相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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第198話 9月19日午前

9月19日

 

 尾張国は半島の知多郡は別として、五条川という川が郡の境目になっている。

 東側は南から順に熱田神宮や那古野城がある愛智《あち》郡、守山城や小牧山がある春日井郡、犬山城がある丹羽郡がある。西側は木曽川を境にして津島がある海東郡と がある海西郡にわかれ、その北には尾張国一宮の がある中島郡があり、丹羽郡と春日井郡と丹羽郡と木曽川に囲まれているのが岩倉城がある丹羽郡である。ちなみに、清洲城は春日井・中島・海東の3つの郡の境目にある。

 この日、那古野城を出た織田弾正忠家の軍勢は桶狭間での大金星を聞いて集った足軽によって戦前から格段に増え、匹敵する数を持つ家は尾張国内にはいなかった。なので、清洲城にいる尾張守護・斯波義統《むね》と尾張()守護代・織田大和守信友は、それを見下ろすしか無かった。

 だが、これは弾正忠家と敵対している信友にとっては、空まではいかないだろうが確実に減っている清洲城を落とすまたとない好機だった。

 

「弾正忠家は守護様の言葉を聞かず、勝手に軍を起こした! この暴挙を見逃すわけには行かん!」

「「「おおっ!!」」」

 

 清洲城で宣言した信友は悪者の笑みを浮かべながら、側近の坂井大膳にある事を命じ、坂井はそれをすぐに実行する。

 坂井は斯波義統の嫡子・義銀に、戦勝を願い鷹狩りを行いたいと申し出て、義銀は予め準備されていた事に訝しく思いながらもそれを引き受け、弾正忠家からの襲撃に備えるために屈強な者達と共に城を出て、近くの五条川へと向かう。

 そして大和守家の軍が那古野城下に達した頃、同じく弾正忠家の軍が岩倉城下に達した頃、清洲城でも織田家の旗印が上がり、刀が抜かれた。

 

「やっぱりな」

 

 大和守家、斯波(武衛)家、そして郡山家と川並衆の4つの『家』の刀が。

 

「な、何者だ!」

「相良上総介様家臣、郡山良平」

「川並衆筆頭、蜂須賀正勝」

「「見参」」

「弾正忠家の者かっ!!」

 

 驚いた大和守家の()()()()の長だが、ここで目的を達しなければ全てが終わる事と、この部屋以外では騒ぎが起きてないという事は相手は少ないと考え、攻撃を再開する。

 だが、彼はずっと尾張にいたために国外の事は噂程度しか聞いたことが無かったので、川並衆はともかく関東や中国地方の猛者達で構成されている相良衆の実力は知らず、それ故に目の前の敵だけに集中してしまう。

 だから、彼が外があまりにも静かすぎる事に気付いた時は既に遅かった。

 

「意外と粘られてるな」

 

 その声が後ろから聞こえてきた時、彼は全てを悟ってしまった。

 

「やっぱりそっちの方が早かったな。少なかったのか?」

「ああ。どうやら最低限を残して、全て那古野城に振り向けてるようだ」

「それはご苦労なこって」

 

 さて、と良平は固まる相手に語りかける。

 

「今なら守護様よりお情けがあるかもしれない。それとも露となるまで戦うか?」

 

 鎮圧完了、である。

 それを確認した良平は、清洲城鎮圧部隊の方を指揮している弾正忠家の男を呼ぶ。

 

「死に物狂いは怖かったでしょ?」

「確かに。だが、気付かれる前にやってしまうのもまた然りよ」

「違いねえですな、森殿」

可成(よしなり)で良いぞ、良平」

「……じゃあ後は任せた」

「ああ」

 

 良平と舞台を変わった森可成は、ずっと刀を持ったままの男へ話し掛ける。

 

「此度の桶狭間の戦、お主が三河の吉良と石橋と手を組み今川を引き寄せたと確認できた。こいつらみたいに殺すまではいかないが、追放はさせてもらう」

「……家族はどうなる?」

「どうとでも。連れていくのも、置いていくのもどちらでも良しだ」

「……桶狭間に参加した長秀と義冬。この2人の斡旋を頼む」

「承知した」

「後もう1つ。吉良と石橋はどうなる?」

「それは松平殿次第」

 

 可成に名前を呼ばれた、史実では彼の子供の1人を尾張国で討つ松平元康は、丁度その時に小さなくしゃみをした。

 

「大丈夫ですか?」

「はい。誰かが噂してるかもしれません」

 

 駿河に移る前に遊ばれた信奈からつけられた彼女の弟・茶(せん)丸に笑みで答えた彼女は、改めて台地の上に建つ館から城下を見る。

 眼下に広がっているのは織田家の旗印で、自分が姉と慕う信奈のそれと一緒だったが、はっきり彼女のとは区別していた。

 

「まだ相手は我らに気付いていない様子」

 

 服部半蔵の報告に嬉しそうに微笑む元康だが、思いの中心は目の前の事ではなくある少年へと向けられていた。

 半蔵はより関係が深い自分の主についていかずお転婆娘に付いていった相良良晴に怨嗟の念を送ったが、周りを探らせていた忍の耳打ちにそれを忘れる。

 その情報は、那古野城から少し遅れてから岩倉城下の信奈の所にもたらされた。

 

「なんですって?」

 

 悠々と目の前の城を攻めようとしていた信奈はその報告に思わず問い返し、そしてその重要性を噛み締めながら頭を動かす。

 舌打ちと共に次の行動を決めたのは1分も経たない頃で、一言だけ「攻め続けるわ」と宣言する。

 そして、この頃になってようやく太陽は尾張の人々の真上に達する。

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