相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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第148話 ある職種の話

9月4日 夕方

越後

 

 春日山城の下に近い所に輝虎によって建てられた御館(上杉)の主・上杉憲政を首班として、越後で内乱が始まる。だが、それは良晴の知るそれとは違って小さいといえる者で、上杉家の領内で輝虎に反旗を翻したのは7ヶ所のみだった。

 長尾政景の子・上杉景勝vs(この世界では)北条氏康の異母妹・上杉景虎という明確な対立軸が無かった事、崇められているだけだった輝虎が「人間らしく」なった事で別の源の好感が生まれていた事、鯨海(日本海)を除く国境全面を相手にしているのにも関わらず比較的優位に進めている事、そして義戦が「攻めて帰るだけ」から「攻めてその国・地域の戦いを鎮める」という普通の戦国武将を納得させる戦に変わった事などがその要因だ。

 しかし、輝虎と戦っている他国の者達にとっては、本拠地の間近も含んだ所を含む反乱は願ってもない好機であり、2つの家は史実通り……いや、史実以上に動く。

 

「上杉輝虎が春日山城まで抜いたら帰るぞ!」

『はっ!』

 

 伊達良宗は、史実なら父親が行った通りに蘆名家と共に越後に進出する。再侵攻して、両家の勢力と同盟は であると知らしめるために。

 

「武田軍、箕輪城下に展開完了」

「よし。それじゃあ越えるわよ」

「腕が鳴る!」

 

 北条氏康は、史実通りに藤田(北条)氏邦と大石(北条)氏照と越後に派遣する事を決める。ただし、上野は輝虎による領国化が進んでいるため、幻庵を中心とした北条軍が東上野の、真田幸隆を中心とした武田軍が西上野の主要な城を囲みながらになっている。

 だが、史実通りには進もうとしない大きな家があった。それが、氏康以上に輝虎と関係が深く、ライバルとも友ともいえない関係にある武田晴信率いる武田家だった。

 

「御館様! この混乱に乗じ越後に入るべきです!」

 

 そう深志城で武田晴信に訴えかけるのは、後に山県昌景と井伊直政が引き継いでいく精鋭部隊『赤備え』を率いる飯富虎昌だった。

 彼の軍議の最中のその訴えに、他の一部の者達もうなずいていたが、言われた晴信の方はなかなか首を縦に振ろうとはしなかった。

 

「何故ですか? 何も越後を領国にとは望んでおりませぬ! 大きな痛手を負わせて、あの白龍を巣から出さないようにさせるだけでございます!」

「……龍も人も嫉妬深い。いや、人の方が上だろう。あいつもお……人の心を持ってきたと聞く。そして、領民の支持も武だけではなく政でも増してきているとも。それらは虎昌でも聞いているはずだろうし、そんな越後を攻めたらどうなるかわかるはず」

「しかしっ」

「我々は上杉憲政の要請に応じ、ゆったりと春日山城下に進出する。そして、その頃には戻ってくるであろう輝虎と憲政の和平の仲介をやる。恩と仇、売るならどちらが良いかわかるはずだ」

 

 史実の武田勝頼の動きを北条家からの要請が無いバージョンでやる事に決めた晴信は、春日山城下への進軍部隊と「飯山城の桃井義孝に合流するため」川中島の城達を接収する部隊にわける。

 

「義信。お前に川中島の部隊を任せる。上杉方のやつらは動揺してるが、下手に動けば逆に被害をこうむるかもしれない。慎重にな」

「…はっ」

 

 春日山へ晴信、飯山へ義信、甲信の一応の監視役として高遠城に諏訪四郎勝頼と代行として山本勘助を配する事に決め、小山田家と真田家は対上杉家の点で協力関係にある北条家、木曽家は良くも悪くもない関係の美濃の抑えとしてその殆どを残したままとする。

 虎昌の上奏から飯富源四郎が、幸隆の上奏から武藤喜兵衛が晴信の部隊に配されるなど細かな調整があった後、今から出てもあまり進めないので休息が与えられる。

 北条家の越後侵入部隊は本庄秀綱が守る上野・沼田城の城下で、伊達家の越後侵入部隊は下越の城下で進軍をストップして明日に備える。

 

「各家の動きは以上です」

「ありがとう」

 

 そして、越後の粉うことなき国主である上杉輝虎はというと、内乱勃発の報が伝わると「また何時か」と呟いて占領したばかりの富山城からさっさと撤退し、この日の内には松倉城に帰ってきていた。

 休む間もなく輝虎は軍議を開き、反乱が起きた城とその構造や越後国内の味方などの確認をして、最後に憲政から輝虎宛に送られてきた書状の中身を確認する。

 

「越後は元々は上杉家の血筋の物であり、それは上野も同様である。つまり、この()()()()()上杉憲政の物である。よって長尾輝虎殿は両国とその軍権を返されよ、ねえ」

「筋が通ってるちゃあ通ってるが、俺はそんな事を言っているの聞いたこと無いぞ?」

「私もまったく気付きませんでしたね」

 

 宇佐美定満、長尾政景、直江大和守が順番に呟いていき、憲政と話した事のある者達も一様に同じ反応をする。

 

「相良良晴は思い当たる節があるようでおじゃるな」

 

 公家姿の近衛前久の言葉で注目された良晴は、少しだけ薄笑いを浮かべる彼に視線を向けてから政景に聞く。

 

「憲政さんの目的は関東復帰の()()だった?」

「………………そういう……事か」

 

 良晴の言葉に3人だけではなく知能の方で自信がある者達は、全員が苦虫を噛み潰したような顔になる。

 

「どういう事?」

「……確か関東に関する上杉家は山内の他にもあったよな?」

「ええ。扇谷、宅間、犬懸、千秋、そして越後ね」

「そいつらはどうなった?」

「……断絶したか、没落したか」

「となれば、国主ぐらいの上杉家の人は?」

前管領(上杉憲政)様だけ」

「いや、憲政さんの養子になって越後と上野を領する少女がいるだろ? そして、お家騒動の原因の1つは?」

「……養父子の間の争い」

 

 つまり。

 つまり、上杉憲政は。

 

「輝虎。憲政殿はお前に越後と上野を任せるつもりだ。上杉家という血塗られた血と、関東管領という怨念深い役職を道連れにして、な」

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