、上杉軍からは防衛戦で見事な指揮能力を敵味方に見せつけた直江大和守・景綱の親子が互いに健闘をたたえあう。

 

「また会おうぜ」

「ええ」

 

 その一言で、今回の作戦の後半を立案したと武田信玄が流した相良良晴と上杉政虎の邂逅は終わり、彼は上杉軍の武将達に声をかけられ少し話す。

 その上杉軍本隊と最後は手を振りあいながら別れた連合部隊は、やがて八幡原の武田軍本隊の所に辿り着くが、そこでは武田からのご飯を食べ終わった甘粕隊が別れる所だった。

 

「よくやった」

「ありがとうございます」

 

 甘粕重持と同じく甲冑越しでもわかるほどに包帯を巻いている小山田 が信玄に労われているのを横目に見ながら、良晴は武田軍本隊を率いていた武田義信と談笑していた北条氏照の下に着く。

 義信や源四郎だけではなく武田軍からキラキラした視線を向けられている事には気付きながらも、良晴は氏照に北条軍での後片付けの指揮の許可を貰い、それをしようとする。

 

「相良様……いえ、今猿田彦様」

「事務仕事は我らが引き受けますので」

「海津で体を休めてくださいませ」

 

 だが、狩野泰光ら氏照の家臣団に笑顔で変わられ、毛利家と三好家ではあまり無かった質問攻めその他諸々を味わう事になる。

 自分のお気に入りが誉めちぎられている事に有頂天である氏照と、今回の最後以外はすっきりとした規模の割には被害は少ない戦いを考案してくれた良晴を気に入った信玄が、それを止めようとはしなかったので、波はありながらも結局は佐久郡で足利・上杉連合軍を蹴散らして別れるまで続いた。

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