9月20日
甲斐
武田 義信
北西に連合軍、北東に北条軍、東にも北条軍と小山田軍、そして南に穴山軍。まさに四面楚歌という言葉が正しいだろう。
「ならば、各個撃破しか無い、か」
「……どれからにしましょうか?」
「…………連合軍はまず論外、穴山軍は同士討ちとなる。ならば、この者しか無かろう」
「です、な」
さあ、踊ってもらうぞ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
武田義信が転進したというニュースは、甲斐国内で暗躍していた忍によってすぐに周りの知る所となり、その行き先にそれぞれの大将達は納得した。
「全軍停止。迎撃するわよ」
『おう!』
秩父から雁坂峠を越えて甲州に入り秩父往還を進んでいた
神流川の戦いなど死線を潜り抜けてきた彼女は、籠城して連合軍が挟み撃ちするのを待つという全うな作戦をする事にし、連合軍もそれに同意する。
だが、その戦略はその日の内に崩れる。
「お館様! 謀反です!」
血相を変えて城主の部屋にやって来たのは大村家の足軽の1人であり、城主の大村
「すぐにお逃げを!」
「どういう事?」
「謀反人は隠し通路を使っておりまする!」
「……成る程ね」
落城間近、という事を察した氏邦は、目の前に広げていた書状を片付け、傍らのおにぎりを食べてから立ち上がる。
だが、その一連の動きが、彼女らをより危険に導いてしまう。
「伏せろ!」
氏邦にとっては久しぶりの、大村父子にとっては初めての声は、本能に訴えかけるもので、その言葉につられるように転がるように伏せた。
直後。
部屋の上部が爆発音と共に砕けちり、彼女達の頭があった所を木片が通りすぎる。
悲鳴を叫ぶ事さえ出来ないようなその事態にあった氏邦だが、聞いた事のある声で大村父子よりかは早く立ち直る事ができ、視線を前に向ける。
そこにいたのは、飛び込んできた足軽の頭を持って伏せさせた少年で、やはり久しぶりに見る少年だった。
「久しぶりだな、氏邦さん」
「……そうね、相良良晴」
上杉軍で、そして連合軍で動き回っているのは聞いていたが、久しぶりに見ると何故か安堵感がわいてきた。まるで、神流川の後のような……。
「武田
その良晴の最後の言葉に、持ち直しかけていた氏邦や大村父子の頭はまた固まる。
「……どういう事?」
「旗頭と黒幕が両方いる。黒幕は滅多に現れてこないから、ここがチャ……好機だ」
「……大村衆だけではーー」
「無いぜ?」
応えた良晴の声に合わせたかのようなタイミングで、一斉に勝鬨の声が上がる。城より
「金山衆が道案内してくれなければ、ここまで辿り着けてないさ」
そう言いながら、段々と近付いてくる喧騒の方を向きつつ、彼は槍を構える。
「大村の……おっさんの方、氏邦さんを頼んだ。俺らが虎を防ぐ」
「……承知」
「けどっ」
「大丈夫。さすがに自分の親がいる城を撃ってくるほどの馬鹿じゃないさ、義信は」
「…………任せたわ」
「おう」
そして、大村忠友の案内で相良良晴と氏邦から付けられた富永助盛らは、隠し通路と正門の間の通路に移って待ち構える。
「者共! ここまで退けぇ!」
忠友の大声に、懸命に武田軍に応戦していた者達は、必死に主の所まで走る。
「やあ!」
追い掛けてきた武田軍の足軽は、助盛が繰り出した槍に貫かれ、横の庭に捨てられる。
そして、直後に転がってきた
「とりゃ!!」
ゴルフよろしく、目の前の部屋に打ち飛ばすという荒業で。
「お前が相良良晴か」
「てめえが武田信虎か」
そして、相対する。
筋骨隆々な元甲斐国主・武田信虎と、マッチョになってきた相良良晴の2人が。
片方は殺気を、もう片方は倒す気を全面に出し、周りの男達も無意識に各々の目標を定めて身構える。
「自分の娘達を傷付かせない気は?」
「武田は瀬田に旗を立てるのが使命よ。上杉でも、今川でもなくな」
「交渉決裂だ」
城内で決戦が始まった頃、城外でも決戦が始まろうとしていた。
「全速で来たのにね」
武田義信に圧倒的に不利という形で。
「早く蹴散らして城に戻るわよ」
『おう!』
前面には、総大将が戻ってきた事で士気が爆上がりした北条軍氏邦隊が。
「狙うは自治! ここが正念場だ!」
『おう!!』
側面には、奇襲を導いた金山衆。
「疲れてる?」
「いえ、やる気が溢れ出ています」
「……同じく」
そして、後方には 川沿いに駆け抜けてきた穴山軍と、新府城の前を素通りした武田軍の騎馬隊を率いてきた山県昌景と馬場信春。
超特急で義信は中牧城にやって来たが、囲う者達にとっても甲州は自分の庭なのでそれくらいのスピードで来た。義信も勿論わかっていたが、考えていた以上のそれだった。
『うおー!!』
「信虎様より撤退するようにと」
「……承知、と」
「はっ」
既に雌雄は決した。
1度目を閉じ細く開けた時には、義信は微笑んでいた。
「
「はっ」
「全軍に
「……よろしいので?」
「無駄死には必要ない。ここからは『あの山』が近いでしょ?」
「…………承知」
終局に向けて、歯車は周り続ける。