相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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12 2つ目のビリヤード

4月4日 朝

近江・滋賀郡 朽木谷

 

 頼次らが京で目を覚めた頃、粟田口を含む京の七口の中の大原口から進んだ先にある比良山地と丹波高地の間の谷に、朽木家によって集められた武士達がいた。

 用意周到に徹底的に秘匿された義統の挙兵から2日経っているが、将軍直々の号令もあった事から集まる速度はとてつもなく早いと言えよう。

 あとは、朽木家が用意出来る限りの大軍をもって若狭に入り、信豊とで反逆者を挟み撃ちするだけなのだがーー。

 

「そこをどけば、将軍様に反逆した者という汚名は浴びないぞ!」

「将軍様をたぶらかした者達の言葉など誰が聞くか! 若狭は治部少輔(武田義統)様が統べるのが天道よ!」

 

 朽木軍は道を塞ぐ『武田菱』の家紋を前にして動けないでいた。

 将軍という充分過ぎる御輿と、南近江のみならず伊賀や北勢にも影響力を及ぼす北畠家という後ろ楯がある朽木家だが、積極的には攻勢に出れないでいた。

 

「総攻撃はまだか!?」

「少しお待ちください。今、六角様を介して浅井が動けるかどうか聞いている所です」

「うーむ」

 

 第1に、御輿で充分の足利義輝将軍が最前線に出る気が満々な事。

 

「本当に準備は万全か!? ここまで攻めてこぬだろうな!!」

 

 第2に、父親が高島家に討たれ、武家の怖さを公家の飛鳥井家出身の母親に教え込まれた朽木元綱がいつも以上に警戒していた事。

 ちなみに、いつも以上なのは「将軍様が出られるなら、信濃守様も出ないと」という空気が蔓延しているからだったりする。

 

「今度は谷の東側で放火です! 食糧がやられました!」

「警備は何してた!!」

「全員が……」

「えーい!!」

 

 第3に、義統から朽木家への宣戦布告の書状が送られてきた直後から、朽木谷一帯で十中八九わかっているが正体不明である者達による襲撃が相次いでいる事。

 ちなみに、その書状には義統が自分の嫁の兄である義輝を凄く遠回しに馬鹿にしているのを、目を(そむ)けていた朽木家の者ではなく三淵藤英が気付いた。

 

「義賢めぇ!!」

 

 そして、これは朽木家は直接には関係ないことだが、義統から高島家を介して浅井久政に出されていた書状が、浅井家の態度を変えた。

 それは、伊賀国内の抗争を制した北畠家が雇う忍の一部が観音寺城内か南近江のどこかで止められていた父親宛の浅井長政の赤裸々な書状だった。

 その内容は、六角家を『将軍に敵対していた家』から『将軍とマブダチの家』に変え名将とうたわれる六角義賢の、長政を含む人質の少女に対する蛮行(ばんこう)である。

 

「領内で高島家に煽動されたと見られる不穏な動きがあるので動けない」

 

 北近江守護の京極家への下剋上に成功した父・(すけ)政とは違い、自分には武勇も政治の才も無いのは重々わかっているので、朝倉・六角家に臣従することで家を保ってきた。

 そのための愛娘の六角家への人質だが、その愛娘曰く「クソ」の行いに珍しくキレた久政は高島家の使者の頼みを断り、六角家からの使者には「忙しいから」と会おうともしなかった。

 

 動いてほしい者達が動かず、動いてほしくない者達が動こうとするジレンマにはまり葛藤する朽木家家臣。

 言い争いに近い当主無き評定をしていた彼らに「陥落」の一報が届いたのは、その日の晩であった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

4月4日 夜

若狭・小浜郡 本丸

 

 城に翻るのは、夜明けの時と同じ旗印だが、その城の住民は文字通りごっそりと替わっていた。

 一部が燃えたその城の無傷の本丸では、名目上ではなく完璧に城主となった武田義統によるささやかな宴会が開かれていた。

 城を奪った直後でまだ辺りに信豊方の奴等がいるかもしれないが、勝利はほぼ確実であり、一杯の酒の後は水だけの宴会に参加している者達はほろ酔い気分に(ひた)っていた。

 

「ささ、一杯どうぞ」

「ありがとうございます」

 

 そんな中、義統が自分で水をお猪口(ちょこ)に注ぐのは、未だ甲冑姿のままの美しき姫武将である。

 父親と同年代とは聞いていたが、むしろ自分と同年代だと言われた方が納得出来る大和撫子の女性の名は内藤宗勝。義父の突然の死によって丹波守護代の跡を継いだ者であり、若狭中に散らばって信豊方の者達を一斉に急襲し、義統と共に若狭から追放した女傑である。

 

「この城の落とす様、流石に聞いていた噂通りでした」

「本拠地の城の事を話してくれた義統殿の英断があってこそです」

 

 一方は、不慣れな地で潜み、そして動き回る。もう一方は、本拠地を含む城達の情報を教える。

 力関係があってこその等価交換? の取り決めをまとめあげ、2人もよく知るようになった少女は、今は宗勝の本拠地の方にいる。

 最終的には三好家にとっても過去最大規模の作戦をほぼ1人で立案し、その第1段階を自ら指揮した少女は、次の段階では脇役に徹する。

 

「宗勝殿。折り入ってお願いがある」

「……なんでしょうか?」

「次の丹波での動き。我ら武田家に任してもらえないだろうか?」

「よろしいのですか?」

「この若狭で宗勝殿ら丹波勢が動いてくれた事で、この国をちゃんと出来た。その恩返しをしたいのだ。

 それに、頼次殿には孫八郎がついておるからな」

 

 その時の笑みを見て、2児の母親でもある宗勝は、丹波を彼に任すことに決めたという。

 そして、その翌日には頼次が予想した通りに脳筋が動いているのが確認でき、一部の者は苦笑いを浮かべたという。

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