六角定頼。
あまり話題にはあがらないが、9代将軍・足利義尚の直接の討伐を退けた高頼と、12代将軍・義晴のその子供を支援する義賢の間の彼は、尾張のうつけ者の参考になった男である。
京の相国寺で修行していた次男坊は長男が細川家と争って亡くなったために跡を継ぎ、その細川家の別勢力と共に足利義晴の将軍擁立に協力し、今の細川晴元がなっている
その京などへの外征の一方で、内政では観音寺城に家臣達を集める城割を文献で見れる限りでは日ノ本で初めて行い、また後から出てきた江戸商人にこき下ろされた近江商人も観音寺城下に集めるという楽市令も出した。
そして、定頼は娘達を嫁がせたが、その末裔がこの世界の畿内とその周りを大きく動かす。
「これは好機だ! 丹波の同胞を糾合し、返す刀で反逆者達を
『はっ!』
例えば、長女の嫁ぎ先の細川晴元は、義兄の六角義賢と共に三好家に抗う。
「そろそろ、ね」
「だにゃ! ……んにゃー!!」
例えば、次女が産んだ土岐頼次は、三好家ひいてはご主人様のために動き、今は幼女を本気の目で追い掛ける。
「くくく、楽しみだなあ
「はい」
例えば、三女が嫁いだ剣豪・北畠具教は、姪に協力しつつ高見の見物をする。
「また戦ですか……」
「そのための漫才や!」
「ふふふ」
例えば、養女が嫁いだ本猫寺のけんにょは、病弱な彼女を笑わせる。
数奇な運命を辿り、色んな国を翻弄する彼らの戦いは、六角家が嫡流である佐々木源氏の分家の1つも参戦する一団が丹波に入った事から幕を開ける。
4月10日 昼
丹波・氷上郡 黒井城
「殿!」
細川晴元の号令に応じて、若狭に攻めいり返す刀で盟友と言える波多野秀治と共に丹波の不忠者達を討たんと暴れようとしていた赤井直正の下に家臣が転がり込む。
その慌てように、城を堂々と出ようとしていた直正は眉をひそめるが、ひとまず彼の話を聞くために浮いていた腰を下ろす。
「何があった?」
「は、は、はり……」
「ああ?」
「播磨の者達が城を囲みました!」
「……はあ!?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
同日 同時刻
丹波・多紀郡 八上城
反三好家の丹波での急先鋒と言える波多野家の本拠地である城の周りには、元々は三好家と不戦の契りを結んだ者達が
それを聞いた秀治は、寝間着のまま城の櫓に登り、自分の目で見て、油断していた自分の頭を柱にぶつける。
「くそー!!」
多紀郡の者達に新たに加わった褐色の肌の美女は、お握りを食べている時に聞こえてきたその大声に、朝飯のおかずを抜いたという。
そして、その女性・松永久秀は、昨日と変わらず雲1つ無い空を見上げて「そろそろですわね」と、隣の老人に呟く。
未だに目の前の異形の美女が自分と同年代と信じられない大和老人は、やはり久秀をじっと見たまま何の反応もしなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
同日 同時刻
丹波・
南東は京の都からの道、北は丹後からの道、西は但馬からの道、そして南西は多紀郡からの道が合わさる交差点の所に建てられた城。
丹波を制し、丹後や但馬をおさえるためには絶対に押さえておくべき所に建てられた城の主は、若狭の事を聞いて警戒していた塩見頼勝。
主に細川家について命脈を保ってきた彼は、家督を父から譲られた以来の下座にいた。
「中立を保つ。これだけで良いのだ。駄目だろうか?」
そして、上座の人物から頼まれるという初めての経験を頼勝は体験していた。
今回の晴元の号令に応じ、丹後経由の若狭入りをするかもしれない丹波衆のために準備をしていた最中にやって来た上座の人物の願い。
下座でずっと目を
「わかりました」
そして、結論が出るのは、多紀郡の若者達の言葉を思い出せば一瞬だった。
目をようやく開けた頼勝は、上座の人物に頭を下げて言う。
「塩見家一同、中立を保ち、何者も部外者を通さない事を約束しましょう」
「! そうかそうか!」
バンバン、と肩を叩かれるが、不思議と痛くは感じなかった。
そして、前名を小笠原頼勝と言う彼と、彼の家の嫡流の現当主である小笠原長時は、後に福知山城という城が建てられるその城に暫くとどまっていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
同日 同時刻
丹波・
そして、最後にこの城。
現在では綾部市内にあり、山を越えた先には『上杉』という名の荘園があったその城では、既に城主が傍観を決め込み、ほとんど動いていなかった。
しかし、城下の道を進めば丹後や若狭国内に入るので、一応警戒はしていたりする。
「中立のみであの褒美が貰える、か」
感慨深そうに呟くのは、本丸の屋敷の縁側にずっと座っている城内の上林久重。
彼の家の嫡流である土岐家の末裔である頼次は、彼に対して「中立をしたら茶会を開きましょう」という条件
彼女が大事そうに持ってきたそれは、宇治で茶を
「……よし、動こうか」
彼の家臣曰く爛々と目が輝かしていたという。