相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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第145話 越後での軍議の話

7月18日 朝

越後・春日山城

 

 上杉輝虎が九尾の討伐に一役買った。

 そのニュースは当の本人が帰ってくる頃までには越後中に響き渡っていて、結局負けに近い具合に撤退する事になった越後の男達を喜ばせた。

 だが、その討伐に相良良晴が大いに関わった事を知ってるのはごく少数の者達で、大多数の武将が主が彼の事が好きなのは知っていてもまさか上洛に同伴させるまでとは想像しなかった。

 

「ご苦労様」

 

 念のために良晴の真似をしてきた軒猿と交代した良晴は、どっと疲れに襲われてすぐに寝入る。起きたのは翌日の、つまり18日の未明であり、彼が動いて輝虎も目が覚める。

 

「おはよう」

「ああ。…………えっ?」

「朝御飯が終わったら軍議を開くから来て」

 

 あまりにも自然にいた事に良晴が固まっている間に、彼に接吻した輝虎は部屋を出て、代わりに1人の少女が入ってくる。 

 

「龍じゃなくてただの兎になってるね」

 

 まあ、私も同じ感じだけど……と笑みを浮かべながら、利休はなんのためらいもなく愛しい人の前に座り、そのまま彼にもたれかかる。

 

「う~んっ、1ヶ月ぶりの良晴だっ」

 

 1ヶ月、つまり鎌倉での軍議が行われた日からの良晴の匂いに、目尻は垂れ下がり、動かない彼を抱き締める。

 九尾を討伐する前、岸和田での頼次からの提案。それは利休の目的にあてはまり、その作戦を行っている間の褒美は快感の一言だろうと思っていたが、彼女にとって考えていた以上だった。

 

「兎が発情しないように、したとしても抑えれるように私はこの上杉家にお世話になることにした。だから、良晴が北条家に帰るまではこんな感じだからね」

「わかってる」

 

 もし、上杉輝虎に迫られ、それを受け入れてしまったら? そうなれば、責任感の強い良晴は、無理矢理だとしても上杉家も強く想うようになり、北条家との板挟みになり破滅してしまうだろう。それは、利休も頼次も良晴自身も簡単に予期し得る顛末だった。

 そうならないためにも、戦ばっかりの上杉家に茶道を広めるという名目でやって来た利休が輝虎を監視する事になり、それは上杉家の軍議によってある名目で成立する事になる。

 

「我々はあなたを上杉家の茶頭として迎え入れます」

「その代わり鎌倉で知り得た事を話す」

 

 良晴に嫌われたくないから低い重要度だけどね、と商売という戦を経験した利休は内心で呟く。

 それを確認し終えた軍議の進行役の直江兼続は、今回の本題へと話題を変える。

 

「では、これより軍事に関する事に移させていただきます」

「うむ。相良も忌憚ない意見を出してほしい」

「…ああ」

「…まずは南陸奥についてです。会津と下越を舞台にした戦の後、蘆名家は我々との同盟を破棄し、先日までに伊達家と佐竹家、そして北条家と個別に同盟を結びました」

「でかい家同士が手を組んだという訳だな」(政景)

「はい。この同盟により田村家や相馬家は囲まれる形になりましたが、3つの家の間で分割を巡るすれ違いなどがあるためすぐには攻められないと思われます。

 また、伊達家が我々と争い始めた直後から、最上家が『共に伊達()()()から南陸奥の平和を取り戻そう』という同盟の提案が来ていますが……」

「伊達梵天丸という者はいない。そして、伊達家とこちらから争う気もさらさらない」

「了解しました」

 

 直江兼続が最上家への返書を()()ために部屋から出た後、上杉家の本来の外交担当である河田長親がその分野の事を話し始める。

 

「まず北陸道についてですが、こちらはほぼ変わりません。新発田での戦いの影響で、越中と加賀のにゃんこう衆の中の過激派が騒いでいますが、我々が戻ってきた事で下火になりつつあります。能登畠山家、越前朝倉家も同様で友好的な関係を維持しています。

