相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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11 荒木氏清の京都

4月3日 夕方

近江・滋賀郡 逢坂(おおさか)

荒木 氏清

 

 少女4人に少年1人、そして老人1人に、護衛の本当の中年夫婦の一行。

 それを端から見れば『祖父とその息子と嫁、そしてその2人の間の4人兄妹』と写るだろうし、合間にあった関所では実際にそう思われていた。

 少女の1人が行人包と呼ばれる白い布で顔を覆っている以外は、これといった外見的な特徴は無いけれど、その実は凄い人々ばかりだ。

 

「よし、通って良いぞ」

 

 例えば、この近江国内の全ての関所を普通に通れた、浅井と六角の坊主の花押がある書状の持ち主である行人包の少女=長尾景虎殿。

 例えば、その2つの家と同じように通行許可を出して、春日山城の前の港から敦賀の港までの船の立ち入りを許可したりした朝倉宗滴殿。

 例えば、その2人の先導役になし崩しでなり、また私や宗矩などとは違う景虎殿の異形に対しての反応をして旧知の仲のように……じゃないよね?……振る舞っている土岐頼次様。

 

「いてもいいのかの?」

 

 と、宗矩に耳打ちしていたのが、若狭武田家の次代の国主になるであろう武田孫八郎殿。

 そして耳打ちされた柳生宗矩も、頼次様が「未来でも有名になるでしょう」と太鼓判を押す少女だ。

 それに比べて私は……。

 

「氏清」

「……は、はい」

「箸が止まってますよ」

「すみません」

 

 すすす、と器用に音をたてずに私に近付いてきた頼次様。

 同郷の者曰く「姉御の笑み」を私に向けながら、頼次様は言う。

 

「氏清は現在進行中で有名ですよ? 多紀郡の不戦の契りの首領なのですから」

「…………誘導があからさまです」

「ばれた?」

 

 頼次様はずるい。

 けれども、戦を生業(なりわい)とする農民という矛盾を解消した故郷では、その農民たちの笑顔が増えたと聞く。

 波多野家と細川家という旧来の物から離れる事を決めた者達の首領なのだから、私は先見的な頼次様の……姉御の後をついていこう。

 

「寂れ具合は変わりませんなあ」

 

 朧気だった行き先を決めた直後に、先頭を歩いていた宗滴殿が声をあげ、私達が京に着いた事に気付いた。

 どっちも本拠地から追いやられている主君(関東管領)主君(将軍)に会いに来たのが主目的だという景虎殿も、主君のご実家(勧修寺家)などに会うためにここに踏み入れたが、彼女も寂れ具合に目を細めていた。

 最近は、三好家も将軍も大きな軍事行動を起こそうとしていないため散らばっていた人々も戻ってきて活気が徐々にだが戻ってきたという京の町。

 

「春日山より活気がない」

 

 との事らしい。上京、つまり公家達が住んでいる所は元々だけど、下京もまだ春に衣替え出来ていないように見える。

 酷評した私達は、陸奥から上野・信濃・美濃・近江を経由して京に至る東山道の一方の終点である鴨川を渡った先の粟田(あわた)口から中に入る。

 その粟田口の南西にあり、応仁の乱の戦火で衰退した花屋町通と七条通の間にあるのが、我らが三好軍の本拠地である。

 

「霜台様、宗滴殿と弾正少弼(長尾景虎)殿をお連れしました」

「御苦労様です」

 

 霜台様に挨拶する頼次様の後ろでは、自分とは真逆と言えるかもしれない異形の霜台様のお姿に形容し難い表情を浮かべた景虎殿がいた。

 その景虎殿も、霜台様から話を振られると「景虎殿で良い」と言ってから、三好家が手配した宿の事などを話す。

 そしてーー。

 

「お主があの九十九茄子を持つ松永久秀でござるか」

「その通りでございますわ、宗滴殿」

 

 そして、1つの茶器で縁が結ばれる2人が初めて対面して話す。

 三好家代表と朝倉家代表としてではなく、私人同士でほとんど九十九茄子の事が話題をしめた2人の話の後は、宗滴殿と急遽上洛してきた御方の話である。

 

「越前での噂はかねがねでございます、宗滴殿」

「こちらこそ堺の茶友達を介してよくお聞きしますぞ、実休殿」

 

 三好実休之虎様。

 三好家の拠点である阿波を統べる実休様は、霜台様と同じく茶人としても巷で知られるお人で、津田宗及の父である宗達を中心にしてで今井宗久、北向道陳、千宗易などとも交流がある。

 実休様と宗滴殿の話は当たり障りの無い物で終わり、景虎殿は挨拶以外で言葉を発する事が無いまま会談は終わる。

 

「では。義統殿の勝利を願っておりますぞ」

 

 京で色々動くらしい宗滴殿とは本陣の前で別れ、私達は景虎殿と共にほの暗い道を早足で進む。

  向かった先は、三好家が用意した景虎殿の宿。個人でも驚異的な強さを見せるらしい彼女に護衛はいらないはずだが、その理由で「ついていきます」という頼次様に頷いた。

 不思議に思いながらもついていった先には、京の中でも一級品に綺麗と言える建物があり、その隣に数ヵ月前に行った所があった。

 

「見送りありがとう」

「こちらこそ()()()お教えいただきありがとうございます」

 

 ……なるほど、なるほど。

 

「では、またいつか、戦場以外でお会いしましょう」

「ええ」

 

 建物の中へと消えていった行人を見送った頼次様は、微笑みから厳しい表情にさっと変え、隣の建物へ向かう。

 そして、声をかけることもなく、勝手に扉を開ける。

 

「遅かった、か」

 

 人のいる気配が無い寂しい空気。

 小さく溜め息をついた頼次様は「また会いましょう」と呟き外へ出る。

 4月の空に新月からほんの少し見えた金色の明かりがあり、それが少し冷たい京を照らしていた。

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