相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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第196話 新たな戦乱の話

7月18日

相模・真鶴港

 

「お帰りなさいませ、御姉様」

「留守番お疲れ様」

「九州の戦乱に巻き込まれる事より楽でした」

「それもそうね」

 

 5月の下旬に出て凡そ1ヶ月半ぶりに北条氏康は故郷に帰り、氏良から仕事を引き継いで小田原城で早く済ますべき仕事を軽くこなす。

 翌19日は1日休み、その間に相良良晴は自分の領地だった三浦郡に向かう。出ている間に共に寄せ集めである相良家から鎌倉公方家への権限を移させる事は滞る事なく終わっていて、したのはそれに関する儀式だった。

 上総、下総、伊豆、そして三浦郡。江戸湾と相模湾に面する領土を正式に譲られた足利良氏は、守護代を任ずるなど早速仕事を始める。

 翌20日、鎌倉をまわってから、良晴は三浦郡を出て、代わりに宛てられた新たな領地へとそのまま向かう。

 

 さて、ここで質問だ。

 海を挟んで飛び飛びの3ヶ国と1つの郡を譲られた足利良氏は、どうやって統治するだろうか?

 

 答えは簡単で、信頼出来る守護代を任じる事だ。下総の場合が長きにわたる北条家の同盟者である千葉家で、伊豆の場合が北条家の家臣だが水軍なのでそれなりに独立志向がある梶原氏で、上総の場合が相良良晴だった。

 東西が海岸、真ん中が丘陵という少し治めにくい国にやって来た良晴は、自身は三浦郡とは浦賀水道の反対側にある佐貫城に入り、北西部の市原城に下総・江戸崎城に身を寄せていた土岐頼芸を上総土岐家を付けて入れ、その上総土岐家の万喜城を廃した上総酒井家は南東部の勝浦城に移され、空いた北東部の東金(とうがね)城には郡山良平を筆頭にした相良衆を入れる。

 その宣言を佐貫城で済ませた良晴は、上総衆の者達と宴会で語り合い、翌21日には氏良に『上総国改革案』を送る。

 

「許可するとの事です」

「……早くねえか?」

「そうですか?」

 

 返事が来たのは翌翌日の23日の事で、その早さに驚きながらも様々な農産物や水産物の奨励を行う。

 下総に限らず関東一帯は、越相同盟締結による事実上の4ヶ国同盟によって、これまでとは違う「本当の平和」が訪れたという気運が高く、薩摩芋というもしもの時の作物が爆発的に広まった事も拍車をかけていた。

 そして、ここから1ヶ月半、関東や越後は小さな戦もなく平和に過ぎるが、そこまでしかもたなかった。

 

 今川義元、松平元康救援のために三河入りし、桶狭間にて元康を攻めていた織田信奈に降伏・捕縛される。

 

 台風が中四国地方を過ぎ去ろうとしていた8月30日、均衡を崩す大きな報が日本中に響き渡ったからだ。

 それを聞いた良晴は、召集命令がかかる前に鎌倉に馳せ参じ、これまでにない真剣な瞳で情報を聞き集める。

 

 9月1日、松平元康はひとまず三河を所領として独立を宣言。

 

 9月2日、織田信奈は上記の宣言を認めるが、義元の跡を継いだ氏真は否定。敗軍を三遠国境に留め置かせ、北条元規を通じて北条家に支援要請。

 

 9月3日、ひとまず北条氏照率いる伊豆衆が駿府まで出向き、氏真は朝比奈泰朝に駿河を任せると宣言。

 

 9月4日、今川氏真率いる隊が駿府を出て「義元様救援」を標榜しながら西進。

 

 9月5日、大井川で太源雪斎と今川氏真が邂逅する。

 

 9月6日、遠江国での反今川家の活動の活発化などを理由に氏真は遠三国境を除いた軍の解散を命じる。

 

 9月7日、松平元康から全権を委任された石川数正と今川氏真の間で、松平家の独立と遠江は今川家の領土だという事を確認する和平が結ばれる。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

9月8日

三河・渥美郡(豊橋市) 吉田城

 

 元康の独立宣言から1週間が経った三河国の南東部にあるこの城は、彼女が三河守に任じられてからも東海道・豊川・渥美半島の交点にあるので今川家の武将が駐留していた。

 だが、元康と氏真の取り決めによって三河国からの今川軍完全撤退が決まったため、引き渡しが行われていた。

 その引き渡しの監視役として名乗り出たのが北条軍であり、良氏・氏康に嘆願した相良良晴だった。

 

「ごつい男?」

「はい」

 

 松平軍側の代表者の1人である瀬名三郎と落ち合った良晴は、その彼女から桶狭間前後の状況を聞いていた。

 

「確認はとれていませんが、織田信秀の所に『ごつい男』が現れ、朗々と今川家の倒し方を語り、信秀は渋ったものの信奈がそれに賛同。ほぼその男の提案通りに、戦況が進んだとの事」

「違いは義元が降伏を選び、信秀がそれを受け入れた事、か」

「信奈は反対したそうですが」

 

 ごつい男、とは確実にあの老将だろう。

 

勘解由長官(北条氏康)様に伝言があります」

「聞こう」

「『私は今川家に恨みなどありません。敗者の扱いを受けていただけですから。皆さまから離れてしまう事になりますが、これからも仲良くしていただくと幸いです。戦国武将として動きますが』です」

「……要約しまくったな」

「はい」

 

 そして、と三郎は続け、自分の袖をずっと掴んでいた少女を良晴の前に出す。

 

「『その証として、またもしもの場合のためにこの子を元規殿の侍女として出します』と」

「……名前は?」

「とみこです!」

 

 更に、と三郎は、富子とは逆に控えていた少女も前に押し出す。

 

「の……織田備後守(信秀)様より『友好のために』との事です」

上総介(信奈)様の乳母姉妹の1人の荒尾古新丸です。よろしくお願いいたします」

「……よろしく。元はどこの家だ?」

「池田家です。姉上は勇将の池田恒興です」

 

 行きより少し人が多く、良晴は駿府へと戻るが、その間に大井川でもう1つの取り決め、彼の時代風に言うと松平家と今川家の相互不可侵条約が結ばれる。

 これにより、松平家を頼ろうとしていた遠江の反今川家の動きは下火に向かうが、特に天龍川の両岸はまた騒ぐ事になる。

 

 9月15日。

 織田信秀、隠居。(とどこお)りなく、彼が後見する織田信奈が跡を継ぐ。

 

 9月16日。

 清洲城にて同盟が結ばれる。出席者は織田家代表として織田信奈であり、松平家代表として松平元康であり、武田家代表として武田勝頼だった。

 この中で、信奈の数多くいる弟妹の1人である織田信忠が信玄や勝頼の義妹となる事も決まる。

 

 そして、9月17日。

 信奈が美濃盗りを宣言する一方、武田信玄は収穫を大体終えた配下と一緒に動き始める。

 南へ……遠江と駿河へと。

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