相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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第160話 上総と両毛での話

3月16日 未明

下総

 

 この日から始まる『古河合戦』は、一般的にその軍の中部にある水海(みずうみ)城の旗が上杉家から北条家に変わった事から始まると言われている。

 簗田家の分家だったその城の主は目が覚めたら刀の先を向けられていたというしたくない体験をして、助けを求めても城中がそれどころではないとわかると降伏した。

 簗田晴助がいる関宿城と足利藤氏がいる関宿城の合間にあるその城が落ちたのと同じく、双方の城の物見番は西から大軍が迫っているのを見た。

 

「いつの間にっ!」

 

 彼らにとっては急に現れたが、両城に迫る北条軍にとっては、この休戦期間の間に周りの城や陣地などを調べあげ、上杉軍が鹿島まで行った奇襲をしたから不思議な事ではなかった。

 一方、そのいきなりの王手を伊香保温泉で聞いた上杉謙信は、予め魚沼に待機させておいた本隊に進軍命令を出し、自身は厩橋城に移りつつ上州の者達に召集をかけた。

 由良家や桐生家など東上野の主だった家々は上杉方なのですぐに集まり、西上野の者達からは不介入を言うための使者が続々とやって来る。

 

「利根川と渡良瀬川の間を通り、古河城へと救援に向かう。関宿城は耐えきるだろう」

 

 という謙信の宣言通り、昼過ぎにはほぼ東上野の者達で構成される上杉軍は厩橋城を出て利根川よりに古河城へと進む。

 それを察知した藤田(北条)氏邦は、古河城攻めの軍を一部分けてそれに当たらせ、その部隊を率いる北条氏忠は周辺を警戒しつつ今の板倉町、つまり(上州)(くちばし)にある古河城の離山砦に入る。

 対して、上杉謙信は鶴の目の部分にあたる館林市の館林城に入り、上野に入ってきた本隊の合流をまつ。

 

「間に合うか……」

 

 そして、彼らの北側で呟く()人の男がいた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

3月17日 朝

下野・安蘇(あそ)郡 渡良瀬川左岸

佐野 宗綱

 

 俺達は足利様からの命令に応じ、未明に唐沢山城を出て館林城から離山砦に向かうであろう上杉軍を挟撃するためにここにいた。

 

「龍には毘沙門天の加護があるからな」

 

 と、父上は渡良瀬川を渡ろうとはしないが、武闘派の者達も内心では安堵しているだろう。

 あの小田原まで龍が攻めた時から時折その後ろ姿を見ている俺達は、神流川の戦いや常陸攻めのための利根・鬼怒川水系の制圧という考え付かないような戦をしてきたから、その強さは身に染みている。

 

「もうぶつかったか?」

「……まだのようです」

 

 そして、その強さを神流川で本陣まで、そして小田原まで攻められた事からよりわかっているであろう北条氏康は、父上に命じる。

 

 上杉軍が北条軍本隊と衝突後、川を渡って退路を絶つように。

 

 俺は『武功をとらせないため』だと勘違いしていたが、感嘆の息を漏らした父上はそれを否定した。

 曰く、どうあがいても俺達の方が数は低く、これ以外の策だとこっちの方が壊滅するかもしれない。俺達の実情をしっかりと考えてくれている、と。

 それに俺は成る程と思い、同時に俺と同じ年代でそこまで気が回る北条氏康に、そして「そう変えさせたんだろう」相良良晴に尊敬を抱いた。

 

「にしても、細長いですね上杉軍」

「ああ。波状攻撃でもするつもりか?」

 

 まだ最後尾は対岸の所を渡っているほど、細長く上杉軍は伸びている。どこを攻めてもすぐに反撃にあうぐらいに。

 

「……まさか……」

 

 その最後尾を見ながら父上が呟いた直後に、伝令が本陣にやって来る。

 

本城(唐沢山城)が攻撃に晒されています!」

 

 そんな悲報を。

 

「確かか!?」

「はい! 『竹に雀』の家紋が西方より!」

 

 西方……厩橋から少数で来たのかっ。

 

「父上!」

「お前が先に撤退しろ!」

「はっ?」

「目の前が見えないのか!」

 

 目の前……。

 

「待ち構えてやがる。俺達が後ろを見せようとしているのを」

 

 ……ならば。

 

「父上が御先に」

「なっ」

「城を一番知っているのは父上。あの馬鹿弟とですと私では無理です。ですので」

「……頼んだぞ」

 

 さあ、気合いを入れ直そう。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

同時刻

上野・邑楽(おうら)郡 離山砦(板倉町)

北条 氏忠

 

「俺達ではなく佐野か!!」

 

 目の前の軍に上杉謙信がいない、という報告を何とか持ち帰ってきた風魔から聞いた時、俺はすぐにその理由がわかった。

 相良良晴らのおかげでこっちについてくれた彼らは、その直後から積極的に連絡をとってきた。さらに、桐生家から次男が勘当されるのを引き起こした事も歓迎してくれた。

 そんな俺達に命をかけてくれる彼らが狙われている事をわかった時、俺は隣の幻庵様にある事を提案していた。

 

「……仕方ないの」

「ではっ」

「但し! 自身が生きるのが最優先じゃ!」

「はっ!」

 

 そして、俺は本隊の指揮を幻庵様に移し、志願者達と共に離れる。

 

「急ぐぞ!」

『おう!』

 

 自分達は山になるだけじゃからと馬を貸してくれたので、昨日以上の早さで進む。

 

「小山家家臣の荒川秀景、助太刀と道案内に参った!」

「有り難い!」

 

 小山家の領土を高速で突っ切りその荒川殿と合流した直後に、佐野殿からの伝令と合流する。

 

「心配は無用! されど渡良瀬川にとどまる但馬守(宗綱)様を助けてほしいでございます!」

「但馬守様?」

「お館様の嫡男であり、上杉軍本隊を抑えようとしています!」

「……承知した! 荒川殿も良いか!?」

「勿論でございまする!」

 

 方向転換して、結局はだいぶ円を描くようにやって来た 郡の渡良瀬川左岸では既に戦が起きていた。

 

「但馬守殿! 北条氏忠だ!」

「……左衛門佐(氏忠)様!?」

「援軍に参った!」

「有り難いでございます! 向こうの方が多い故に押しきられる所でした!」

 

 その言葉に偽りはなく、佐野軍は士気が崩壊しかけていたのが肌でわかった。

 数に任せて渡良瀬川を渡りきろうとしていた上杉軍は、俺達が現れると動きを止め再編成にかかる。

 それに俺達は攻撃をかけるが、すぐに違和感が出てきた。

 

「佐野殿」

「……やはり感じるか?」

「……龍の気配がない。こっちにもいなかった」

 

 そして、事態は悪い方へと動く。

 

「 様ぁ!」

「父上の伝令!? どうした!」

「上杉謙信により唐沢山城が落ちました!」

「なっ!?」

 

 そっちかっ!

 

「ならば助けにーー」

「お館様より伝言! 救助は不要! 小山軍に合流せよ! です!」

「なっ!」

「唐沢山城は守るは容易いが攻めるのは難しい。今度は我らが被害にあうから、か?」

「左様でございます!」

 

 今にも単騎で行きそうな 殿の肩を押さえつけながら、荒川殿に聞く。

 

「よろしいですな?」

「勿論でございます」

 

 そして、佐野殿。

 

「今は雌伏の時。我慢するしかありますまい、佐野殿」

「……わかった。それと宗綱で結構」

「では、(それがし)も氏忠と」

 

 二手目は完敗、か。

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