相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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第156話 甲斐での戦い

9月19日

甲斐・躑躅(つつじ)ヶ崎館

武田 義信

 

 降伏勧告は何度も来ていた。

 だが、まだ甲斐に俺達がいるにも関わらず膝を屈すれば、火種が本拠地に残ったままという事になり、なんのために動いたかわからなくなる。

 

「高島城より長坂を退かせよ」

「はっ」

「郡内の北条は動こうとしていないな。ならば、北から迫り来る者達に対処させる。最低限を残せ」

「はっ」

 

 郡内の小山田と北条綱成は動こうとしないから、信濃から迫る本隊に対処する。姉上、上杉輝虎、北条氏良、相良良晴、そして4万とも言われる軍勢。

 

「精一杯抗おう」

 

 勝てるとは思えないが。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 無主の甲信を巡る天正壬午(じんご)の乱における外からの主役は、関東の北条家と東海道の徳川家だった。しかし、徳川家を率いる徳川家康はまだ松平元康として駿府にいるし、彼女を人質にとる今川家は中立を宣言している。だから、北条氏康は登場人物を変えた。徳川家を武田義信と置き換えるという形で。

 その武田義信は、信濃を飯富虎昌に任せ、甲信の接点であり義妹の諏訪四郎勝頼を擁する山本勘助が守る諏訪郡の高島城を攻めた。史実において、北条家に通じた諏訪頼忠を徳川軍が攻めたように。

 

「後は甲斐だけだ」

 

 海津城で現状を整理した武田晴信は千曲川沿いに最短の道で本拠地を目指し、北条氏良もついていく。史実において、上杉景勝と和した北条氏直が辿った道を先に通り。

 そして、武田軍は高島城から甲斐へ撤退する長坂昌国隊を追いかけるが、地の利は同じで深追いは義信本隊がいるためされない長坂隊がなんとか撤退を成功させる。やはり、史実と同じように。

 その撤退の成功を確認した義信は、躑躅ヶ崎館を出て、より連合軍本隊に近い予め調査して砦を築かせていた所に移る。徳川家康が、砦とほぼ同じ所に築かれていた新府城に移ったように。

 

「私達はここで良いな」

「ええ」

「はい」

 

 対して、連合軍本隊は甲斐北西部、信濃の国境に近い若神子(わかみこ)城を中心に史実のように布陣する。

 このまま進めば史実通りに進めば甲斐に本拠地を置く義信軍の判定勝ちになるが、それを知っている指揮者・氏康にとっても困った事になるので、彼女はそれぞれの着陣を確認してから、1つの史実とは異なる動きをする。

 

「大変です! 御坂峠と雁坂峠の双《・》方《・》()()北条軍が越えてきました!」

「……虎ぁ!」

 

 この時、氏康から『これ以上は入らないわ』と言われていた義信は、それが連合軍とぶつかり合うまでの絶対条件をわかっていたからこそ、その敵の『裏切り』に激怒し、一か八かの連合軍への特攻が頭をよぎった。

 しかし、氏康が起こした『史実と違う動き』は、別の者の『史実とは違う()()()動き』を起こす。

 

「全軍、敵は北条家。()()()衝きましょう」

「おおー!!」

 

 黒駒の戦いの少し前、小山田信茂は自身の家を守るために主君・武田勝頼を裏切り、自害に追い込んだ。

 しかし、この時の彼女は当主ではなく、主君は武田勝頼ではない。彼女は小山田家の裏切り者であり、主君は敬愛する武田晴信だった。

 だから、彼女は北条家に、小山田家と武田家のために反旗をひるがえし、さっきまでは盟友だった北条綱成(つなしげ)を攻める。

 

「あの砦に避難!」

『おう!』

 

 奇襲された綱成は逆転は難しいとすぐに判断し、素通りする予定だった砦に突入して急場をしのぐが、しかしすぐに小山田軍に囲まれ、彼らにとっても知ってる所なので落ちるのも時間の問題だった。

 そして、相棒の翼がもがれた事を知った北条氏邦は甲武を隔てる 峠を越えた所で進軍を止め、綱成と同じくこの連合軍の指揮者である武田晴信にどうするか聞く。

 対して晴信は、少し考えてから氏邦に慎重な進軍を指示し、自軍も進軍を決断する。義信は小山田家からの攻撃が出来なくなったとはいえ、御坂峠からの進軍に備えなければならず、多くはない軍を割く。

 

「ここか」

「はい」

 

 だが、武田義信は知らない。

 武田家を南から滅亡させた切っ掛けを。

 

「……良いのか? 弟を攻めて」

「はい。お館様に刃向いた者は、いかなる理由があろうと罰するべきです。それが天道です」

「…………」

 

 木曽義昌で織田軍が信濃に侵入してきた時、武田勝頼は織田信長の盟友である徳川家康に対して穴山家や駿河の者達で対処しようとした。だが、小山田家並みに甲斐で独立を保っていた穴山梅雪信君は、その家康に通じて寝返り、甲斐は収拾がつかなくなってしまう。

 今回、まだ出家していない信君は武田晴信についていき、弟・信嘉(のぶよし)が義信について反旗を翻してからも大人しく晴信の側にいた。しかし、良晴のその話を氏康を介して聞いた氏良は晴信にある作戦を提案し、晴信は「うずうずしていました」信君にやってみるか聞き、そしてすぐに実行に移される。

 9月 日の朝は甲斐の盆地一帯を静かに霧が覆い、それと同じくらい人も静かに過ごしていた。だが、燦々とした太陽が天高く上り終えた頃には、1つのエリアを中心に大小様々な騒ぎがあった。

 

 終局に向けて少しずつ状況は動いていき、この時、1つの終末が確定した。

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