7月5日 朝
筑前・糠屋郡 立花山城とその周り
「壮観だな」
「壮観じゃの」
夜が開けようとする中、立花鑑載と戸次鑑連は物見
夜目がきく見張りから大まかな家々の位置を書き記した紙を貰った鑑載は、その見張りに「お主のその眼が我々の勝ちに繋がる」と激励をする。一方、鑑連は笑いながら「まあ気楽に行けば良い」と肩を軽く叩き降りていく。
城兵それぞれの組に2人で声を掛け終えた頃には、既に汗が滲むほどの暑さになっていた。
「意気軒昂とは驚きじゃの」
「城を守るは人だからな」
「確かに。そして、それを指揮する者も、また重要な歯車の1つよ」
「相当の恨みを売ってしまったからな。逃げるに逃げれないさ」
「そもそも、今回の大友家の戦は誰もが逃げていない戦じゃからの」
「ああ」
そして、圧倒的な数の相手を見下ろしながら、鑑載は「2日、か」と呟く。
一方、目の前の山城と相手を見上げる元春は「1日じゃ」と呟く。
戦いは、吉川・九州連合軍の城の全方位からの猛攻撃から始まる事になる。
「前線でこれ程だという事は、吉川のやつは容赦ないのう!」
「俺達が最後らしいからな。隆元殿を
「何度も言うが殺したのはーー」
「 様じゃないだろうよ。お主が言った通りの優しい少女ならばの」
「あのお姿が本当のそれよ」
相手が『線』を踏み越えるまで出てきたので、互いに頷きあった老将2人は真反対にあるそれぞれの持ち場へと駆け抜ける。上手くやってくれよ、と同じ事を思いながら。
そうして立花山城の戦いの火蓋が切って落とされた頃、立花山城の南側にある岩屋城にいた高橋鑑種の城代は、同僚格からの奇妙な報告に眉をひそめていた。
「薬師に人が集まってきている?」
「ああ。老若男女問わず多くの者達が南の方からやって来ているそうだ」
「南……龍造寺殿と少弐の争いであぶれてきた者達か?」
「それでも、何故今頃なんだ? 既に龍造寺は西に向かっているだろう」
「それもそうか」
その城代の疑問は、すぐに解消される。
「「「おー!!」」」
城の下を流れる
「何処からだ!?」
「対岸からです! 旗印はーー!」
「なっ!?」
驚いた城代は、持とうとした太刀を落としてしまうが、それすら気に掛けれないほど驚いていた。その理由は、呻き声となって出てくる。
「何故、大友軍がいる!?」
豊後で慌て、立花山城で囲まれ、それ以外には無いはずの大友家の旗印。それが、突然目の前に現れたのである。
「とにかく撃退するしかないぞ!」
「……わかってる! 数は!?」
「我々と同じくらいかとっ」
「くそっ。だったら、最低限だけ残して前面に出るぞ! ただし城からは出るな!」
「承知!」
そうして、川を越え始めた敵に備えるために、城内にいた者達は大声をあげあいながら自分の場所に向かう。
敵が城下に達する頃には、鎧兜を被ったり自分の武器を持ち終えた者達はつく。だが、まだ慌てていたために彼らは異変に気付く事はなかなか無かったし、気付いても話し合うほどの暇は無かった。
そして異変、つまり『全く見に覚えの無い者達がいる』事が、ようやく彼らに危ない事と認識した時には、既に遅かった。
「何故、何もしてないと思った?」
そう、相良良晴は岩屋城の城代に低い声で語りかける。刃先を首筋に添えながら、だが。
良晴の副将である朝霞永盛から小さな火縄銃の銃口を突きつけられる城代は、視界の端で自分と同格の者達が次々とやられ、女子供たちが囲まれているのを見ることしか出来なかった。
「さあ、どっちを選ぶ?」
そして、その城代は相良良晴が血を流す事を嫌っている事までは知らない。
結局、怪我人は何人か出たが死者は出なかった奇跡的な戦の末に岩屋城は落ち、勝鬨の声が上がる。
「停止じゃ」
苦虫を潰したような顔でそう命じたのは立花山城を鬼神の如く攻めていた吉川元春で、自分の敵方の喧伝で連合軍の片割れが動揺しているからだった。
攻められていた2人の老将は退いていく連合軍に大きな溜め息をつき、健闘を讃えあう。
「後は東よ」
中天の青空を見上げながら、戸次鑑連は吉報を待つ。