相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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第127話 鬼と龍の話

6月23日

常陸・久慈郡 太田城

 

 この日の出来事は、後に必然と偶然が運よく佐竹家に傾いていた日だったとよく言われるし、それを義重が認めているのだから公然と言っても差し支えはないであろう。

 佐竹家の長年にわたる本城の太田城では、深谷城と柄杓山城のニュースは舞い込んできたが、比較的緩い空気に包まれていた。

 

「あと少し、か」

「はっ」

 

 それは、まだ本格的な争いを始めていない事に加えて、義重が確固たる準備を整えていた事がその理由であろう。

 いよいよ旅立つ間際まで来ている父・義昭の悲願である常陸統一を果たすため、彼女は想い人に会いたい気持ちを3日ごとの手紙で我慢しつつ南常陸を主とした戦時体制を敷いてきた。

 その彼女の動きは、家臣達にも伝播し、急速に成長している『今猿田彦』に『美鬼』を巡り合わせようと、それぞれが万全の準備をしていた。

 

 そして、その義重に急報が舞い込む。

 

 太田康資の早すぎる謀反という偶然から始まり。

 その結果生じた第二次国府台の戦いで、佐竹義昭は南常陸を優先するために北条家を味方に選ぶという偶然があり。

 その第二次国府台合戦の隙に足利藤氏の挙兵という必然があり。

 白黒はっきりとした状態に対して、相良良晴を介して北条家を知った義重が忍を取り入れるという必然があり。

 結果、佐竹家の敵全てに大なり小なり義重に忠誠を誓う阿武隈や八溝の『山の民』を中心とする忍が派遣されるという必然が生まれた。

 

「会津に派遣していた忍より急報が!」

 

 佐竹家は城の領域の中程を流れる久慈川の上流部にあたる陸奥の東白川郡も狙っており、当然そこを支配している白河結城家とも戦っていた。

 劣勢の彼らに対して、義重は直接や彼らの宗家にあたる下総結城家の結城晴朝を介して何度か和平を薦めていたが、彼らは伊達家とも仲が良い蘆名家と婚姻同盟を組んでいたため首を縦に振らなかった。

 なので、義重は一応蘆名家にも忍を出していたのだが、その忍が伊達輝宗がその蘆名家からの手紙を受け取った頃に情報を持ってきたのである。

 

『上杉()虎、蘆名家の黒川城に入城。南下を宣言』

「……くそっ」

 

 会津の南、と言えば下野だが、途中の白河を佐竹家が攻めている。義将を称する白龍がどっちを狙ってくるかわからない事に、義重は思わず悪態を漏らす。

 そして、簡潔に少ない面積の紙で持ってこれるように書かれた文章で、彼女はもう1つ美しさが増してきた顔を歪めた。

 

「輝、か」

 

 政虎から輝虎。前の関東管領である上杉憲政より上位の者の中で、輝の文字を持つものは京の剣豪だけだ。

 

「まずは父上ね。そして、出来れば……」

 

 朦朧とする時もある「最後まで武人でいたい」父親と軍議をしている間、彼女の命令で忍達は各地に散らばる家臣達の下へ走るのがほとんどだが、一部は常陸を出た。

 八溝山地をそれぞれのルートで越えた3人は、下野の味方の家にそれぞれ伝えていく。1人は宗家に逆らう事を決めた大関家に、1人は主君の妹が嫁いだ宇都宮家に、そして最後の1人は鬼怒川も渡って小山家へと。

 その最後の1人、筑波(つくば)青葉が小山城に辿り着いたのは昼前だったが、その頃には小山秀綱と相良良晴の2人は城内にいて、秀綱の父親・高(とも)に良晴が結城晴朝の話をしている頃だった。

 

「父上、相良殿」

 

 小山城の西側にある榎本城が完成するまで小山城の郭の1つで軟禁されている彼が、愛娘の1人の成長を聞いて深く感心した直後に、鎌倉や深谷に行っている間に溜まっていた書状を片付けていた秀綱が入ってくる。

 高朝は晴朝の成長を話そうとしたが、去就を決める時ぐらい真剣な彼女の表情に口をつぐむ。

 

「悪い事、か?」

「はい」

 

 秀綱は、義重から送られてきた書状を広げる。

 全部読めないが朧気に意味はわかった良晴は、その内容に思わず天を仰いだ。

 

「北から、じゃと」

「はい。それも、上杉輝虎と改名した上でです」

「むう」

 

 関東管領・上杉輝虎、会津・黒川城に入る。

 その悲報は、その日の内に関東と奥羽の主だった城に、翌24日にはほとんどの城に伝わった。

 古河城の主のように馬鹿じゃない武将達は、白龍の3回目の改名の意味を考え、その衝撃は奥羽と鎌倉で一番大きかったと言われる。

 

「船はまだいるかしら?」

「はい」

「三好でも小西でも公家でも良いわ。これを将軍に」

「はっ」

 

 相模の公家や三好家の者達に一応の箝口令を指示した北条氏康は、少し頭を揉んでから、書状が来るまではいた部屋に帰る。

 

「白龍が動いたのですね?」

 

 確認の質問をしてきた武藤喜兵衛に氏康は隠す意味は無いので頷き、喜兵衛の横にいたフリルの少女達は驚く。

 矢車草と鉄を使ってタヌキの毛色に似た(にび)色のフリルの少女はアワアワとするが、姫武将のいつもの装いの喜兵衛とノースリーブ&ショートパンツのそれぞれにフリルが着いた着物を纏う少女は目を輝かせる。

 相反する1人と2人を見て妹達を思い浮かべた氏康は、彼女達に「宇都宮家の援軍を頼めるかしら?」とお願いし、元々北条家の援軍としてやって来た3人は同盟の同盟関係である家へのそれに承諾する。

 

 だが。

 氏康の決断は、3人が河越城を出るまでに翻る事になる。

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