相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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第134話 会津から西の話

7月3日 明け方

会津

 

 明け方といっても、季節は真夏なので盆地の中にある会津の町は蒸し暑かった。

 

「一緒ぐれえか」

 

 だが、故郷の盆地と同じくらいなので、それに慣れている伊達軍の男達はいつもと一緒だった。

 刀にこびりついたモノを拭き取ったこの部隊の長、後藤信康は準備運動をしてから、別ルートを辿ってきた同僚でありライバルであり親友である原田宗時にいけるか確認をとってから、軍配をあげる。

 

「どこから来おった!」

「北からです!」

「米沢の奴等は何をしておった!!」

 

 忽然と夜明けと共にやって来た者達に、城を守っていた蘆名止々斎も彼の配下も混乱する。

 その間、倉や城門を一通り襲った後藤隊は、予想より早く迎撃態勢が整い始めている城を見ると撤退の準備を始め、どこかに寄り道する事なく突撃を始めた峠まで整然と戻る。

 その後藤隊を追っていた蘆名軍を原田隊が蹴散らし、防御態勢を整えた後藤信康は、新しい主君から渡されていた紙をばらまく。

 

「伊達家の大軍が昼にもやって来るぞ」

「猪苗代は陽動だったらしい」

「今度は民家も焼くようだ」

 

 朝焼けが完全に無くなる頃には、既にそんな話が城下に広がり、徐々に町はパニック状態へとなっていく。

 そんな彼らにご隠居から情報がもたらされたのは、その襲撃からだいぶ時間が経った後の事で、しかもその情報の中心がだいぶ近くまで迫ってきた時だった。

 

「蘆名様が帰ってきたぞ」

「上杉様も一緒だ」

「という事は猪苗代城は諦めたのか」

 

 だいたい的を得た噂話をしあっていた住民達だが、この後に起きた事は誰もが予想だにせず、そして混乱を更に深める結果になってしまったものだった。

 

「やべえぜ」

 

 その光景を炎天下のもとで見下ろしていた後藤信康は、すぐさま主にそれを伝えるべく早馬を飛ばす。

 その主はというと、黒川城から見れば()西()の山道で馬に乗ってガクガク揺られていた。

 

「後どれくらいなのにゃ?」

「もうすぐ国境でございます!」

 

 その伊達軍本隊が向かう先の城にいたのは、ほぼ総力戦の中で春日山城への警備を出したので留守を命じられた者達の1人で、名を本庄繁長といった。

 鎌倉時代から下越地方の更に北側のエリアに盛衰を繰り返しながら今まで生き延びてきた豪族達を呼ぶ揚北衆の1つである本庄家は、その揚北衆の中の秩父系の宗家であり、居城である本庄城(新潟県村上市)も一際大きな物だ。

 越後一体に主に武田晴信と北条氏康とその2人が動かすかもしれない者共に備え配した分、残った武士達は少なくなり、繁長は一抹の寂しさを感じていた。

 

「御館様! 荒川に敵です!」

 

 その彼に、戦いの始まりを告げる号砲になるニュースがやって来たのは、会津の動きに関するそれが舞い込んできたときと同じくらいだった。

 

「何処のだ!」

「伊達家、佐竹家、そして北条家ですっ!」

「くそっ!」

 

 幼少の頃に一族を裏切ったおじを自害に追い込み、川中島の一連の戦いも経験してきた彼は、伊達軍が空き巣泥棒をするためにやって来た事をすぐに察し、戦闘準備を始める。

 その間に今で言う米坂線沿いに下ってきた伊達軍ら連合軍は、河口部よりかは手前で大軍で一息をつく。

 

「越後に他国の者が攻めこむ。これほどの規模は、海龍寺(上杉顕定)殿以来でしょうな」

 

 急造の陣でそう言うのは、伊達軍きっての老将である 。彼は、この壮大な作戦を立案し、ここまで成功させている若者達に感心しっぱなしだった。

 一方、伊達軍の半分を占める老将達に感心されている3つの家の若者達は、やはり急造の本陣でこれからどうするか話し合っていた。

 

「これで()いか?」

「ああ」

「ククク。軍神も驚くだろうな」

「顎がこそばい」

「魔王にも休息は必要なのだ」

『………………』

「?」

 

 この壮大な作戦を立案した少女は良晴の膝の上でもぞもぞと動き、良晴は彼女の鮮やかな金色の髪を撫でながらおさえ、北条家の龍と三河の狸がそれを目を細めながら見て、遠江の少女は首をかしげる。

 そんな「冷たい」時間もあったが、これといった襲撃もなく伊達軍何千人、北条家と佐竹家それぞれ数人の連合軍は予定通りに動き始め、時を()()

 

「お待ちしておりました」

()()は?」

「荒川と本庄城の間にいるものかと」

「そう」

 

 一方、いつもの進軍の時より感情豊かに馬を走らせた上杉輝虎率いる上杉軍は、先頭が阿賀野川沿いの越後街道を駆け降りた。

 揚北衆は別名を阿賀北衆というように主に阿賀野川より北の豪族達の事を指すので、彼女達が一息ついた所も揚北衆の範囲内であり、それ故に情報は素早くなかなか正確だった。

 その情報は、片方は荒川沿いに布陣してこちらに備えつつ、もう片方は荒川より北の者達を攻めるという大きな形を浮かび上がらせ、伊達軍が会津と同じく本気である事を示していた。

 

「荒川沿いの部隊の本陣は、攻めた色部殿の平林城に構えられており、その中に総大将と見られる伊達()宗がいます」

「良宗、か」

 

 今朝になってから。

 

『上杉輝虎の会津()()。奥羽の均衡を崩すこの事態を引き起こしたのは、北陸道を進めばいいだけなのに関東侵攻も認めた将軍の蛮行によるものである。

 伊達家は、前将軍様(足利義晴)より授けられた陸奥守の役目を果たすために、異邦人の上杉家が帰るまで、そして将軍が偏緯を取り下げるまで上杉家と不毛な戦、東国に獣が現れようとも戦い続けよう』

 

 という伊達良宗名義の文書が、越後や奥羽の広い範囲に配られ、今や知らぬ者はいないほどになった。天文の乱を戦い抜いた伊達稙宗と晴宗、その後始末をしていた輝宗という風に続けていた将軍からの偏緯をせずに名乗る、という事から、受け取った者達に伊達家の本気度を感じさせた結果だった。

 

「このままでは完敗。けれども、それを敗けに出来る(すべ)はある」

 

 初陣とは思えぬ良宗の作戦を見抜いた輝虎は、それを家臣達に説明してから、自分の作戦を伝える。

 将来的に判定勝ちになり得るかもしれないその作戦に、宇佐美定満以外の者達は意気軒昂となりすぐに準備を始める。

 

「相良良晴。お前の()()を願うぜ」

 

 自分の陣に向かいながら、定満はそう呟く。

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