相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

191 / 256
第161話 相模から越後への話

3月17日 夕方

下野・唐沢山城 地下牢

長尾 政景

 

「馬鹿だろ、そいつ」

 

 と佐野昌綱が言ったが、俺も相良良晴も反論しようとはしなかった。

 それは、堅城と言われ上野から下野への入り口の所にある唐沢山城を落とし沸き立っていた俺達に感化されたく……馬鹿が起こした事で、古河城から包囲網を突破しようとして普通に捕らわれたというものだった。

 

「そんな奴のために命をかけてたのか、俺は……」

 

 そんな呆れたような物言いは、視線を向けてくる俺にも……というより上杉家にも暗に言ってきている。

 それにも返す言葉はなく居心地が悪くなった俺は、相良に佐野への尋問を任せて城をうろつく。

 

「謙信はどこだ?」

「根古屋神社でございます」

「了解」

 

 本丸よりさらに少し高い所にある小さな神社の石段の前で、謙信は膝まずいていて、足音でわかったのだろうか動く。

 

「戦勝祈願のため」

「……何も言ってないぞ?」

 

 それに右手に握りしめていた弥彦(やひこ)神社の御守りを、相良が職人に作らせた外套《がいとう》に入れたのはちゃんと見てるからな。

 

「ここはそういう神様じゃないとは思うけどな」

「……何を言ってるの?」

 

 嘘をつける人になってくれたか。

 

「何も。……古河城は落ちたがどうする?」

「奪還するだけ。そして、そこから下野や下総を制していくだけ」

「承知。けどあの馬鹿を鎌倉ぐらいまで移されたらどうする?」

「勿論奪還する…公方様を」

 

 ふむ。

 

「晩飯時には帰ってこいよ?」

「わかってる」

 

 謙信と別れた俺は、本丸の方で(くつろ)いでいる関白様の方へと向かう。

 

「……可能だが良いのか?」

「越後がそれを望んでると思うぜ? まあ、北条の方もだと思うが」

「……二条からも催促が来てたからな」

「だろうな」

 

 宇佐美や直江にも伝えてる間に、晩飯時となり、主だった者達が評定の間に集う。

 

「固い武蔵を今すぐ攻略するのは難しい。まずは下野と下総を制する」

『はっ!』

 

 ついてきた東上野の奴らにも、謙信が正式に目標を伝え、直江は両国の奴らに参陣勧告……つまり、敵か味方かのふるいにかけ始めた事を伝える。

 そして、宴が始まると、謙信が相良を公然と呼び寄せ、2人の間に甘く重い空気を漂わせ始めた。なので、俺達は男同士で酒を注ぎあう。

 その男達の中で、夕方まではいなかった顔が赤らんでいた。

 

「……本当に良いのか?」

「無論でござる。主も悲惨な未来を知り、そして北条に『あの者』が来たからには確定だという事も考えた。それ故、より好意的に見られるために、()()より遅く動いただけ。

 それに我が主もあやつも『彼がいるなら』と女の顔でおっしゃっている。男達が悲しい顔にさせたら末代までの恥よ」

「……改めてお礼を言うぜ」

「拙者達からもだ」

「どういたしまして」

 

 右三つ巴。

 その家紋を奉じる家が新たに加わる。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 下野と常陸の南部、そして下総。

 利根川、渡良瀬川、鬼怒川など日ノ本からしてみれば大河の川達が大地を洗うその地域は、鎌倉公方が古河に移ってくると、嫌がおうにもその家を中心とする戦乱に巻き込まれた。

 そして、今では北西からは上杉家が、南西からは北条家が、北東からは佐竹家が虎視眈々と狙うようになり、彼らは北条家が滅びた少し後までそれらを渡り歩いていく事になる。

 

 その中で、比較的大きめの家と言えるのが下総北部の結城家だ。

 主流の小山家をも凌ぐ大きさになるが、鎌倉公方の遺児達を匿った事から室町幕府の討伐にあって一時的に滅亡する。再興しても家臣達が独立しようとするなど苦難の道だったが、政朝の時にその者達などを押さえ付け、その子・政勝、親戚の晴朝の時代も生き延びる。

 

 だが、晴朝には養父のように男子はおらず、養子を2人迎える。先に迎えたのが宇都宮広綱の次男であり、彼の代わりに迎えたのが天下人・豊臣秀吉の養子の1人だった。

 その青年は、ある戦国大名の側室の子として産まれるが、忌み嫌われた双子で産まれたがために不遇の生活を送り、その戦国大名が秀吉に屈すると養子に出される。そして、秀吉は豊臣家の繋がりを求めてきた結城家に彼を送り、青年は結城秀康と名乗る。しかし、彼は関ヶ原の戦いで石田方の上杉景勝や中立の佐竹 の監視をした戦功として、実父・徳川家康により越前に移され、秀康の五男・直基も結城から松平に戻した事から、戦勝に属したにも関わらず滅亡する。

 そして、秀康の前の養子は、反北条の観点から宇都宮家(実家)佐竹家(義重の甥)江戸家(晴朝の娘の嫁ぎ先)と結城家が同盟を結ぶ証としてだった。

 

 その史実を、相良良晴は北条氏康に話していたし、氏康はそれを他聞に漏れず記録していた。

 一方、躑躅ヶ崎の会談での武田信玄の含みに危機感を抱いた今川家の軍師・太源雪斉は、主の許可をとり、上杉家に配慮した上である事を行った。

 

「久しぶりね」

「は、はい!」

 

 未来の今川家の軍師と期待する松平元康、後の徳川家康を経験を積んでもらうために氏康の所に送るという事を。

 そして、北条氏康は小田原にはいなかった。鎌倉の足利良氏より最前線の城に、彼女はいた。

 

「…………」

「良い景色でしょ?」

 

 平和な江戸城に、松平元康はいた。

 その事を聞いた時、1人の少女は決断する事になる。史実通りの動きを、史実より早く行っているとは知らず。

 

「左衛門茶《氏忠》様ぁ! 謀反です! 結城家が謀反を起こしました!」

「はあっ!?」

 

 3ヶ国の交点を領する結城晴朝は、西から送られてきた1つの書状から北条家に反旗を翻す。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。