相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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第149話 2つの大変動の話

9月5日

 

 この上杉憲政による『反乱』。これを裏で糸を操ったのは他ならぬ武田信虎だが、彼の思い通りかというとそうでは無かった。彼なら、こんな少ない数で挙兵するなど有り得ないからだ。

 

「我らを含めれば7つ、か」

「それに北条、蘆名、伊達の3つは確定でございます。彼らも我々の条件は魅力的ですから裏切りはせぬでしょう」

「そしてもう1つ。……この家がこの通りになれば、恐らくまた時代が大きく波打つだろうな」

「……相良良晴、ですか。北条という強固な家族に溶け込んだ」

「うむ。分裂といさかいを繰り返していた上杉家や足利家が羨むほどの団結力を持つあの家に、まだ1年も経っておらぬのにの」

「……まだ1年も経っていないのですね。我ら河田家が()()輝虎に見いられやって来たのが、もう一世代前のように思えますな」

「儂も輝虎殿()を頼ってから一番濃く、そして考えさせられた1年よ。重親、我が儘に付きおうてくれてありがとう」

「……最後まで仕えさせていただきます。では、これより『あの者』の所へ参ります」

「うむ」

 

 反乱が始まって2日目にして、それぞれの家は大きく動いていた。特に、勃発前に憲政から書状が来ていた3つの大きな家は、既に越後の国境かそれに近い所に展開していた。

 伊達・蘆名連合軍は変わらず、北条家は東上野の上杉方の城達をしっかりと囲みつつ上越両国の国境である三国峠を目指し始める。武田家は国境警備や治安維持担当を除いた大軍を3つにわけ、晴信隊は春日山城下に出る善光寺街道を経由して、越後の国境の手前の野尻湖畔にある上杉方だった野尻城に入る。一方、川中島接収部隊の義信隊は、ほとんどいさかい無くその地方の最奥部である飯山城に着き、山本勘助隊は元気満々に諏訪で甲信を開始する。

 この頃には、なんの前触れもなしに起きた軍神のお膝元で起きた反乱は、大きな家なら知らぬ者がいないほど広がっていて、3つの家の他にもにゃんこう宗や朝倉家、最上家といった近くの勢力はそれぞれの動きに注目していた。

 

「良い景色だ」

「光栄だな」

 

 さて、注目されている人物の1人で、全ての『勢力』からキーマンと見られている武田晴信は、ごく少数の者しか残っていなかった飯山城とは斑尾山を挟んだ反対側にある野尻城に入ったわけだが、別にこのまま春日山城やその手前の鮫ヶ尾城に行くことも出来た。

 それをしなかった理由は、出発前に密かにこの城に入った城代の存在にある。

 

「今、上杉輝虎は何を?」

「親不知を過ぎて、山本寺家《不動山城》から反撃の狼煙を上げようとしてる所だな。ここが落ちれば、後は春日山城まで一直線さ」

「そうか」

 

 野尻湖を見下ろせる城の一室で、輝虎によって派遣されたいわゆる全権大使の宇佐美定満と、輝虎と憲政との間の和平仲介による利を狙う武田晴信は前準備ほぼなしの密議を始める。

 

「引けるのはここまでだ」

「…………同じくここまでが妥協点だな」

 

 始めてから丁度2刻(2時間)が経った頃、休憩なしで行われた密議は終わりを迎える。

 

「上杉家は川中島を武田家に割譲し」

 

「代わりに武田家は西上野を割譲する」

 

「この契りによって両家の戦闘は終わり」

 

「北条家との争いも相互不介入とする」

 

「そして、両家はこの内乱の最中は()()()()()

 

「北条家と伊達家に立ち退きをさせる」

 

 一時的ながらも甲越同盟の締結という、彼らの敵にとっては悪夢でしかない結論と共に。

 

 だが。

 

 それがすぐに履行される事は無かった。

 

「お、お館様ぁ!」

「何だ!?」

 

 何故なら。

 