 次いで東山道ですが、南近江の六角家が浅井家と同盟を結んでいる朝倉家と手切れをするように求めて来ていますが……」

「無視よ。あのような者を手伝えば恥にしかならない」

「承知しました。浅井家から鷹の献上は如何(いかが)致しましょう?」

「太刀を選んで」

「はっ。ここからは美濃より東の話です。斎藤道三ですが、九尾討伐を祝う書状と鷹が送られてきました」

「書状のみ。そこに土岐殿の事も忘れずに」

「承知」

 

 兼続が戻ってきたので、3つの返書を任された長親は部屋を出て、彼女と同じく隣の部屋で書き始め、その間に兼続が話を引き継ぐ。

 

「次いで飛騨でございますが、川中島の時より変わらず親上杉家の()()()家と反上杉家の江馬家が敵対関係にあり、江馬家は同じく反上杉の飛騨の武将である内ヶ島家と、彼の家を支援するにゃんこう衆、そして山を挟んで領地を接する武田家の支援を得ていると思われます。

 その武田家ですが、徐々に川中島への圧力を増そうとしている節があります。しかし、その動きは普段からすれば遅くなっています」

「何故?」

「未確定ですが……内紛の(きざ)しがあるとの事」

 

 武田家に内紛の兆し。

 初めてもたらされたその情報に家臣達はざわつくが、一番の衝撃を受けたのは他ならぬ輝虎だった。

 

「未確定でも良いから情報を頂戴」

「かしこまりました。……続けてもよろしいですか?」

「ええ」

「……次いで上野は省きまして下野ですが、親上杉である那須家は我々の会津入りで混乱した隙を狙って、領土内の反那須家の者達を攻めてこれを成功させました。書状などはまだです。

 陸奥は先程申しました通りですので、ここからは畿内と東海道についてです。まずは三好家ですが、先程、海路で多数の品物が送られてきました。書状はこちらです」

 

 兼続から書状を受け取った輝虎は、三好義継の名前で送られてきた長い長いそれを読み進む。

 

「中身は?」

「九尾討伐を手伝った事のお礼、勧修寺家を介しての出張所の設置の要請、私を幕府の奉公衆に推薦したいからその可否、上杉家とにゃんこう衆の和平の仲介、土岐殿と畠山殿の帰還に関する相談、上杉家と北条家との争いに関しては中立を保つこと……になる」

「……いきなり、だな」

「絶体絶命の危機に助けてしまったから、かしら? これは私の一任では出来ない。兼続、河田、宇佐美、直江大和、本庄、そして()()()は終わってもいて」

「おう!」『はっ』

「兼続、東海道はどうかしら?」

「伊勢の北畠家が文通を交わしたいという主旨の書状を送ってきたのみでございます」

「そう。……後は、関東ね」

「左様でございます」

 

 関東。あの、関東の話だ。

 

「北条家ならびに佐竹家との和平条項に関する事は()()予定通りに進み、上野の事実上の支配も完了しましたが、ある一点だけがまだ解決出来ていません」

「古河の野郎は、まだ退こうとしないのか?」

「はい。死ぬまで退く気はなく、またそれは兵も同じだと。そのために、近くの街道が以前封鎖されたままであり、宇都宮家と北条家からの督促状が連日にわたって来ています」

 

 その報告に、あからさまに嫌悪感を露にした者達が次第に増えていっている事をすぐにわかった輝虎だが、それを攻め立てる事は無かった。

 

「報告は以上です」

「……()番目に武田家家中の動向、()番目に古河の事を重点的にやっていって頂戴。古河に関しては兵を城内まで退かせさせるぐらいには」

「承知。……1番目は何でございますか?」

「それはーー」

 

 9月1日、北条氏康や武田晴信の耳にある情報が入る。

 それは、新たな戦いの始まりであり、大きな転換点の1つになった事だった。

 

 特に。

 

 ()()()()()、この時の動きを深く後悔する事になる。

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