相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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第140話 終わり、始まる話

7月9日

 

 今回の戦は、どちらかというと北条家よりかは佐竹家や伊達家の方が、より上杉家と争っていたというのが正しいだろう。

 しかし、利根川と常陸川沿いに上杉軍が展開したことで必然的に北条軍とぶつかり、伊達家には北条家も使者を出していて、 には負けたが には勝てたのは相良良晴の功績が大きいのは目に見えてわかることだ。

 という事で、今回の戦の和平も、北条家の河越城で行われる事になる。

 

「これで相違ないわね」

「ええ」

「はい」

「うむ!」

 

 北条家と佐竹家と伊達家は当主の氏康と義重と良宗が、上杉家は輝虎ではないが彼女の執事の直江兼続が和平文書に調印する。

 

 上杉軍は上野国内まで撤退し、北条家と佐竹家はそれを邪魔せず上杉方の城も休戦期間の3ヶ月の間は攻めない。

 3つの家は伊達良宗の家督継承とその名乗りを認める。

 

 主にその2つが骨子であり、上杉方の城とはどれを指す事など細かい所がずらりと並ぶ。

 その和平を結び終えた兼続は目附云々の事務作業のために早々と城から去り、良宗と義重は上杉家の会津乱入で少なからず動いた南陸奥の情勢とその対応について話し合うため、その部屋からは出る。

 後に残されたのは氏康と、ずっと無言だった氏照だけだ。

 

「……ごめんなさい、御姉様」

 

 氏康が北条家の分の書類を自分で片付けて始めた段階になって、ようやく氏照が口を開く。

 会津から西街道を通り下野経由で帰ってきた時以来の異母妹の声に、氏康は動きを止め、うつむいたままの彼女の方を見る。

 

「和平の条件に相良の事が無かった。という事は、上杉輝虎には手放す気が無いっていう事でしょ? それをーー」

「直接的には許したのは氏照かもしれないけど、間接的には相良良晴がああいう男だと知っていてそれでも行かせてしまった私の責任よ。だから、氏照1人で抱え込むようなものでは無いわ」

「御姉様……」

 

 優しい笑みを浮かべた異母姉に、氏照は力一杯抱き締めながら、声をあげて泣く。

 泣きまくり、そしてそこで漸く何故ここまで泣いたか氏照は氏康の暖かさの中で考え、今までの事や振り返っていく。

 

「御姉様……」

「何かしら?」

 

 ほとんど滝山城(東京都八王子市)か戦場にいた妹の1人の震えが止まっても抱き締め続けていた氏康は、顎が触れあうくらいには近い彼女の顔を見て、ある事を察した。

 

「必ず、相良を……()()()取り戻したい」

「……そう。勝千代(綱成)と一緒の想い、ね」

「あうっ」

 

 風魔曰く川中島の時から兆候があったらしいけど……。

 

「戦馬…好きの藤菊が恋(わずら)いとはねえ」

「戦馬鹿じゃないよ」

「わかってるわ。北条家のためでしょ?」

「それと御姉様のため、だよ」

「……ありがとうね」

「うんっ」

 

 その後、少しだけ雑談をしてから、氏照は部屋を出ていく。それを穏やかな表情で見送っていた氏康だが、不意に顔をしかめる。

 

「強くなってきてるわね……」

 

 その呟きは、天井裏の風魔にしか聞こえなかったが、奇しくも同じ瞬間に、同じような事を呟く老将がいた。

 

「このような時に……」

 

 その老将ーー毛利元就は、腹部に走った痛みが通り過ぎるのを待った後、目の前に聳え立つ緑深き城を見上げる。

 そんな彼に、九州方面に放っていた忍の部隊長が静かに降り立ってくる。

 

「大友義(しげ)が家中に挙兵を宣言しました。目指すは厳島、と周囲にも広めています」

「……豊前の小娘め、尼子の虚言に乗せられおって」

「申し訳ございません」

「お主達は悪くない。尼子ほどの外道が、晴(ひで)殿を狙うのは予想出来た事。勝って兜の緒を締めなかった儂のせいじゃ」

「我ら全員の命を御館様に預けております。いつでも使い捨ててくださいませ」

「その心意気良し。されど、使い捨てにはせぬわ」

 

 そう言いながら、忍とそれを扱う者に新しき道を記した少年の顔を老将は思い浮かべる。

 一方、山と瀬戸の海を挟んだ所では、1人の少女がその少年の上手いとは言えない似顔絵の顔を見つめていた。

 

「塩乙丸は目の前で殺された。ザビエルは異国の地で亡くなった。2人が揃って残していった貴方を手に入れる事で、私は『弟殺し』の呪縛から解き放たれるかもしれない」

 

 暗い暗い大友義鎮の瞳は相良良晴の似顔絵をずっと見つめ続け、唇は一定の角度が保たれたままだった。

 そんな暗い笑みを浮かべているのは、豊後水道を挟んだ四国にいるある姫武将も一緒だった。

 

「準備が整いました」

「では、行きましょうか」

 

 畿内から送られてきた似顔絵を大事に胸におさめた少女は、そのまま軍配を上げる。

 

「まずは、長岡の源氏を」

 

 かくして、舞台は整えられていく。

 その役者達は、相良良晴という線へ繋がり。

 この日、もう1組の点と点がまた彼によって繋がる。

 

「竹中半兵衛殿はいらっしゃいますか?」

 

 土岐頼次と竹中半兵衛。

 相良良晴がこの世界に降り立って9ヶ月目にして、彼はようやく自分と織田家中で親しくなる少女と出会う。

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