相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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第123話 新田の末裔の話

月18日 朝

上野・山田郡 柄杓(ひしゃく)山城城下町

 

 下野や南常陸を飢えさせた気候変動は、この上野でも起きていた。それらの影響は、この地域では特産品の絹織物の品質低下という事に繋がり、それは生産者の収益が減るという事に繋がる。そうなると、更に農民や職人が苦しくなっていく。

 そんなわけで秋の米の収穫を前に1日ずつ辛うじて生きている人々も多い所で、他が値段を釣り上げる中で定価で販売する良晴ら一行は人気を集めた。

 そして辛うじて生きている人々の中には目の前の山城を守る人々もおり、そこを風魔達がさりげなく情報を取る。夕方にはそれ相応の情報が、氏邦についている風魔からの深谷城に関するニュースと共に集まった。

 

「東から(しゅ)(くるわ)、二の郭、三の郭があり、二の郭の上に北郭が、主の郭の東に坂中郭がある、という感じか」

「守りに易く攻めるに(かた)い城で、目標は北郭に軟禁されているものとみられます」

「その北郭に直接行く道はなく、絶対に二の郭を通らないといけない。だが、その道を守るのは忠誠心が高い奴等」

「ただし、それは桐生家に対して、のみ」

「つまり、今の親綱個人に対しての忠誠心はありません」

「だったらやるべき作戦は決まってくる」

 

 という訳で実行である。

 

「門番殿! 門番殿!」

「ん、なんだ?」

「桐生様は深谷城を助けに行ったと聞きます。聡明な桐生様であればこれに勝つのは決まったようなものです」

「そうであろう」

「では! 凱旋してくる桐生様を迎えるために、こちらをお納めいただけないでしょうか?」

「おおっ! ……こほん。し、しかしだな、弾むだろう?」

「とんでもございません! これは、越後の白龍様の関東解放の最初の1歩となるでしょう! そのような歴史に残る大戦の祝宴で弾ませるというのは愚の骨頂でありましょう! ……値段については、こちらでどうでしょう?」

「……ふーむ。……相場もこれくらい、か」

「ただし! あるお願いを聞いてくだされば、これくらいお下げいたしましょう」

「…聞こう」

「内海で獲れましたこの魚。渡良瀬川を通して鮮度をなるべく保ちつつ運んできましたが、これには特別な調理法がございます。それ故に、台所にあげてもらいたいという願いでございます」

「…………城主様に聞いてみるが、監視はつくぞ?」

「それは重々と承知しております。もし認めてくだされば、前夜祭を開くのも可能です」

「…………」

 

 その1刻(2時間)後には、商人達は警備達に挟まれながらも、城に通じる道をそれぞれの荷物を背負いながら歩いていた。

 

「ここが台所だ。城()様が待っておられるので、手早く済ませるように」

『ははー!』

 

 夕方には全ての調理が終わり、早速、残っていた男達は刺身や山菜に舌鼓を打つ。

 だが、始まって早々に『深谷城陥落、由良軍は撤退中』というニュースが入ってくるが、相良達の目論み通り親綱は「今晩ぐらいは続けよ」と命じ、久しぶりの酒宴に珍しく城内のほとんどがそれに賛成した。

 そして、騒動が起きたのは、幾分か明かりの多い城や城下町を静かに照らしていた満月が、梅雨空の切れ端に覆われ始めた頃だった。

 

「くっ、かっ」

 

 まず、異変が訪れたのは台所役の女性で、つまみ食いをしていた人物だった。

 上下共に急激に沸き上がってきた不快感にすぐ耐えきれなくなるなった彼女は、すぐに最寄りの所に花を摘みに行き、そこで水だけになるまでずっとし続ける。いくらか落ち着いてから、少しふらふらとした足取りで扉を開けるが、そこでようやく摘みに行った数分の間に起きた城内の急変を知る。

 少し古びた廊下に広がっているのは、男女問わず多くの者達がうずくまり、我慢出来なかった者はその場で声にならない何かをあげていた。

 

「まさか、戦時なのにここまで成功するとはな」

 

 後ろから声。

 そこにいたのは、台所で共に手伝っていた男性。しかし、料理していた時の気弱そうな雰囲気とは真逆の空気を出していた。

 その男がゆっくりと、うずくまっている者達に注意しつつもこっちへ歩いてくる。対して、彼女が出来るのはその場にへたりこむだけだった。

 

「良い判断だ」

 

 その言葉が幻聴か否か。

 それを判断するより早く、二の郭の方から戦場の音が連続して聞こえ、さっきはついに出なかった物で古い着物を濡らしながら彼女は失神した。

 そして、北郭へ通じる二の郭のT字路では、風魔などが数で守備兵を押していた。

 

「早く来い!」

 

 親綱と共に佐野家からやって来た家臣である責任者が、北郭にいる者達全員がやって来るよう命じ、地元出身の北郭の防衛責任者は躊躇するが、最後には必要最低限の兵を残して派遣する。

 しかし、彼らは気付かない。これまでの話に出てきた二組の商人グループの数は、城内だけでは足りない事を。

 

「あ、あなたは?」

 

 獣道しかない外から攻めこんだグループの中に、総大将の相良良晴はいて、彼は風魔の案内ですぐに目的の人物の下に辿り着く。

 部屋の端に唯一付き添いを許された女中と共に寄り添うその人物は、体も声も震えていたが、蝋燭に照らされる良晴の顔をしっかりと見ながら聞く。

 対して、良晴は膝をついて同じくらいの高さになってから、優しい口調で答える。

 

「鎌倉からの迎えの者さ」

 

 その彼に近付くのは、どこかから現れた白黒の猫で、膝の上にあった右手を無警戒で舐め始める。

 

「……ついていく」

 

 その飼い猫のなつき具合を見て、この柄杓山城に軟禁されていた岩松守純はそう呟いた。

 そして、北郭や二の郭から白煙が立ち込める中、彼らは2人と1匹が増えた状態で闇の中へと消えていった。




 史実では後にある男から家系図を迫られる守純さんです。
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