「謀反でございます! ()()()()()海津城を襲いました!」

 

 義信事件。

 史実ではそう称されるはずだった出来事が、事件どころではない規模で始まったからだ。

 その武田義信は武田四天王の1人・高坂昌信が詰める海津城を攻め、圧倒的な数の差をみた昌信は素晴らしい撤退戦を行う。

 

 その反乱の最初の攻撃が始まった頃、武田家領内の各地で同じような動きが広がっていた。

 小山田信有率いる部隊は問答無用で武田家の本拠地・躑躅ヶ崎館を蹂躙し、木曽義昌率いる部隊はやはり問答無用で深志城を奇襲した。

 

「御免!」

「ぐっ!」

 

 そして。

 川中島の南、上州の西という武田家の最前線の1つ手前にある佐久・小県両郡を領する真田家の本城では、箕輪城下に出張中の(幸隆)と岩櫃城下に出張中の(信綱)の代わりに家を守っていた真田昌輝が、ふらりと城にやって来た()()()()()()襲われた。

 意識が朦朧とする中、血塗れの刀を持つ喜八郎の肩に震えながら手を置く。

 

「き……はち……」

「喜八郎じゃない。()()()()だ」

 

 その張りつめた声を最後に、昌輝の意識は途絶える。

 崩れ落ちた兄を見下ろしていた武藤喜八郎あらため真田昌幸は、近付いてくる足音の方に目を向ける。

 

()()()倒しました」

「そうか。ありがとう、()()

「…はい」

 

 真田弁丸あらため真田幸村は、担いでいたすぐ上の姉・信之を傍らに丁寧に置く。

 一言二言かわした彼らは、大きな息をついてから待たせていた者を呼ぶ。

 

「ご苦労」

『はっ』

 

 飯富虎昌。

 猛将であり昌幸に偏緯をあげた男は、淡々と両郡を制圧していき、西上野に取り残される事になった真田幸隆・信綱父子の両方に従属するよう文書を送る。

 返ってきた答えは『だーれが従属するか』が信綱で『主は晴信様のみ』が幸隆であり、虎昌はそれに表情を変えることは無かった。

 

「真田殿、ここに留まり上野からの()()を抑えよ」

「はっ!」

 

 反乱が起きたこの日、仁科盛信がいる安曇郡と山本勘助が退いた伊那郡、幸隆・信綱父子がいる西上野、そして晴信がいる野尻城周辺を除いた武田家の領土は瞬く間に義信派に制圧される。

 ここまで順調に進んだのは、義信派にとっても意外な事だったが、これは晴信が『各個撃破されるよりかは集まれ』と自身の派閥の者達に指示した事による。

 そして、この反乱だが、すぐ隣の国で現在進行中である『御館の乱』とは明らかに異質な所があった。

 

「武田家中で反乱、ですか」

「うむ。小太郎はどう思う?」

「……面倒ですね」

 

 下越ではそんな会話があり。

 

「はあ!? 武田家で反乱?」

「はい。筆頭は武田義信でございます」

「……2人に進軍()()を命じて。私達は帰るわよ」

「はっ」

 

 武蔵ではそんな会話があり。

 

「停止、ね」

「引き返そうか」

「……悪い物でも食べた?」

「これから食べたくないからだよ」

 

 上越国境は武蔵からの命令が下る()に反転する。

 そして駿府では、十二単の少女が高笑いしていた。

 

「あわよくば結びましょう!」

「はい。難しい以外の何者でも無いですが」

 

 いわゆる『外の者達』が鈍るかもしれない、というのは義信派の中でも懸念されていた事だったが、この完璧なタイミングで仕掛けれた事に安堵感が広がっていた。

 しかし、真田家を経由して帰路につく義信は、虎昌からの報告に嘆息をついた。

 

「想像以上、という訳か」

「はっ。まさか、武田晴信と上杉輝虎が組む可能性がここまで縛り上げる物だとは……」

 

 そして。

 崩壊と再構築が始まる。

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