相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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第155話 海津城の戦い

9月

 

 西から東へ展開し、南北を分断している飯富虎昌率いる義信軍。

 その北側に展開し、上野を経由して北条軍に向かわせたため更に数が減った晴信率いる武田軍と、自分の国の内乱をあまり気にも止めないようになってきた輝虎率いる上杉軍。

 逆の南側に展開し、千曲川沿岸の小県・佐久郡を制圧して諏訪郡を勢力下に置き晴信と一時的な同盟を結んだ氏良率いる北条軍と、名将達を任された信繁率いる武田軍。

 それらの中で、この日まず最初に大きく動いたのは、徐々に北上していた北条軍と、それに合流した武田軍だった。

 

「どういう事だっ」

 

 その大きな動きがすぐに伝えられた海津城の城内では、1人の男が頭を抱えていたが、今のこの城の実質的な主である飯富虎昌はあまり気に止めなかった。

 

「相良良晴、か」

 

 上州のほんのわずかな協力者が、命懸けで伝えてくれた『武田軍の北条軍方面への移動』という事。それにも関わらず、北条軍に目立った動きも混乱も無いとなれば、援軍であろうしその為の仲介人もいるはずで、一番可能性が高いのはやはり相良良晴だった。

 だが、過ぎたことを悔いても今は意味はないので切り換える事にし、部下を呼ぶ。

 

「『彼ら』はどうだ?」

「全速で進軍中との事です。すでに境を越えたとも」

「そうか。ではこちらが粘れば良いのだな」

「はい」

 

 そして、海津城を巡る戦いは始まる。

 

「真田姉妹と!」

「相良良晴! 参上だぜ!」

 

 城()の大声から。

 

「大丈夫だったか!?」

「お姉様の……」

「ああ! 動けるな!?」

「はいっ!」

 

 相良良晴が真田姉妹と共に海津城内に突入してきたのは、間接的には武田軍の死ぬはずだった者達と死にゆく者達がやって来たからで、直接的には本能寺の変直後の『川中島の戦い』の顛末をなんとか呼び起こせたからだった。

 史実では高坂昌信(春日虎綱)の次男であり、森長可から上杉景勝に転ずるも北条に内通していた事がバレて磔にされた高坂昌元(春日信達)ら一族を、海津城を知り尽くす真田姉妹の助けを得て救出した良晴は、そのまま撹乱作戦をする。

 まさか中から攻められるとは思っていなかった者達のほとんどは、武田・上杉・北条という三強揃い踏みの敵に浮き足立っていた者達で、混乱する事になる。

 

「致し方なし、か」

 

 自分の予想以上の混乱ぶりを見せつけられた虎昌は、やはり予想とは違い合図もなしに動き始めた武田・北条連合軍に迎え撃つ事を決め、覚悟を決めている者達と共に整然と城の外に出る。

 

「我は飯富(おぶ)兵部少輔虎昌! 我らの地獄への道に貴様らを引き摺らんとする修羅なり!」

 

 そして、島津の『矢』の如く動き始める。

 

「北条の皆さんは後ろに。これは武田の戦です」

 

 そして、武田太郎信繁とその者達は迎え撃つ。

 

「待ちやがれぇ!!」

 

 だが、その死への戦を良晴は許さない。

 この海津城を、川中島を巡る攻防は武田家滅亡後の戦であり、つまりはそれまでの川中島や長篠の戦いの後に起こる戦。となれば、この戦で多くの命が散る可能性は高い。

 それをわかっている彼は、虎昌が外へと動き始めた直後から、自分も外へ出て、すぐにある部隊と合流した。

 

「これで信濃の戦を終わらす!」

「ああっ!」

 

 信繁軍に突入していく飯富軍、それを追い掛け突入していく晴信軍。北で上杉軍が、南で北条軍が見守るその争いは、まさにノーガードの殴りあいになった。

 良晴は飛んでくる弓矢や突き出てくる槍、薙いでくる刀を次々と避けつつ、信繁の本陣の旗印が立つ場所へ一心不乱に向かう。

 

「御主人様!」

「……頼んだぞ!」

「はいっ!」

 

 忍にも守られつつ、良晴は馬を走らせる。

 ようやく見えてきた時には、既に本陣の陣幕が切り裂かれようとしている所だった。

 

「相良良晴、見参!」

 

 そして、信繁の旗本が奮闘している間に、本陣に突入した良晴は、馬から降りてそのまま彼女の前に立ち塞がる。

 

「これは武田家の戦だ」

「目の前で落ちそうなモノ全てを拾い上げたい(さが)なんでね。信繁さんの命も、処刑される可能性が高くなるあんたらの勢力も」

「……」

 

 剛腕が振るわれ、良晴は手首が嫌な音をたてたのを聞いた。

 

「武田家は当主のカリ……魅力に惹かれた人達の集まりだ」

「魅力が無いと判断すれば反乱を起こす」

「その中で晴信さんの信虎追放は特殊で、実際以上の魅力を彼女からあんた達は感じ、晴信さんはそれに応えた」

「今は拡大が主な魅力になっている」

「だから、あんた達は勝手に失望し、あんたは信虎に(そそのか)された時にそれに乗り、そして同じような義信を旗印とした」

 

 会話の区切り区切りの斬撃に耐えてきた刀はついにどこかへ飛んでいき、良晴の顔からは汗が、唇からは血が滴り続ける。それでも、彼は口を止めなかった。いや、止められなかった。

 

「勝手な奴等だよ、家臣って奴は」

 

 虎昌は、やはり無言で振りかぶり。

 

「そこまでだ」

 

 凛とした、虎昌が好きだったその声の主に止められる。

 

「もう、終わりだ」

 

 虎昌の横に立った晴信の言葉で、虎昌はようやく戦場にあるはずの喧騒が無いことに気付き。

 

「ご苦労だった」

 

 その言葉に、力が抜けた。

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